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アンドロイドは人間になれるか
 [コンピュータ・情報科学]

アンドロイドは人間になれるか (文春新書)

石黒浩/著
出版社名 : 文藝春秋(文春新書 1057)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-16-661057-0
税込価格 : 788円
頁数・縦 : 223p・18cm


 石黒浩の人間論、ロボット論。「プロローグ」によれば、ライターの飯田一史の「代筆」であるという。石黒がこれまでに書いた文章と、新たに語った話を飯田が書き起こした。
 自らが製作にかかわったロボットやアンドロイドの機能と役割を紹介しながら、ロボット(およびアンドロイド)がもたらす未来像と、ロボット(およびアンドロイド)を生み出した心理学を語る。後者は、アンドロイドをいかに人間らしく見せるか、いかに自然な対話を成立させるか、そして、いかにすれば人間がロボットを承認するか、という問題の解である。
 しかし、アンドロイドが人間に取って代わる将来像に、私は疑問がある。人間の代わりにアンドロイドが仕事をしてくれるとして、人間は何をすればいいのか? 石黒は、そのときヒトは哲学者になるという。体を動かさなくなった人間は、考える時間が増え、貨幣に換えがたい知識を生み出すというのだ。果たしてそうだろうか?
 確かに、氏の言うとおり、これまでの技術は人間の仕事を肩代わりしてきた。アンドロイドもその延長線上にあるという。しかし、これまでの技術が肩代わりしてきたのは、人間の機能の一部である。自動車が足の替わりを、コンピュータが頭脳の一部の替わりを、という具合だ。ところがアンドロイドは、人間の機能すべてを肩代わりできる(完璧な進化を遂げれば、だが)。そうなると、人間という存在は必要なくなる。それでも人間は、人間にしかできないことを考え出す、と言うのだが……。そんな社会に、人間は存在する幸福を感じることができるのだろうか。

【目次】
第1章 不気味なのに愛されるロボット―テレノイド
第2章 アンドロイド演劇
第3章 対話できるロボット―コミューとソータ
第4章 美人すぎるロボット―ジェミノイドF
第5章 名人芸を永久保存する―米朝アンドロイド
第6章 人間より優秀な接客アンドロイド―ミナミ
第7章 マツコロイドが教えてくれたこと
第8章 人はアンドロイドと生活できるか
第9章 アンドロイド的人生論

【著者】
石黒 浩 (イシグロ ヒロシ)
 1963年、滋賀県生まれ。山梨大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。現在、大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授(特別教授)。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。JST ERATO石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト研究総括。

【抜書】
●ディープラーニング(p69)
 コンピュータ上で走る学習アルゴリズム。人間の神経回路を模倣したもの。従来の模倣ではせいぜい3層くらいのネットワークだったが、現在では、6層から8層といった複雑な計算ができるようになっている。

●音声認識しない対話ロボット(p74)
 ロボットと人間との対話を実現。相手の人間が何を言っても、3体いるロボット(コミュー、ソータ)同士の会話が続くように設計されている。ときどき人間に質問を投げかけるが、人間が言ったことを認識していない。人間の答えに対して、すべて「そっか」で返し、その後、またロボット同士の会話に戻る。それでも、人に「対話している感」を与えることができる。
 3体のうち2体以上がお互いに対話していれば、そこに参加している人間は、自分が直接話していなくても、対話しているような感覚になってしまう。

●怒る(p95)
〔 僕はかつて「怒る」ことができなかった。怒ることに何のメリットも感じなかったからだ。怒ったところで事態が解決することは少ない。関係がこじれたり、時間を浪費するだけで、デメリットのほうが大きい。そう思ってきた。だから「怒る」とは、何をどうすることなのか、どうすべきかがわからなかった。大学に入り、教師として振る舞わざるをえなくなってから、怒る練習をした。
 きっかけはこうだった。大教室で講義をしているのに、学生があまりにざわついている。静かに注意しても、まったく止む気配がない。学生たちは、完全に僕をナメていた。これは恐怖を与え、教師と学生という上下関係のヒエラルキーをはっきりさせなければ、この場を統制することはできない。そう判断した僕は、しかたなく教壇を思い切り蹴飛ばし、ついに教壇が大きな音を立てて倒れたのを確認したあと、無言で教室から出ていき、その日は授業に戻らなかったのだ。
 それ以降、誰ひとり僕の授業でささやく学生はいなくなった。「石黒は怒ると死ぬほど怖い」と思われるようになったようだ。
 教壇を倒れるほど激しく蹴り飛ばす――あのとき身体を動かして生じた高揚感、身体がカッカと熱くなる感じを認識することで、僕は初めて「なるほど。これが怒りか」とわかったのだ。それからはあのとき蹴り飛ばした感覚を想像するだけで、気分をたかぶらせ、「怒る」ことができるようになった。〕

●最適なコミュニケーション(p104)
〔 ロボットにかぎらず、今後テクノロジーは、多様な個々人に最適なコミュニケーション方法をつくりだし、そのひとごとに調整できるように進化していくだろう。対面コミュニケーションがあまりにも重視されてきた時代には、たとえば家にこもってプログラミングに熱中しているような人間は、変人扱いされていた。しかし、本人が自宅にいても遠隔操作型ロボットを職場に置き、他者とコミュニケーションを取れるようにすれば、これからの時代には特に問題は生じなくなる。たとえこもりがちでも、本人がしやすい手段で誰かと通信し、健全に仕事をしていれば、社会は受け入れるようになっていく。〕

●「ワカマル」死体遺棄事件(p134)
 平田オリザが演出したロボット演劇『働く私』に出演したロボット「ワカマル」を大学のゴミ捨て場に大量廃棄した。
 捨てられたワカマルを見た学生が、写真付きで「どうしてこんなことになったんですか?」という呟きをTwitter上に投稿。1時間の間に日本中の人がリツイート。研究室に「かわいそうだ」という大量の「苦情」が来てパニックに。
 ワカマルを研究室に 引き上げ、何体かは博物館に寄付。
 ワカマルのように活動するヒト型ロボットは、すでに「社会的な人格」を持っている。「廃棄」するときには、葬式が必要?

●接客ロボット「ミナミ」(p142)
 大阪タカシマヤで、接客ロボット「ミナミ」が服を売っている。
 高齢者や男性に対しては、人間よりもいい成績を出している。
 来客者は、ミナミとタブレット・コンピュータを使って会話。ディスプレイに示される選択肢を選んで操作する。ミナミには、想定質問がプログラムされている。選択肢の三つはポジティブ、一つはネガティブ(例:「そんなこと言うて、また買わそうとして」)。
 ミナミに対して一度ネガティブな回答を選択した人間は、負い目を抱くから、次にはポジティブな選択肢を選ぶことが多い。買い物に一歩踏み込む。
 客が人間の店員に話しかけることは、「その服を買わなければいけない」というプレッシャーにつながる。
 アンドロイドに対しては、「ロボットだし、イヤなら無視すればいい」と思う。話しかけることに抵抗がない。逆説的だが、断れると安心しているからこそ、積極的に買い物に臨める。
 また、「アンドロイドは嘘をつかない」という信頼感がある。接客時に、カラーコーディネートのシステムを使って、「お似合いですね」と褒める。人間の店員と違って、客は信じる。
 女性への販売成績は、男性の10分の1以下。しかし、売り場全体の売り上げは1.5倍になった。女性は、カラーコーディネートのシステムを無料で利用している。

●好き嫌い(p213)
 好き嫌いを簡単につけてしまうことは、半分目を閉じているのと同じ。「嫌い」に振り分けた半分の情報を捨てていることになる。
 好き嫌いを簡単に口にし、周りに敵か味方かのレッテルを貼り、二項対立にしてしまう人は、脳のキャパシティ、情報処理能力が乏しい。たくさん情報が入ってくると混乱してしまうので、好き嫌いを先に選ぶしかない。あらかじめ「ここしか見ない」とフィルタリングしないと頭がパンクしてしまう。

●哲学者(p220)
〔 技術開発を通して人の能力を機械に置き換えているのが人間の営みであり、その営みは「人間すべての能力を機械に置き換えた後に、何が残るかを見ようとしている」と言いかえられる。ロボットは「人間を理解したい」という根源的欲求を満たす媒体なのだ。
 ロボットによって物理的な生活はどんどんラクになり、人間は一生懸命からだを動かさなくてもよくなる。あらゆる仕事をアンドロイドが肩代わりしてくれるようになる。
 生活が豊かになれば、人間が考える時間が必然的に増える。お金を稼ぐのはロボットになり、ひとびとはむしろ貨幣に変えがたい知識を生みだし、共有することに価値の重きを置く。そのような人間らしい社会が来るはずだ。ロボット化社会は、貨幣的な価値にそれほど重きを置かない社会になる。ロボットが普及する次の一〇年、二〇年は、ひとびとが哲学者になる時代ではないか。僕はそれに先んじて、すべての人間を哲学者にしたいのだ。〕

(2016/2/27)KG

〈この本の詳細〉


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