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日本の開国と多摩 生糸・農兵・武州一揆
 [歴史・地理・民俗]

日本の開国と多摩: 生糸・農兵・武州一揆 (歴史文化ライブラリー)  
藤田覚/著
出版社名:吉川弘文館(歴史文化ライブラリー 503)
出版年月:2020年7月
ISBNコード:978-4-642-05903-9
税込価格:1,870円
頁数・縦:230p・19cm
 
 幕末、安政の五カ国条約によって横浜が開港し、外国との貿易が始まって多摩の人々の生活も大きく変わった。生糸の生産で村は潤い、活発な商業活動が宿場町を発展させた。
 しかし一方で攘夷運動や武州一揆などで治安は悪化し、自治のため武力の養成も必要になってくる。
 そんな幕末の変化と人々の生活を、多摩地域に的を絞ってつぶさに見ていく。
 
【目次】
幕末の多摩―プロローグ
幕末の歴史と多摩
際限のない負担増
治安の悪化
開港と地域社会の変容
慶応二年武州一揆と多摩
幕末の変革期に生きた多摩の人びと―エピローグ
 
【著者】
 藤田 覚 (フジタ サトル)
 1946年、長野県に生まれる。1974年、東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学名誉教授、文学博士。
 
【抜書】
●自律性(p27)
〔 近世中期以降の多摩郡は相給村が多く、知行主である旗本、幕府領を支配する代官、いわゆる領主権力が日常的に地域に目に見えるかたちではいないのが特徴だった。玉川上水を管理する勘定所役人などが取水口である羽村〔羽村市)へ定期的に往来し、また多摩川周辺が鷹場だった尾張藩の管理役所であった立川役所〔立川市)などがある程度だった。この結果、支配の弱体化、治安の乱れ・悪化といわれる事態を生んだ一方、住民が村を、地域を自治的に運営し、農業生産、商業活動も自主的に維持・発展させる自律性をも育てることになった。この両面は、幕末維新期の多摩の歴史を考えるうえで重要な点である。〕
 
●合力銭(p64)
 村は、浪人に金品を与えたり宿泊させたりすることを幕府から禁止されており、不法を働く者の逮捕を命じられていた。しかし、村では金品を提供して穏便に済ませることが多かったらしい。合力銭(こうりょくせん)を渡していた。
 八王子宿組合南部の村々10か村は天保6年(1835年)、関東取締出役の了解を得て、浪人一人に付き銭24文を与えると取り決めている。一村ないし数か村が共同して番非人と契約を結び、年間いくらと決めて番非人に金を渡して浪人に応対させる「浪人(士)賄い」という仕組みを作っている例も多い。
 
●天然理心流(p81)
 多摩では、天然理心流の剣術が盛んだった。
 2代目の近藤方昌(のりゆき)は戸吹村の名主坂本家、3代目の近藤周助邦武は小山村(町田市)名主島崎家、4代目の近藤勇昌宜(まさよし)は上石原村(調布市)宮川家の出身だった。
 日野宿名主(問屋)の佐藤彦五郎は、嘉永2年(1849年)に宿場騒動が再燃したのをきっかけに、天然理心流の剣士近藤周助を招いて剣術修行を始めた。屋敷の一角に道場を開き、安政5年(1858年)には入門者が宿内で23名にのぼった。道場では、近藤勇、土方歳三、沖田総司らも稽古に励んだ。
 佐藤彦五郎は、日野宿組合農兵を指揮し、慶応2年の武州一揆の鎮圧、翌3年末の壺伊勢屋事件で活躍した。
 壺伊勢屋事件……甲府城乗っ取りを図った薩摩藩浪士らが、八王子宿壺伊勢屋で襲撃された事件。
 
●南京米(p147)
 慶応2年の不作により、米価が高騰。10月、幕府は米価高騰対策として外国米の輸入と自由な売買を許可した。
 慶応3年の春には外国米が流通し始めた。白米相場は1両に8升5合だった時期に、南京米が1両に1斗2升で売られていた。これで人々が助かったので、「唐人様」と有難がった。ひき割り麦(石臼などで粗く挽き割った大麦)の代わりに使ったらしい。高月村の住民沢井元泰「世事見聞誌」による。
 
●八王子糸(p160)
 幕末当時の生糸の相場は、信州飯田提糸(さげいと)や上州前橋提糸が高級品、近江糸や奥州糸が下級品、八王子糸は下等品という位置づけだった。
 文久2年……上州糸57〜63匁、信州糸65匁、八王子糸90〜96匁(1両につき)
 文久3年……上州糸56匁、信州糸60匁、八王子糸75匁
 しかし、次第に品質は向上していき、価格差は縮小していった。
 
●武州一揆(p200)
 慶応2年(1866年)6月13日、武蔵国秩父郡名栗村から始まった。
 またたく間に武蔵と上野の両国に広がり、質物返還や物価引き下げを要求しながら、各地の豪農・質屋・横浜商人などの居宅を打ち壊した。
 一揆勢による打ちこわしは、武蔵・上野両国の202か村で520戸に及んだ。多摩では、八王子方面に向かった一揆勢が、青梅村、福生村、中神村(昭島市)、宮沢村(昭島市)などで数件が被害を受けた。田村十兵衛(福生村酒造)、中野久次郎(中神村縞買商人)、田村金右衛門(宮沢村酒造)、など。多摩川を船で渡って築地渡船場に集結していた一揆勢を、日野宿組合農兵、佐藤彦五郎道場の剣士、駒木野宿組合農兵らが協力して鎮圧した。
 
(2021/5/3)KG
 
〈この本の詳細〉

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