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科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで
 [自然科学]

科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで (ブルーバックス)
 
三田一郎/著
出版社名:講談社(ブルーバックス B-2061)
出版年月:2018年6月
ISBNコード:978-4-06-512050-7
税込価格:1,100円
頁数・縦:270p・18cm
 
 科学理論が神(おそらくキリスト教の神を想定している)の領域を侵食していく歴史を描きながら、偉大な科学者たちの信じた「神」について論じる。
 「神」がどうのこうのということにこだわらず、パラダイムシフトする、古代から現在までの科学理論の歴史として読んでも面白く、わかりやすい内容となっている。というか、小難しい神学論争というよりも、簡潔にまとめられた宇宙論の科学史と見たほうが適切かもしれない。
 
【目次】
第1章 神とはなにか、聖書とはなにか
第2章 天動説と地動説――コペルニクスの神
第3章 宇宙は第二の聖書である――ガリレオの神
第4章 すべては方程式に――ニュートンの神
第5章 光だけが絶対である――アインシュタインの神
第6章 世界は一つに決まらない――ボーア、ハイゼンベルク、ディラックらの神
第7章 「はじまり」なき宇宙を求めて――ホーキングの神
終章 最後に言っておきたいこと
 
【著者】
三田 一郎(サンダ イチロウ)
 1944年東京都生まれ。名古屋大学名誉教授。専門は素粒子物理学。14歳で父の転勤のため渡米、プリンストン大学大学院博士課程修了。コロンビア大学およびフェルミ国立加速器研究所研究員、ロックフェラー大学准教授を経て名古屋大学理学部教授、神奈川大学工学部教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構プログラムオフィサーなどを歴任。日本学術会議会員。また、南山大学宗教文化研究所客員研究所員、カトリック名古屋司教区終身助祭、カトリック東京大司教区協力助祭(カトリック東京カテドラル関口教会出向)。
 
【抜書】
●ペスト(p34)
 キリストの死を十字架の下で悲しんだのはわずか4人だった。多くの弟子たちは自分の命を惜しんで逃げた。
 その後、信者の数は10年間に40%の割合で300年間増え続け、AD350年までに3,300万人になった。
 ローマ帝国の人口の約半分がキリスト教信者となったといわれる。
 その理由の一つは、ペストの流行。ガレンのペスト(165年)、ローマのペスト(251年)など、定期的に発生し、多くの死者が出た。多いときは1日5,000人。感染者は町から追い出され、死者はゴミのように放置された。
 キリスト教の信者たちは、感染の危険も顧みずに看病し、死者を手厚く埋葬した。その姿に感動し、新たに信者になる人が多かった。
 
●五大総主教(p35)
 313年、コンスタンティヌス1世がキリスト教を公認。ミラノ勅令。
 392年、テオドシウス1世がキリスト教をローマ帝国の国教と定め、ほかの宗教を禁じる。
 キリスト教は、免税などの恩恵を受けて富を蓄え、ローマのほかにアレクサンドリア、アンティオキア、エルサレム、コンスタンティノープルにも大きな教会を建て、5人の総主教をおく。
 キリスト教と聖書の理論的な解釈を目指す「神学」が重要な学問となり、聖書のラテン語訳も出された。
 
●フィロラオス(p38)
 BC470年頃~385年。ピタゴラス派教団の哲学者。宇宙の数理的モデルを完成。地球球体説。
 宇宙の中心には「火」があり、その周囲を「空」「水星」「金星」「地球」「月」「太陽」「火星」「木星」「土星」という9個の天体が回っている。一種の地動説。
 教団では10という数字を神からいただいた特別な「完全数」として扱っていたので、10個目の天体として、「火」を挟んだ反対側に「対地球」という星を仮定した。
 宇宙の中心にあるはずの「火」が見えない理由……われわれは「火」から見れば、地球の裏側に住んでいる。そして、地球が自転する速度と、地球が「火」の周囲を公転する速度が同じだから、常にわれわれは「火」から見て裏側にいることになる。だから決して「火」を見ることができない。
 
●固有の場所(p42)
 なぜ、物は地上に落下し、炎は上昇するのか。
 アリストテレスは、「この宇宙に存在する物体はすべて、無秩序の状態から秩序ある状態に戻るために運動する」と考えた。物体にとって「秩序ある状態」とは、その物体が本来あるべき「固有の場所」にある状態。
 天動説。
 
●アリスタルコス(p43)
 BC310-230年。ギリシャの天文学者。「古代のコペルニクス」とも呼ばれている。
 地球は太陽の周りを公転していて、月は地球の周りを1カ月に一度公転しているがゆえにその形を変える(三日月、半月、満月のこと)。太陽中心説、つまり地動説。
 しかし、アリストテレスのあまりに巨大な業績に圧倒され、ほとんど無視された。
 
●ガリレオ・ガリレイ(p65)
 1564-1642年。
 イタリアのトスカーナ地方には、一家の長男に、しばしば姓を名前として付けるという習慣があった。
 ガリレオは、トスカーナ大公国の領地であったピサという町で、ガリレイ家の長男として生まれた。
 「ガリレイ」は家の名(姓)なので複数形、「ガリレオ」は個人の名なので単数形。
 
●ジョルダーノ・ブルーノ(p84)
 1548-1600年。ドミニコ会の修道士。ガリレオより16歳年長。大学で神学と天文学を教えていた。
 宇宙論について先駆的な考えを持っており、数々の著作の中で発表していた。
 「地球が宇宙の中心でないばかりか、太陽もその中心ではない」
 「この宇宙は無数の宇宙からできている。そして神はその無限のうちにある」
 「変わらないものは何もなく、すべては相対的な存在で、常に変化している。したがって、人間が宇宙で特別の価値がある存在ではありえない」
 異端の烙印を押され、教会の目を逃れて各地を放浪。安全に思えたパドヴァ大学の教授の枠に欠員が出たため就職しようとしたが、ピサ大学教授の3年の任期が切れたガリレオに先を越される。ヴェネツィアで大貴族の家庭教師に招かれるが、この貴族に告発され、逮捕される。
 異端審問所で自説の撤回を求められるも拒否、火あぶりの刑に処せられる。
 ガリレオは、ブルーノの一件を知っていて、地動説を撤回した。
 
●ジョルジュ・ルメートル(p160)
 1894-1966年。ベルギー人。
 1927年、アレクサンドル・フリードマン(1888-1925)の宇宙モデルのことは知らずに、アインシュタイン方程式を宇宙項なしで計算し、「宇宙は膨張している」という解を導き出した。
 さらに、宇宙が膨張しているなら、時間を戻していけばやがて、宇宙は原子よりも小さな極小の粒子になるはずであると考えた。宇宙は、極小の状態から始まって、膨張し続けているという、膨張宇宙論を唱えた。「原始的原子の仮説」。
 膨張宇宙では、遠ざかるスピードは二つの星の間の距離に比例する。
 
●アインシュタインの神(p172)
〔 アインシュタインは、間違いなく神を信じていました。その神とは人間の姿をして教えを垂れるものではなく、自然法則を創り、それに沿って世界と人間を導くものでした。幼い頃に聖書と教会に絶望した彼はそれに代わる神を見いだし、その忠実な信者になったのです。
 
●最初の光(p224)
〔 ここまでみてきたコペルニクス以来の宇宙論の発展は、いうなれば神の絶対性を次々に制限していった歴史とみなすことができます。平たくいえば、この宇宙から神にしかできない仕事をどんどんなくしていった歴史です。その結果、かろうじて残ったのは、「創世記」に記されているように、天地創造において「最初の光」を与える仕事でした。〕
 
●神業(p263)
〔 私が考える「神業」とは、永遠に来ない「終わり」と言うことができます。人間には神をすべて理解することは永遠にできません。しかし、一歩でも神により近づこうとすることは可能です。近づけばまた新たな疑問が湧き、人間は己の無力と無知を思い知らされます。だからまた一歩、神に近づこうという意欲を駆り立てられます。「もう神は必要ない」としてこの無限のいたちごっこをやめてしまうことこそが、思考停止なのであり、傲慢な態度なのではないでしょうか。科学者とは、自然に対して最も謙虚な者であるべきであり、そのことと神を信じる姿勢とは、まったく矛盾しないのです。晩年のホーキングも、またディラックも、そのことに気づいていたのではないかと私は考えています。〕
 
(2023/4/29)NM
 
〈この本の詳細〉

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