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日本の感性が世界を変える 言語生態学的文明論
 [社会・政治・時事]

日本の感性が世界を変える: 言語生態学的文明論 (新潮選書)

鈴木孝夫/著
出版社名 : 新潮社(新潮選書)
出版年月 : 2014年9月
ISBNコード : 978-4-10-603756-6
税込価格 : 1,404円
頁数・縦 : 261p・20cm

 
■これからの世界、日本の重要性を語る
 冒頭で、「十六世紀に始まる大航海時代以後現在まで、世界はあらゆる意味で西欧文明の主導する時代でした。ところがその時代が今まさに終わりを告げようとしています。それはこの人間中心主義(または人間至上主義)に裏打ちされた、理性と論理を極端に重視する西欧文明が、いろいろな点で行き詰まりを見せているからです。」(p9)と述べ、本書に通底する問題意識を明らかにする。
 そして、その解決策として、あとがきの最後を以下の言葉で締めくくる。「その一つの回答がこれまで様々な文明の恩恵を受け、今や世界も羨む平和で豊かな先進国家となった日本、古代的な生き方の伝統がまだ残っている私たちの日本こそが、ものごとすべてを国と言う極めて人工的な単位、しかも人類の歴史から見てもごく短い伝統しかない考え方を絶対とする立場がいかに危険な誤れるものかを、世界に向かって堂々と公的に表明し、問題の解決を模索する道を先頭に立って切り開く努力をあらゆる面で少しずつでも始めることである。
 このような誰が見ても不可能に近い新しい生き方は、それに気付いた者が、その人のできる範囲で、倦まず弛まず声を大にして主張することから始めるほかはないと思う。私のこの小さな本は、すべての人はこれから単なる地球人ではなく地救人になるべきだという私の年来の考えを、言語生態学的な文明論のかたちで改めて世に問うものである。」(p261)
 詳細は本書にて。

【目次】
序章 世界の主導文明の交代劇が今、幕を開けようとしている
第1章 全生態系の崩壊を早める成長拡大路線はもはや不可能
第2章 日本の感性が世界を変える―日本語のタタミゼ効果を知っていますか
第3章 鎖国の江戸時代は今後人類が進むべき道を先取りしている
第4章 今の美しい地球をどうしたら長期に安定して持続させられるか
第5章 自虐的な自国史観からの脱却が必要
第6章 日本語があったから日本は欧米に追いつき成功した
第7章 日本語は世界で唯一のテレビ型言語だ
第8章 なぜ世界には現在六千種もの異なった言語があるのだろうか

【著者】
鈴木 孝夫 (スズキ タカオ)
 慶応義塾大学名誉教授。1926年、東京生。同大文学部英文科卒。カナダ・マギル大学イスラム研究所員、イリノイ大学、イェール大学訪問教授、ケンブリッジ大学(エマヌエル、ダウニング両校)訪問フェローを歴任。専門は言語社会学。

【抜書】
●日本文明(p10)
 S・ハンチントン『文明の衝突と21世紀の日本』2000年、集英社新書。
 〔ハンチントンは、この日本文明には他の文明にはない際立った特徴があると言うのです。その特徴とは、日本文明だけが他のどの文明とも互いに共通する重要な文明の構成要素、すなわち宗教、言語、文化、民族、そして領域をもたず、こらら総ての点で日本がまとまっていることだと述べています。つまり日本文明は大きな文明ではあるが、孤立した文明だというのです。〕
 この見方は、日本を韓国やベトナムなどと並ぶ中華文明の文化的衛星国とする見方に賛成しなかった英国のトインビーなどと共通する。

●二枚腰文明(p12)
〔 日本は長らく孤立していたがために、近代になって圧倒的な西欧文明の影響を受けたにもかかわらず、本来の古代文明の要素をも完全には失うことなく基層文化として残している、言ってみれば二枚腰の二重構造を持っている唯一の、しかも強力な文明なのです。
 この古代的な、人間と自然を対立した上下関係にあるとは考えない世界観の今日的な見直しを、私たち日本人が音頭を取ってどこまで世界に広めることができるかに、人類のこれ以上の暴走を食い止め、少しでも破局の到来を先送りできるかどうかがかかっていると私は考えているのです。〕

●100万頭を超える大型動物(p19)
 現在の地球上には、個体数が100万を超える野生の大型動物は存在しない。
 ヌーでもせいぜい100万程度。しかも、保護された地域において、人間の半ば管理下でかろうじて生存。
 家畜の牛は13.5億頭、羊は10.8億頭、豚が9.1億頭、山羊が8.3億頭。馬や駱駝、アルパカ等も合わせて全体の家畜数は約44億頭。
 犬や猫などのペットとしての小型の肉食哺乳類は2億以上。

●タタミゼ(p52)
 tatamiser……フランス語。「畳」の動詞化。「日本かぶれする、日本びいきになる」の意。
 久しぶりに自分の国に戻ると、つい日本で身についたいろいろな癖が出て、周りの人と調子が合わないことがままあることを指して言う(元留学生の言葉)。
〔 日本文化と日本語の同化力が何によるものなのか、私はまだ正確な分析をしたわけではありません。しかし、現代の日本には根強く残る自然との融和性や共生的世界観、そして日本語自体に秘められている感性的なユニークさが、外国人をしておのずから日本化させてしまうことは、以上のような例で明らかだと思います。とりわけ重要なことは、タタミゼ化した当の外国人自身が心地よいと感じ、闘争的対立的な感覚が和らいだと感じていることです。私が、タタミゼ効果が世界平和に役立つと「夢のような」ことを本気で考えているのは、まさにこうした事実ゆえなのです。〕

●江戸時代の鎖国体制の利点(p68)
 (1) 鎖国のおかげで日本人が一人も対外戦争で死ななかった。外国人も日本人によって殺されることがなかった。
 (2) 外国との交渉を断ち切ったために、軍備にお金を投じることなく、民生に専念できた。しかも、文化的にも攪乱行為を全く受けずに済んだ結果、独自の文化、殊に民衆・庶民文化が発酵することが可能だった。
 海外では、支配階級は他国からの略奪や奴隷の酷使によって宮廷貴族文化が栄えることはあっても、豊かな幅広い民衆文化は育たなかった。

●付け子(p74)
 江戸時代、鳴き声を楽しむために小鳥の飼育が流行っていた。ウグイス、ヒバリ、ノジコ等。
 付け子……鳴き声の良い成鳥のところに、山野から捕ってきた同種の雛鳥を一定期間「弟子入り」させて養成する。教育によって声の良い鳥を創り出す。
 小鳥のさえずりは、生得的なものではなく、学習して覚えたものであるということを、江戸時代の小鳥好きたちは知っていた。

●言葉の芸術の効用(p88)
 日本人に愛され続けている俳句や和歌、狂歌や川柳などの多種多様な歌謡や言葉の芸術。未知のフロンティアがなくなるこの世界で、人類が仲良く平和に共存していくためのヒントになる。
 人類のもつ発展ベクトル(絶えず向上し、拡大する生き方を目指すこと)の方向を、上方や外部に向けるのではなく、内側、下方へと逆転させることを提案。
〔 ですからこれ以上人類の物理的な拡大拡張を許さない地球という閉鎖社会の中で、人類が互いに争わず共存して生き延びていゆくためには、いま述べたような、「特別な器具や高価な道具もいらず、むだな資源の浪費もなく、そして自然環境に過度な負担もかけない」、古くから日本人の得意とする数々の人生の楽しみ方を、世界に広く知らせる必要があると私はいま本気で考えるようになったのです。〕

●松枯れて(p90)
 松枯れて竹たぐひなき旦(あした)かな……武田信玄が、三方ヶ原で徳川家康に大勝した翌年の正月に家康に正月の挨拶として贈った歌。
 松枯れで竹だくびなき旦(あした)かな……家康の家臣、酒井忠次による返歌。

●ビルト・イン・オブソレッセンス(p97)
 販売した製品が長持ちし過ぎると買い換えのスピードが遅くなるので、わざと特定の部品が早く劣化するように仕組むこと。「計画的に仕組まれた劣化」。

●インドネシア、ベトナムの独立に貢献した日本兵(p113)
 第2次世界大戦で日本が降伏した後、オランダはもとの植民地に戻すため、直ちに軍隊を送り込んだ。
 自らの意思で現地に残った2000人もの旧日本兵は、インドネシア解放軍を指導支援しながらオランダ軍と5年近くも戦った。インドネシアの独立を支援。
 オランダは、しぶしぶ停戦に応じ、350年に及ぶ植民地支配に対して謝罪して賠償金を払うどころか、植民地時代に投資した各種インフラの代金をインドネシアに請求した。当時の金額で60億ドル。
 ベトナムでも、フランスの再植民地化に対して立ち上がったホー・チ・ミンの軍隊を旧日本軍の将校・兵士数百名が支援。武器を提供し、戦争を教える学校(クァンガイ陸軍中学など)まで作った。

●米国のバッファロー大虐殺(p168)
 米国の大陸横断鉄道は、先住民たちの武力攻撃や数千万頭を超えるバッファローの大群のためにしばしば工事を中断させられていた。また、先住民の生活は、バッファローに大きく依存していた。
 先住民たちの生存基盤を奪う目的も兼ね、組織的にバッファローの一大虐殺を始めた。観光狩猟としてのバッファロー狩りツアー等で、ヨーロッパの上流階級の客まで集めた。
 19世紀初頭に推定6千万頭いたバッファローが、1890年頃には、動物園や牧場などで飼育されていた1000頭を残すのみとなった。
 食料を失った狼が家畜を襲うようになり、猛毒のストリキニーネをまぶした肉片を草原にばらまいて狼までも根絶。

●パプア族(p177)
 ニューギニア高地に住むパプア族の食事は、サツマイモなどの植物質が96.4%。動物性タンパク質をほとんど摂取していない。
 オーストラリアのバーガーセンとヒスプレイが、パプア族の糞便からクレブシェラとエンテロバクター等の細菌を分離。これらの細菌は、空気中の窒素ガスからタンパク質を合成する。
 呼吸で吸った空気の一部を消化管に送り、大腸に棲み付いている細菌の力を借りて窒素を固定することで必要なタンパク質を摂っていた。
 マメ科の植物も、根瘤バクテリアによって空中窒素を固定を行っている。

●日本語が漢字を捨てられない理由(p198)
 同音異義語の一部を言い換えて、語彙の大改造をしなければならなくなる。

(2014/11/15)KG

〈この本の詳細〉


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