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日本呪縛の構図 この国の過去、現在、そして未来
 [社会・政治・時事]

日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 上
 
R・ターガート・マーフィー/著 仲達志/訳
出版社名 : 早川書房
(上)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-15-209590-9
税込価格 : 2,268円
頁数・縦 : 325p・20cm

日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 下

(下)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-15-209591-6
税込価格 : 2,268円
頁数・縦 : 358p・20cm

 
 在日40年に及ぶアメリカ人による、該博な知識に裏打ちされた日本・日本人論。古代天皇制から始まる日本の歴史を概観し、中韓との不和を踏まえつつも、海外から称賛される現在の日本を論じ、将来像としてアメリカと対等な同盟関係を結ぶよう提案する。

【目次】
(上)
第1部 呪縛の根源を探る
 第1章 江戸時代以前の日本
 第2章 日本近代国家の育成
 第3章 明治維新から占領期まで
 第4章 奇跡の時代
 第5章 高度経済成長を支えた諸制度
 第6章 成長の成果と弊害
 付録
  明治の指導者たち
  戦後日本の有力な政治家・官僚たち
(下)
第2部 日本を支配する「歴史の呪縛」
 第7章 経済と金融
 第8章 ビジネス
 第9章 社会的・文化的変容
 第10章 政治
 第11章 日本と世界

【著者】
マーフィー,R・ターガート (Murphy, R. Taggart)
 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授(国際経営プロフェッショナル専攻課程。国際関係・経済学、国際金融市場担当)。1952年、ワシントンD.C.生まれ。15歳で初来日、20代で再来日し、以後40年ほどを日本で過ごす。ハーバード大学(東洋学専攻)卒業、同ビジネススクールMBAプログラム修了。バンク・オブ・アメリカ、チェース・マンハッタン、ゴールドマン・サックスの各東京支社などで投資銀行家として活躍し、1992年に経済評論家として独立。98年筑波大学客員教授、2005年より現職。

仲 達志 (ナカ タツシ)
翻訳家。

【抜書】
《上》
●不平(p26)
〔 外国の作家たちは何世代にもわたって、一体日本の何が彼らをこれほど魅了するのか突き止めようとしてきた。この試みに最大の成功を収めたのは、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)、カート・シンガー、イアン・ブルマ、それに今は亡きドナルド・リチーではないかと個人的には考えているのだが、彼らはいずれも日本人が物事をあるがままに受け入れる点を指摘している。日本人はくどくどと不平を言ったりしない。彼らは「お偉い方々」が見向きもしないような取るに足らないことにも喜びを覚える。救いようのない夢想家(ロマンチスト)で、明らかに空虚な幻想であってもいつまでも自分の夢にしがみつく。確かに「現実」は醜くて安っぽくて下品かもしれないが、だからどうしたというのだ? 日本人に関する論考では「特有の」とか「状況的」といった言葉をよく目にするが、集団として単にどんなことにも矛盾を感じないことにしてしまった人々を描写するには、ひょっとするとそういう客観的で抽象的な用語を使うのが最善の方法なのかもしれない。〕

●やりがいのない仕事(p27)
 〔ほとんどの日本人は、どんな仕事内容でも自分の責任をきわめて真剣に受け止める。欧米ではやりがいのある仕事なら立派な成果を出す価値があるとよく言われる。しかし、日本ではたとえやりがいのない仕事であっても(そしてそのことを誰もが知っていても)、立派な成果を出す価値があると考えられている。最も取るに足らない種類の(ありていに言えば下品な)営利行為においてさえ、日本で経験する礼儀正しさとサービスの質の高さは、海外で日常的に体験するレベルをはるかに超えている。〕

●国民国家(p40)
 国家主権……ウエストファリア条約(1648年)で確立された「地球上の陸地表面は複数の独立した領土に分割され、それぞれの領土内で大きな権限を持つ政府が設立されるべきである」という概念。国民国家こそが領土の単位である。
 国民国家……「文化的・歴史的に一つの構成単位に属することを自覚する人々の集まり」。
 明治維新の日本の支配層は、中国、朝鮮、インド、モンゴルといった他の国家が存在することを把握していたので、「国家主権」の概念に基づいて世界秩序を保つという理想的な考え方を理解していた。

●インペラトール(p43)
 「emperor(皇帝)」の語源は、ローマ時代の「imperator(インペラトール)」。元は軍の最高指揮官に与えられた称号。つまり、軍事的な支配者。
 16世紀に日本を訪れたある西洋人は、この国には「法王」と「皇帝」の両方がいると報告した。法王=天皇、皇帝=将軍と誤認した。

●高貴なる敗北者(p46)
 平家物語……敗者の名前をタイトルに冠している。「高貴なる敗北者」。
 高貴なる敗北者……日本で最古の文化的な元型(アーキタイプ)の一つ。大義への純粋な献身と忠誠心だけに支えられ、勝ち目のない戦いで奮闘を続けて死んでいく英雄像。
 アメリカでは、南北戦争で敗者の将となった南軍のロバート・E・リー将軍。ただし、〔日本文学研究者のアイヴァン・モリスによれば、リーが日本で間違いなく英雄伝説の仲間入りをしたければ、最後のアポマトックス方面作戦で降伏して晩年まで堂々と生き延びたりせず、戦死すべきであったという。〕

●男色(p84)
 〔イエズス会が男色の習慣を執拗に糾弾したことも、日本のエリート層をキリスト教に改宗させる際に足かせとなった。男色(少年愛)は大名や武士の世界ではあまりにも慣行化されていたため、古代ギリシアのアテネやスパルタと比較されているほどである。だがイエズス会の宣教師たちがこの習慣をこれ以上ないほど痛烈に非難したため、日本の支配者層の反感を招く結果となった。〕

●朝鮮支配(p129)
 〔ビスマルクに派遣されたあるドイツ人軍事顧問は日本政府に対し、朝鮮半島は「日本に突きつけられた短刀である」と警告した。朝鮮は伝統的に中国との間に正式な朝貢国としての関係を維持してきた。だがもはや瀕死の清朝が露骨になる一方の欧米列強の介入に抵抗すらできないのを見て、列強は朝鮮に食指を動かすのではないかと日本政府は懸念していた。朝鮮の中国に対する依存状態は明らかで、独立維持に必要な内政改革に着手する能力も意思もかけていた。これらの事実は、朝鮮を欧米列強の植民地化政策の格好の餌食にしそうに思われたのだ。朝鮮が中国以外の国の支配圏に取り込まれることが避けられないなら、それは日本であるべきだと明治政府は心に決めていた。朝鮮国内も中国との伝統的な関係を維持すべきだという考えと日本における明治政府の方針を模範にすべきだという意見に二分されていた。一八九四年には親日派とされる朝鮮人政治家金玉均(キム・オッキュン)が上海で暗殺され、遺体が本国朝鮮に送られると、あらためて体を切り刻む「凌遅刑」に処せられた。この事件は日本国内でも大きな反発を呼び、間接的に開戦の時期に影響したかもしれない。日本は日清両国で協力して朝鮮に内政改革を進めされることを提案したが、清国政府は当然のようにこれを拒否したため、ついに日本も開戦を決意した。〕

●政治的説明責任(p148)
 日本の政治の欠陥は、政治的説明責任の中枢の不在にある。カレル・ヴァン・ウォルフレンによる。

●甘え(p176)
 日本で成功する一番の近道は、権力者にうまく取り入って思い通りに動かす能力を身につけること。
 〔日本人は幼少時から「誘惑のテクニック」を身につけて育つ。なぜなら、日本社会で子供が成功することを望む母親は、ほとんど本能的にそのやり方を教え込もうとするからだ。〕
 〔たとえば「甘え」とは、自分より力のある人間に無理な要求をする振りをすることで、相手に寛大な気持ちを起こさせる行動を意味する。〕
 「誘惑のテクニック」は、江戸時代の権力構造に由来。支配階級の武士が商人などの被支配階級を「無礼討ち」にできるほどの階級差があった。そうしたテクニックを習得できるかどうは死活問題だった。

●中国が望む四つの謝罪(p188)
 中国共産党には、大日本帝国と同等の血塗られた過去がある。しかし、中国と韓国にとって最大の不満は、具体的には次の四点に関して日本政府が明確な声明を出してこなかったから。
 (1)実際に起きた歴史的事実はこうである。
 (2)それらは大部分において日本に責任がある。
 (3)日本はこうしたことが二度と起きないことを確実に保証する。
 (4)変更不能な制度上の改革が行われたので、この保証には信頼を置けるはずである。
 ドイツは、これらの点に関して明確な声明を出すことで近隣諸国を安心させることに成功した。

●予測可能性(p196)
 日本では、歴史的に予測可能性を重視する。
 〔日本人は、とりわけ身近な家族や親しい友人以外の人間関係においては型にはまった行動様式を求め、予想外の行動に嫌悪を示す傾向がある。それは欧米人の目にはほとんど病的に思えるほどだ。この国の人々は言葉に限らず、あらゆるタイプの非言語的なコミュニケーションを通じて自分がどういう社会的立場にあり、どう接してほしいかを意識的に相手に伝えようとする。たとえば、企業間の打ち合わせで名刺の交換が行なわれるのは、お互いに相手の社内における相対的地位を確認するための儀式にほかならない。企業幹部や政府高官の集団内における地位や序列は、彼らが自動車、レストラン、会議室でどこに座るか、職場で席がどの位置にあるかを見たり、お互いの会話で使われている敬語表現を聞いたりするだけで瞬時に判断できる。バーのホステス、主婦、生徒、重役、学者、建設作業員、エンジニア、芸術家などはそれぞれに特徴的な服装をしているため、その社会的地位を一目で品定めできるようになっている。その結果、日本社会における人間関係は予測可能性に基づいているために、常に儀式的様相を帯びることになるのだ。〕

●三池争議(p202)
 1959~60年、九州の三井三池炭鉱で、10か月にわたる長期ストが起こり、戦後の労使の激しい対立が頂点に達した。「総資本対総労働の対決」と呼ばれるようになった。スト参加者の一人が死亡し、約1700人が負傷。
 最終的に左派は敗北し、ストは中止に追い込まれ、安保条約は改定された。三井はストを決行した組合を「御用組合」に置き換えることに成功。
 しかし、この時以来、日本の大手企業は中核となる男性社員の生活を生涯にわたって経済的に安定させることを保証するようになり、これを実現することが企業の最優先事項となった。

《下》
●薄っぺらな知識(p54)
 優秀な若者たちの間に、終身雇用制度が求めるような生き方を望まない者が増えている。
 日本の大企業の場合、自分のキャリア開発に関する決定を100%人事部に委任しなくてはならない。
 こうした制度に身を任せることに乗り気でない若者の数が増えつつある。
 〔彼らが感じているのは、人生で最高の時期を多くの場合、薄っぺらな知識の寄せ集めにすぎない一般的な管理能力の習得に費やすだけでいいのかという疑問である。そんな生き方にしぶしぶ同意するよりも、自分に適性があることを実感できて心から好きになれる職種を選び、そうした仕事に何年も打ち込むことでしか到達できない専門技能の熟達を追求すべきではないのかーー彼らはそう考え始めているのだ。〕

●韓国企業(p78)
 韓国企業が日本企業にとって極めて重大な脅威になった背景。
 (1)韓国には、日本よりも国際化されたエリート層がいる。
 (2)韓国の経済的・政治的制度には日本と比べてはるかに明確な権力構造があり、説明責任の所在もはるかに明白である。結果的に、決然とした意思決定を迅速に行うことが可能になる。
 (3)韓国全体が常に危険と隣り合わせの状態にある。韓国には、日本のように失敗を繰り返しながらどうにか乗り切っていくという選択肢はなかった。

●優れた戦術的能力と社会的結束(p310)
 〔実現不可能な目標ときわめて優れた戦術的能力が融合した結果、日本がまったく別の道を進むようになったケースも少なくない。その可能性が浮上するのは、日本の指導者階級の幻想を突き破る形で動かしがたい現実が顔を出し、それを直視せざるをえなくなった時だった。その状態が実際に起きると、日本は持ち前の優れた戦術能力と社会的結束を組み合わせることでまさに奇跡的としか形容しようのない偉業を成し遂げるのである。たとえば、夷人(西洋の野蛮人)を撃退して鎖国に後戻りすることが不可能であることが明白になった途端に、日本は自らの改革に踏み切った。そして、非西洋世界の事実上全域を呑み込んだ植民地化を未然に防いだだけでなく、自らも侮りがたい大国に成長を遂げたのである。また、八紘一宇を実現しようとした戦争で完膚なきまでに敗北し、アメリカの占領軍が簡単に日本から撤退する意思がないことを明らかにすると、日本は一気に軌道を修正した。そうして、傲慢で威嚇的な大国の陰で「日本らしさ」を失うことなく存続する術を身につけたのである。さらに、石油輸出国機構(OPEC)が世界的なエネルギー価格を強引に押し上げ、恒常的な高値圏を維持することが明らかになると、日本は省エネや経営合理化を驚くほど迅速かつ徹底的に推し進めた。その結果、一九七三年から七五年にかけての世界的不況からどの先進国よりも猛スピードで立ち直ることに成功した。また、一九八〇年代後半にバブル経済が永遠に崩壊し、回復の可能性がないことが明白になると、日本は世界の金融市場で前人未到の偉業を達成した。金融システムが音を立てて崩れ落ちる中で恐慌を回避したのである。〕

●憲法第九条第二項(p311)
 今の日本に必要なのは、シャルル・ド・ゴールのような指導者が登場すること。
 アメリカ政府に対して丁重かつ断固とした口調で、もはや戦後が終わった今、日本は自国の安全保障を自らの手で管理したいと伝えること。
 無理のない期限を定めてすべての米軍基地を閉鎖し、米兵を日本から撤退させること。
 その前提条件として、戦争放棄を定めた憲法第九条第二項は、破棄しなければならない。
 だが、それに代わる改正案は、政府に恣意的に武力行使をする権限を与えるようなあいまいな内容であってはならない。堅固な制度によって守られ、御し難い官僚組織が日本政府を乗っ取るような事態を二度と招かないことが明白でなくてはならない。
 物理的強制力の手段を有する部門とそうでない部門も含めて、官僚機構内のあらゆる勢力が厳重な法的・政治的管理下に置かれた状態を永続させねばならない。
 安全保障体制が厳格な管理下に置かれた後、「日本のド・ゴール」となりうる新たな指導者は、アメリカと真の意味での同盟関係を結ぶことを提案してもいいかもしれない。対等な二国関係。

●アメリカの衰退(p325)
 〔あきれるほどお粗末な見世物と化したアメリカの大統領選挙戦や議会で横行する見下げ果てた政治手法(共和党強硬派が下院議長を辞任に追い込み、要求が通らなければ政府を債務不履行[デフォルト]に陥らせると脅迫した)を見れば、アメリカがもはや自国の運営すら満足にできなくなりつつあることは一目瞭然だろう。日本の指導者層がそんな国に日本の安全保障を依存するのが、結局どれほど危険で無責任な行為であるかは考えるまでもない。階級憎悪や党派性によって分裂したアメリカは、外交努力を見下し、基地と爆弾とドローン攻撃以外に対外的な脅威への対処法を思いつけない軍事官僚によって次第に掌握されつつあるのだ。〕

(2016/6/16)KG

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