SSブログ

「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
 [社会・政治・時事]

「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために
 
ビル・エモット/著 伏見威蕃/訳
出版社名:日本経済新聞出版社
出版年月:2017年7月
ISBNコード:978-4-532-35737-5
税込価格:2,160円
頁数・縦:350p・20cm
 
 
 開放性と平等を核とする西洋の理念をカギとして、混迷する現代社会を論じる。西洋的な理念こそが、これからの平和で豊かな世界を築くために必要であると説く。
 
【目次】
序 西洋という理念
第1章 戦いを開始しろ
第2章 不平等と公平性
第3章 民主主義と自縄自縛
第4章 アメリカを正道に戻す
第5章 イギリス、彼らのイギリス
第6章 欧州の麻痺
第7章 日本という謎
第8章 スウェーデンとスイスのフーディーニ
第9章 シルバーヘアとスマート・ドローン
第10章 野蛮な来訪者
第11章 西洋の運命
 
【著者】
エモット,ビル (Emmott, Bill)
 世界的に著名な国際ジャーナリスト。知日派、アジア通として名高い。1956年イギリス生まれ。80年から英「エコノミスト」に勤務し、ブリュッセル特派員を経て、83年に東京支局長として来日。86年に帰国し、93年に同誌編集長就任。13年間の在任中、同誌の発行部数を50万部から110万部に倍増させ、数多のジャーナリズム賞を受賞。現在は国際ジャーナリストとして政治経済、世界情勢をめぐる著書や記事の執筆を行ない、スイス・リー、東京大学、全日空などの顧問も務めている。
 
伏見 威蕃 (フシミ イワン)
 翻訳家。1951年生まれ。早稲田大学商学部卒。ノンフィクションからミステリー小説まで幅広い分野で活躍中。
 
【抜書】
●イソノミア(p9)
 古代ギリシャの政治権利の平等のこと。言論や権利や待遇の平等、確立された開放性における発言と参加の平等のこと。
 
●西洋の理念(p10)
〔 私たちは現在も未来も、つねにあらゆる面で不平等でありつづける。所得、資産、才能、職業、個性、社会的地位などだ。しかし、西洋社会では、理論上は、だれもが基本的な公民権や、それが与えてくれる政治的発言権で平等であるべきだ。さまざまな権利の平等は、集権的・独裁的な方向から社会を遠ざけ、より自然発生的でボトムアップな社会を重視させる。それが資産、アイデア、活動を守ってくれるので、私たちはリスクを負って新しい物事を創り出したり、時間や金を投資したりできる。その根底には謙虚さが根をおろしている。共産主義、ファシズム、“自分は全知全能な存在だ”と唱える独裁者の非現実的な傲慢さとは正反対である。それが社会的信頼と正当性を提供してくれるので、社会は開放性がもたらす衝撃と変化を吸収し、適応していける。
 西洋の理念は、これまでずっと絶大な成功を収めてきた。しかし、今その理念が深刻な窮地に陥っている。米欧の西洋の中心地と、一九七〇年代から真の西洋の中心地になった日本で、衰えの兆しが見えはじめている。経済の失策と失望からはじまった衰退は、高齢化と活気を失った人口動態へと変わり、国際問題への影響力行使に対する無力感になる。この兆しと奥に潜む病が、国家間や各国内であらたな分断を引き起こし、一九四五年以来、西洋諸国が何十年もかけて築き、私たちの団結力と弾力性を強めてきた国際体制に亀裂を生じさせている。いまは悲観的な時代、分裂の時代、古いナショナリズム再燃の時代なのだ。〕
 
●開放性、平等、信頼(p16)
 〔西洋の進化の力の源は、開放性、さまざまな権利の平等、社会の信頼だった。〕
 
●西洋社会の八つの特質(p30)
 西洋の多元的な社会には、プラス・マイナス両面で共通する重要な八つの特質がある。
 (1) 成功……経済、文化、科学、スポーツに至るまで、あらゆる物事で持続的な成功を実現した。この成功は、開放性と結びついている。中国は、300または500年前に国を閉ざしたので、優位を失った。
 (2) 失敗……1990年代初頭の日本とスウェーデン、そして2008年のアメリカとEUで起きた金融危機など、大規模な失敗を経験している。〔利益団体が民主主義というゲームに勝ち、ゲームのルールが壊され、ゲームの選ばれた管理人――つまり政府――がその場の政治的満足を得るために目の前の出来事に見て見ぬふりをするとき、民主主義の脆弱性が大惨事を引き起こすのだ。〕
 (3) 法の支配と立憲主義……法の支配と法の下での平等。開かれた社会は、法律によってすべての市民に平等な権利を与え、法律を作って執行するプロセスを憲法で定められた仕組みで保護し、破壊活動や改竄を防いでいる。
 (4) 社会的信頼……成功は、貿易や思考、政治・文化・商業のリーダー層になる途に対して開放的であることからもたらされる。政治・社会の大混乱なしで変化を受け入れ、吸収できるくらい開放的でなければならない。変化の受け入れと吸収は、高いレベルの社会的信頼によって成し遂げられてきた。 ← 法の下の平等、普通参政権、国庫負担による福祉(セーフティ・ネット)、老齢年金、教育
 (5) 不平等の増大……所得と富の不平等。若者と高齢者、納税者と受益者の亀裂。正社員と非正規労働者の不平等。政治的発言力と政治的権利の不平等。など。
 (6) 移民……人口減少を食い止め、若いエネルギーを導入するために、西洋諸国は移民を必要としている。しかし、一方で既存の住民との間でさまざまな軋轢を引き起こす。
 (7) 期待の高まり……民主主義、法の支配、生活水準、政治倫理、あらゆる種類の権利、社会移動についての市民の期待が、戦後の何十年もの間、着実に高まってきた。民主主義は今も発展している。
 (8) 国際協調……NATO、EU、日米安保条約。国際機構や国際条約。国連とその姉妹組織、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、国際海事機関(IMO)、世界貿易機関(WTO)。国際サッカー連盟(FIFA)、国際オリンピック員会(IOC)。
 
●所得格差(p58)
 上場企業の平均労働者とCEOの報酬格差の倍率(2011-12年)。アメリカの大手労働組合AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)による。
 アメリカは350倍、イギリスは85倍、日本は70倍。デンマークは50倍弱。
 
●フレキシキュリティ(p76)
 1994年、デンマークでは、「フレキシキュリティ」と呼ばれる労働法改正が行われた。
 解雇を比較的簡単にするとともに、解雇された労働者が新しい仕事を見つけられるように、政府が積極的に支援する仕組み。
 
●クリエイティブ経済(p154)
 クリエイティブ経済……デザイン、ソフトウェア、IT、出版、映画、テレビ、広告、広報、建築、音楽、舞台芸術、などのクリエイティブ産業による経済活動。その他の業種で、デザイナーなどのクリエイティブな職業についている人も含まれる。
 イギリスでは、2014年にGDPの8.2%を占める。金融サービス約8%、製造業10%。
 雇用では、EUの中でスウェーデンが1位、11.92%。2位オランダ10.9%、3位イギリス9.9%、ドイツ8%、フランス7.5%。アメリカは9.75%。(2013年)
 
●イタリア式妨害(p192)
 イタリア製というブランド……熟練職人の技、高品質、優れたデザインという評価は過去のモノ?
 現在は、「イタリア式妨害」という言葉がふさわしい。地方政府や中央政府の規制、職能団体やカルテルや労働組合の存在、機能不全に陥っている手続きが遅い司法制度、政治家の介入、組織犯罪……。
 世界的に定評ある企業でも、国際標準からすれば小さい。規模拡大にコストとリスクがあるから。
 15人以上雇用すると、企業側が不利になる労働法が存在する。
 契約不履行で訴えても、裁判費用のほうが高くつく。
 業種によっては、国内の他の都市や地域で営業する際に別の免許が必要になる。
 
●硬直化(p209)
〔 日本の謎の中核は、債務、人口動態、期待はずれではなく、硬直化だ。一九八三年に私が海外特派員として東京に就任したときは、日本の成功の核をなしていたのは柔軟性と活力だという通念が、支配的だった。イギリスは旧弊で硬化しているとされ、よく比較された。七〇年代も八〇年代も、日本の企業、都市、地方は、競争力を失っている古い産業への依存から脱却して、新産業、新製品、新しい手法に転じるのがきわめて上手だった。イギリス、西欧、北米の斜陽鉄鋼業地帯でよく見られたような、社会の不穏を引き起こさずにそういった変化を遂げた。日本は新テクノロジーを率先して採用した。進化と適応では、どの国よりも優秀だった。それに、経済と社会の難しい変革をやってのけるのに、社会的信頼の奥深い蓄積が必要であるとするなら、日本には海よりも深い信頼があった。
 こんな短いあいだに、高度に柔軟だった国が、どうして極度に硬直化してしまったのだろう? それが日本の謎だ。その答えを見つけられれば、もとの柔軟性を取り戻した暁に日本になにができるかを解き明かし、それをやったらどういうふうになるかを理解できるかもしれない。〕
 
●開放性、平等(p316)
 西洋の復活のカギは、開放性と平等。この二つの基本原則に力を注ぐことでのみ、西洋の復活は達成できる。この二つは、西洋の理念の指針になる。
 開放性がなかったら、西洋は繁栄できない。国家が進歩し続けるためには、開放性がもたらす理想、競争、新しいエリート、幅広い機会が必要。
 しかし、平等がなかったら、西洋は存続できない。平等は西洋の持続性の秘訣である。
 
(2017/10/21)KG
 
〈この本の詳細〉


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。