ユダヤ人とユダヤ教
[哲学・心理・宗教]
市川裕/著
出版社名:岩波書店(岩波新書 新赤版 1755)
出版年月:2019年1月
ISBNコード:978-4-00-431755-5
税込価格:842円
頁数・縦:189p・18cm
ユダヤ教は宗教ではない。そもそも、ヘブライ語には「宗教」に該当する言葉がなかった。「ダト(Dat)」という言葉が便宜的に充てられているが、元来、法制度や法秩序を意味する言葉であった。古代インドの「ダルマ」に相当する。
では、ユダヤ教とは何なのか? それを本書が解き明かす。
【目次】
序章 ユダヤ人とは誰か
第1章 歴史から見る
古代のユダヤ人たち
イスラム世界からヨーロッパへ
ほか
第2章 信仰から見る
ラビ・ユダヤ教
ユダヤ教の根本原則
ほか
第3章 学問から見る
タルムードの学問
論争と対話
ほか
第4章 社会から見る
ユダヤ人の経済活動
ユダヤ人の人生の目標
ほか
【著者】
市川 裕 (イチカワ ヒロシ)
1953年生まれ。1982-85a年ヘブライ大学人文学部タルムード学科特別生等、1985年東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻、宗教史学、ユダヤ思想。
【抜書】
●ラビ(p11)
ラビとは、聖職者ではなく、神の教えに関して専門知識を持つ律法学者。
祖国を失ったユダヤの人びとに新たな生き方を指し示す賢者。ユダヤ社会を指導する重要な身分。
紀元前後、ユダヤでは賢者輩出の時代だった。第一次ユダヤ戦争、第二次ユダヤ戦争を挟んだ、古代のユダヤ社会最大の危機の時代。
●ミズラヒ系(p28)
古くから中東や北アフリカのイスラム圏に住んでいて、今日に至ったユダヤ人。「東の」という意味。
●コンヴェルソ(p30)
レコンキスタの時代、スペインからポルトガルに逃れ、キリスト教に改宗したユダヤ人も多かった。彼らをコンヴェルソという。「マラーノ」とは、その蔑称。
コンヴェルソの家では、母親を通じて子供たちにひそかにユダヤ教の信仰が引き継がれた。
●ポーランド(p32)
アシュケナジ系ユダヤ人は、主にポーランドに移住した。
1264年のカリシュ憲章によってユダヤ人の居住と信仰の自由が認められていた。
1241年のモンゴルの侵略で多大な損害を被ったポーランド国王は、ドイツ方面からの移民を奨励し、国の復興を加速する必要に迫られていた。交易が得意で貨幣鋳造技術を持つユダヤ人集団に大きな期待が寄せられた。
16世紀の宗教改革期には、ユダヤ教とプロテスタントの信仰を保障、欧州最大のユダヤ人受け入れ国になる。14世紀初頭2万人 ⇒ 17世紀半ば50万人に。東欧におけるユダヤ人口は、20世紀前半には800万人に。
●ミシュナ(p58)
200年ごろに編纂された口伝律法集。全6巻63編からなる法規範の集成で、ラビ・ユダ・ハナスィという権威によって成された欽定編纂書。
(1) 宗教的規範のみならず、社会的法規範を包括。
(2) 口伝トーラー(律法)として位置づけられる。
(3) ヘブライ語で書かれている。
●613戒(p72)
トーラーには613の戒律(命令:ミツヴァ)がある。
当為命令(~せよ)……248。人体の骨肉の数。
禁止命令(~するな)……365。1年の日数。
神は、最初は民に直接語りかけたが、民は二つを聞いたところで堪えられなくなったので、残りをモーセにのみ語った。シナイ山で語られたのは、十戒だけでなく、すべての命令。
最初の二つは、「私は神である」「他神があってはならない」。モーセの十戒の最初の二つ。
●タルムード(p94)
タルムード・トーラー……トーラーの学習。ユダヤ教が最も重視してきた学問。
元来、「タルムード」は「学び」を意味する。
口伝で学習され伝承されたのち、タルムード、ミドラシュ、ヤルクートなどの名で、「ラビ文学」とも総称されるさまざまな書物が編纂された。
もっとも重視され、学び継がれたのは、「バビロニア・タルムード」。500年ごろ、バビロニアで編纂された。ミシュナの注釈書。
●イェシヴァ(p95)
タルムードを学ぶための学塾。「イェシヴァ」は、「座ること」の意。古代ユダヤの地に優れた賢者が登場したとき、弟子たちがその周りを囲んで座り、話を聞いた。
●ユダヤ社会にふさわしい制度と職業(p146)
《制度》
① 法廷
② 慈善の基金
③ シナゴーグ
④ 公衆便所
⑤ 公衆浴場
《職業》
① 医師
② 外科医
③ 屠畜者
④ 書記
⑤ 子供の教師
(2019/4/6)KG
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