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標本バカ
 [自然科学]

標本バカ  
川田伸一郎/著 浅野文彦/イラスト
出版社名:ブックマン社
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-89308-934-2
税込価格:2,860円
頁数・縦:335p・21cm
 
 陸生哺乳類(ついでに爬虫類・哺乳類も)担当の博物館員による、生物「標本」にまつわるエッセー集。
 博物館で哺乳類の標本を作る作業は、まず皮剥きから始まる。毛皮をきれいに剥いて裏側の脂を丁寧に取り除き、仮剥製標本とする。
 次に、骨格標本を作る。内臓を取り出して肉と骨の状態になったものを、カツオブシムシやミールワームに肉を食わせたり(小型の動物)、鍋で1週間くらい煮込んだり(中型)、バラバラにしてひと夏のあいだ水漬けにしたり(大型)して、肉を取り除いて骨だけにするのである(p.30)。処理するために博物館に持って帰れない大型獣などは、現地で土に埋めて腐敗するのを待つこともあるとか。
 一般人には、博物館の標本集めや標本作りなんて、なかなか接する機会のない仕事である(あえてやりたいとは思わないが……)。稀有な専門職の日常がコミカルな筆致で描かれていて面白い。精細なイラストも、ユーモアたっぷりで楽しめる。
 同職の『キリン解剖記』の著者郡司芽久さんも随所に登場する。
 『ソトコト』(木楽舎、2018年11月よりPR)の連載コラムを書籍化。2012年5月号~2020年4月号に掲載されたコラムの中から77話を抜粋し、一部修正・加筆の上、テーマ別に配列。
 
【目次】
第1章 標本バカも楽じゃない
 死体を集めるお仕事?
 「リス大会」の勝者は?
  ほか
第2章 事件は現場で起きている
 埋めなければならない理由
 ウミガメを回収せよ
  ほか
第3章 標本に学べ
 証拠としての標本
 マイブーム、鎖骨
  ほか
第4章 標本バカの主張
 学名を楽しむ
 唯一の標本
  ほか
第5章 偉大なる標本バカたち
 モグラの標本を集める
 ロスチャイルドの博物館
  ほか
 
【著者】
川田 伸一郎 (カワダ シンイチロウ)
 1973年岡山県生まれ。国立科学博物館動物研究部研究主幹。弘前大学大学院理学研究科生物学専攻修士課程修了。名古屋大学大学院生命農学研究科入学後、ロシアの科学アカデミーシベリア支部への留学を経て、農学博士号取得。2011年、博物館法施行60周年記念奨励賞受賞。
 
【抜書】
●Ia io(p221)
 翼手目ヒナコウモリ科イブニングコウモリの学名。あらゆる生物の中で最も短い学名?
 1902年、中国で捕獲された標本を元に大英自然史博物館のオールドフィールド・トーマスが命名。
 Iaは若い女性、ioは「万歳!」(英語でhurah!)という意味。
 
●センカクモグラ(p224)
 尖閣諸島の魚釣島で1976年に採集され、1991年に記載されたモグラ。ホロタイプ(完模式標本。「種」の代表的な標本として指定されたもの)しか標本が存在しない。日中間の領土問題のせいで尖閣諸島に上陸できなくなり、その後の調査が行えない。
 魚釣島では、かつて雌雄1匹ずつのヤギが放逐された。それが繁殖し、緑を食い尽くし、モグラが生息できない環境になってしまっているかもしれない。
 標本のセンカクモグラは、右側の下顎の小臼歯が、通常と異なり二つの咬頭(尖った部分)を持っている。さらに、歯の数が日本のモグラより、片方2本ずつ少ない。そのため、新しい属に分類されていた。
 異常個体なのか、新しい属なのか?
 
●食虫類(p283)
 食虫類(食虫目)には、「モグラ科」「ハリネズミ科」「トガリネズミ科」がある。
 ハリネズミは、齧歯類(目)ではない。
 齧歯類は食虫類よりも、霊長類に近縁。
 
●無欲(p286)
 博物館員として標本収集に必要な三つの無(無目的、無制限、無計画)に加えて、「無欲」も一つの指針。
 標本はどこかにあればよいので、自分の博物館で所有することにこだわらない。
 「これが欲しい」ということを提供者に伝えず、なんでも受け取る。
 
(2020/12/31)KG
 
〈この本の詳細〉

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