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牧師、閉鎖病棟に入る。
 [医学]

牧師、閉鎖病棟に入る。
 
沼田和也/著
出版社名:実業之日本社
出版年月:2021年6月
ISBNコード:978-4-408-33982-5
税込価格:1,430円
頁数・縦:226p・18cm
 
 自閉スペクトラム症の可能性が高いと診断され、境界性パーソナリティ障害、あるいは妄想性障害の疑いもあるということで、精神科病院の閉鎖病棟に「診断的加療」のために2ヶ月間(その後、開放病棟で1ヶ月間)入院した牧師によるエッセー。
 闘病記とはやや異なる。病院で出会った患者、主治医によって得られたさまざなま「気づき」が綴られている。それは、宗教者が自己を客観化して見つめ、他者への共感を身に着けていく過程であったようだ。
 
【目次】
序章 肩章を剥ぎ取られる
第1章 牧師が患者になる
第2章 少年たち
第3章 十字架
第4章 診断
第5章 過去
終章 こだわるのでもなく、卑下するのでもなく
 
【著者】
沼田 和也 (ヌマタ カズヤ)
 日本基督教団牧師。1972年、兵庫県神戸市生まれ。高校を中退、引きこもる。その後、大検を経て受験浪人中、1995年、灘区にて阪神・淡路大震災に遭遇。かろうじて入った大学も中退、再び引きこもるなどの紆余曲折を経た1998年、関西学院大学神学部に入学。2004年、同大学院神学研究科博士課程前期課程修了。そして伝道者の道へ。しかし2015年の初夏、職場でトラブルを起こし、精神科病院の閉鎖病棟に入院する。現在は東京都の小さな教会で再び牧師をしている。
 
【抜書】
●「きれい」の体験(p64)
 閉鎖病棟に入院している17歳の少年キヨシは、「夕日がきれいだね」の意味がわからなかった。
 「分かりません。『きれい』ってどういうことですかね」
〔 「きれい」という感情は本能ではない。それは誰かと共に「きれいだね」と言いあう体験をとおして、学習することなのだ。ところが、じっさいに「きれい」を体験したことのない人間が、わたしの目の前にいる。そんな彼らに「きれい」とはなにかを、どうやって説明したらいいのだろう。
 「きれい」を感じるという、理屈ではない体験を理屈で説明なんかできるものか。
 「いつか分かるよ」
 彼らから目をそらして、わたしはそう答えるしかなかった。〕
 
●「ふつうの」社会(p203)
〔 たしかにそこは郊外の病院で、設備や考え方も古く、いろいろ問題だらけではあった。それでも「ふつうの」社会がそこにはあったし、入院している人たちはモンスターでもなければ異常者でもない、「ふつうの」人々に過ぎなかった。その人々は、ビジネス社会や学歴社会との噛み合いが、ちょっとうまくいかなかっただけなのである。わたしは入院生活をとおして徹底的に自分を見つめなおしただけではなく、「ふつう」などどこにでもあるということにも気づかされた。〕
 
●「わたし」を手放す(p207)
〔 入院先でわたしは、一度「わたし」を手放した。わたしがわたしの主人であることから降りた。わたしはあらゆることを医療者たちの管理にゆだねた。生活全般をゆだねただけではない。思考の仕方さえ、主治医にゆだねた。思考の仕方を他人にゆだねることは、生活を預けることよりも苦労した。しかしそれが達成できたときの解放感は大きかった。
 退院したときにはまだぼんやりとしていたが、教会と幼稚園をじし、妻と共に郷里へ戻り、静かに暮らすなかで、わたしは「わたし」を手放した身軽さを実感できた。わたしは無職になったのだが、恐れはなにもなかった。すべてはどうにかなる。どうでもいいのとは違う。根拠はないのだが、どうにかなる自信があった。妻と夕日が沈みゆく畑を眺めながら、わたしは「いま死んでもいい」と思った。それは「今死にたい」とはまったく異なるということを読者の方々には分かっていただけると、わたしは信じている。〕
 
●診断的加療(p222)
 入院しながらいくつかの薬を試し、いちばん症状が改善した処方から、遡って診断名を確定するという方法。
 
(2021/7/27)KG
 
〈この本の詳細〉


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