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悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界
 [歴史・地理・民俗]

悲劇の世界遺産 ダークツーリズムから見た世界 (文春新書 1313)
 
井出明/著
出版社名:文藝春秋(文春新書 1313)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-16-661313-7
税込価格;1,210円
頁数・縦:220p・18cm
 
 1978年、初回の世界遺産登録は、文化遺産8か所、自然遺産4か所だった。文化遺産の一つは西アフリカのゴレ島。大航海時代に奴隷売買が行われた場所である。第2回目には、アウシュビッツが登録された。
 このように、世界遺産とは人類の栄光、明るい記憶のみを後世に伝えるための制度ではない。光と影の両面にわたって、人類が語り伝え、後世に残すべき「遺産」を認定する事業なのである。世界遺産という制度には、もともと観光振興という目的はなかった。
 しかし、途上国そして日本においては、観光地としての箔付けのために世界遺産を利用する傾向が強い。日本の世界遺産の現場では、負の記憶を隠ぺいする動きさえある。そんな問題意識を抱きつつ、世界遺産をめぐるダークツーリズムについて論じる。
 ちなみに日本では、1992年に世界遺産条約が正式に発効し、翌年、文化遺産として「法隆寺地域の仏教建造物」と「姫路城」が、自然遺産として「白神山地」と「屋久島」が登録された。
 
【目次】
第1章 世界遺産制度の概要とダークツーリズムの考え方
第2章 アウシュビッツとクラクフから考える
第3章 産業遺産の光と影
第4章 ダークツーリズムで巡る島
第5章 潜伏キリシタン関連遺産を観る眼
第6章 復興のデザイン
第7章 コロナ禍で考える世界遺産
付章 カリブの旅
 
【著者】
井出 明 (イデ アキラ)
 1968年生まれ。京都大学経済学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、同大学院情報学研究科博士後期課程指導認定退学。京都大学にて博士号(情報学)を取得。近畿大学助教授、首都大学東京准教授、追手門学院大学教授、ハーバード大学客員研究員などを歴任。現在、金沢大学国際基幹教育院准教授。日本に「ダークツーリズム(災害や戦争の跡など“悲劇の記憶”を巡る旅)」を広めた気鋭の観光学者。社会情報学の手法を用いて、新しい時代の観光研究を行っている。
 
【抜書】
●ユネスコの三大遺産事業(p17)
 世界遺産……世界文化遺産、世界自然遺産。不動産が中心。最近では、「景観」も対象に。
 世界記憶遺産……正式名称は「世界の記憶」。人類が後世に伝えるべき資料の原本。
 世界無形文化遺産……食文化や伝統工芸など。
 通常、「世界遺産」と言った場合には、下の二つは入らない。
 
●ダークツーリズム(p29)
 1990年代にイギリスで生まれた新しい観光の概念。
 戦争や災害などの悲劇の記憶を巡る旅。ほかに、環境破壊(公害)・性的搾取・労働問題・病気・犯罪に関連した場所も対象。
 欧米ではここ20年で一般化した。
 日本では、東浩紀が『福島第一原発観光地化計画』(ゲンロン、2013年11月)を発表して、急速に一般化していった。
 
●政治犯(p47)
 ナチスは、ポーランドに侵攻した直後、クラクフの伝統ある名門校ヤゲロー大学(現地語ヤギェヴォ)の教授たちのなかから政治犯をでっちあげ、アウシュビッツに収容し、処刑した。
 インテリ層を捕縛し、被統治民から言葉を奪うための政策。
 
●トーマス・クック(p62)
 世界最初の旅行会社と言われたトーマス・クック・アンド・サンズ社の創業者。企業グループは2019年に破綻。
 産業革命時代、鉄道を利用した安価な大衆旅行をビジネスモデル化し、労働者に提供したことが近代観光産業の起源。当時の労働者は、仕事の鬱憤を酒で紛らすことが多く、酒浸りの生活をしていた。鉄道旅行でリフレッシュされ、生産性も上がったため、旅行業が成立した。
 
●千人壺(p77)
 石見銀山には、脱走を試みる者や就業拒否者に対する処刑場があった。観光の用にも供されていたが、世界遺産登録後、跡形もなく整備されてしまった。
 千人壺という史蹟(市指定文化財)もある。死罪となった盗人や放蕩者、病死者、身寄りのない遺体が投げ入れられたという言い伝えが残る。現在も見学可能だが、観光マップ等には掲載されておらず、地元の人に聞かないと場所がわからない。
 
(2021/8/27)NM
 
〈この本の詳細〉


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