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クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界
 [社会・政治・時事]

クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界
ヤニス・バルファキス/著 江口泰子/訳
出版社名:講談社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-06-521950-8
税込価格:1,980円
頁数・縦:356p・19cm
 
 近未来SF経済小説。2008年を境に分岐したもう一つの世界と、2025年に交信した結果、明らかになったあちら側の世界の「理想的な」社会を描く。
 2008年の世界金融危機が、社会を根本的に変える絶好の機会だったという認識が、著者にあるのだろう。さらに、2020年のコロナ禍により、ロックダウンやワクチン接種の半強制があり、リベラル国家においても国家権力が増大している、という認識が。そして、それを国民も素直に受け入れている。
 となると、さて、21世紀中盤へと向かう今後の世界はどうなってしまうのだろうか。
 
【目次】
第1章 現代性に敗北する
第2章 パラレル世界との遭遇
第3章 コーポ・サンディカリズム
第4章 資本主義が死に絶えたそのあとの世界
第5章 審判が始まる
第6章 資本主義のない市場
第7章 天国でトラブル発生
第8章 再びの審判
第9章 脱出
 
【著者】
バルファキス,ヤニス (Varoufakis, Yanis)
 1961年アテネ生まれ。経済学部教授として長年にわたり、英国、オーストラリア、ギリシャ、米国で教鞭をとる。2015年、ギリシャ経済危機のさなかにチプラス政権の財務大臣に就任。財政緊縮策を迫るEUに対して大幅な債務減免を主張し、注目を集めた。2016年、DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025:民主的ヨーロッパ運動2025)を共同で設立。2018年、米国の上院議員バーニー・サンダース氏らとともにプログレッシブ・インターナショナル(Progressive International)を立ち上げる。世界中の人々に向けて、民主主義の再生を語り続けている。
 
江口 泰子 (エグチ タイコ)
法政大学法学部卒業。編集事務所、広告企画会社勤務を経て翻訳業に従事。
 
【抜書】
●政治権力と経済力の再統合(p86)
 あちら側の世界で実現した「一人一株一票」は、政治領域と経済領域の再統合という点で革命的だった。
 〔資本主義が始まって以来、政治領域と経済領域とが再統合を果たしたのだ。資本主義の前には、政治権力と経済力は同じ人物が握っていた。王子は裕福であり、裕福なのは王子だけだった。政治権力は強制か征服によって、無条件に他者の富を搾取する力を意味した。そして、その強制力は称号、城、王権やティアラになった。ところが、そこへ資本主義が登場してなにもかも変えてしまった。国際的な交易路が開かれたことで、新興階級の商人が誕生した。彼らは経済力を誇ったが政治的な影響力はなく、社会的な地位も低かった。こうして史上初めて、政治権力と経済力とが分離したのである。その分離が決定的なものとなったのは、商人が産業界の、そして最終的にはグローバル金融やテクノロジー業界の大株主へと進化した時だった。長い論争を重ねて、コスタにそう指摘したのはアイリスだった。〕
 
●パーソナル・キャピタル(p88)
 あちら側の世界(コスティの世界)では、市民は全員、中央銀行にパーソナル・キャピタル、通称「パーキャプ」という口座を与えられる。商業銀行は消滅。
 パーキャプには、「積立」「相続」「配当」という三つの資金口座が設けられている。
 積立……基本給とボーナスが振り込まれる。
 相続……赤ん坊が生まれた瞬間に、国は赤ん坊のためにパーキャプ口座を開設する。相続にまとまった資金が振り込まれ、全員が同じ額を受け取る。パーキャプの中で相続が最も流動性が低く、65歳の者が利用する際には、面倒な手続きや厳しい審査をくぐり抜けなければならない。
 配当……中央銀行から、毎月、市民の年齢に応じて一定額が振り込まれる。ベーシックインカム。
 国は、あらゆる企業が納める総収入の5%で、全市民に対する社会給付を賄っている。
 コスティの世界では、税金は「法人税」と「土地税」のみ。「配当」の原資は税金ではない。市民が集団的に生産する資本ストックの共同所有者として、市民一人一人が受け取る「本当の配当」である。
 
●アンティドシス(p212)
 財産交換。古代アテナイにおいて、行政単位のデーモス(区)は裕福な市民に対して、特別な公共サービスの費用を負担するレイトゥルギアー(奉仕義務)を命じていた。「私有財産を蓄えることができたのは都市のおかげだから、デーモスには富裕層にその負担を要求する権利がある」。
 例えば演劇の上演費用を負担するように命じられた個人には、二つの選択肢が与えられた。その費用を負担するか、自分は不当に選ばれたと考えてアンティドシスを申し立てるか。
 アンティドシス……Aが費用負担に不服な場合、他の市民Bを指名する。その市民Bは、費用負担を拒否する場合には、自分の全財産とAの全財産を交換しなければならない。
 
●円積問題(p230)
 「与えられた円と等しい面積を持つ正方形を、定規とコンパスを用いて作図できるか」という問題。古代ギリシャで、三大作図不能問題として研究された。(注より)
 円積問題は、難しいのではなく、絶対に不可能。
 
●共産党(p231)
 〔1991年に資本主義が勝利した理由は、旧ソ連や東ドイツの市民に自由がないことよりは、むしろ、パンであれテレビであれ、なにかを手に入れるためには、いちいち列に並ばなければならないことだった。単に自由だけの問題なら、赤い旗はいまでもクレムリンの上で、はためいているのかもしれない。いや、ホワイトハウスの上でも。〕
 〔シリコンバレーのおかげで、最も大きな、そして唯一、恩恵を受けるのはおそらく中国共産党だろう。中国政府がアリババと同じような技術を開発した時、その技術を中国政府が採用しないという理由はない。中国版アマゾンと呼ばれるアリババが、顧客が次に欲しがっている商品を正確に予測するために使う技術を、中国共産党が使えば国全体の経済を管理できるのだ。すでにその権限も有している。あと必要なのは手段だけだ。そしてAIがもう少し進化すれば、中国式の共産主義が市場を完全に制圧するのを阻止するものがあるだろうか。〕
 
●資本主義の終焉(p233)
 〔本来の市場が復活するためには、資本主義の終焉が必要だったのだ。〕
 
●国家の権力(p296)
 2020年以前、民主主義を標榜する国では、政治家は国民をコントロールしていないという印象だった。
 しかし、新型コロナ・ウイルスの蔓延により、国家が強大な権力を有しているという認識にかわった。中国やロシアのような権威主義の国家だけではなく、リベラルだったはずの国家でも。
 〔ウイルスの蔓延に伴い、24時間の外出禁止令が出される。地元のパブは閉店する。公園の散歩もスポーツも禁止。劇場は空になり、コンサート会場は沈黙した。政府の役割や影響力を最小限にとどめ、権力を喜んで個人に譲る“最小国家”という考えは、きれいさっぱり消え失せた。多くの者がまるでよだれを垂らさんばかりに、生の国家権力の誇示を欲した。〕
〔 2008年の余波で経験した、経済の低迷と不平等の悲惨なスパイラルが、2020年初めに猛烈な勢いで戻ってきた。国際社会の協力の代わりに、国境には壁が立ち上がり、店のシャッターは降りた。国家主義の指導者は、意気消沈した市民にシンプルな取引を持ちかけた。致命的なウイルス――と策略に長けた反体制派――から守る代わりに、国家権力を受け入れよ、という取引を。〕(p300)
 
●大企業(p298)
 〔大企業は常に国家を必要とした。企業が事業の基盤とする財産や資源、資金、市場の独占を国家に課してもらい、実施してもらう必要があった。〕
 
(2022/2/17)NM
 
〈この本の詳細〉


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