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税金の世界史
 [歴史・地理・民俗]

税金の世界史  
ドミニク・フリスビー/著 中島由華/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-309-22830-3
税込価格:2,585円
頁数・縦:318p・20cm
 
 税金というフィルターを通して見た、新釈世界史。後半部では、著者が理想とする世界で徴収される税について語る。
 
【目次】
日光の泥棒
とんでもない状況からとんでもない解決策
税金を取るわけ
税金の始まりの時代
税金とユダヤ教、キリスト教、イスラム教
史上もっとも偉大な憲法
黒死病がヨーロッパの租税を変えた
国民国家は税によって誕生した
戦争、借金、インフレ、飢饉―そして所得税
アメリカ南北戦争の本当の理由
大きな政府の誕生
第二次世界大戦、アメリカとナチス
社会民主主義の発展
非公式の税負担――債務とインフレ
労働の未来
暗号通貨――税務署職員の悪夢
デジタルは自由を得る
データ――税務当局の新たな味方
税制の不備
ユートピアの設計
 
【著者】
フリスビー,ドミニク (Frisbby, Dominic)
 イギリス人の金融ライターであると同時にコメディアンでもある。イギリスの経済誌『マネーウィーク』に金および金融に関するコラムを連載中であるほか、『ガーディアン』紙や『インディペンデント』紙などにも寄稿する。また、さまざまな国で開催される国際カンファレンスで金融の未来をテーマに講演を行なっている。ポッドキャストの番組の司会者、スタンドアップコメディアン、声優としても活躍中である。
 
【抜書】
●窓税(p7)
 1066年のノルマン・コンクエスト以前より、イングランドの民は教会に対してなんらかの炉税(煙税、煙突税)を支払っていた。
 1662年、炉税が法令で定められた。
 君主になって間もないウィリアムとメアリーは、炉税を廃止した。
 1696年、新たに窓税(家屋、明かり取りおよび窓税)が考案され、導入された。
 
●権力(p27)
〔 税は権力である。国王でも、皇帝でも、政府でも、税収を失えば権力を失う。この法則は、古代のシュメール王国の初代国王から現代の社会民主主義国の政府まで、すべての時代に当てはまる。税は国家を動かす燃料である。税を制限すれば、統治力を制限することになる。〕
 
●政府(p32)
 21世紀の先進国においては、国民の生涯で最も高価な買い物は「政府」。
 イギリスでは、中流階級一人が生涯に総額360万ポンド(500万ドル)の税金を収める。国家に対する義務のため、人生のうちの20年かそれ以上の年月を費やすことになる。
 
●税制〔p33)
〔 今日のわれわれが直面している数々の問題、とりわけ富者と貧者のあいだ、各世代のあいだにある経済格差の問題の原因を探れば、税制に行きつくことが多い。税制改革は、政治家の持つ、世界を大きく変えるための数少ない手段の一つである。われわれは、未来について考え、子供や孫の暮らす未来の世界に思いを馳せるならば、まず税制について考えなければならない。〕
 
●ロゼッタ・ストーン(p41)
 プトレマイオス5世は、ロゼッタ・ストーンに次のような勅令を刻んでいた。
 「その歳入から金銭および穀物を神殿に献じ、多額の資金を投じてエジプトの繁栄に努める」。「エジプトで徴収される税のうち、一部を免除し、一部を軽減し、その治世においてエジプトおよびその他の地域のすべての人びとが富み栄えるようはからう」。「エジプトおよびその他の地域のすべての人びとを」債務から解放する。「神はこれからも神殿への寄進をお受け取りになる」。「聖職につくとき納める税は」前王の治世と同じものとする。
〔 要するに、幼王はリフレ政策を大まかに伝えていた。ロゼッタ・ストーンに記されていたのは税制改革案だった。〕
 
●税は歴史的資料(p41)
〔 歴史学者がある時代について調べたいとき、税関連の文書はしばしば有益な資料になる。こういう文書はたいてい保存状態がいいーー支配者にとっての税収の重要性を考えれば当然だろう。そして、税はその社会に関するさまざまな情報を伝えてくれる。〕
 
●イエス誕生(p48)
 イエスがベツレヘムで生まれたのは、マリアとヨセフが納税のためにそこに出かけたから。
 ルカによる福音書。「そのころ、皇帝アウグストゥスが勅令を発し、すべての人から税を取り立てなければならないので、それぞれ自分の町に帰って税を収めるようにと命じた。ヨセフもガリラヤの町ナザレを出て、ダビデの家系の町ベツレヘムに帰り……妻にめとるはずのマリアとともに納税を済ませた。このときマリアは身ごもっていた」。
 
●ルイ14世(p94)
 ルイ14世の統治は72年に及んだ。この王位期間は、ヨーロッパ諸国の君主として史上最長。
 1915年、臨終の際に王位継承者である曽孫にこう伝えた。「私と同じ轍を踏んではならない。私はしばしば軽率に戦争を行ない、虚栄心からそれを長引かせた。私のまねをしてはならない。平和をこころがけなさい。臣下の負担を軽くしてやることに専念しなさい。」
 
●ナポレオン(p101)
 徴税請負人の問題に対処するため、ナポレオンは、徴税を専門にする政府機関を設け、職員を固定給で働かせた。
 各省の支出は、収支をきちんと合わせるため、厳しい監視のもとに置かれた。政府は通貨切り上げを決して行わなかった。新たな借金は回避され、公債は償還された。
 フランス政府は、70年ぶりに収支を合わせることができた。国民の税負担は軽くなり、公平になり、効率的になった。
 しかし、ナポレオンは、征服地においては、まず略奪し、のちに課税した。特に北イタリアでは、多くの富が蓄えられているはずだという考えのもと、税負担を重くし、新税を設け、フランスで採用している効率のいい徴税方法を取り入れた。
 
●お告げの祝日(p103)
 イギリスの会計年度は4月6日に始まり、翌年の4月5日におわる。
 1752年まで、イングランドはユリウス暦を採用しており、新年は、春分の日に近い3月25日(お告げの祝日)に始まった。
 お告げの祝日……洗礼者ヨハネの祝日(6月24日)、大天使ミカエルの祝日(9月29日)、クリスマスとともに、四季支払日のひとつ。四季支払日は家賃が支払われ、つけが支払われ、使用人が雇われ、学校の新学期が始まる日。
 1751年、グレゴリオ暦に変更、3月から12月までとなった。しかし、11日の暦のズレがあったので、1952年9月2日(水)の翌日を9月14日(木)にすることになった。
 それでも、税金などの支払日は3月25日のままだった。徴税人は全額の支払いを求めたが、人びとは失った11日間の埋め合わせを求めた。
 結局、会計年度を11日ずらして4月6日とした。今日でも、税制年度は4月6日に始まる。
 
●穀物法(p115)
 1840年代、アイルランドは、ジャガイモの葉枯病の蔓延のために大凶作に見舞われた。
 米国には、すぐに輸出できる安価な穀物が倉庫に余っていたが、高iい関税のせいで思うように輸入できなかった。
 100万人が餓死し、100万人が飢餓から逃れるために米国に移住した。これまでの歴代大統領のうち、20人がアイルランド系であると公言している。
 
●協同組合(p137〕
 19世紀にイギリス各地の共同体で生まれた有志組織。
 組合員は年間所得から僅かな金額を会費として拠出。そのかわり、組合員とその家族は、必要に応じて年金、福祉、医療保険などのサービスを提供してもらえた。
 
●ウィーラー(p143)
 ウェイン・B・ウィーラー。オハイオ州の弁護士。米国の禁酒法の成立に貢献。
 農場経営者の家庭に生まれたウィーラーは、少年の頃、酔った作男にピッチフォークで脚を突かれたことがあった。この事件でアルコールを毛嫌いするようになり、反アルコール運動に人生を捧げた。
 1893年、学生だった頃、酒場反対連盟(ASL)に加盟。この団体を米国史上屈指の圧力団体に成長させることになる。
 
●アンキャップ(p209)
 無政府資本主義者(anarcho-capitalist)。
 
●ケルトの虎(p224)
 アイルランドのこと。経済成長ぶりを示す言葉。
 1990年代、アイルランドは法人税率を引き下げ、EU進出を求める多国籍企業を呼び込む。英語を話す、高学歴の労働力を有するアイルランドは、海外直接投資にもってこいの国となる。
 アップル、グーグル、ヒューレット・パッカード、IBM、フェイスブック、リンクトイン、ファイザー、グラクソ・スミスクラインなどが、ヨーロッパの拠点としてアイルランドを選んでいる。
 しかし、EUが同国の法人税率に難色を示し、2017年、アマゾンとグーグルに滞納税を請求。米国も減税対策を進めている。アイルランドに海外企業を惹きつける魅力は薄れつつある。
 
●コネクト(p235)
 英国歳入関税庁(HMRC)の所有するコンピュータ・プログラム。英国図書館に収蔵されているすべてのデータより多くの情報を蓄積している。
 大半の納税者の詳細な実情を把握しており、必要であればさらに多くのデータを取得できる。
 アマゾン、アップル、エアビーアンドビー、ペイパルのようなプラットフォーム企業に、販売主や広告主の氏名や住所などのデータを強制的に開示させることもできる。
 税務当局は、国民の納めるべき税額をしっかりと予測できる。
 
●社会不安(p249)
〔 税制は人びとを平等に扱わない。不利になる人もいれば、得をする人もいる。だからこそ、資産の保有に目を向けるようになった経済国は数多い。われわれの税と通貨の制度は、実は不平等を引き起こしている。
 この先、いま、ますます権利を奪われている中流階級と労働者階級が、ますます偏向を募らせている税負担を、文句もいわずに引き受けつづけるとは思えない。このままでは、社会不安、政治不安がいっそう大きくなると考えられる。〕
 
●国民国家(p257)
〔 おそらく、国民国家モデルの存続が脅かされはじめたのは、一九九〇年代半ばから末にかけてのことだ。このころ、無形資産への投資が有形資産へのそれを上回るようになった。ずっと昔から、経済は形のあるモノ――自動車から牛、穀物、金まで――の生産と消費を中心にしていた。今日、もっとも貴重な資産といえば、形のない、手で触れられないもの――ソフトウェア会社、ブランド、知的財産、オペレーティングシステム、独自のサプライチェーンなどである。通貨自体、もはや有形ではなくなっている。無形物を中心に築かれた企業は、成長がより速い。システム――たとえば、グーグルの検索エンジンなど――がうまく機能するならば、それは「物理的」企業が提供するどんな商品よりも迅速に利益を増加させる。アプリは、一度アップロードしてしまえば数百万人にダウンロードされうる。この急成長の可能性は投資を呼びこみ、その速度がいっそう増すことになる。〕
 
●ピグー税(p263)
 20世紀初頭、イギリスの経済学者のアーサー・C・ピグーが考案した税。
 ネガティブな結果をもたらした結果に対する課税。自然環境の汚染や、公的医療の増大を招く(とりわけタバコに関わる)産業、あるいは活動。 
 著者の考えるユートピアでは、ビグ―税収は、罰金と同じく、その活動によって害される領域での公共事業に直接投じられる。タバコ税は公的医療サービスに、という具合。
 
●立地使用税(LUT)(p264)
 著者が、ユートピアに必要と考える新たな税制度。
 所有する土地の立地に基づく税。
 アイディアのもとになったのは、17世紀の重農主義の思想。富には二つの種類がある。人間が作り出したものと、母なる自然から与えられたもの。
 人間が作った富は、作った本人に帰するべき。しかし、土地は、自然環境から生じたもの。自然が作った富はみんなで分かち合うべき。「未改良」時の価値の一部は、税として徴収し、みんなの利益となるように使う。
 啓蒙思想家トマス・ペイン、1797年。「人間は大地をつくったわけではない」「個人財産といえるのは勤労によって増大させた価値のみであって、大地そのものではない……。土地所有者は共同体に対して所有地の地代を支払う義務を追う」。
 
(2022/4/10)NM
 
〈この本の詳細〉

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