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悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?
 [哲学・心理・宗教]

悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?
 
サイモン・マッカーシー=ジョーンズ/著 プレシ南日子/訳
出版社名:インターシフト
出版年月:2023年1月
ISBNコード:978-4-7726-9578-7
税込価格:2,420円
頁数・縦:269p・19cm
 
 「最後通牒ゲーム」で、たとえ少額でも利益を得られるのに拒否する人がいる。約半数の人が、10ドル中2ドル以下の提案を拒否する。ヒトはなぜ、ホモ・エコノミストを逸脱するような、そんな悪意のある行動をとるのだろう。
 人間の進化をもたらしたかもしれない「悪意」について、脳科学から心理実験にいたる、これまでの最新研究を取り入れて論じる。
 
【目次】
はじめに 人間は4つの顔をもつ
第1章 たとえ損しても意地悪をしたくなる
第2章 支配に抗する悪意
第3章 他者を支配するための悪意
第4章 悪意と罰が進化したわけ
第5章 理性に逆らっても自由でありたい
第6章 悪意は政治を動かす
第7章 神聖な価値と悪意
おわりに 悪意をコントロールする
 
【著者】
マッカーシー=ジョーンズ,サイモン (McCarthy-Jones, Simon)
 ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授。さまざまな心理現象について研究を進めている。幻覚症状研究の世界的権威。『ニュー・サイエンティスト』『ニューズウィーク』『ハフポスト』『デイリー・メール』『インディペンデント』など多くのメデイアに寄稿。ウェブサイト『The Conversation』に発表している論評は100万回以上閲覧されている。
 
プレシ 南日子 (プレシ ナビコ)
 翻訳家。
 
【抜書】
●最後通牒ゲーム(p24)
 隣の部屋にいる相手とペアでプレイ。この相手は、いくらかのお金(例えば10ドル)を与えられていて、あなたとこのお金を分け合うように言われる。
 相手の提示した金額を受け入れるなら、あなたはその金額を、相手は残りの金額を得ることができる。
 あなたには、提案を拒否するという選択肢もある。その場合、どちらもお金をもらえない。
 ゲームをプレイするのは1回だけ。再提案はない。
 
●ランボルギーニ(p38)
〔 1958年はイタリアのトラクター業界にとって当たり年だった。そのおかげで、あるイタリアのトラクター製造業者の社長だったフェルッチオは、、自分だけでなく妻にもフェラーリを買うことができた。ところが、彼は決して運転がうまいほうではなかった。愛車のフェラーリのクラッチを4回も焼き切ってしまったフェルッチオは、近くにあるフェラーリ社の工場に持ち込むのはやめて、自社で一番腕利きの機械工に修理させることにした。すると驚いたことに、このフェラーリのクラッチは、フェルッチオの会社が小型トラクター用に使っているクラッチとまったく同じだったことが判明したのだ。機械工から報告を受けたフェルッチオは憤慨した。これまでフェラーリ社でクラッチを取り換えてもらうたびに、まったく同じトラクター用クラッチの100倍の費用を払っていたからだ。フェルッチオはフェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリのもとを訪れ、「お宅の高級車が使っているのはうちのトラクターと同じ部品じゃないか!」と大声で問い詰めた。するとフェラーリは「トラクターを運転している君のような農民にわが社の車についてとやかく言われる筋合いはない。うちの車は世界最高級なのだから」と答えて火に油を注いだという。そこでフェルッチオはフェラーリに見せつけるため、自らスポーツカーをつくる決意をした。これはリスクの高い事業であり、妻に何度も止められたが、フェルッチオはリスクも覚悟の上だった。そして、悪意に突き動かされた行動に出る。その結果、彼の名を冠した自動車会社は意外にも成功を収めた。ちなみにフェルッチオの名字は、ランボルギーニである。〕
 
●ダークトライアド(p45)
 三つのネガティブな性格特性。
 サイコパシー(精神病質)、ナルシシズム(自己愛傾向)、マキャヴェリズム(権謀術数主義)。
 こうした負の特性は、ダークファクター(Dファクター)と呼ばれる大木の枝に相当する。これは、自分が価値を認めたもの(快楽、権力、お金、地位など)を手に入れるためなら、他者に害が及ぶことなど気にしないか、受け入れる、さらには楽しむ傾向を指す。
 Dファクターが高い人は、自分の行動を正当化するようなストーリーを作り上げる。例えば、自分は他者よりも優れている、支配は当然のことであり、望ましい、誰でも自分のことを最優先しているのだから、自分もそうしても構わない、などと考えている。
 悪意は、ダークトライアドを有していることと関連している。
 
●独裁者ゲーム(p57)
 最後通牒ゲームに似ていて、お金を分け合う点は同じ。
 しかし、提案を受ける側は、断ることができない。オファーを受けるしかない。
 最後通牒ゲームで悪意のある反応をした人が独裁者ゲームをすると、お金を公平に分ける人(強い互恵性)と、不公平に分ける人がいる。
 
●互恵性理論(p58)
 互恵性とは、好意には好意で、親切には親切で、意地悪には意地悪で応えること。弱い互恵性と強い互恵性がある。
 弱い互恵性の場合、自分の利益になるときだけ相手に報いる。弱い互恵主義者が考えているのは、自分の利益を最大化することだけ。自分がコストを支払わなければならないとき、他者を罰したりしない。悪意を持つことは得意ではない。
 強い互恵主義者は、損害を被ったら、たとえコストを支払ってでも仕返しする。他者と協力する傾向があるため、最初は公平な行動をする。ところが、たとえコストを支払ってでも、協力的でない他者を罰しようとする。
 
●ホモ・レシプロカンス(p59)
 サミュエル・ボウルズは、強い互恵主義者のことを、「ホモ・レシプロカンス(互恵人)」と呼ぶことを提案。
 彼らは、ホモ・エコノミクスのような行動はせず、すぐ手に入る自己の物理的利益を最大化しようとはしない。
 最後通牒ゲームにおけるホモ・レシプロカンスの悪意ある行動は、「コストのかかる罰」と呼ばれている。
 
●知覚的非人間化(p72)
 私たちは、相手が規範に違反したことを知ると、相手を人間と見なさなくなる。共感を回避するための危険な仕掛け。
〔 また、悪意を持った人々は、もともと平均より低いレベルの共感しか持ち合わせていないのかもしれない。悪意のある人は他者の感情や信条、意図を理解する能力が低いことがわかっている。しかし、そのおかげで彼らはより客観的かつ抵抗なく、公平さのルールを強要できるだろう。人類にはそういう人間が必要なのかもしれない。〕
 
●善人ぶる者への蔑視(p85)
 人々は、グループの基金に自分たちよりも多く出資しているプレーヤーにも罰を与えた。
 再び同じゲームをしたとき、気前のいい人々は前回ほど貢献しなかった。協力も減り、全員が損をした。
 
●ホモ・リヴァリス(p92)
 競争人。
 独裁者ゲームでは不公平なオファーをするが、最後通牒ゲームでは低額オファーを拒否して悪意ある行動をする。
 公平な人が不公平な扱いを受けて反支配的な面が刺激されたのではなく、相対的優位性を手にするため。そうすれば相手を支配できる。
 
●相対的優位(p123)
 罰は非協力的な人の行動を改めさせるために進化したのではない。クロケットらの研究。スミードとフォーバーの考えとも一致。
 協力と公平性が高まるのは、相対的地位の向上のためにコストをかけて他者を傷つけ、損害を与えることの副次的影響にすぎない。
 人間はまず相対的地位を高めるために悪意のある行動をとる能力を進化させ、その後、この傾向を罰という別の用途に使うようになった。
 
●カオスの要求(p156)
 白紙の状態に戻したい、新しくやり直したいという願い。
 現在の状況が崩壊すると得をする人々や、高い地位が欲しいのに手が届かない人が感じがちな感情。社会から取り残された、地位を求める人々が使う最終手段。
 カオスを強く求める傾向は、若くて学歴の低い男性によくみられる。孤独感が強く、社会階層の底辺に位置付けられている人々。
  
●神(p184)
〔 現在、人類の過半数が神を信じている。キリスト教徒とイスラム教徒だけで、世界の人口の55%を占めているのだ。神の概念は世界各地で異なるが、神とは人間の行ないを把握し、善悪の違いを知っていて、罪を犯した人々を罰する存在だと広く信じられている。
 人類の歴史のある時点で、神のような存在がとりわけ重宝するようになった。農耕社会が形成され、人々がそれまでよりもずっと大きな集団の中で生活するようになると、他者を罰するのにかかるコストも増大する。農耕社会で暮らす人々は狩猟採集民族よりもずっと多くの富と力を蓄えられるため、誰かから罰を与えられれば、大きな力で相手に報復できるようになるからだ。集団の人数が増えると、それまで少人数の集団内で協力を促すのに役立っていた仕組みが機能しなくなり始め、大人数の集団内でも協力を促せる新しい手段が必要になる。遺伝的進化ではすぐに対応できなかったため、人々は文化に目を向けた。人類は罰を行使する権威を生み出す必要があったのだ。世俗的な組織にこの権威を持たせることも可能だったが、権威を持った空想上の存在を生み出すという選択肢もあった。それが神である。〕
 
●ソーシャルネットワーク(p215)
〔 地球上の人々の半数はフェイスブックやツイッターなど、オンラインのソーシャルメディア・プラットフォームを使っている。わたしたちは世界の内側に別の世界をつくったのだ。しかし、この世界は人間が進化によって適合してきた世界とは違う。オンラインの世界はこれまで悪意を抑えてきた性来の束縛をゆるめ、悪意に対して過去に例を見ないほどの見返りを与える。目的のためには手段を選ばない人々が悪意のある行動を広めようと思ったら、ソーシャルネットワークをつくるのが一番だろう。ソーシャルネットワークは悪意のコストを減らし、利益を倍増させる。ソーシャルメディアは悪意がはびこる最悪の状況を生み出すのだ。〕
 
(2023/9/5)NM
 
〈この本の詳細〉


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