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学者の暴走
 [社会・政治・時事]

学者の暴走 (扶桑社BOOKS新書)
 
掛谷英紀/著
出版社名:育鵬社(扶桑社新書 378)
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-594-08806-4
税込価格:990円
頁数・縦:263p・18cm
 
 科学的でないアカデミーの世界の堕落と、左翼イデオロギーに支配された大学・学会の危機を暴く。
 学者の存在意義とはなんだろう?
 
【目次】
第1章 新型コロナウイルスと悪魔の科学
 情報隠蔽がもたらしたパンデミック
 武漢で行われていた危険な研究
  ほか
第2章 科学とは何か
 そもそも科学とは何なのか
 科学の限界
  ほか
第3章 日本の科学の弱点
 科学に向かない日本文化の側面
 日本文化と左翼イデオロギーの奇妙な共鳴
  ほか
第4章 世界の学問の危機
 反西洋文明思想の到来
 ジェンダー学の危険
  ほか
第5章 学問の再建に向けて
 危険な科学をどう制御するか
 知識人にどう責任をとらせるか
  ほか
 
【著者】
掛谷 英紀 (カケヤ ヒデキ)
 筑波大学システム情報系准教授。1970年大阪府生まれ。東京大学理学部生物化学科卒業。同大大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て現職。専門はメディア工学。
 
【抜書】
●フーリン切断部位(p25)
 受容体に結合したウイルスは、人間の細胞に入り込むことが感染に必要である。
 フーリン切断部位(Furin Cleavage)があると、ウイルスが細胞の中に入りやすくなる。
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)には、2002-3年に流行したSARSウイルスになかったフーリン切断部位がある。
 また、新型コロナウイルスのスパイク蛋白質の受容体結合部位が、他の動物よりも人間のACE2受容体に最も強固に結合する。
 この二つの理由により、人工的に作られた可能性が高い。
 
●予測する力(p68)
 科学の定義は、「『予測する力を持つ体系的知識』およびそれを獲得する営み」。
 カール・ポパーの「科学における命題は反証可能でなければならない(実験や観察によって仮説が正しいか否かが検証されなければならない)」は、科学という活動の必要条件ではあるが、十分条件にはなっていない。
 
●神学(p71)
〔 科学が普遍性を目指したことは、科学が生まれた西洋文明と大いに関係がある。西洋では、紀元前からアテネを中心に哲学が花開き、理性を突き詰める習慣があった。その後、一神教のキリスト教が広まったことで、世界全体に貫かれる普遍性に関心が向くようになった。この両者を結び付けたのがトマス・アクィナスである。その後、ヨーロッパでは科学的なものの考え方が広まったが、そこで多数の聖職者が貢献したのはそれが理由である。たとえば、地動説を唱えたニコラウス・コペルニクスがキリスト教の司祭であったことはよく知られた事実である。〕
 元々学問は神学から始まっている。
 
●科学の定義(p86)
 予測力を持つ体系的知識を得ることを目的とし、その手段として再現性仮説に基づく実験と観察、法則の数理的連続性を仮定した理論設計(帰納主義)を道具とする。
 
●地図(p94)
 「僕の興味は、真理を追求することだ。真理というのは、人類が正しい道を進むために、この世界がどうなっているのかを教えてくれる、地図のようなものだ。その地図をつくるのが、科学の役目だ。」
 東野圭吾のガリレオ・シリーズを原作とする映画『真夏の方程式』の中で、湯川学が語ったセリフ。
 
●事実と希望的観測(p104)
 〔われわれ理系の学者は、少なくとも学問の議論をしている限りにおいては、事実と希望的観測を厳密に分けるように訓練されている。〕
 
●エネルギー密度(p149)
 自然エネルギーの最大の欠点は、エネルギー密度が非常に低いこと。
 太陽光発電は、水力発電の約4倍の面積を必要とする。
 エネルギー密度……単位面積、単位体積当たりに得られるエネルギー。
 
●ポリコレ(p172)
 大学が左翼教授たちに支配されてしまったために、今起きているのがポリコレの問題。
 ポリコレ=ポリティカル・コレクトネス。「政治的に正しいこと」。
 この「正しさ」は、左翼イデオロギーに合致するか否かによって判断される。左翼イデオロギーに反することは、それが客観的な事実であっても、口にしてはいけない。
 
●アンティファ(p173)
 Antifa。米国の大学等で、言論の自由に対する妨害を行う左翼的集団。
 保守系の人間が大学で講演会をすると聞くと、キャンパスに押しかけて妨害するなどの活動を繰り返している。最近は活動が過激化しており、人に向かって暴力を振るうこともしばしば。
 2020年5月25日のジョージ・フロイド死亡事件(ミネソタ州ミネアポリスで、白人警官による拘束で黒人男性が死亡)をきっかけに、全米各地で抗議の名を借りた大規模な略奪と暴力事件が多発したが、これを扇動したのもアンティファ。
 
●サイエンス・ウォーズ(p202)
 1990年代に勃発した、科学者(主に自然科学者)と科学技術社会論者(科学論者)との間の「戦争」。科学は、ポスト・モダン思想家たちの脱構築のターゲットとなる。
 科学技術論(STT)……社会学、倫理学などの人文・社会科学の立場から科学の在り方を研究する分野。ハンソン、クーンなどの思想家がその代表。
 ハンソン、クーンらは、認識論の立場から、科学の客観性に疑問を呈している。クーンのパラダイム論など。
 〔ここまで(パラダイム論)であれば、科学者の立場であっても許容できる批判であろう。しかし、ポスト・モダン思想家に対する科学の客観性否定はそこに留まらなかった。認識論を過剰に持ち込むことで、科学の具体的な記述内容や科学の方法論そのものに対する批判という形をとり始めたのである。こうした科学論による科学そのものへの批判を知った科学者たちが一斉に反発を始めたというのがサイエンス・ウォーズ勃発の経緯である。〕
 物理学者のアラン・ソーカルは、「Social Text」という社会学系の雑誌の科学論の特集号に、意図的に間違った科学的記述をちりばめ、その上で全体としては科学を批判した論調の似非論文を投稿した。査読の結果、採択。この投稿によって、査読のレフリーの眼力、読者の眼力を試す。
 あるジャーナリストがこの論文に不審を抱き、ソーカルに問いただしたことで掲載3週間でこの論文の正体が公表された。
 その後、ソーカルは『「知」の欺瞞』という著書で、フランス現代思想の巨匠が科学の専門用語を見当違いな理解に基づいて使っている記述を列挙した。
 
●言論責任保証(p233)
 掛谷が2004年に提案。
 正当性がすぐには確認できない主張を出版物や講演で行う場合、それによって得た収入(印税・講演料)を預託金として仲介機関に預け、主張の真偽が確定した段階で預託金の返還の有無を決定する仕組み。
 
●教養学部(p254)
 日本の大学は、ポリコレの浸食が少なく、大学運営において、諸外国と違って成功している面もある。
 教養学部を廃止したことにより、理系の教員や学生を文系学者のイデオロギー支配(主に左翼イデオロギー)から守ることに成功した。
 米国の大学では、4年間、リベラル・アーツ(教養)教育が中心で、本格的な専門教育は大学院に入ってから。
 
(2022/3/3)NM
 
〈この本の詳細〉


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