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〈運ぶヒト〉の人類学
 [歴史・地理・民俗]

〈運ぶヒト〉の人類学 (岩波新書)

川田順造/著
出版社名 : 岩波書店(岩波新書 新赤版 1502)
出版年月 : 2014年9月
ISBNコード : 978-4-00-431502-5
税込価格 : 778円
頁数・縦 : 176p・18cm


 「運ぶ」をテーマに、文化の「三角測量」を行った結果を解説する文化人類学的エッセー。

【目次】
第1章 なぜ、「運ぶヒト」か?
 ヒトはアフリカで生まれ、世界にひろがった
 アフリカを出たとき、どうやってものを運んだのだろう?
  ほか
第2章 文化の三角測量
 文化を比較する二つの方法
 轆轤を逆にまわす
  ほか
第3章 「身体技法」としての運び方
 身体と文化
 身体技法の集合としての「おこない」
  ほか
第4章 「技術文化」と運搬法
 技術文化の指向性
 ヒトと道具――三つのモデル
  ほか
第5章 「運ぶヒト」のゆくえ
 はじめどうやってものを運んだか、再び
 頭上運搬の移り変わり
  ほか

【著者】
川田 順造 (カワタ ジュンゾウ)
 1934年東京生まれ。東京大学教養学科文化人類学分科卒業。パリ第5大学民族学博士。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授等を経て、現在、神奈川大学特別招聘教授。同大学日本常民文化研究所客員教授。文化功労者。

【抜書】
●ホモ・ポルターンス(p7)
 運ぶヒト=Homo Portans。

●イーストサイド・ストーリー(p8)
 ミッシェル・ブリュネ博士(1940-)、チャドで700万年前の猿人の頭蓋骨を発見。二本足で歩いていた可能性のある最も古い化石。サヘラントロプス・チャデンシス、愛称トゥーマイ(現地語で「生命の希望」の意)。
 これまで、猿人の骨は南アフリカからエチオピアにかけてのアフリカ東部からしか発見されていなかった。 ⇒ 「イーストサイド・ストーリー」。先史人類学者イヴ・コパン教授による皮肉。

●二重分節言語(p17)
 二重に分節される言語……ある言語で用いられる音の最小単位から作る、意味を持つ最小単位をさらに組み合わせて、無限に多様な意味の表現ができる。
 生物界でヒトだけが持つ特徴。直立によって声帯が下がり、口腔の構音器官が多様化し、可能になった。

●文化の三角測量(p22)
 〔地理的にも文化的にも著しくへだたり、相互に直接の影響関係がまったく、あるいはほとんどなかったような三つの文化を比較するもの〕。
 歴史上、交流のある二つの文化を対象とした「歴史的」比較に対して、「論理的」あるいは「発見的」比較。〔まったく異なって見える三つの文化を、あえて比較してみることで、ひとつの文化だけを見ていたのでは気づかなかった隠れた意味を、発見することが可能になる〕。
 著者の場合、日本、フランス、西アフリカのブルキナファソのモシ族。

●身体技法(p56)
 著者の定義。「地域によって異なるヒトの身体的特徴、および地域の生態的、文化的特性によって条件づけられた身体の使い方」、だが「継承過程で個人の創意による改変も受ける身体運動の組み合わせ」。

●三つの運搬法(p87)
 ①頭上運搬……西アフリカ内陸の黒人社会で発達、普及。人体の道具化。
 ②運搬具の多様化……フランス等の白人社会。水を運ぶための肩当て(yoke)など、機能の特化した物的装置を用いて、運搬を確実に容易にする志向性を持つ。道具の脱人間化。
 ③両天秤運搬、前頭帯運搬……黄人。人体への着脱が自在・容易で、物的装置として単純な道具。道具の人間化。
 前頭帯運搬は、アメリカ大陸、特に中米で発達。サイザルアサ(リュウゼツラン科)やエネケンの葉から取れる1メートルあまりの強度の高い繊維を利用。日本列島では、アイヌ、薩南諸島から沖縄北端にかけて盛んに行われている。

●ヒトと道具、三つのモデル(p102)
 A:道具の脱人間化……「二重の意味での人間非依存」。〔第一に、人間の巧みさに依存せず、誰がやっても同じように良い結果が得られるように道具を工夫するという志向性と、第二に、人力を省き、畜力、水力、風力など、人力以外のエネルギーをできるだけ利用して、より大きな結果を得ようとする志向性〕。目的志向。フランス。
 B:道具の人間化……「二重の意味での人間依存」。〔第一は、人間の巧みさによって単純で機能未分化な道具を多機能に使いこなすことであり、第二に、良い結果を得るために、人力を惜しみなく投入することである。〕過程尊重。日本。
 C:人間の道具化……〔気象をはじめとする圧倒的な自然の猛威のなかで、自然と人間をともに支配する至高の力「ウェンデ」への、依存のなかの働きかけ「ベレム」(いけにえなどの儀礼を通じての祈願)が重んじられる。〕〔身体の道具化は、他のサハラ以南のアフリカ社会全般と同様、梃子の原理と回転原理を応用した道具がないモシ社会で、住民の身体特徴である長い前腕を、鍬の短い柄の延長のように用いる農作業(同時に、骨盤の前傾が容易にする深い前屈姿勢も利用して)や、柄のない鍛冶の鎚の柄として長い前腕を用いること等に、認められる。〕過程尊重。モシ。

(2015/7/9)KG

〈この本の詳細〉


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