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崩壊学 人類が直面している脅威の実態
 [社会・政治・時事]

崩壊学: 人類が直面している脅威の実態
 
パブロ・セルヴィーニュ/著 ラファエル・スティーヴンス/著 鳥取絹子/訳
出版社名:草思社
出版年月:2019年9月
ISBNコード:978-4-7942-2412-5
税込価格:2,200円
頁数・縦:270p・20cm
 
 崩壊学=コラプソロジーという新しい科学の確立を目指し、「テーマを理解するための道具を集めること」(p.21)に主眼を置いた書。要するに、不可避な人類社会の「崩壊」の原因と、その日に備えてどう準備するかをテーマとする研究領域である。しかも単なる研究ではなく、「崩壊」後に生き残るための方策も提案する。
 2015年にフランスで出版され、ベストセラーになった書の翻訳版。
 ところで、HANDYモデルから得られる教訓は、手間がかかっても民主主義を維持するべきだということだろう。中国のように貧富の差が激しく、不平等な社会はかなり危険だ。取り返しのつかない崩壊が目前に迫っている。アメリカも、「崩壊」を防ぐために、何よりも貧富の格差を是正すべきだろう。他にもたくさん、やることはあるだろうが……。
 
【目次】
序文 このテーマについては、いつか必ず話さなければならないだろう…
第1部 崩壊のきざし
 車の加速
 エンジンが止まる―乗り越えられない限界
 道路の出口―乗り越えられる境界
 方向がブロックされている?
 ますます弱体化する車体の中で身動きできず
第2部 では、それはいつになるのか?
 未来学の難しさ
 人は前兆信号を感知できるのか?
 未来のモデルは何を語る?
第3部 崩壊学
 モザイクのような世界の探究
 そして人類はどうなるのか?
結論 飢えは始まりでしかない
 
【著者】
セルヴィーニュ,パブロ (Servigne, Pablo)
 1987年ヴェルサイユ生まれ。農業技師で生物学博士。文明崩壊学とトランジション、環境農業、相互扶助の専門家。
 
スティーヴンス,ラファエル (Stevens, Raphaël)
 ベルギー出身。環境コンサルタント。社会環境システムのレジリエンスの専門家。環境問題の国際的コンサルタント組織「グリーンループ」の共同創設者。
 
鳥取 絹子 (トットリ キヌコ)
翻訳家、ジャーナリスト。著書の他、訳書多数。
 
【抜書】
●コラプソロジー(p19)
 コラプソロジー=崩壊学。
 コラプス……ラテン語で「ひと塊で落ちる」の意味。
 
●天井(p37)
 〔私たちの時代の最大の課題は、天井がどこになるのかを知ることである。私たちはこのまま加速しつづけられるのだろうか? 私たちの指数関数的な増加に限界(一つまたは複数)はあるのだろうか? もしあるとしたら、崩壊までに残された時間はどれくらなのだろう?〕
 限界……リミット。文字通りの限界。乗り越えられない。
 境界……バウンダリー。乗り越えられるが、裏に隠れて目に目ず、超えたと気づいたときには遅すぎる。不安定な状態になる。
 
●銀、インジウム(p47)
 主要な鉱石や金属も、ピークに向かっている。
 88種の再生不能資源が2030年前に恒久的な欠乏状態になる可能性がある。
 銀(風力発電の製造に欠かせない)、インジウム(一部の光起電力セルに欠かせない)、リチウム(電池に利用)などが、特に欠乏の可能性が高い。
 
●ERoEI(p50)
 Energy Return on Energy Invested。エネルギー収支比。
 採取したエネルギー量と、採取するために投資したエネルギーの比率。
 20世紀初頭、米国の石油のERoEIは100:1だった。1990年には、35:1に減少。現在は約11:1。
 在来型石油の世界生産の平均は、10:1から20:1の間。オイルサンド(米国)は2:1と4:1の間。
 バイオ燃料は1:1と1.1:1の間。ショ糖から作られるエタノールは10:1。
 原子力は5:1と15:1の間。
 石炭は約50:1。中国では27:1。
 シェール石油は約5:1。
 天然ガスは約10:1。
 現代社会の私たちのサービス全体を供給するための最低限のERoEIは、12:1から13:1。
 
●共絶滅(p73)
 最も絶滅が危惧される種は、絶滅危惧種に認定された種ではなく、その種と間接的に関係する種。
 「種の共絶滅」と呼ばれる、ドミノ現象。
 
●九つの境界線(p77)
 2009年に『ネイチャー』に発表され、2015年に更新された研究。私たちが超えてはならない、生命維持に絶対必要な、地球規模での九つの境界線を数字で示した。
 ・気候変動
 ・生物多様性(生物圏の完全さ)
 ・海洋の酸化
 ・オゾン層の減少
 ・リンと窒素循環の崩壊
 ・空中のエアロゾル負荷
 ・淡水の消費……淡水の世界消費量の境界線は年間4,000立方キロメートル。現在、灌漑に使用されているのは2,600平方キロメートル。
 ・土地の用途の変化
 ・化学汚染
  
●ロック・イン現象(p86)
 より効率的で新しい技術が現れても、既存のシステムに阻害され、普及させるのは難しい。
 技術革新も、経路依存、技術の袋小路に陥る。
 
●臨界減速(p131)
 critical slowing down。
 「破局の危機にあるシステムで、小さなトラブルの回復に、だんだんと時間がかかるようになること。レジリエンスが減少していくこと。
 システムの脆弱性、つまり切迫した急変の可能性が明らかになる。
 ミジンコを使った実験。ジョージア州とカロライナ州の大学の二人の研究者による。餌をどんどん減らしていき(個体群を悪化していく条件下に置き)、個体群崩壊の前兆信号を観察した。力学的な臨界減速が現れたのは、個体群崩壊の8世代前だった。
 
●HANDYモデル(p139)
 Human and Nature Dynamics。人間・自然関係力学。正式名は、「人間・自然関係力学、社会の盛衰に関する不平等と資源使用のモデル化」。
 2014年、NASAが資金援助した研究。
 架空の文明において、生物物理学的な抑圧を受けた場合の人口動態シミュレーション。捕食者と被食者との関係の「ピストン工程」を、人間の人口と環境との関係に置き換えたモデル。そこに、①蓄積された富の全体量と、②それが少数の「エリート層」とその他大勢の「大衆」との間でどう分配されるかという、二つのパラメータを加えた。
 研究では、三つの集団のシナリオが探究された。
 (A)平等な社会。階級がなく、エリートがいない。
 (B)公平な社会。エリート層はいるが、仕事による収入は非労働者層と労働者層で公平に分配される。
 (C)不平等な社会。エリート層が「平民」を犠牲にして富を独占する。
 4タイプのシナリオを考案。
  ① 人口が環境との均衡に向かって緩やかに近づく。
  ② 均衡に近づく前に混乱し、人口が不安定な動きを示す。
  ③ 増加と崩壊の循環。
  ④ 急激な増加の後、取り返しのつかない崩壊に至る。
 平等な社会(A)では、消費率が過剰にならなければ、社会は均衡に達する(シナリオ①と②)。消費率が上昇すると、増加と衰退の循環に陥る(③)。消費が持続すると、人口が増大し、取り返しがつかない方法で崩壊する(④)。つまり、平等・不平等に関係なく、自然資源に対する社会の「捕食」率が、それだけで崩壊の要因の一つになる。
 公平な社会(B)では、消費が弱く、成長が遅い場合に①に達する。消費も成長も加速すると、②③④を招く。
 不平等な社会(C)では、消費率に関係なく、崩壊を避けるのは難しい。
 (C)において、全体の消費率が弱いと、エリート層は増長し、「大衆」を犠牲にして大量の資源を独占する。大衆は貧困と空腹で弱体化、仕事をする気力を失う。すると社会が従来どおり維持されなくなり、衰退に向かっていく。〔したがって、不平等で資源の消費が比較的地味な社会が崩壊するのは、資源ではなく、大衆の枯渇が原因になる。〕人口ほうが資源より早く消滅する。マヤ文明のケース。人口が崩壊した後、自然が回復している。
 (C)において、資源を大量に消費するケースでは、自然のほうが大衆より早く枯渇し、急激に取り返しのつかない崩壊になる。イースター島や、メソポタミア文明。自然環境は文明の崩壊後も枯渇したまま。
〔 一般的にいって、HANDYモデルが示しているのは、階級差の激しい社会は文明の崩壊を免れにくいということだ。これを避ける唯一の方法は、階級間の経済格差を減らし、人口が危機的レベルを超えないような措置を実施することだろう。〕
 
●メドウズ・モデル(p148)
 ワールド3、又はメドウズ・モデル。1960年代の終わり、スイスの民間シンクタンク「ローマ・クラブ」が、MITの研究者に「世界」システムの長期的な変化の研究を依頼。学生だったデニス・メドウズ(1942-)とドメラ・メドウズ(1941-2001)が、情報科学のモデル(ワールド3)を設計、パラメータ間の相互関係で変化するシミュ―レーションを開発した。
 パラメータで重要なものは6つ。人口、工業生産、サービス業生産、食糧生産、汚染、再生不能資源。
 世界のリアルデータを入力し、今後150年間の世界システムの動きをシミュレート。「標準」と呼ばれ、「平常通りの業務」のシナリオによると、私たちのシステムが極限まで不安定化していたことで、全体的な崩壊は21世紀中と出た。2015~30年に経済と農業生産は後退、世紀末前に全体が崩壊。2030年からは、人口が「制御不能なほど」減少しはじめ、世紀末には最高時の約半分、40憶人になる。
 地球の負担能力の範囲内で経済と人口の均衡が維持できるようになるには、三つの条件を充たさなければならない。2004年時点での均衡のシナリオ。
 条件①……仮に人口を早急に安定させることができ(一家族につき平均子供二人)、2040年の人口が75億人になったとしたら(想定より5,000万人少ない)、経済と人口の全体的な崩壊を数年間延ばすことができる。
 条件②……仮に世界の工業生産を2000年度の20%以下で安定化させ、その成果を公平に分配したら、崩壊の時期をさらに数年間延ばせるだろう。しかしそれでも汚染が蓄積され続け、生態系の再生能力が危機に瀕しているのが原因で、崩壊を避けるには不十分。
 条件③……①②に加えて、仮に技術面での効率が向上し、汚染や土地の荒廃が減少して農業の収穫高が増大したら、世界は安定し、21世紀末には人口80憶人以下で十分によい生活(現在の生活に近い)ができるだろう。
 ただし、この均衡のシナリオは早急に実施しないかぎり手遅れになる。すでに15年以上がたっている……。
 
●小規模なシステム(p153)
 2011-12年、講演でヨーロッパを訪れたデニス・メドウズは、繰り返し次のように述べている。
 「持続可能な開発をめざすにはもう遅すぎる。今後は衝撃に備え、早急にレジリエンスのある小規模のシステムを構築しなければならない。」
 
●崩壊の5段階(p166)
 崩壊にいたる5段階。ロシア系アメリカ人のエンジニア、ドミートリー・オルロフによる。
 増大する深刻度の順に、金融、経済、政治、社会、文化の各段階がある。各段階で、崩壊がそこで止まるか、またはさらに深刻になって次の段階に進み、一種の崩壊のスパイラルに陥っていく。
 ソ連は、第3段階(政治の崩壊)に達したことで深部の変質をもたらしたが、ロシア社会の消滅には至らなかった。
 2001年のアルゼンチンでは、金融の崩壊が起きた。金融機関は支払い不能、貯蓄は無となり、資本へのアクセスも失われる。
 1990年代のキューバでは、経済の崩壊が起きた。商品は山積みとなり、供給チェーンは断絶される。必需品の全体的な欠乏が通常になる。
 政治の崩壊では、「政府が面倒を見てくれる」希望が消える。公的サービスはもう確保されず、道路は荒れ放題、ゴミも収集されない。
 社会の崩壊では、「仲間が面倒を見てくれる」希望が消える。氏族で固まり、内戦や「自己中心」の世界に突入する。「人口は減少」に転じ、紛争、ヒトの移動、栄養不良、流行病などが蔓延する。
 文化の崩壊では、「人の善意への信仰が失われ、人びとが元来の優しさ、寛大さ、配慮、愛情、誠実さ、もてなしの心、思いやり、慈悲心を失ってしまう」。
 生態系の崩壊……最近になって、オルロフは6段階目を追加した。生態系が枯渇した社会の再生は、不可能ではないがかなり厳しい。
 
●愛他的行動(p185)
 一般に信じられているのは、大災害が起こり、それまでの社会秩序がなくなれば、すべてがあっという間に混乱に陥り、パニックになって利己主義が蔓延し、何に対しても戦争になる、ということ。
 しかし、現実にはそんなことは起きていない。
 大惨事(通常の活動を中断し、広く共同体に深刻なダメージを与える危険や原因となる出来事)の後、ほとんどの人々は信じられないほど愛他的で平静で落ち着いた行動を示している。「大災害や第二次世界大戦中の爆撃、世界中で起きた洪水や竜巻、地震、暴風雨に直面した人びとの行動を、数十年にわたって社会学的に詳細に研究した結果、そのことがわかった」(レベッカ・ソルニット『災害ユートピア――なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』高月園子訳、亜紀書房、2010)。
 例外は、強制収容所や、戦争でも複雑な状況など。
 
●トランジション(p206)
 2006年、イギリスでトランジション・イニシアチブ運動が生まれた。
 地域レベルでレジリエンスのある小さなシステムを構築し、来るべき経済、社会、生態への衝撃に耐えられるようにする。市民が協力して再生可能エネルギーを生産し、地域での持続可能な食糧システムを構築する。都市農業、パーマカルチャー、海洋危機を監視する北極圏監視評価プログラム、など。
 
(2020/8/31)KG
 
〈この本の詳細〉


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