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交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史
 [自然科学]

交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史  
デイヴィッド・ライク/著 日向やよい/訳
出版社名:NHK出版
出版年月:2018年7月
ISBNコード:978-4-14-081751-3
税込価格:2,750円
頁数・縦:461p・20cm
 
 全世界に拡散する現生人類は、木の枝のように画然と分岐してきたのではなく、さまざまな集団が交雑しながら現在に至っているという説を、古代DNAのゲノムワイドな分析によって立証する。
 
【目次】
第1部 人類の遠い過去の歴史
 第1章 ゲノムが明かすわたしたちの過去
 第2章 ネアンデルタール人との遭遇
 第3章 古代DNAが水門を開く
第2部 祖先のたどった道
 第4章 ゴースト集団
 第5章 現代ヨーロッパの形成
 第6章 インドをつくった衝突
 第7章 アメリカ先住民の祖先を探して
 第8章 ゲノムから見た東アジア人の起源
 第9章 アフリカを人類の歴史に復帰させる
第3部 破壊的なゲノム
 第10章 ゲノムに現れた不平等
 第11章 ゲノムと人種とアイデンティティ
 第12章 古代DNAの将来
 
【著者】
ライク, デイヴィッド (Reich, David)
 ハーヴァード大学医学大学院遺伝学教授。ヒト古代DNA分析における世界的パイオニア。2015年、「ネイチャー」誌で全科学分野における最も重要な10人のひとりに選ばれる(古代DNAデータ解析を産業規模の研究に発展させた功績により)。マックス・プランク進化人類学研究所のスヴァンテ・ペーボのもとで、ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムプロジェクトの中心的役割を担った後に、古代DNAの全ゲノム研究に特化したアメリカで初の研究室をハーヴァード大学で開設、人種の交雑を専門に研究し、歴史の中で人種交雑が中心的役割を担ってきた様々なケースを発見してきた。アメリカ科学振興協会ニューカム・クリーブランド賞、および革新的な研究に送られるダン・デイヴィッド賞(賞金約1億円)をペーボと共に受賞している(ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの交雑の発見により)。マサチューセッツ工科大学とハーヴァード大学の合同研究所であるブロード研究所アソシエイト、および、ハワード・ヒューズ医学研究所研究員。本書が初の著書となる。
 
日向 やよい(ヒムカイ ヤヨイ)
 翻訳家。東北大学医学部薬学科卒業。
 
【抜書】
●71の組み換え(p43)
 卵子ができるときに平均45の新しい組み換えが生じ、精子ができるときにはおよそ26の組み換えが生じる。つまり、1世代につき、合わせて71の新しい組み換えが生じる。
 ヒトのゲノムは、ミトコンドリアDNAを加えた47本のDNA鎖で構成されているので、ある人のゲノムに寄与しているDNA鎖の本数は118(47+71)となる。
 祖父母由来のDNA鎖の本数は、189(47+71+71)。
 10代遡ると、先祖から受け継いだDNA鎖の本数は757前後。先祖の数は1,024人となるので、DNAをまったく受け継いでいない先祖が200~300人いることになる。
 どんな人も、実際の先祖の大多数から一切DNAを受け継いでいないことになる。
 
●ルヴァロワ技法(p62)
 ネアンデルタール人も現生人類も、ルヴァロワ技法にて石器を作った。
 慎重に選んだ石核から薄片を打ち落として、最初の形とはまるで違う形の道具にしていくため、作り手は最終的な道具の形を頭の中に描いたうえで作業を進めなければなならない。
 
●2回の出アフリカ(p66)
 中東では、ネアンデルタール人と現生人類が出会う機会が、少なくとも2回あった。
 1回目は、初期の現生人類が10万年以上前に初めてこの地域に進出して集団を形成した後。7万年前以降にヨーロッパから拡大してきたネアンデルタール人のほうが優勢となった。
 2回目は、現生人類が6~5万年前頃に中東に進出してきたとき。この時は、現生人類がネアンデルタール人を追い出した。
 イスラエルのカルメル山のスフール洞窟、下ガリラヤのカフゼー洞窟……13~10万年前、現生人類の骨。
 カルメル山のケバラ洞窟……6万~4万8,000年前、ネアンデルタール人の骨。
 
●生殖能力の低下(p89)
 二つの集団が十分に長く隔てられていると、交雑で生まれた子の生殖能力が低下する。
 哺乳類では、生殖能力の低下はオスに起こることが多い。低下に関与する遺伝的因子はX染色体に集中している。
 
●ホモ・ハイデルベルゲンシス(p112)
 ドイツのハイデルベルクで見つかった、約60万年前の頭蓋骨を含む人類化石。現生人類とネアンデルタール人と、おそらくデニソワ人との共通祖先と考えられる。アフリカにも棲んでいた。180万年以上前に出アフリカを果たした種とは別種?
 
●チベット人(p114)
 チベット人は、赤血球細胞に変異を起こし、酸素の少ない高地での適応を果たした。
 変異の起こっているDNA区画は、シベリアのデニソワ人のゲノムと密接にマッチしている。アジア本土にいたデニソワ人の一部が高地への適応性を持っていて、チベット人の祖先がデニソワ人との交配を通して獲得したと推測される。
 
●マリタ・ゲノム(p135)
 2013年、シベリア南部中央のマリタ遺蹟から出土した、2万4千年前ごろの少年の骨からゲノムワイドなデータを解析した。
 ライクたちがその存在を予測してた「古代北ユーラシア人」というゴースト集団にぴったりだった。
 アメリカ先住民と、北ヨーロッパ人の共通の祖先。古代北ユーラシア人と古代東アジア人が交雑してアメリカ先住民となった。
 また、ヨーロッパ人の祖先と古代北ユーラシア人が交雑して現在の北ヨーロッパ人となった。
 
●基底部ユーラシア人(p138)
 現代ヨーロッパ人と中東人には、マリタ、ヨーロッパ狩猟採集民、東アジア人の三つの系統が分離する前に分岐した、まったく別のユーラシア人系統由来のDNAが含まれている。
 基底部ユーラシア人……非アフリカ人の諸系統が拡散する過程でもっとも古く分岐したグループ。中東のゴースト集団。子孫に残したゲノムの量の多さで、古代北ユーラシア人と同等の存在。
 
●ヤムナヤ(p167)
 中央ヨーロッパから中国へ8,000kmに渡って草原地帯(ステップ)が広がる。
 5,000年前頃、ステップのヨーロッパ側三分の一の地域(ハンガリーからアルタイ山脈のふもとまで)に、ヤムナヤ文化が登場する。
 ウシとヒツジの牧畜、車輪の発明(荷車の活用)、ウマの導入(ステップのさらに東部で家畜化されていた)。乗馬により、牧畜の効率、生産性が上がった。
 古代版トレーラー・ハウス……車輪と馬が生活様式を変え、村落での定住生活を捨てて移動生活をするようになった。ヤムナヤ文化の残した建造物は、墓のみ(クルガンと呼ばれる巨大な土の塚)。荷車と馬も一緒に埋められていることもある。
 ヤムナヤは、7,000~5,000年前に南方から流入した二つの集団(アルメニアとイラン)から1対1の割合でDNAを受け継いでいる。
 その子孫は、あらゆる方角に拡散した。
 ヤムナヤ文化とともに、ヨーロッパに縄目文土器文化が広まった。両文化には、巨大な埋葬塚の建造、馬の重用や牧畜、副葬品の大きなメイス(斧)に反映されるような暴力を礼賛する極めて男性中心主義、などの類似点がある。遺伝学によって、ステップ地方からの大規模な移動があったことが証明された。
 
●コッシナ(p172)
 20世紀初頭のドイツの考古学者グスタフ・コッシナ、小論「ドイツ東部の国境地方――ドイツ人固有の領土」。
 縄目文土器文化が当時のポーランド、チェコスロバキア、ロシア西部に広がっていたことから、ドイツ人はこれらの地域を自分のものだと主張する権利があり、それは道徳的に正しい、と述べた。この考えに、ナチが飛びついた。
 居住地考古学……考古学上の文化と人々を同義とみなして、物質的な文化の広がりを用いて古代の移住をたどることができるという考え方を初めて提唱。この手法を「居住地考古学」と呼んだ。
 
●鐘状ビーカー文化(p177)
 鐘状ビーカー文化は、4,700年前頃(縄目文土器文化がヨーロッパを席巻した200年後)、イベリア半島から西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、ブリテン島に広まった。
 2017年、200体以上の古代DNAの分析の結果、イベリア半島の鐘状ビーカー文化の個体は、それ以前のこの地の人々と遺伝学的に区別がつかなった。一方、中央ヨーロッパの個体は、イベリア半島の個体とほとんど共通点がなく、ステップ由来のDNAだった。その後、ステップ由来のDNAとともに、中央ヨーロッパからブリテン島へも広まった。
 鐘状文化の最初の拡散は、移住ではなくアイディアの移動が仲立ちとなった。
 幾人かの考古学者は、鐘状ビーカー文化は一種の古代宗教とみなせるのではないかと指摘している。
 
●インド=ヨーロッパ語族(p184)
 インド=ヨーロッパ諸語には、すべて車軸、引き具棒、車輪など荷車に関する共通の凝った語彙がある(初期に分岐したアナトリア語派を除く)。そのため、共通の起源は約6,000年前のヤムナヤと考えられる。
 つまり、インド=ヨーロッパ語族の拡散は、9,000~8,000年前のアナトリア農耕民の拡散が要因ではなかった。ステップの牧畜民が、定住していた農業集団に取って代わるほど大規模な移住をして新しい言語を拡散させた。
 
●鉤十字(p192)
 ナチスは、ヴェーダ神話の特徴を自分たちのものとして取り入れ、『リグ・ヴェーダ』に出てくる言葉にちなんで自分たちをアーリア人と呼び、ヒンドゥー教の幸運のシンボルである鉤十字を盗用した。
 
●アフリカの旧人類(p302)
 西アフリカでは、旧人類の特徴をもつ1万1千年前の骨格が出土している。
 
●人文学から科学へ(p386)
 〔放射性炭素革命によって考古学という分野は大変身を遂げ、1960年代にはもはや人文学の一部門でなくなった。今では科学のれっきとした一分野として、主張の裏づけとなる高水準の証拠が要求されるようになっている。〕
 
【ツッコミ処】
・マンハッタン計画(p41)
 〔わたしたちにあってネアンデルタール人にはない変異の一つひとつの機能を解明するには、原爆を開発したマンハッタン計画なみのプロジェクトが必要だ。このヒト進化生物学のマンハッタン計画には、わたしたち自身も、人類の一員として参加すべきだろう。〕
  ↓
 マンハッタン計画を、科学の進歩に必要なことの比喩として肯定的に捉えているとは! マッドサイエンチスト? それとも、2000年以上におよぶ迫害と苦難の歴史を経てきたアシュケナージ(ユダヤ人)にとって、原爆の被害など取るに足らないという感覚か??
 
(2020/9/8)KG
 
〈この本の詳細〉

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