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「バカ」の研究
 [医学]

「バカ」の研究
 
ジャン=フランソワ・マルミオン/編 ジャン=フランソワ・マルミオン/〔ほか〕著 田中裕子/訳
出版社名:亜紀書房
出版年月:2020年7月
ISBNコード:978-4-7505-1650-9
税込価格:1,760円
頁数・縦:330p・19cm
 
 バカに関する論文(エッセー)とインタビューを23編収録。原書の著者は30人だが、日本の一般読者に分かりづらい記事は掲載しなかった、とのこと。
 
【目次】
・バカについての科学研究……セルジュ・シコッティ(心理学者、ブルターニュ・シュッド大学客員研究者)
・知性が高いバカ……イヴ=アレクサンドル・タルマン(自然科学白紙、心理学者、フリブール・サン・ミシェル学院教授)
・迷信や陰謀を信じるバカ……ブリジット・アクセルラッド(哲学者、心理学者、グルノーブル探究天文観測所所員)
・バカの理論……アーロン・ジェームズ(南カリフォルニア大学哲学教授)
・人間は決して合理的な生き物ではない……ジャン=フランソワ・マルミオン
・認知バイアスとバカ……エヴァ・ドロツダ=サンコウスカ(社会心理学者、パリ・デカルト大学教授)
・二とおりのスピードで思考する……ダニエル・カーネマン(心理学者、プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞)
・なぜ人間は偶然の一致に意味を見いだそうとするのか……ニコラ・ゴーヴリ(心理学者、数学者、リール・ノール・ド・フランス教職教育大学院数学講師)
・バカのことば……パトリック・モロー(モントリオール・アウンツィック・カレッジ文学教授)
・感情的な人間はバカなのか?……アントニオ・ダマシオ(神経科学者、神経学者、心理学者、南カリフォルニア大学教授、同大学脳・創造性研究所所長)
・バカとナルシシズム……ジャン・コトロー(精神科医、リヨン第1大学元講師)
・フェイクニュースを作っているのはメディア自身だ……ライアン・ホリデイ(文筆家、メディア戦略家、コラムニスト、アメリカン・アパレル社元マーケティング部長)
・SNSにおけるバカ……フランソワ・ジョスト(パリ第3《新ソルボンヌ》大学名誉教授)
・インターネットのせいで人間はバカになる?……ハワード・ガードナー(パーバード教育学大学院認知学・教育学教授)
・バカとポスト真実……セバスチャン・ディエゲス(神経心理学者、スイス・フリブール大学認知学・神経科学研究所研究者)
・バカげた決定を回避するには?……クローディ・ベール(人間科学ジャーナリスト)
・なぜバカみたいに食べすぎてしまうのか?……ダン・アリエリー(行動経済学者、MITスローン経営大学院教授)
・動物に対してバカなことをする人間……ローラン・ベーグ(フランス大学研究院シニア会員、アルプ人間科学会館館長)
・子どもとバカ……アリソン・ゴプニック(UCLAバークレー校心理学・哲学教授)
・夢とバカの関係……デルフィーヌ・ウディエット(脳研究者、「動物・脳・行動」チーム脳脊髄研究所研究者)
・バカは自分を賢いと思いこむ……ジャン=クロード・カリエール(著述家、シナリオライター)
・バカなことをした自分を許す……ステイシー・キャラハン(心理学者、トゥールーズ第2ジャン・ジョレス大学臨床心理学・精神病理学教授)
・知識人とバカ……トビ・ナタン(心理学者、パリ第8ヴァンセンヌ・サン・ドニ大学名誉教授、民族精神医学提唱者)
 
【著者】
マルミオン,ジャン=フランソワ (Marmion, Jean-françois)
 フランスの心理学者。心理学専門マガジン『ル・セルクル・プシ』編集長。
 
田中 裕子 (タナカ ユウコ)
 フランス語翻訳者。
 
【抜書】
●ネガティブ・バイアス(p27、シコッティ)
 ヒトは、ポジティブなものより、ネガティブなものにより注意を向け、関心を抱き、重要視する傾向がある。
 
●仮釈放(p42、マルミオン)
 受刑者に仮釈放を認めるかどうかは、判事の満腹度にかかっている。
 判事が昼食や休憩をとった直後は、65%のケースで仮釈放が認められている。その後、時間の経過とともに割合が低下し、しまいにはほぼ0%となる。そこで判事が休憩を取ると、その割合は65%に回復する。
 
●ヒューリスティクス(p74、マルミオン)
 ヒトが日常的に行っている直観的思考。「論理」とは似て非なる思考方法。もっと適当で大雑把。
 カーネマンと、共同研究者のエイモス・トベルスキーによって命名。
 
●代表性ヒューリスティック(p96、ドロツダ=サンコウスカ)
 〈弁護士・エンジニア問題〉
 ある心理学者が、70人のエンジニア、30人の弁護士と面接をし、それぞれの特徴を紙に書き出した。ジャンは、エンジニアだろうか、弁護士だろうか? その確率は?
 「ジャンは39歳の男性。既婚者で、二人の子の父親だ。居住地の自治体の執行委員を務めている。趣味は希少本の蒐集。検定試験マニアで、他人との議論をしながら自分の考えを分かりやすく述べて、相手を説得するのが得意だ」
 殆どの人が、「ジャンは90%の確率で弁護士」と答える。
 これは、「基準値」より「人物描写(ステレオタイプとの類似性=代表性)を優先する認知バイアス。代表性ヒューリスティック。
 このような場合、基準値と個人情報によって判断すべき。
 ・基準値……全体における弁護士の比率(この場合、30%)。
 ・個人情報……ジャンの特徴が弁護士であることを示す可能性。
 設問の人物描写のいずれも、ジャンが弁護士であることを証明していない。
 
●温暖化(p110、カーネマン)
 〔民主主義が機能するのに、国民一人ひとりが完全に合理的になる必要などありません。自分の利益になるほうに投票すればよいだけのことです(これはあくまで一般論で、結果は保証しませんが)。むしろ民主主義は、抽象的で身近に感じられないリスクを扱う時に機能しなくなります。だからこそ、温暖化の問題は民主主義ではなかなか解決できないのです。システム1は実感のない脅威には反応しません。感情に訴えないと人々を行動に駆り立てることはできませんし、脅威が現実味を帯びないと人々の感情は動かせません。こうした問題を解決するには、システム2に訴えるやり方を見つける必要があります。たしかに温暖化の脅威については、今はまだ身近に大きな変化は感じないかもしれませんが、ある時点に達したら後戻りできなくなります。こうした未来の脅威はシステム2でないと実感できません。〕
 
●自己愛性パーソナリティ障害(p151、コトロー)
 自己愛性パーソナリティ障害……自分勝手で、自分を大きく見せたがり、他人から称賛されるのを好む一方で、他人に対する同情心に欠けている。人口の0.8~6%がこの障害を持っている。とりわけインターネット世代以降の若い人たちに多く見られる。
 タイプ1……攻撃的なタイプ。高圧的で、他人を操ったり、利用したり、だましたり、強引に押さえつけようとする。思いやりがない。自己評価が高すぎる。
 タイプ2……気が弱いタイプ。情緒不安定で、鬱気味で、心配性で、嫉妬深い。高すぎる目標を抱いて、完璧主義になりがち。
 タイプ3……ハードワークなタイプ。高圧的で、競争心が強く、目立ちたがりで、人たらしで、カリスマ性があり、権力を手に入れたがる。その一方で、エネルギッシュで、知的で、他人とのコミュニケーションがうまく、自己実現のために努力を惜しまないという長所を併せ持つ。
 
●ダークトライアド(p154、コトロー)
 三大邪悪パーソナリティ特性。
 ナルシシズム(自己愛傾向)、マキャベリズム(権謀術数主義)、サオコパシー(精神病質)。
 
●人生脚本(p136、コトロー)
 人生脚本……自分はこう生きてきた、生きるのだという筋書き。いったんはまってしまうとなかなか抜け出せず、生きている間ずっと同じことを繰り返す。たとえ違う結果を望んでも、いつも同じになってしまう。
 
●ポスト真実(p206、ディエゲス)
 ポスト真実……客観的な真実より、個人的な感情や信条に訴えるほうが、輿論の形成に大きな影響を与えやすい状況(オックスフォード英語辞典)。
 オックスフォード大学出版局によって、2016年の「今年のことば」に選ばれた。
 ポスト真実は、「直観」と「感情」によって形成される「知識」に基づいた信念を抱き、それに従って言動を行う者たちによって支えられている。(p218)
 
●メタルール(p225、ベール)
 メタルール……不測の事態に備えてあらかじめ定めておくルール。万一の場合に適切に対処できる可能性が高くなる。
 1990年代、大韓航空は立て続けに死亡事故を起こしていた。その最大の原因は、「コックピット内での行きすぎた上下関係」。解決策として、以下のようなメタルールを設定。その結果、世界で最も安全な航空会社の一つとなった。
 ・上下関係よりコミュニケーションを重視する。
 ・昇進は実力制とし、年功序列をやめる。
 ・すべての従業員がヒューマンスキルの研修を受ける。
 ・ミスをしても罰しない。
 
●タンパク質の生産量(p255、ベーグ)
 『米国科学アカデミー紀要』に掲載されたある論文で言及。
 牛肉、豚肉、家禽、卵を生産するための飼料の代わりに、同じ農地を使って人間の食用のための野菜を栽培すれば、たんぱく質の生産量が農地1haあたり2~20倍に増える。
 
●前頭前皮質背外側部(p274、ウディエット)
 夢の中では、しばしば「騙されやすいバカ」になる。奇妙なこと、驚くべきこと、あり得ないこと、非現実的なことが起こっても、夢の中では疑問に思わない。
 レム睡眠中は、「前頭前皮質背外側部」が活動していないため。論理的な思考をするのに最も重要な役割を果たすエリア。
 
●悪夢(p275、ウディエット)
 夢は、未来の不安に備える「バーチャル・リアリティ」としても役立っている。試験前に、試験に失敗する夢を見る、など。
 また、私たちの記憶の中のネガティブな感情を分析し、その感情を記憶から取り除いて、重要な情報だけを保管する作業を行っている。不安やトラウマを引き起こすネガティブな記憶の断片を、ニュートラルな状況と組み合わせながら再現することで、その記憶の持つイメージを和らげる。
 この働きを担うのは、「偏桃体」と「前頭前皮質内側部」。過去の記憶の不安要素が夢の中で再現されると、偏桃体が活性化して恐怖の感情を引き起こす。すると今度は、前頭前皮質内側部がこの不安要素を分析し、その不安要素を別のニュートラルな状況と組み合わせて再現させ、それほど怖いものではないと確認させる。
 悪夢……この時、恐怖の感情が強すぎたり、精神状態が弱っていたりすると、本人が目覚めることがある。これが悪夢。悪夢は、睡眠中に脳が感情を分析する作業が失敗したせいで起こる。
 
●哲学教授(p306、ナタン)
 〔大学の哲学教授のほとんどは哲学者ではありません。哲学史を教えているだけです。「プラトンはああ言った、デカルトはこう書いた」としか言えない。「わたしはこう考える」と、自分の意見をきちんと言える者はひとりもいません。そんなことをしたらバカがバレるからです。哲学史は、知性の欠如を隠すのにうってつけの隠れ蓑です。〕
 
(2020/10/3)KG
 
〈この本の詳細〉


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