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知事の真贋
 [社会・政治・時事]

知事の真贋 (文春新書)
 
片山善博/著
出版社名:文藝春秋(文春新書 1284)
出版年月:2020年11月
ISBNコード:978-4-16-661284-0
税込価格:880円
頁数・縦:227p・18cm
 
 コロナ禍の現状を踏まえ、主に都道府県知事の役割を論じた地方自治論。
 鳥取県知事、総務大臣を歴任し、現在は大学教授の地位にある片山氏ならではの論考である。
 
【目次】
第1章 知事たちの虚を突いた感染症
第2章 法的根拠を欠いた知事の自粛要請
第3章 各都道府県知事の閻魔帳
第4章 問われる全国知事会の役割
第5章 東京都政と大阪府政を診る
第6章 ポストコロナ時代の首長と議会
 
【著者】
片山 善博 (カタヤマ ヨシヒロ)
 1951年、岡山県生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)に入省。99年より鳥取県知事(2期)。2007年4月、慶應義塾大学教授。10年9月から11年9月まで総務大臣。同月、慶應義塾大学に復職。17年4月、早稲田大学公共経営大学院教授。
 
【抜書】
●幕末(p49)
 政府が最初に七都府県に緊急事態宣言を出したとき、愛知県は対象にされなかった。「あいちトリエンナーレ2019」で企画された「表現の不自由展・その後」展の問題があったからではないかと言われている。
 政権の人たちは、大村秀章知事が「うちにも出してください」と、政府に陳情に来ると考えたのかもしれない。ところが、大村知事は、「じゃあいいです。自分たちは独自の宣言を出します」と決めた。岐阜県も独自の緊急事態宣言を出した。
 政府の政治家のピント外れの対応能力が明らかになった。現場で責任をもつ知事がクローズアップされ、現場を踏まえた対策や発言で知事が目立ってくる。
〔 そうした姿に幕末を思い出しました。幕府が右往左往してどうしようもない時に、地方の藩の行動が目立ちました。それと同じ現象が今回起きたのではないかと思います。〕
 
●組織法、作用法(p64)
 行政関係法には、組織法と作用法がある。
 組織法……行政機関の権限、所掌事務、構造などを示す。地方自治法では、市町村には首長と議会があり、その組織をどうするべきかが書かれている。
 作用法……地方自治法では、議会が条例を制定して税をどうするとか、住民に影響を及ぼす行為について定める。
 
●逐条解説書(p66)
 コンメンタール。制定された法律について、条文ごとに詳しく意義や要件などを書き込んだ解説書。
 担当課が研究会などという架空の組織の名前を名乗り、条文ごとの解説を書くことがよくある。職員は割り振られたパートを分担して書くだけで、査読などもない。だいたいは制定から1年以上経過してから書かれるので、制定時の職員が移動してしまい、うっかり間違った解釈がまかり通る、ということもある。
 
●持続化給付金(p156)
 政府の持続化給付金は、事業の継続が厳しくなった中小法人に200万円、個人事業者に100万円を支給する制度だが、事務局を担う団体へ769億円という巨額の委託費が流れた。実体がないトンネル会社で、委託費の97%は再委託先の大手広告会社に流れた。
〔 いかなる理由からか、持続化給付金は実体がないと言われるような団体に給付事務が委託されましたが、本当は各地の商工会議所や商工会に事務を委託すべきでした。商工会議所や商会は地元の経済状況や各事業者の実情に通じているので、経営指導などに結びつけることができたはずです。〕
 
●知事の腕の見せどころ(p162)
〔 ローカルエネルギーの開発で地域の産業が生まれている例は既にあります。岡山県真庭市では市民の使う電力は自前のバイオマス発電で賄えるようになっています。
 地方ではほかにも様々な取り組みがありますが、総じてうまくいっている地域は国が音頭を取ったからではなく、地域の内発的な力が芽生えたものです。今後、そうした力をどうやって伸ばしていくか。
 ポストコロナをにらんだ地域政策は、国のお仕着せではなく、地域自身の考える力と実践によって形作ることが重要だと思います。それは各知事の腕の見せどころでもあるはずです。〕
 
●都知事の資質(p169)
 都政における最終決定者は、議案を出す都知事ではなく、議決する都議会。
〔 本来、知事に求められているのは、大組織の統括力とその時々の問題で組織に力を発揮させる能力です。見栄えがいいだけで、嘘くさい公約を云々するよりも、そうした組織経営の資質を持っているかどうかで選ぶ方が気が利いていると思います。それには候補者がそれまでどんなことをしてきたか、どんな人なのかを知ることが重要です。〕
 
●都立高校の図書館(p176)
〔 また、都立高校の学校図書館の司書については、正規職員の司書の配置をやめ、指定管理者制度による学校図書館の外注化が進められています。このため、正規の司書から、管理委託を受けた事業者が採用した非正規雇用の委託司書に入れ代わりつつあります。
 ちなみに、受託事業者は、清掃会社のような教育や図書館業務に直接関係のない企業が多いようです。
 そうした結果、学校図書館がどんなふうに変わるのか、図書館のあり方に強い関心を持つ者の一人として、とても気がかりです。高校時代の読書がどれぐらい大切か。そのことを思いやった時、外部委託によってもっぱら司書の人件費を削ることだけに目が行っている今の都政には、いささか思慮が欠けているように思われます。
 ただ、これは小池知事が始めたというわけではなく、石原慎太郎さんが知事だった時からずっと続いている方針です。〕
 
●経済対策(p160)
 「ポストコロナ」の経済対策としてやるべきなのは、GoToキャンペーンではない。社会として足りないところへの投資。
 例えば、リモートワーク推進のために、中小企業のIT化の支援。
 自然エネルギーや、地産地消のエネルギー導入に対する支援。
 
●東京市(p179)
 東京都は、1943年に、旧東京府と旧東京市が合併してできた。
 東京市が持っていた大都市行政のうち、一体的に処理すべきものは都に移管し、身近なものは特別区に移した。地下鉄やバスなどの都市交通、消防、中央卸売市場、上下水道などは都に移管。小中学校、一般廃棄物の処理などは特別区。
 国策である戦争を効率的に遂行するため、中央政府が帝都を押さえておきたかったから? 東京市長は実質的に市会で選出されていたが、府知事は官選だった。都のトップは官選の「東京都長官」になった。
 都知事は、中央卸売市場、都市交通、オリンピックなど、本来「市」の仕事に追われすぎている。東京市を復活すれば、都知事の仕事が軽減され、三多摩格差も解消される?
 
●関西広域連合(p190)
 2010年に、関西エリアの自治体が集まって設立。現在、八府県(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県)と四市(京都市、大阪市、堺市、神戸市)が参加。
 片山が鳥取県知事だった時の提案がきっかけとなった。鳥取県まで含めた関西版EUのような組織が作れないかと、大阪府知事と大阪市長に持ち掛けた。その後、2008年に大阪府知事になった橋下徹が慶応大学に片山を訪ねた時にその話をし、実現した。
 
●地方議会(p201)
 「地方議会は何をやっているか分からない」とよく言われる。
〔 もっともだと思います。今の議員たちに「決めること」への関心が薄いからです。「決めたこと」にも関心がありません。その証拠に、議案は一つ一つ丁寧に決めていかなければならないのに、会期の最終日に一括採決するなどし、淡々と閉会しています。
 その代りに一生懸命なのは、「質問」という名の執行部とのやり取りです。これは現状では個人のスタンドプレーのようなものです。〕
 
●不要不急(p203)
〔 執行部にお尋ねするだけという機能不全の議会に陥っているため、新型コロナウイルス感染症が流行すると、不思議な現象が起きました。
「こんな時に質問をしては、執行部に迷惑をかける」と、会期や質問時間を短くする議会が相次いだのです。中には、そもそも議会を開かなかったところもありました。議会自身が「いつも意味のない質問ばかりしている」と自覚しているのかもしれません。図らずも、自ら「議会は不要不急」だと認めてしまったのです。〕
 
●共同処理場(p225)
〔 私には鳥取県知事在任中、公言して憚らなかったことがあります。それは、議会は責任の共同処理場だということです。知事には県政を遂行する上で日々決めなければならないことが山ほどあります。決めたことが正しければいいのですが、所詮人間が決めることですから間違いもあります。間違いを少なくするには、知事自身やその周りの一部の人だけで決めるのではなく、できるだけ多くの人の目を通して点検してもらうに越したことはありません。私にとっては、その点検してもらう場が県議会でした。県議会とは、県政を間違った方向に進めないように、施策をより良いものに練り上げていくための、知事と議員との共同作業の場だと認識していました。〕
 
(2021/1/27)KG
 
〈この本の詳細〉

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