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うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間
 [医学]

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (文春文庫)
 
先崎学/著
出版社名:文藝春秋
出版年月:2018年7月
ISBNコード:978-4-16-390893-9
税込価格:1,375円
頁数・縦:190p・19cm
※書影は文庫版
 ■
 NHKドラマ「うつ病九段」(2020年12月20日放送、BSプレミアム)の原作エッセー。
 鬱病の実体が赤裸々にしかし悲壮感なく描かれていて、非常に興味深い。鬱病当時の出来事、感じたこと、考えたことをちゃんと覚えていることに驚嘆した。一流の将棋指しの記憶力と感性は並大抵のものではない。
 
【著者】
先崎 学 (センザキ マナブ)
 1970年、青森県生まれ。1981年、小学五年のときに米長邦雄永世棋聖門下で奨励会入会。1987年四段になりプロデビュー。1991年、第四〇回NHK杯戦で同い年の羽生善治(現竜王)を準決勝で破り棋戦初優勝。棋戦優勝二回。A級在位二期。2014年九段に。2017年7月にうつ病を発症し、慶応大学病院に入院。8月に日本将棋連盟を通して休場を発表した。そして一年の闘病を経て2018年6月、順位戦で復帰を果たす。
 
【抜書】
●死にたがる病気(p10)
 〔頭の中には、人間が考える最も暗いこと、そう、死のイメージが駆け巡る。私の場合、高いところから飛び降りるとか、電車に飛び込むなどのイメージがよく浮かんだ。つまるところ、うつ病とは死にたがる病気であるという。まさにその通りであった。〕
 
●小銭(p36)
 7月ごろ、入院中の行動。外出は許されていた。1回の外出は1時間まで。
〔 お金といえば、ローソンやプロントで、私は千円札や小銭でいちいち払っていた。日頃は全部スイカで払っていたのだが、入院中は小銭入れをゴソゴソやって一円まで探すのが妙に楽しかったのである。お金を数えていると妙に落ち着くのだった。〕
 
●みんな待っています(p40)
〔 もっとも嬉しいのは、みんな待っていますという一言だった。うつの人の見舞いに行くときはこの一言で充分である。
 うつの人間は自分なんて誰にも愛されていないのだと思うので、みんなあなたが好きなんだというようなことをいわれるのが、たまらなく嬉しいのである。あとはできれば小さな声ではなし、暗い人間を元気づけようと明るいことをはなさないようにすれば完璧である。〕
 
●ヒマ(p65)
 退院後。
〔 翌日妻と一緒に書類の整理をしたり、お見舞いに来てくれた人たちに報告のラインをしたりして過ごした。私の前には膨大な時間があったが、ヒマだとはまったく考えられなかった。ヒマだ、あーどうしよう、という考えはうつの人間にはないのである。焦りとも違う。焦りは人の心が生み出すものだが、ヒマを感じないというのは、うつの症状そのものといってもよいのではないだろうか。〕
 
●詰将棋(p85)
〔 うつ病は脳の病気だ。だから自分は七手詰めもできないが、病気が治れば必ず前の自分に戻る。詰将棋だって詰む――。
 はじめは単純にそう考えた。だが、そのうちに脳が戻らなかったら、将棋が弱くなったままになるのかと思って、コワくなってきた。なんとしてもうつを治し、脳を元に戻す必要がある。今できることは詰将棋を解くよりなかった。〕
 
●過去との比較(p116)
〔 体験からいうと、回復しだしてからは健康だったころの自分と比べるのではなく、半月前、一カ月前と、今より悪かった時期と比べたほうが精神的によいと思う。うつ病はよくなっていると実感することがもっとも大切なのである。まあ人間の性としてどうしても短期的に考えてしまうのだが。〕
 
●感性(p168)
〔 よく、作家や音楽家、他にもいろいろあるがいわゆる感性を重んじる職業にうつ病が多いといわれる。もちろん統計はないが、俗っぽくそうした見方があるのはたしかだろう。しかし、棋士という職業でうつ病をやった者からすると、この感性が戻らなければその人間にとって「治った」ことにはなりえず、人によってはそのことでさらにうつになったりするだろう。医者と当人の間では完治の基準が違い、その結果うつの期間が長くなり(と、当人は感じる)世の中に目立つのではないかと。
 私が他の職種に就いていたら、十一月にすこしずつ現場に復帰して、疲れやすいにしても仕事をして、一月には完全に復帰できたのかもしれない。だが棋士では無理だ。感性が戻らず疲れやすい状態では勝負を戦えない。〕
 
●本物のうつ病(p177)
 優秀な精神科医である兄の言葉。
 「学が体験したことをそのまま書けばいい、本物のうつ病のことをきちんと書いた本というのは実は少ないんだ。うつっぽい、とか軽いうつの人が書いたものは多い。でも本物のうつ病というのは、まったく違うものなんだ。ごっちゃになっている。うつ病は辛い病気だが死ななければ必ず治るんだ」
 
【ツッコミ処】
・最悪期(p184)
〔 うつ病はさまざまな局面がありそれぞれ苦労が違う。最悪期はただ辛いだけだし、回復期は不安の波との闘いで、それを超えると今度は社会復帰に焦ることになる。〕
  ↓
 「最悪期」とあるが、これまでは主に「極悪期」と書いていたような……。たとえば、
〔 その時の私に分かるすべもなかったが、私はうつ病の極悪期から回復期へと移ろうとしていた。その後にはいずれ現役棋士として復帰しなければならない。だが、その時の私は将棋のことなどどうでもよかった。なんでもいいから頭の中の重しを取りたかった。〕(p64)
 多分、同じ意味だと思う。
 
(2021/1/24)KG
 
〈この本の詳細〉

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