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世界の「住所」の物語 通りに刻まれた起源・政治・人種・階層の歴史
 [歴史・地理・民俗]

世界の「住所」の物語:通りに刻まれた起源・政治・人種・階層の歴史
 
ディアドラ・マスク/著 神谷栞里/訳
出版社名:原書房
出版年月:2020年9月
ISBNコード:978-4-562-05791-7
税込価格:2,970円
頁数・縦:357p, 26p・20cm
 
 人々は、なぜ住所を必要とするのか。住所は、どのような規則によって命名されるのか。
 世界中の住所に関する蘊蓄を披露しながら、住所の役割や歴史を語る。発展途上国ならいざ知らず、いまだに「住所」のない地区が米国にもあるそうだ。ウエスト・ヴァージニア州マクドウェル郡。たかが住所、されど住所なのである。
 
【目次】
発展 
 第1章 コルカタ―住所はスラム街に変革をもたらすか
 第2章 ハイチ―住所は疫病を防げるか
起源
 第3章 ローマ―古代ローマ人は何を頼りに移動していたのか
 第4章 ロンドン―通りの名称の由来は何か
 第5章 ウィーン―家屋番号は権力の象徴か
 第6章 フィラデルフィア―アメリカ人はなぜ番号名の通りを好むのか
 第7章 日本と韓国―通りに名称は必要か
政治
 第8章 イラン―通りの名称はなぜ革命家を信奉するのか
 第9章 ベルリン―ナチス時代の通りの名称は「過去の克服」について何を語るのか
人種
 第10章 フロリダ州ハリウッド―南部連合の通りの名称は歴史の真実を語るのか
 第11章 セントルイス―マーティン・ルーサー・キング・ジュニア通りがアメリカの人種問題について語ること
 第12章 南アフリカ共和国―南アフリカの道路標識は誰のものか
階級と地位
 第13章 マンハッタン―通りの名称の持つ価値はどれほどか
 第14章 ホームレス生活―住所不定でどのように生きるのか
 結び 未来―住所は滅亡に向かっているのか
 
【著者】
マスク,ディアドラ (Mask, Deirdre)
 作家。ノースカロライナ州出身、ロンドン在住。『ハーバード・ロー・レビュー』の編集者を経て、3年間弁護士や連邦司法事務員として働いた後、アイルランド国立大学で修士課程修了。ハーバード大学でライティング、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスで社会科学の教鞭を執った。NYタイムズ、アトランティック、ガーディアンなどに通りの名称に関する記事を寄稿。
 
【抜書】
●地図のない地域(p71)
〔 問題は患者の居所がわからないことだった。地震発生前も、ハイチの詳しい地図は入手困難だった。それはハイチだけに言えることではない。世界のおよそ七〇パーセントがまだ詳細な地図を持たず、そこには一〇〇万人以上の人口を抱える都市も含まれている。意外なことではないが、そうした場所は地球上で最も貧しい地域となる。科学者マウリシオ・ロッチャ・エ・シルヴァは、ブラジルにおける蛇咬傷の統計値を訊かれたとき、そんなものはないと答えた。「蛇がいるところに統計値はなく、統計値があるところに蛇はいない」同じく、疫病が発生するところに地図がない、ということが多々ある。〕
 
●古代ローマ(p84)
 最盛期のローマの人口は100万人。そのほとんどが市の中心から約3km以内に住んでいた。
 上流階級の人々は広々とした一軒家に住んでいたが、市民の多くは寝るのがやっとの広さの集合住宅に住んでいた。火災の危険があったため、家屋内での煮炊きは鞭打ちの刑。屋外で食事をした。おそらく道端の屋台を活用。一般市民は、通りをキッチンや居間やオフィスとして代用せざるを得なかったと推測される。
 
●マンナ・ハッタ(p147)
 マンハッタンは昔、マンナ・ハッタと呼ばれる緑豊かな島だった。レナペ族の言葉でおそらく「丘の多い島」という意味。クロクマやガラガラヘビ、ピューマ、オジロジカなどがうろついていた。
 
●ペンシルヴェニア(p158)
 ペンシルヴェニアの都市計画は、グリッドプランだった。
 ウィリアム・ペンは、北から南に走る通りに番号名を付けた。セカンド・ストリート、サード・ストリート、……。
 東西を走る通りを、「アメリカで自然に育つもの」にちなんで命名した。チェリー・ストリート、チェスナット・ストリート、マルベリー・ストリート、……。
 
●罫線と枡(p174)
 都市デザインの専門家であるバリー・シェルトンは、西洋と日本の住所の付け方の違いについて考察した。それは、小学生が文字を学習するときのノートに現れている。
 西洋人は、罫線の入ったノートで文字の練習をする。小文字用に補助線も引いてある。 ⇒ 線である通りに名前を付けたがる。
 日本では、マス目のあるノートで文字の書き方を練習する。 ⇒ 街区に名前を付ける。
 
●クークターヨレ語(p177)
 オーストラリア北部のポーンプラアーというコミュニティに住むアボリジニには、「右」「左」という語彙がない。彼らのクークターヨレ語では、東西南北を使って場所を説明する。
 「あなたの南東側の足に蟻が這っているよ」「茶碗をもう少し北北西に置いてくれる?」といった具合。
 彼らはそうして注意力を訓練した結果、通常レベルを超えるナビゲーション力を身につけた。5歳児に「北はどちらかわかる?」と訊いてみると、すぐに正しい方向を指した。(認知学者のレラ・ボロディツキーの実験)
 一連の写真を順番通りに見せて、その物語を説明した。たとえば、男性が年老いていく様子、食べているバナナが減っていく過程、など。そして写真をシャッフルし、実験の被験者に流れどおりに写真を並べてもらった。英語話者は左から右に、ヘブライ語話者は右から左に並べた。クークターヨレ語話者は、東から西に向かう順番で写真を並べた。つまり、自分が向いている方向によって並べ方が変わる。南向きなら左から右へ、北向きなら右から左へ。
 
●FAX(p172)
 〔通りに名前がないと道案内が困難だ。それは日本人にとってもである。道に迷った人のために、東京にはあちこちに交番があり、警官が詳しい地図や案内図を使って道案内してくれる。世界ではFAX機はずいぶん前に廃れたが、日本では地図を送るのに便利だという理由でまだ使われている。〕
 
●韓国の住所システム(p180)
 韓国では、2011年に政府が住所システムを変更すると発表した。欧米式の通りの名称と家屋番号を採用することになった。
 それまでの66年間は、日本の区画式住所システムを使っていた。日本の統治時代の遺産。
 
●ワシントンDC(p201)
 ワシントンDCでは、東西に走る通りには番号が付けられた。
 南北を走る通りにはアルファベットが付けられた。「W」までくると、次は新しいパターンで「A」から始まる。たとえば、Adams、Bryantのように2音節の単語がつく。その次は3音節。Allison、Buchanan、……。
 グリッドを横切る斜めのアヴェニューには、州の名前が付けられた(当時は15州)。最も長い3本のアヴェニューには、当時最も大きかった州「マサチューセッツ」「ペンシルヴェニア」「ヴァージニア」の名前が付けられた。
 現在、ワシントンDCの通りの名称は、すべての州名を網羅している。
 
(2021/3/13)KG
 
〈この本の詳細〉
 

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