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「色のふしぎ」と不思議な社会 2020年代の「色覚」原論
 [医学]

「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)
 
川端裕人/著
出版社名:筑摩書房
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-480-86091-0
税込価格:2,090円
頁数・縦:348p・19cm
 
 小学生の時に色覚異常と診断された著者が、ヒトの目が「物の色」を感じる仕組みと社会的な偏見を解明した書。
 ヒトの40%は、色覚異常である……。そうなると、これは「異常」というより「多様性」と言うしかない。ヒトの目は、まだまだ進化の途上にあり、その機能は固定されていない、ということか? あるいは、個々人の見え方の差は致命的な問題ではなく、それぞれの条件の下で頑張って生き抜いてきた、だから「多様性」としていまだに残っている、ということなのではないだろうか。つまり、淘汰されずに来た理由がある。
 
【目次】
先天色覚異常ってなんだろう
第1部 “今”を知り、古きを温ねる
 21世紀の眼科のリアリティ
 20世紀の当事者と社会のリアリティ
第2部 21世紀の色覚のサイエンス
 色覚の進化と遺伝
 目に入った光が色になるまで
第3部 色覚の医学と科学をめぐって
 多様な、そして、連続したもの
 誰が誰をあぶり出すのか―色覚スクリーニングをめぐって
残響を鎮める、新しい物語を始める
補遺 ヒトの4割は「隠れ色覚異常」という話
 
【著者】
川端 裕人 (カワバタ ヒロト)
 1964年兵庫県生まれ。千葉県育ち。文筆家。東京大学教養学部卒業。ノンフィクションの著作として、科学ジャーナリスト賞、講談社科学出版賞を受賞した『我々はなぜ我々だけなのか』(講談社ブルーバックス)のほか、小説がある。
 
【抜書】
●1色覚、2色覚(p34)
 標準的なヒトの錐体細胞は、S、M、Lの3種類。
 錐体の吸光分布を決めるのは、オプシンと呼ばれる視物質(たんぱく質)で、L錐体のオプシンとM錐体のオプシンの遺伝子は、X染色体上の「長腕(Xp28)」と呼ばれる部分にあり、隣に位置している。非常によく似た遺伝子が隣り合っているので、途中で交叉することで「非相同組み換え」(不等交叉)が起きやすい。
 MかLを欠いている状態を2色覚という。古い呼称で「色盲」。Dichromacy。
 MがM'に、LがL'になっている状態を異常3色覚という。「色弱」。Anomalous Trichromacy。SM'L、SML'、SMM'、SM'L'、SL'L'。
 1型色覚(Protan)……L錐体が欠けていたり、標準的なものとずれていたりするタイプ。
 2型色覚(Deutan)……M錐体が欠けていたり、標準的なものとずれていたりするタイプ。
 3型色覚(Tritan)……S錐体が欠けていたり、標準的なものとずれていたりするタイプ。先天性は少ない。
 
●脊椎動物の視覚オプシンのレパートリー(p115)
     赤型 緑型 青型  紫外線型 桿体型
 魚 類 ◎  ◎  ◎   ◎    ◎
 両生類 〇  ?  〇   〇    〇
 爬虫類 〇  〇  〇   〇    〇
 鳥 類 〇  〇  〇   〇    〇
 哺乳類 〇  ✕  ✕   〇    〇
 霊長類 ◎  ✕  ✕   〇    〇
    (L,M)        (S)
 ◎は、サブタイプあり。遺伝子重複、あるいは対立遺伝子多型。
 
●40%(p120)
 ヒトには、MオプシンとLオプシンの遺伝子の前半と後半が組み換わったL-M融合オプシンをもった変異3色型の個体が40%ほど存在する。
 日本人の場合、男性の5%、女性の0.2%が先天色覚異常と言われている。
 
●輪郭(p127)
 霊長類の赤-緑の色覚は、物の形を見る神経回路をそのまま使っていて、物の輪郭を見る機能を犠牲にしている。
 サルに丸いパターンを選ぶと餌がもらえるという訓練をして、それを緑だけ、赤だけで訓練を重ねていって学習をした後に、時々モザイクになっているやつを混ぜる実験。3色型色覚のサルは、餌が欲しくてすぐに手を出し、正答率が偶然レベルにまで落ちる。2色覚のサルは惑わされない。
 
●コピー数多型(p141)
 一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)……ゲノムの塩基配列30億個の中で1,000か所に1か所くらい、つまり数百万か所は、標準的なものと入れ替わっている。
 コピー数多型(CNV: Copy Number Variation)……遺伝子のコピー数が違う。
 
●多型、変異(p143)
 頻度が1%より高いものは「多型」(polymorphism)と呼び、それより低いものを「変異」(mutation)と呼ぶ。
 頻度が高いものは既に定着した「多型」であり、本来持っている多様性の一部と考える。
 
●青色(p153)
 水晶体は加齢とともに徐々に着色していって、青みを生じさせる短波長の光を通しにくくなる。
 白内障などの手術で水晶体を人工レンズに入れ替えると、空はこんなに青かったのかと驚く人が多い。
 
●4色覚(p155)
 先天異常3色覚の男性の母親、つまり「保因者」たちは、標準的なLとMだけでなく、さらにL'あるいはM'の視物質の遺伝子を持っている。それらの遺伝子が実際に網膜上で発現すると、4色覚となる。
 実際に、3色覚よりも細かく色弁別する人たちがいるという実験結果が出ている。
 
●石原表(p193)
 学校の健診や町の医院などで、色覚検査の際に使われるカード。
 1916年(大正5年)、大日本帝国陸軍の軍医だった石原忍が「色覚検査表」を出版。まずは徴兵検査に使われ、後に学校健診にも取り入れられ、様々なバージョンが流通した。
 2013年に「石原色覚検査表Ⅱ国際版38表」が発売される。
 石原表は、世界的に最も普及し、もっとも信頼される色覚検査表だとされる。
 「第二次世界大戦で日本が敵国だったときにも、パイロット候補生の色覚検査には石原表を使っていた」(2017年の国際色覚学会で出会ったアメリカ空軍関係者の話)。
 
●アノマロスコープ(p200)
 日本眼科医会が推奨する検査手順で、アノマロスコープ検査が「確定診断」の手段とされる。
 単眼の顕微鏡のような接眼部から片方の目で覗き込み、「緑と赤をまぜて、黄色を作る」。
 しかし、町の医院ばかりでなく、大学病院のような医療機関でも色覚外来がない場合は所持していないところがほとんど。
 
●感度、特異度(p258)
 感度(sensitivity)……その検査が「病気の人を病気と判定する割合」。感度が低いと、偽陰性が多く出てしまう。
 特異度(specificity)……病気でない人(健康な人)を病気でないと判定する割合。特異度が低いと、偽陽性が多く出てしまう。
 
(2021/4/4)KG
 
〈この本の詳細〉

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