貴金属の知られざる科学
[自然科学]
齋藤勝裕/著
出版社名:シーアンドアール研究所(SUPERサイエンス)
出版年月:2020年1月
ISBNコード:978-4-86354-296-9
税込価格:2,002円
頁数・縦:239p・19cm
■
貴金属の条件は、①美しい、②稀少である、③変化しない、ということらしい。この三つの条件をめぐる貴金属の薀蓄を語る。
なお、貴金属には、宝飾的貴金属のほかに、希少性、変化しないという特性から「化学的金属」という分類もある。こちらについてもちょこっと触れている。
【目次】
1 貴金属の種類と性質
2 貴金属の産出と歴史
3 金の性質
4 金と宝飾
5 銀の性質と宝飾
6 白金の性質と宝飾
7 化学的貴金属の種類と性質
【著者】
齋藤 勝裕 (サイトウ カツヒロ)
名古屋工業大学名誉教授、愛知学院大学客員教授。専門は有機化学から物理化学にわたる。
【抜書】
●スターリングシルバー、ブリタニアンシルバー(p20)
スターリングシルバー……SV925の合金。宝飾品や銀食器などの通常の銀製品に用いられる。
コインシルバー……SV900。
ブリタニアンシルバー……SV950。一時、イギリスがスターリングシルバーから銀貨の品位を高めるために作った。この割合では柔らかすぎるために、もとのSV925に戻された。(p182)
SV925とは、銀の含有率(パーミリ:千分率)を示す。925/1000、つまり92.5%ということ。プラチナは、PT1000(プラチナ100%)のように示す。
金の含有率は、K(カラット)で示し、24Kが金100%となる。18Kは18/24=0.75となる。
●14K(p21)
金は柔らかい金属なので、合金によって硬度を増している。
万年筆のペン先の大半が14Kなのは、これが最適の硬さだから。
●ブラス(p23)
真鍮、黄銅。銅Cuと亜鉛Znの合金。金色になる。
「ブラスバンド」は、ブラスを使った楽器を主に使うことからの名称。
●貴金属8種(p26)
貴金属とは、周期表の第5、第6周期の8〜11族に属する8種類の金属。
8族 9族 10族 11族
第5周期: ルテニウムRu ロジウムRh パラジウムPd 銀Ag
第6周期: オスミウムOs イリジウムIr プラチナPt 金Au
なお、化学的性質が安定していることを考慮して、銅Cu(第4周期11族)と水銀Hg(第6周期12族)を化学的貴金属に含めることもある。
●都市鉱山(p60)
1トンの金鉱石から採取できる金の量は5gほど。
携帯電話1トンからは、150gもの金が回収できる。
現在、金の年間需要のうち約三分の一が市場からのリサイクルによってまかなわれている。
●海水(p71)
世界中の海水には、500万〜50億トンもの金が溶けていると推計されている。
人類が採掘してきた金の総量は約18万トン。オリンピックの公式競技用プール3.8杯分。地殻に存在する可採埋蔵量は約5万トン。(p52)
金が溶ける物質は、王水(硝酸HNO3と塩酸HClの1:3混合物)、ヨードチンキ、など。
●金合金(p115)
金と割り金の組み合わせと比率によって、金合金の色が変わる。
イエローゴールド……金ー銀ー銅
ピンクゴールド……金ー銀ー銅ーパラジウム
グリーンゴールド……金ー銀。青金。日本画の絵の具になる。
レッドゴールド……金ー銅。アカキン。日本画の絵の具になる。
パープルゴールド……金ーアルミニウム
ブルーゴールド……金ーインジウム、金ーガリウム
ホワイトゴールド……金ーパラジウムー銀(ソフト・ホワイトゴールド)、金ーニッケルー亜鉛ー銀
ブラック・ゴールド……ホワイトゴールドの表面をメッキや着色、酸化等で黒色化
●奈良の大仏と水銀(p117)
752年に建造された奈良の大仏は、ブロンズの上に金メッキを施した。
水銀50トンに金9トンを溶かして金アマルガムを作り、全身に塗る。その後、内部から炭火を当てて銅を加熱すると、沸点の低い(357℃)水銀が揮発して金だけが残る。残った金をヘラか何かで擦って平らに磨けば完成。
しかし、大仏から揮発した水銀は、水銀蒸気となって奈良盆地に蔓延。雨に溶けて地中に入り、地下水を汚染したはず。
奈良がわずか80年ほどで長岡に遷都したのは、水銀汚染も理由の一つか?
●不動態(p126)
ステンレスやアルマイトが錆びないのは、すでに「錆びている」から。
この錆が非常に硬くて緻密なので、内部をしっかり守ってそれ以上錆が内部に進行するのを防ぐ。不動態。
アルマイトの成分は酸化アルミニウムAl2O3。
ステンレスは、鉄に18%のクロムCrと8%のニッケルNiが含まれており、クロムとニッケルの酸化物が不動態となっている。
●錯体(p131)
金属イオンが他のイオンあるいは分子と反応してできた複合分子。錯イオン、錯塩ともいう。
●仁丹(p184)
銀箔は、宝飾用のほか、料理や菓子の飾り付けにも用いられる。
仁丹は、銀箔でコーティングされている。
●度量衡原器(p192)
プラチナは、科学的に極めて安定で酸化されにくいので、度量衡原器(キログラム原器、メートル原器)に利用されている。
キログラム原器は、プラチナ約90%、イリジウム約10%。100年以上前に作られた。2003年に重さを計ったところ、数十マイクログラム減少していた。(p227)
また、白金抵抗温度計として、13.81〜1234.93K(ケルビン:絶対温度の単位。0℃=273K)までの広い範囲の標準温度計として利用されている。電気抵抗と温度との間に直線関係があるので、電気抵抗を測定すれば温度がわかる。
プラチナの比重21.45(全元素中2番め)。融点1772℃、沸点3830℃は、貴金属中最大。
●ピューター(p236)
スズSnと鉛PbあるいはアンチモンSbの合金。
ヨーロッパでは、昔から食器の材料として使われてきた。かつては鉛を使っていたが、鉛の有害性が明らかとなってからは、93%のスズと7%のアンチモンの合金が標準となった。
米国のフィギュアスケート選手権のメダルは、1位金、2位銀、3位銅、4位ピューターとなっている。
(2021/4/24)KG
〈この本の詳細〉
コメント 0