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デジタルで変わる子どもたち 学習・言語能力の現在と未来
 [教育・学参]

デジタルで変わる子どもたち ――学習・言語能力の現在と未来 (ちくま新書)
 
バトラー後藤裕子/著
出版社名:筑摩書房(ちくま新書 1571)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-480-07396-9
税込価格:1,034円
頁数・縦:305, 13p・18cm
 
 デジタル世代、すなわち「2000年以降に生まれ、デジタル・テクノロジーとともに育ってきた子どもたち・若者たち」(p.14)は、その前の世代と認知能力や言語能力に違いがあるのだろうか? そんな疑問に答えるべく、デジタル世代の言語能力の特徴をあぶりだし、さまざま視点からデジタル時代に求められる言語能力を探る。
 既存の媒体と比較して、デジタル・テクノロジーには良い面も悪い面もあり、その点を認識しつつ、学習に生かしていく姿勢が大切だ、ということ。
 ところで、アメリカではTwitterを授業で利用しているという記述があったが、どのようにTwitterを活用しているのであろうか。ちょっと気になった。
 
【目次】
第1章 デジタル世代の子どもたち
第2章 動画・テレビは乳幼児にどう影響するのか?―マルチメディアと言語習得
第3章 デジタルと紙の違いは何?―マルチメディアと読解力
第4章 SNSのやりすぎは教科書を読めなくする?
第5章 デジタル・ゲームは時間の無駄か?
第6章 AIは言語学習の助けになるか?
第7章 デジタル時代の言語能力
 
【著者】
バトラー後藤 裕子 (バトラーゴトウ ユウコ)
 ペンシルバニア大学教育学大学院言語教育学部教授。同校Teaching English to Speakers of Other Languages(TESOL)プログラムディレクター。専門は子どもの第二言語習得・言語教育および言語アセスメント。東京大学文学部卒業後、スタンフォード大学教育学大学院で博士号(Ph.D.教育心理学)を取得。スタンフォード大学教育研究センターのリサーチ・フェローを経て、現職。
 
【抜書】
●ビデオ不全(p80)
 2歳以下の乳幼児は、テレビ/ビデオからの学習では現実の世界で同じことを学ぶのに比べて、学びが劣るということが、しばしば指摘されてきた。video deficit。
 
●オンセット、ライム(p108)
 オンセット……音節内の母音の前にくる子音。bigのb、pigのp。
 ライム……音節を除いた音節の残りの部分。bigのi/g、pigのi/g。
 
●正書深度(p110)
 日本語の仮名表記は、音節と文字が一対一で対応しているのが基本。例外は、拗音、促音、撥音、長音。
 基本的には正書情報と音韻情報がかなり高い割合で一致している。日本語の仮名表記は、正書深度(音と表記の不一致の度合い)が浅い表記(shallow orthography)だと言われる。
 英語は、音と綴りの関係性が複雑なので、深い表記(deep orthography)と言われる。
 英語は、二重母音も含めて43の音素を持つ。アルファベットは26文字なので、圧倒的に文字の数が少ない。
 
●紙対デジタル(p124)
 読解に関して、基本的に紙媒体の読みとデジタル上の読みの違いはないが、細かく見ていくと、多少の差がある。
 物語……フィクションでは、差が見られない。
 説明文……内容を正確に把握することを要求される読みに関しては、紙に軍配が上がる。
 テクストの長さ……英語の場合、500語以下の短文では違いが出ない。500語以上になると、紙で読んだほうが読解力が高まる。スクロールという行為が、読解にマイナスに働くらしい。
 要点把握……ざっくりと要点を理解するタスクでは、差がない。細部の情報を記憶したり、推測しながら読む力は、紙媒体のほうがパフォーマンスが良い。
 過大評価……自分の読みの力を過大評価する度合いは、デジタルのほうが高い。つまり、紙媒体での読みのほうが、より正確に自分の読みの出来具合を予測できている。
 時間……テキストだけの場合は、紙媒体の読みほうが時間がかかる。グラフやイラストなど他の視覚情報が付随している場合には、デジタル媒体での読みのほうが遅くなる傾向がある。
 校正……誤字脱字などの校正では、紙媒体のほうが成績が良い。ポインティングやなぞりながら読む頻度も高い。
 横書きの紙媒体に書き込みをしたり、テキストをなぞったりするとき、多くの人はテキストを少し傾けて行う。読みのスピードと理解のパフォーマンスが一番良いのは、右利きの場合、時計の反対回りに5度程度傾けた状態。
 
●打ちことば(p145)
 SNSやメールで使われる文字ことば。英語では、テクスティング、テクスト・スピークと呼ばれる。
 話しことばに対する打ちことばの特徴をテクシズム(texism)と呼ぶ。
 
●文化の多様性(p178)
〔 AIの登場で、デジタル・テクノロジーも、文化の多様性の一つと考えるべき時代がきているのかもしれない。今までは、人間同士のコミュニケーションを前提としてきたが、そろそろ人工物もコミュニケーション対象の一つとしてとらえるべきだろう。AIは、少なくとも今の技術的アプローチ(深層学習)では、人間とはまったく異なるプロセスで言語コードを使う対象である。場面や相手に応じた適切な反応ができないこともあるだろうし、空気を読んだ発言をしてくれないこともあるだろう。背景知識がないために、誤解することもあるだろう。こうしたAIとのコミュニケーションは、ある意味、異文化コミュニケーションであり、柔軟な対応ができる力が求められる。〕
 
●言語使用能力(p285)
 デジタル時代に必要な言語コミュニケーション能力は、基本的言語知識と、三つの言語使用能力。
 自律的言語使用能力……自主的に言語活動を行う能力。多くの言語情報を効率よく処理し、その中から、自ら必要な言語情報を取捨選択し、批判的な視点を持ちながら、分析・理解する言語能力。どの言語情報を知識に変換するのかを決めたり、自ら問題を設定したりといった、言語と認知との境界線上にある能力も含まれる。
 社会的言語使用能力……デジタルおよび非デジタル空間内で社会ネットワークを構築するための言語「使用」能力。自らの基本的言語知識や非言語知識(世界に関する知識など)を、言語を通じて他者と共有したり、他者とともに新しい知識を構築したりする能力。他者と協力して作業を行う能力。
 創造的言語使用能力……言語情報から変換された既存の知識を再構成・再構築したり、新しいコンテクストへの植え替えを行ったりする能力。対象となる能力のなかには、映像や音など、非言語情報も含まれる。
 
●知識(p288)
 〔情報は知識ではない。私たちの自発的な注意や、記憶や認知判断、意味づけなどを伴うものだけが、知識となる。〕
 
(2021/9/10)NM
 
〈この本の詳細〉


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