SSブログ

ロボット学者、植物に学ぶ 自然に秘められた未来のテクノロジー
 [自然科学]

ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー
 
バルバラ・マッツォライ/著 久保耕司/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-8269-0229-8
税込価格:2,860円
頁数・縦:232p・20cm
 
 これまで、ロボットといえば、動物(そして人間)を手本とするバイオミメティクスが主流であった。これに対し、著者は植物を模倣した「プラントイド」の開発を目指す研究者である。
 ロボットを媒介として、植物の奥深さと不思議を教えてくれる。
 
【目次】
すべてが始まった場所
新たな時代のロボット工学
インスピレーションを探し求める科学者たち
自然の実験室
進化の謎に挑む動物ロボット
私たちに似た機械
植物は隣にいるエイリアン
ロボット学者、偏見の壁にぶつかる
見えない運動
プラントイド ある革命の歴史
植物の知能
水の力
よじのぼる植物ロボットを目指して
 
【著者】
マッツォライ,バルバラ (Mazzolai, Barbara)
 マイクロシステム工学の博士号をもつ生物学者。イタリア技術研究所(IIT)のマイクロバイオロボティクスセンターのディレクター。2015年、ロボット研究者が集う最大の国際科学コミュニティ“Robohub”で「ロボット業界で知っておくべき25人の女性」の一人に選出されたほか、数々の賞を受賞。植物の根に着想を得た世界初のロボット“プラントイド”を開発。現在、BrowBotプロジェクトを立ち上げ、つる植物を持続可能なインテリジェントテクノロジーに変換しようと取り組んでいる。
 
久保 耕司 (クボ コウジ)
 翻訳家。1967年生まれ。北海道大学卒業。訳書多数。
 
【抜書】
●ラマルク(p17)
 1809年、ジャン=バティスト・ラマルクは、『動物哲学』において、進化に関する最初の理論を提唱。地球上に最初に存在していた様々な生物は、習性や環境の変化に応じて、もととは異なる体に変わっていったと論じた。
 用不用の原理、獲得形質の遺伝。
 
●人工精神(p27)
 人工精神(アーティフィシャル・マインド)、人工脳(アーティフィシャル・ブレイン)。人間の中枢神経系がもっている機能のシミュレーション。
 人間そっくりな振る舞いをする機械、つまり「強いAI」と呼ばれる人工知能を開発しようという試み。
 
●ロボット(p29)
 もともとrobotという語は、「強制労働」「過酷な労働」を意味するチェコ語のrobotaに由来。
 カレル・チャペックが、SF戯曲『R. U. R.』(1920年)で初めて用いた。
 部品を組み立てて作られた人造人間が「ロボット」と呼ばれ、彼らは人間による支配に反抗し、反乱を起こすことになる。
 
●プラントイド(p39)
 〔植物と同じように、その体を動かし、環境を知覚し、コミュニケーションをとり、成長するロボット。〕
 〔〈プラントイド〉は、あらかじめ定められた形態が変わることのないロボットではなく、成長し変化することができるのだ。〕
 
●Wood-Wide Web(p42)
 植物は、言語なしでコミュニケーションを行っている。
 環境に化学物質を放出したり、細菌や菌類(真菌類)、さらには動物といった他の生物と関係を築いたりすることによって、コミュニケーションをとる。
 樹木やあらゆる植物種は、地中に正真正銘の相互接続された生物ネットワークを作り上げている。
 このネットワークに参加している菌糸は、植物の根の先端を包み込み、地中の養分を提供する代わりに、菌類に不足している糖分を植物から手に入れる。
 
●アカシア(p45)
 南アフリカのアカシアの木は、クーズー(ウシ科の草食動物)に対して協力して防御行動を取る。
 クーズーは、植物が不足するとアカシアばかりを食べることがある。そのときアカシアは、無味無臭のエチレン分子を放出し、危険を「警告し合う」。この気体が他のアカシアの葉にたどり着くと、そのアカシアはタンニンを普段よりも多く生成し始める。この毒素のせいで葉はまずくなり、消化されにくくなる。
 もしタンニンの量が増えれば、クーズーはうまく消化することができなくなり、死に至ることもある。
 
●バイオミメティクス(p57)
 ギリシャ語の「生命bios」と「模倣mimesis」に由来。米国の科学者・発明家のオットー・シュミットが、1969年に論文の題名として使用。生物物理学と生物工学の研究で有名。
 「生物が作り出した物質と素材(例えば酵素や絹)、生物によるメカニズムとプロセス(タンパク質合成や光合成)の形態、構造、機能の研究であり、その目的は自然のメカニズムを模倣した人工的なメカニズムを通して、類似する産物を合成することである」(『メリアム・ウェブスター英語辞典』、1974年初出)。
 バイオニクス、バイオミミクリー、バイオインスピレーションといった類義語もある。
 
●バイオインスピレーション(p91)
〔 カトコスキーとフルの小さなゴキブリロボット、〈SOFi〉、〈OCTOPUS〉、さらには以降の章で紹介する他の動物ロボットたちはすべて、ある共通点がある。それは、特定のプラットフォームであると同時に、特定の用途をもった機械でもあるという、二重の性質をもっていることだ。この生物学とテクノロジーの合体こそが、ロボット工学におけるバイオインスピレーションの真の本質なのだ。それは、偉大な実験室である自然についての知識を加速度的に増大させる、とてつもなく強力な要素でもある。〕
 
●ラティメリア(p100)
 シーラカンス類の現生属。1939年に南アフリカの海岸沖で捕獲された。
 それ以来、コモロ諸島沖の深海をはじめとする多くの場所で多数捕獲されている。
 
●3Dプリンタ(p150)
 プラントイドは成長によって動く。この重要な特徴を再現するため、3Dプリンタを小型化し、ロボットの先端内部に組み込んだ。
 ロボットのセンサーが集めた情報に基づいて屈性が作動する。
 
●地中での効率(p156)
 地中で根の先端が成長する「根ロボット」と、似た形状をしているが「上方から圧力を加える」タイプのロボットの比較。
 根ロボットのほうは、地中を貫いて進む速度は40%増し、エネルギー消費は最大70%少なくて済む。
 
●根による炭素交換(p172)
 植物は、根によって他の個体と炭素の交換を行っている。スザンヌ・シマードの実験。
 森で、80本のダグラスモミ(ベイマツ)とシラカバを使って実験。カバに炭素14(放射性同位体で、放射線を出す)を注入し、モミに炭素13(安定同位体なので放射線を出さない)のガスを注入した。注入してから1時間ほどで、どちらの種でも放射線が確認できた。
 二種の樹木の間で交換される炭素の量は一定ではなく、樹木の状態や季節に応じて変化する。
 森の木々は互いに助け合い、協力し合い、一つのネットワークの一部になっている。
 母木……菌根が作り出す巨大な地下ネットワークでは、最も古い樹木が「母木」となっている。情報科学でいう「ハブ」の役割を演じている。幼木に養分を与えている。菌根を通して炭素を送り、幼い木の生存可能性を4倍にも高める。
 
●植物発電(p206)
 著者の研究グループによる発見。
 植物は電気を生産できることを実験で証明した。
 〔人類は自由に使える、文字通り緑のエネルギー源を手に入れたことになる。〕
 高等植物(維管束を持つ植物)の葉の組織には、クチクラ層と呼ばれる一番外側の層と、その下の表皮の層からなる二重の層がある。それがコンデンサとして機能し、繰り返し触れられると電気を生み出す。葉の表面が一定の物質を接触した時に電気が作り出される。
 「接触帯電」と呼ばれるプロセスにより、クチクラ層ー表皮の二重の層が、葉の表面に電荷を移動させることで起きる。葉の表面の電荷が内部の異符号の電荷で補償されて内部組織に伝わり、この組織がケーブルの役割を果たして他の場所に電気を運ぶ。したがって、植物の茎に「プラグ」を接続するだけで、発生した電気を集めて電子機器の充電などに使うことができる。
 1枚の葉が生み出す電圧は、150ボルト以上。LED電球を100個同時に点灯させることができる。
 このシステムを使えば、植物経由で風を電気に変えられる。柔らかいプラスチックのような人工素材でできた長方形の帯を、キョウチクトウの葉の上に置くと、風が葉を揺らすたびに、葉と帯がこすれ合い、その摩擦で電気が発生する。電力量は、葉がこすれる頻度と葉の数に比例する。
 
(2021/9/24)KG
 
〈この本の詳細〉

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。