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開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線
 [医学]

開かれたパンドラの箱 老化・寿命研究の最前線  
今井眞一郎/著 瀬川茂子/構成
出版社名:朝日新聞出版
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-02-251686-2
税込価格:2,200円
頁数・縦:28p・19cm
 
 長寿、抗老化研究の最前線で活躍する研究者が、その最前線を案内してくれる。老化現象についてどの程度分かってきたのか。今後、高齢化社会はどのような方向に向かうのか、向かうべきなのか。総合的に長寿と老化について考える。
 
【目次】
1章 細胞の老化と不死化
2章 米国へ
3章 サーチュイン
4章 独立
5章 NAD合成酵素の不思議
6章 世界の老化研究最前線
7章 細胞老化
8章 食事と運動
9章 老化研究の難しさ
10章 日本の今後を考える
 
【著者】
今井 眞一郎 (イマイ シンイチロウ)
 ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門教授/神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター・老化機構研究部特任部長。プロダクティブ・エイジング研究機構(IRPA)理事。専門は哺乳類の老化・寿命の制御のメカニズムの解明および科学的基盤に基づいた抗老化方法論の確立。1964年東京生まれ。89年慶應義塾大学医学部卒業、同大大学院で細胞の老化をテーマに研究。97年渡米、マサチューセッツ工科大学のレニー・ギャランテ教授のもとで、老化と寿命のメカニズムの研究を続ける。2000年にサーチュインというまったく新しい酵素の働きが酵母の老化・寿命を制御していることを発見。01年よりワシントン大学(米国ミズーリ州・セントルイス)助教授、08年より准教授(テニュア)、13年より現職。世界的に注目される抗老化研究の第一人者。
 
【抜書】
●ヘテロクロマチン(p37)
 細胞の中のDNAは、ヒストンというたんぱく質に巻き付いてコンパクトに折りたたまれている。この構造が凝集しているところがヘテロクロマチン。少しほどけているようになっているところをユークロマチンと呼ぶ。
 ヘテロクロマチン構造を取っている部分では、遺伝子の発現が抑えらえ、ユークロマチンの部分では遺伝子が発現する。
 クロマチン構造がユークロマチン構造になったり、ヘテロクロマチン構造になったりする際には、ヒストンにアセチル基がついたり外れたりすることが重要な役割を果たす。
 
●NAD(p56)
 ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド。
 呼吸など、細胞がエネルギーを作ったり使ったりするために欠かせない「補酵素」。
 補酵素とは、酵素が働くときに必要とされる物質。
 NADを使うSIR2(サーチュイン)というタンパク質の働きでヒストンが脱アセチル化され、それがヘテロクロマチン構造を変化させる。
 
●ビタミンB3、NAMPT(p107)
 ペラグラ……19〜20世紀に欧米で猛威をふるい、死亡率1位だった病気。下痢、皮膚炎、認知症がペラグラの三徴といわれた。トウモロコシを精製して食べていたのが原因。ビタミンB3が失われていた。治療する物質として、ニコチンアミドとニコチン酸が見つかった。この2つの総称がビタミンB3。
 ビタミンB3は、哺乳類のNAD合成の出発物質。NADは、ニコチンアミドとニコチン酸から合成される。
 ニコチン酸からNADを合成するときに必要な酵素がNAMPT(ニコチンアミド・フォスフォリボシルトランスフェラーゼ)。
 
●NMN(p118)
 ニコチンアミド・モノヌクレオチド。
 ニコチンアミドがNAMPTによってNMNになり、それにNMNATという酵素が働き、NAD合成が完了する。
 NMNは、枝豆、ブロッコリ、きゅうり、トマト、アボカド、などに多く含まれている。
 
●NADワールド(p142)
 様々な代謝に関わる哺乳類のサーチュイン、特にSIRT1と、NAD合成に必須の酵素NAMPTの二つが車の両輪のように協調的に働いて、老化のプロセスを生み出すのに重要な役割を果たしている、という説。
 NAMPTはNMNを作り出し、それが血液中をめぐり、様々な臓器に配られて、NAD合成とサーチュインの活性化を起こして、臓器の機能を制御する。しかし、加齢によりNAD合成が全身で落ちてくるために、NADワールドが機能しなくなって老化が起こる。
 全身でNADが低下するようなことが起こったとき、もともとNAMPTの量の少ない組織が機能低下を引き起こし、その影響がNADワールドのフィードバックの網目に従って広がっていく。
 その老化のトリガーとなるような組織が、脳の視床下部。老化の「コントロールセンター」。
 eNAMPTを含む細胞外小胞(EVs)を分泌している脂肪組織が、「モジュレーター」の役割を果たしている。
 視床下部のシグナルを他に伝えていく骨格筋が、「メディエーター」の役割を果たす。
 
●抗老化薬(p152)
 ラパマイシン……イースター島(ラパ・ヌイ)の土壌細菌から抗真菌作用のある物質が見つかり、「ラパマイシン」と名付けられた。水虫などの真菌の薬として期待されたが、免疫を抑制してしまう副作用があったので、開発を断念。その後、臓器移植の際の免疫抑制剤として開発された。また、ラパマイシンがTOR遺伝子に作用し、ハエやマウスの寿命を伸ばすことが証明された。ラパマイシンの毒性を弱めるための「誘導体」が開発され、「ラパローグ」と命名された。
 メトホルミン……糖尿病の治療薬。様々なタンパク質をリン酸化して活性化する、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)という酵素の働きを上げる。がん、心疾患、アルツハイマー病などの発症を遅らせるという報告がされている。
 NADブースター……体内のNADの量を増やすことで、サーチュインを活性化させる。
 
●インフラメイジング(p171)
 インフラメーション(炎症)とエイジング(加齢)の合成語。
 慢性炎症は、細胞や組織を痛める反応を起こし、長く続くと組織の働きのレベルを落としてしまう。老化の大きな原因ともなる。
 
●セノリティクス(p174)
 白血病治療薬の「ダサチニブ」と、ケールやレッドオニオンに含まれるポリフェノールの一種「ケルセチン」を組み合わせて、老化細胞を取り除くことができる。この組み合わせの薬剤を「セノリティクス」と名付けた。「D+Q」とも。
 老化細胞は、アポトーシスを起こさないようにブレーキがかかってる。このブレーキを切ってアポトーシスを誘導することで、老化細胞を取り除く。
 
●ホルミシス(p202)
 一定程度の弱いダメージやストレスが与えられると、体に備わった応答あるいは修復プロセスが働いて、かえって健康になる効果があるという現象。
 食餌制限が長寿に効果があるのは、栄養が足りない状況で、生き延びるための応答システムにスイッチが入り、老化を遅らせる「ホルミシス」と捉えることができる。
 
●プロダクティブ・エイジング(p240)
 老化のプロセスに人為的に介入して、加齢にともなうすべての病気のリスクを全体として下げる。健康寿命を「大幅に」のばし、最大寿命との差をなくすことを目指すのが、抗老化研究の大きな目標。
 〔人生の後半においてできるかぎり健康でいられるようにするばかりでなく、同時に個人の生活を十分に楽しみ、また社会にも貢献し続けていく、そういった個人と社会のかかわり方を考える意味でも、プロダクティブであり続けるエイジングを実現する、それが「プロダクティブ・エイジング』の概念なのです。〕
 
●日本のNMN(p243)
 2008年、世界で最初にNMNの生産技術を確立したのは、日本のオリエンタル酵母工業という会社。
 2015年に、世界で初めて高品質NMNの製品化を果たしたのは、日本の新興和製薬(現、ミライラボバイオサイエンス)。
 日本は、NMNの開発のリーダー的存在。
 現時点で、高品質で安全性が保証されているNMNの値段が非常に高い。価格を下げるための技術開発が課題。
 
●人生の叡智(p248)
〔 私は、抗老化技術の恩恵によって健康を保つ高齢者は、その人生の知恵を若い世代に、無理なく、有効に伝えていく術を学んでほしいと望んでいます。「歳を取る」ことが、「人生の叡智を蓄える」ことを意味するようにならなければ、抗老化技術は人間の社会に自分勝手な生き方をする人を増やすだけになるのではないかと懸念しています。抗老化物質や抗老化技術は、バラ色の未来を運んでくるように語られることが多い最新技術です。しかし、それが「自分さえよければそれでいい」という人間を世の中に溢れさせる結果となるのであれば、それは「人類の叡智に貢献した」ことにはならないのではないでしょうか。〕
 
(2021/10/4)KG
 
〈この本の詳細〉

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