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それでも選挙に行く理由
 [社会・政治・時事]

それでも選挙に行く理由
 
アダム・プシェヴォスキ/著 粕谷祐子/訳 山田安珠/訳
出版社名:白水社
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-560-09863-9
税込価格:2,090円
頁数・縦:180, 15p・19cm
 
 選挙の意義とは、民主主義とは、について考察した書。
 選挙という制度が歴史に登場してから200年しかたっていないが、それは瞬く間に世界中に広まった。それほど好ましい制度だということだろう。しかしながら、選挙が必ずしも民主主義を実現していない現実もある。では、選挙とは何なのか。
 一言で言えば、平和裡に政権を移行できるようにするための制度、ということになろうか。民主主義を担保するのは「競合的な選挙」なのだが、独裁国家では「平和を演出」するために「選挙」という形式が用いられている。
 
【目次】
序論
第1部 選挙の機能
 政府を選ぶということ
 所有権の保護
 与党にとどまるための攻防
 第1部の結論 選挙の本質とは
第2部 選挙に何を期待できるのか
 第2部への序論
 合理性
 代表、アカウンタビリティ、政府のコントロール
 経済パフォーマンス
 経済的・社会的な平等
  ほか
 
【著者】
プシェヴォスキ,アダム (Przeworsky, Adam)
 1940年生まれ。ポーランド出身の政治学者。専門は、政治経済学、政治体制論、民主化研究。ワルシャワ大学卒業、1966年にノースウェスタン大学で博士号取得。ポーランド科学アカデミー研究員。ワシントン大学准教授、シカゴ大学教授を経て、ニューヨーク大学政治学部教授。1991年にアメリカ芸術科学アカデミーの会員に選ばれ、2010年には「ヨハン・スクデ政治学賞」を受賞。
 
粕谷 祐子 (カスヤ ユウコ)
 1968年生まれ。1991年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業、1996年、東京大学法学政治学研究科博士課程単位取得退学、2005年、カリフォルニア大学サンディエゴ校で博士号取得。現在、慶應義塾大学法学部政治学科教授。専門は比較政治学、政治体制変動論、政治制度論、東南アジア政治。
 
山田 安珠 (ヤマダ アンジュ)
 1993年生まれ。2016年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2018年、東京大学公共政策大学院公共管理コース卒業、公共政策修士(専門職)取得。現在、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻相関社会科学コース博士課程およびエバーハルト・カール大学テュービンゲン経済・社会科学部政治学科博士課程在学中。研究の関心は福祉国家と家族政策の変化、公共政策の比較分析、地方自治。
 
【抜書】
●平和裡に闘う(p20)
 〔結局のところ選挙とは、ある程度平等で、知識があり、自由な人びとが、それぞれのビジョン、価値観、利益に従って、社会をより良いものにするため平和裡に闘うことを可能にする枠組みにすぎないのである。〕
 
●競合的な選挙(p21)
 民主的な選挙とは、競合的な選挙である。選挙が実際に政府を選択する機会になっていて、有権者がもしそう望めば現職ではなく新人を当選させることができる場合である。
〔 競合的な選挙、すなわち、有権者の過半数が望んだときに現職が負ける選挙は、人類の歴史においては非常に短い期間しか存在していない。クーデタと内戦という武力の行使による権限獲得のほうが長い歴史をもち、また貧しい国では依然としてそれが起こっている。一七八八年から二〇〇八年の期間、選挙で政府が代わったのは五四四回、クーデタで代わったのは五七七回であった。選挙で政府を選択するという理念そのものはごく最近のものであり、定着しているとはまだいえない。歴史上初めてすべての成年男子が選挙権を持って任期付きの代表を選ぶ国政レベルの選挙が実施されたのは、一七八八年であった。歴史上初めて選挙で政権交代が実現したのは一八〇一年であった。どちらもアメリカでの出来事である。それ以降、世界では約三〇〇〇回の国政レベルの選挙が実施されている。しかし、現職が選挙で負けることは近年になるまで稀であり、平和な政府の交代はさらに稀であった。現職が負けるのは五回に一回であり、平和な政権交代の頻度はさらに低い。それでも、二〇〇八年の時点で、中国とロシアの二つの大国を含む六八ヵ国では、選挙の結果として政権交代が起こったことはない。〕
 
●賭け金(p24)
 〔選挙における重要な問題は、負けるかどうかだけではなく、負けたら何を失うかという点である。現職が敗北したときに失うものが、命や自由、あるいは財産だけの場合だったとしても、負けるリスクは許容しがたいほど高くなる。〕
 〔現職が敗北の可能性に身をさらすような選挙が可能なのは、野党が支配者になったときも次の選挙では同様に危険に身をさらすだろうと現職が考える場合にのみ可能である。負けは常に嫌なものだが、次の選挙で捲土重来を果たすまでの間の身の安全が保証されるのであれば、このリスクは許容できる。〕
 〔賭けの対象は次の数年間政権の座に誰がつくのかであり、それによってその政権に投票した人びとの利益になる政策が実施されても、野党側にまわった人びとが死守したい利益や価値が脅かされない状況である。〕
 
●選挙の広がり(p33)
 選挙というアイディアが歴史の地平線に現れるや否や、それは瞬く間に広まった。
 1788年、アメリカ合衆国で初の全国レベルの議会選挙。
 1800年以前に、革命期フランス、バタヴィア共和国(オランダ)で選挙が行われた。
 1809年、スペイン帝国が最高中央評議会選挙を実施。
 1814年、ノルウェー、
 1820年、ポルトガル、
 1823年、新たに独立したギリシャ、
 1831年、ベルギーとルクセンブルクが選挙を実施した。
 1814年のパラグアイに始まり、1848年までにすべてのラテンアメリカ諸国が選挙を経験。
 1850年までに、少なくとも31の独立国と属領(イギリスとカリブ海のイギリス植民地を含む)が、少なくとも1回は議会選挙を経験した。
 1900年には、その数は43になる。
 21世紀の初頭までに、ごく一部を除いたすべての国で、普通選挙によって立法府議員が選ばれ、直接選挙で、または議会によって間接的に、執政府首長が選ばれるようになっていた。
 
●崩れ行く進歩神話(p135)
〔 先進国における選挙に対する現状の不満の多くは、国民の大半の所得の低迷、欧州ではとくに長引く高い失業率に起因する。その結果、人びとが持つ自分の人生に対する予測は、画期的といえる転換点を迎えている。おそらく二〇〇年ぶりに、多くの人は自分の子孫が自分よりも良い生活を送ることはないと考えている。さらに、少なくともアメリカでは、この信念は事実に裏づけられている。三〇歳になったときに、親が同じ年齢だったときの収入よりも高い収入を得ている人の割合は、過去五〇年間で着実に、そして急激に減少している。これに関するデータが存在するアメリカでは、この減少は成長の鈍化というよりも、不平等の急激な拡大によるものであることがわかっている。しかし欧州諸国では、成長の鈍化が不平等の増加よりも大きな要因になっている可能性がある。だが、原因が低成長であろうと、所得の不平等であろうと、世界は徐々に進歩するという信念が崩れていることは未曾有の経験であり、その政治的な影響は非常に深刻である。〕
 
●人口動態(p137)
 平均的に見て、独裁国家は、競合的な選挙を持つシステムよりも経済パフォーマンスが優れていない。
 データ分析によれば、国民総所得の平均成長率は独裁国家がわずかにリードする。
 しかし、民主主義国家では平均的に人口増加率が低いため、一人当たりの所得では民主主義のほうが増加速度はやや速い。
 政治体制は経済よりも人口動態に影響をより多く与えている。
 民主主義における老齢年金政策の存在は出生率を低下させる。
 独裁では、政策が変わりやすいという恐れがあり、人びとは最も安全な資産である子供を確保するようになる。
 
●紙でできた石つぶて(p157)
〔 結局、民主主義の奇跡とは、対立する政治勢力が投票結果に従うということである。銃を持っている人が、持っていない人に従う。現職は、選挙により野党に政権の座を奪われるリスクを負う。敗者は、政権を獲得するチャンスを待つ。紛争は規制され、ルールに従って処理されるため、限定的になる。これは合意とはいえないが、暴力的ではない。いわばルールのある紛争、すなわち殺戮のない紛争である。投票用紙とは「紙でできた石つぶて」なのである。〕
 
●選挙の意義(p175)
〔 結局のところ、現在の危機は当分のあいだくすぶることになりそうだ。政治的分極化の進展、紛争の激化、ときおり起こる国家と反体制側のあいだでの暴力のスパイラルを除けば、多くのことは変わらないだろう。私がこの本を書きはじめた時点では、つまりブレグジット、ドナルド・トランプの当選、イタリア国民投票の失敗よりも前の時点では、このような憶測でこの本を終えることになるとは予想していなかったと認めなければならない。民主主義が崩壊する過程についてはまだ限られた理解しかなく、後退する過程についてはいっそうわからないことが多い。私たちが今後学ぶ教訓がどこまで苦いものになるかは、まだわからない。つまるところ、誰が勝ったのか、誰が選挙に勝つだろうかということは、それほど重要ではない。重要なのは、激しく分断された社会においてさえも、選挙が紛争を平和裡に処理できるかどうかである。〕
 
(2021/11/15)KG
 
〈この本の詳細〉

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