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経済社会の学び方 健全な懐疑の目を養う
 [経済・ビジネス]

経済社会の学び方-健全な懐疑の目を養う (中公新書 2659)
 
猪木武徳/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2659)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-12-102659-0
税込価格:946円
頁数・縦:257p・18cm
 
 これから経済学を学ぼうとする人たちに向けて、経済学を学ぶ上で必要な態度と姿勢を解く。
 重要な点は、経済学は「真理」を論証する学ではなく、「真らしい」事柄を探究する学であるということ。自然科学的な厳密な理論を求めてはいけない、ということだ。人間社会の現象は、数理的に完璧に論証することはできないということを、肝に銘じて研究に勤しむべし。
 
【目次】
第1章 まずは控え目に方法論を
第2章 社会研究における理論の功罪
第3章 因果推論との向き合い方
第4章 曖昧な心理は理論化できるか
第5章 歴史は重要だ(History Matters)ということ
第6章 社会研究とリベラル・デモクラシー
 
【著者】
猪木 武徳 (イノキ タケノリ)
 1945年滋賀県生まれ。京都大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。大阪大学経済学部教授、同学部長、国際日本文化研究センター教授、同所長、青山学院大学大学院特任教授などを歴任。大阪大学名誉教授。著書『経済思想』(岩波書店、1987、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞)『自由と秩序』(中央公論新社、2001、読売・吉野作造賞、中公文庫、2015)『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、2004、桑原武夫学芸賞)など多数。
 
【抜書】
●「真らしい」(p27)
〔 われわれが探求する問いには、数理的な論理だけでは答えられない問題が山のように存在する。したがって論理的に証明可能な「真理」と、論証することのできない「真らしい」物事があるということを知る必要がある。厳密に論証できるような性質の問題と、正確に論証はできないけれども、これは「真らしい」と思われる事柄の区別である。
 つまり大きく分けると、論証を目的とする学問と、探究し続けるようなタイプの学問があるということだ。この点を強調したのはジャンバッティスタ・ヴィーコ(1668~1744)である。この違いを認識しないと、すべてが数理的な論証の学問だと考え、論理的に正しいかどうかだけに目を奪われてしまう。自然科学的な厳密さなり正確さを尊重するあまり、問題がフレームワークに当てはまる性質のものか否かを十分検討しなくなる可能性がある。〕
 論証する(verify)学と、探究し(explore)続ける学。(p208) 
 
●なぜ(p79)
〔 理論が個別具体的な事実をそのまま説明していると考えるのはあまりにも単純だ。ある現象を解釈するときには、概念なりモデルは必要だが、そのモデルと現実が完全には合致していないからこそ、はじめて「なぜ」という真っ当な問いが生まれる。なぜモデル通りに社会の変動や歴史の動きを説明できないのかと問うことが意味を持つのだ。〕
 
●ルビンの壺(p100)
 Rubin's vase。
 黒地に描かれた白地の図形からは、向き合った二人の顔が浮かび上がるが、大きな白い壺のようにも見える。
 
●シンプソンのパラドックス(p116)
 エドワード・シンプソン(1922-2019)。
 母集団における相関と、母集団を分割したそれぞれの集団での相関が、正負逆になることがある。
 《例》新薬についての調査結果。
      薬投与            薬投与なし
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 男性  87人中81人が回復(93%)   270人中234人が回復(87%)
 女性  263人中192人が回復(73%)  80人中55人が回復(69%)
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 合計  350人中273人が回復(78%)  350人中289人が回復(83%)
 
●ポルノ(p191)
 ビデオ・カセットの規格争いでソニーの「ベータマックス」がVHSに敗れた理由。
 ソニーが、ポルノ・ビデオを大量に生産するメーカーにベータマックスのライセンスを与えなかったことが原因だと言われている。
 
●ルイセンコ論争(p205)
 旧ソ連では、科学研究が政府の強い統制のもとにあった。
 スターリンの共産主義独裁体制のもとでは、「人間は教育によって思うように作り替えることができる」「努力すれば必ず報われる」という思想が浸透していた。
 遺伝によって人間の形質が決定的な影響を受けるとする学説は不都合なものであった。教育や環境によって人間は変わるものであり、後天的に獲得された形質は遺伝すると考える学説が正統の生物学として位置づけられていた。
 遺伝子概念を否定する「ルイセンコ主義」と呼ばれる反遺伝学。
 ルイセンコ学説に疑義を呈し、メンデルによる遺伝学を擁護した生物学者が、スターリンの指示に従って多数(3,000人とも推定されている)投獄され、強制収容所へ送られるか処刑された。
 遺伝学や細胞生物学の研究が禁止されたために、その後のソ連におけるこれらの分野の研究が著しく立ち遅れた。
 
【ツッコミ処】
・Revue Genèrale du Droit, de la Législation et de la Jurisprudence en France et a l'Étranger
 ポール・ヴァレリー(1871-1945)が書いた、レオン・ワルラス(1834-1910)の『純粋経済学要論』(第三版)の書評らしい。
 フランス語なのに、和訳が載っていない。
 本書では、翻訳されていない書籍・論文のタイトルには、和訳が付していない。いい加減な翻訳はしない、という学者の良心からだろうか。本文中にソ連に関する記述もあるのだが、こちらは書籍・論文を引用してない。訳わからないキリル文字を目にせずに済んだのが勿怪の幸い。
 ところで、「a l'Étranger」は「à l'Étranger」 の誤りではないだろうか?
 
(2022/3/31)NM
 
〈この本の詳細〉


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