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海獣学者、クジラを解剖する。 海の哺乳類の死体が教えてくれること
 [自然科学]

海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること~
 
田島木綿子/著
出版社名:山と溪谷社
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-635-06295-4
税込価格:1,870円
頁数・縦:335p・19cm
 
 海獣、主にクジラ類を専門とする、博物館勤務の研究者によるエッセー。自分の仕事や海獣類の生態を紹介しながら、クジラ愛を語る。
 クジラの解剖を行うときの壮絶な作業が印象的である。なぜ、女性がそんな3Kで重労働な作業をしなければならない職業に就くのか。女性は大きなものに憧れるので、クジラの専門家には女性が多いらしい、って。
 
【目次】
1章 海獣学者の汗まみれな毎日
2章 砂浜に打ち上がる無数のクジラたち
3章 ストランディングの謎を追う
4章 かつてイルカには手も足もあった
5章 アザラシの睾丸は体内にしまわれている
6章 ジュゴン、マナティは生粋のベジタリアン
7章 死体から聞こえるメッセージ
 
【著者】
田島 木綿子 (タジマ ユウコ)
 国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授。博士(獣医学)。1971年生まれ。日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業。学部時代にカナダのバンクーバーで出合った野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者として生きていくと心に決める。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号取得後、同研究科の特定研究員を経て、2005年からアメリカのMarine Mammal Commissionの招聘研究員としてテキサス大学医学部とThe Marine Mammal Centerに在籍。2006年に国立科学博物館動物研究部支援研究員を経て、現職に至る。
 
【抜書】
●ヒゲクジラの採餌方法(p90)
 (1)スキムフィーディング(漉き取り摂餌)……セミクジラ科。上顎にある無数のヒゲ板(クジラヒゲ。口腔内の粘膜がケラチン化したもの)でオキアミやプランクトンを濾し取り、口角から海水を排出させる。セミクジラのヒゲ板は、女性のコルセットや、バイオリンの弓、日本では釣り竿、扇子、櫛、からくり人形のゼンマイの材料として使われていた。
 (2)ボトムフィーディング(底質摂餌)……コククジラだけが行う摂餌方法。ベントス(底生生物)を食べるために、体の右側を下にしてわずかに開けた口の右側から海底の泥とともに餌を吸い込み、左側へ海水と泥を吐き出す。なぜか、右を下にする個体が多い。
 (3)エンガルフフィーディング(飲み込み採餌)……ナガスクジラ科。下顎と頭骨の関節が強靭な線維で繋がっており、顎を外して大きく開き大量の海水と餌を一気に取り込むことができる。おなか側のノドからヘソ近くまで、皮膚にアコーディオンのような折り目がついており(ウネと呼ばれる)、伸縮できるようになっている。ここに一旦餌と海水をため、閉じたあとに口から海水を排出し、餌を濾し取る。排水の際には仰向けとなり、重力を利用して吐き出す。
 さらにザトウクジラは、エンガルフフィーディングの進化した(?)バブルネットフィーディングによって採餌する。数頭で協力して泡の網を作り、海面近くに集めた魚を下から飲み込む。
 
●52ヘルツのクジラ(p112)
 1989年、米国ウッズホール海洋研究所の研究チームが発見。52ヘルツという特殊な周波数の声で鳴く、孤独なクジラ。
 音の特徴や音紋から、おそらくヒゲクジラ類。しかし、シロナガスクジラの鳴き声は10〜39ヘルツ、ナガスクジラは20ヘルツ前後。
 ハイブリッド種か、奇形である可能性もある。
 
●ポーポイジング(p186)
 porpoising。イルカ泳ぎ。
 海面から飛び上がっては潜るという動作を繰り返す泳ぎ方。息継ぎのための泳法で、餌を追い求めたり、外敵から逃げたりする緊急時に発動。
 この泳ぎで、イルカは時速50kmを出すこともできる。
 イルカ以外では、ペンギンもポーポイジングを行う。
 
●アフロテリア(p277)
 アフリカ大陸を起源とするアフリカ獣上目のこと。カイギュウ類はアフロテリアに分類される。
 ツチブタ、ハイラックス(イワダヌキ科の一種)、アフリカゾウなどが含まれる。
 新生代初期から中期(6500万年前〜2500万年前)、アフリカ大陸は他の大陸と繋がっていなかったので、収斂進化の結果、さまざまな形態を持つ種に分化した。また、アフリカ大陸が南アメリカ大陸から分断した1億5000万年前に他の系統と進化上分離したという説もある。
 
●カワゴンドウ(p324)
 主に東南アジアの河川や河口近くに棲息。
 ミャンマーのエーヤワディー川では、漁師とカワゴンドウが協力して魚を捕る。
 カワゴンドウが船の近くまで魚を追い込み、追い込みが終了すると尾びれを水面上で打ち振る。それを合図に、漁師が網を水面に広げ、魚を捕まえる。カワゴンドウはそのおこぼれをもらう。
 カワゴンドウの訓練には4〜5年かかる。
 
(2022/4/24)NM
 
〈この本の詳細〉


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