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音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学
 [芸術]

音楽する脳 天才たちの創造性と超絶技巧の科学 (朝日新書)
 
大黒達也/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日新書 852)
出版年月:2022年2月
ISBNコード:978-4-02-295163-2
税込価格:891円
頁数・縦:251p・18cm
 
 統計学習という脳の機能に着目し、音楽の特性を論じる。
 
【目次】
第1章 音楽と数学の不思議な関係
 音楽と科学の歴史
 音の高さと数学
 音の並び方と数学
第2章 宇宙の音楽、脳の音楽
 宇宙の音楽
 脳の音楽
第3章 創造的な音楽はいかにして作られるか
 脳の記憶と作曲
 脳の統計学習から作曲へ
 脳に障害がありながらも卓越した曲を生む作曲家
第4章 演奏家たちの超絶技巧の秘密
 脳と演奏
 演奏と脳の予測
 演奏から生まれる個性
 主観的な「価値」
 知識よりも大切なこと
第5章 音楽を聴くと頭がよくなる?
 音楽と奇才
 音楽の脳疾患への効果
 音楽は私たちの心の中を「見える化」する
 
【著者】
大黒 達也 (ダイコク タツヤ)
 1986年、青森県生まれ。医学博士。東京大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構特任助教。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。オックスフォード大学、ケンブリッジ大学勤務などを経て現職。専門は音楽の神経科学と計算論。現代音楽の制作にも取り組む。
 
【抜書】
●ピタゴラス音律(p17)
 羊の腸で作った「弦」を一本用意。たとえば「ド」の音とする。その弦の半分の長さの弦は、高さが違うが同じ音に聞こえる。1オクターブの発見。
 2/3の弦は、とても協和した響きになる。完全5度高い「ソ」。弦長を2/3ずつ短くすることで、完全5度高い音を探していった。ソの弦長の2/3は「レ」、レの2/3は「ラ」……。周波数は弦の長さの逆数なので、3/2ずつ音が高くなることになる。周波数がドの2倍以下になったら、1/2にする。
 これを繰り返していくと、1オクターブのなかに12個の音が見つかった。12個目は「シ」のシャープ、つまり1オクターブ上の「ド」。しかし、この音は、3/2の12乗で、2.02728653となってしまい、2を超える。2との差は23.460セント、「ピタゴラスコンマ」と呼ぶ。
 
●純正律(p33)
 弦の長さを1/2にして倍音を求める。第2倍音。⇒1オクターブ上の「ド」。
 弦の長さを3等分して第3倍音を求める。⇒周波数比2:3、「ソ」。
 第4倍音は、2オクターブ上の「ド」。
 第5倍音は「ミ」。ドとミの長3度音程は、周波数比は、4:5。
 第6倍音は「ソ」。ミとの周波数比5:6。……
 自然倍数音列を用いた音律を「純正律」と呼ぶ。純正律は、半(全)音程間の周波数比が異なるという欠点がある。
 バッハやモーツァルトの時代の音楽は、純正律が用いられていた。
 
●平均率(p36)
 リュート奏者だったヴィンチェンツォ・ガリレイ(ガリレオの父)が、半音の音程比をすべて17:18にするという「平均律」を考案。98.95セント。
 現代の平均律の祖は、シモン・ステヴィンだと言われている。2の12乗根を用いることを提案(12平均律)。半音間の周波数比は1.05882(100セント)。
 
●統計学習(p83)
 私たちの身の回りで起こる様々な現象・事柄の「確率」を自動的(無意識)に計算し、整理する脳の働き。潜在学習の一つ。
 人間は、統計学習により、不安定で不確実な現象・事柄の確率を計算し、身の回りの環境の「確率分布」をなるべく正確に把握しようとする。把握できれば、次にどんなことがどのくらいの確率で起こりうるのかを予測しやすくなるので、珍しい(起こるはずのない低確率の)ことだけに注意を払えばよくなる。
 
●顕在学習(p106)
 顕在学習 ⇒ 顕在記憶(陳述記憶)―意味記憶
                 ―エピソード記憶
 潜在学習 ⇒ 潜在記憶―手続き記憶
          ―プライミング記憶
 プライミング記憶……以前の事柄が後の事柄に影響を与えるような記憶。たとえば、『チューリップ』の曲を統計学習した場合、「ド」を聴いた後に「レ」を予測するようになる。
 
●モーツァルト(p130)
 モーツァルトは、トゥレット症候群だったのではないかと言われている。
 トゥレット症候群の発生メカニズムのひとつとして、手続き記憶の異常な機能促進が原因だという報告がある。モーツァルトは、統計学習能力が異常に優れていたのかもしれない。
 
●言語と音楽(p136)
 言語は左脳、音楽は右脳が処理していると言われてきたが、近年の研究では、両方の脳の「協働」であるという説が有力。
 どちらも、リズムとピッチが重要な役割を果たす。リズムのような音変化の処理においては左脳が、ピッチのような音変化の処理においては右脳が寄与しているのではないかと示唆されている。ピッチ変化よりもリズム変化の激しい言語では左脳が優位になり、ピッチ変化の豊富な音楽では右脳が優位になる。
 
●ハイリー・センシティブ・パーソン(p139)
 HSP。HSPは些細な刺激に対する感受性が高いため、人や環境における小さな変化や細かい意図に気づきやすく、それゆえに強い刺激を強いられる現代社会で暮らすのが大変。
 HSPは、喜びなども人一倍強く敏感に感じるために、芸術への理解や独創的な発想を持つ人も多い。
 
●虹の七色(p140)
 音と色の共感覚保持者は、ドレミファソラシドの7音と、虹の七色(赤橙黄緑青藍紫)がほぼ対応している。
 新潟大学の伊藤浩介博士の研究チームによる。共感覚者15名を対象にしたテストの結果。
 
●第二言語(p181)
 音楽家は、第二言語を習得する能力が高いと考えられている。
 脳の聴覚機能が発達しているため。
 
●統計学習仮説(p209)
 ノーム・チョムスキーの「普遍文法説」に対立する、言語習得仮説。
 人間の脳は、音楽や言語などの学習対象によらず、あらゆる情報を脳が普遍的に持つ統計学習によって学習している。言語特有、音楽特有の学習機能があるわけではない。
 
●言語の祖先(p237、本編結びの言葉)
〔 しかしどんなに違う言語であっても、コミュニケーションのツールとして、自分の気持ちを人に伝え理解してもらうための手段として用いるという目的はみな共通しています。それは音楽においても同様です。むしろ音楽は、私たちが言語を用いるようになったずっと前から存在しています。音楽は言語の祖先なのです。
 音楽の中の特殊な形態、つまり効率的で具体的なコミュニケーションの手段として「言語」があると考えるほうが、私としては正しいと考えています。言語は単語などで皆で知識を共有することができます。一方で、音楽はまだ言語化されていない「心の中」を表現することができます。言語はそもそも人間の知恵によって生まれたもので、「嬉しい」や「楽しい」といった言葉が真に心の中の状態を表しているとはいえません。
 心はもっと複雑で、本来完全には言葉で表現することができないものです。その反面、音楽は本来効率化すべきでない真の心の中を直接的に表現することができるといえるでしょう。言葉を話せない赤ちゃんでも音楽を楽しむことができるように、音楽を聴いて「言葉にはできない感動」をするように、音楽は言語化されていない私たちの心の中を直接的に表現しているといえるのです。音楽は、そういった感情を呼び起こすことができる魔法のツールといえるでしょう。
 音楽を聴くことによる脳への効果はもちろんありますが、その前に音楽とは言語以上に私たち人間にとってなくてはならない、最も根本的なものであることを忘れてはいけません。決して娯楽のためではなく、特別なものでもない、人間の本質的な部分が音楽なのです。〕
 
(2022/4/30)NM
 
〈この本の詳細〉


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