希望の教室
[社会・政治・時事]
ジェーン・グドール/著 ダグラス・エイブラムス/著 ゲイル・ハドソン/〔著〕 岩田佳代子/訳
出版社名:海と月社
出版年月:2022年5月
ISBNコード:978-4-903212-73-9
税込価格:1,760円
頁数・縦:301p・19cm
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数回にわたるインタビューをもとに、ジェーン・グドールのメッセージを対話風にまとめた書。
【目次】
希望をみつけてみませんか?
1 希望とは何か
ウイスキーとスワヒリ料理
希望は実在する?
希望をなくしたことはありますか?
希望は科学で説明できるか
困難な時代にも希望を持つには)
2 希望を信じる4つの根拠
人間のすばらしい知力
自然の回復力
若者の力
人間の不屈の精神力
3 「希望のメッセンジャー」になる
ジェーンの歩いてきた道
結論 ジェーンからのメッセージ
【著者】
グドール,ジェーン (Goodall, Jane)
動物行動学者、環境保護活動家。1934年ロンドン生まれ。幼い頃から無類の動物好きだった。23歳で人類学の権威ルイス・リーキー博士と出会い、動物に対する情熱と知識に感銘を受けた博士から、野生のチンパンジーの生態調査を依頼される。1960年、アフリカのゴンベの森へ。そこでの研究で、チンパンジーも道具を使うことなど数々の新発見をする。1986年以降は、悪化する一方の環境破壊と貧困を食い止めるべく、世界中で積極的に講演活動をする。著書、ドキュメンタリー番組多数。国連平和大使。大英帝国勲位、京都賞、テンプルトン賞など数々を受勲、受賞。世界中の尊敬を集めつづける。
エイブラムス,ダグラス (Abrams, Douglas)
作家、編集者。著作権エージェンシーにしてメディア開発会社の“アイディア・アーキテクツ”創始者。
岩田佳代子 (イワタ カヨコ)
翻訳家。清泉女子大学文学部卒。訳書に『フェミニスト・ファイト・クラブ』(海と月社)、『幸運を呼ぶウィッカの食卓』(パンローリング)など。
【抜書】
●信仰(p24)
「信仰は、宇宙のかなたに人智を超えた力があると心から信じること。その力は、神やアッラーに置き換えることもできる。創造主である神を信じたり、死後の世界やほかの教義を信じるのが信仰よ。それらは真実だと信じることはできても、知ることはできない。でも、自分が目指したい方向は知ることができるし、それが正しい方向だと希望を持つことはできる。つまり、誰にも未来がわからない以上、希望は信仰よりもはるかに謙虚なものだと言えるでしょうね」
●希望学(p44)
〔 ジェーンとこの本をつくろうと思ったとき、わたしは「希望学」という比較的新しい分野について調べてみた。すると、希望が願望や空想とはまったく別物であることがわかって驚いた。希望は未来の成功をもたらすが、願望にはそれができない。どちらも想像力を駆使して未来を考えるが、望みどおりのゴールを達成するための行動へとわれわれをかきたてるのは希望だけだという。この点についてはジェーンも、その後の対談で繰り返し強調している。〕(ダグラス)
●物語(p48)
「希望を持っていれば、生活のいろいろな面がすこぶるよくなるのはたしかで、それは行動や結果にも影響してくるでしょう。ただ、人を行動へかりたてるのは、データより物語だってことも肝に銘じておくのが大事ね。たくさんの人に言われるのよ、あなたの話にはデータが登場しないから助かるって」
●自分がしてもらいたいこと(p76)
人間がもっと善良で、もっと思いやりがって、もっと穏やかになれる方法。
「必要なのは、新たな道徳規範ね、それも世界的な」
「ねえ、世界の主な宗教が、口先だけでもいいから、いっせいに『自分がしてもらいたいことを人にしなさい』って唱えるようにしたらいいのに。そうしたら簡単に、それが世界的な道徳規範になる。あとは、みんなにその規範をきちんと守ってもらう方法を考えればいいだけ!」
「でも、難しいでしょうね、人間には欠点があるから。欲だったり、身勝手なところだったり。権力や富への執着もあるし……」
●理性と感情(p79)
「我々が完全な人間になるには、時間がかかるでしょう」
「わたしたちは、理性と感情が一致しないかぎり、人間としての可能性を十二分に発揮することはできないし、それを理解するには、もっともっと時間をかけて進化をしなくちゃならないってことじゃないかしら。天才リンネは、わたしたち人間という種をホモ・サピエンス、“賢い”人間と名づけたわ」
「さっき、理性と感情が一致しないかぎり難しいって言ったけど、賢明に使う気が本当にあるなら、それを証明するのはまさに今よ。だって、今賢明に行動して、地球温暖化や植物や動物の絶滅を食い止めなかったら手遅れになるんですもの。地上の生あるものを現在進行形で脅かしている問題を、人類は力を合わせて解決しなくちゃ。そのためには、四つの大きな問題を解決する必要がある。その四つとも、そらんじているわ。講演でよく話しているから。」
貧困の軽減、富裕層の生活スタイルの見直し、汚職の一掃、人口と家畜数の増加。
●エコグリーフ(p96)
エコ不安症とも。
無力感や抑圧感、不安、甘受、あきらめ、など、気候危機がもたらす心理状態。
●ハラ―パーク(p113)
ケニアの海岸近くに広がる2㎢の自然公園。多くの観光客が訪れる。
バンブリ・セメントという会社が開発した採石場は、廃墟となり、何も育たなくなっていた。
この会社の創設者のフェリックス・マンドルは、園芸の専門知識がある社員ルネ・ハラーに、生態系の回復という任務を課した。
そして、先駆植物であるモクマオウ属の木を植え、ヤスデを移入して針葉を食べさせて土に返した。10年後、最初に根付かせた木々は30mにまで成長し、180種を超える自生植物が育つまでになった。最終的にはキリンやシマウマ、カバまで連れてこられるようになった。
●タカリ(p127)
1994年、JGI(ジェーン・グドール・インスティテュート)が始めたプロジェクト。
タンザニアの村々を回り、困っていることを聞き出して問題解決を図った。マイクロクレジットなども立ち上げた。
村を豊かにしていくことが、チンパンジーの捕獲を抑制し、保護につながる。
●子孫からの借り物(p143)
「『地球は祖先から受け継いだものではなく、子孫から借りているものだ』という有名な言葉がある。だけど、わたしたちは子孫から借りてなんかいない、奪ったのよ。借りれば返す、それが当たり前。なのに、長い長い年月にわたって彼らの未来を奪いつづけ、積もり積もって、今や許容範囲をはるかに超えてしまった」
●ルーツ&シューツ(p144)
根っこと新芽。1991年、ジェーンが始めた若者のためのプログラム。世界中で、気候変動や環境破壊に立ち向かうためのプロジェクトを、子供たち、若者たちが自主的に考えて実行する。この運動が世界中に広がっている。幼稚園から大学まで、68か国数十万人のメンバーが活動。
タンザニアの八つの高校に通う12人の生徒が、ダルエスサラームのジェーンの自宅に訪ねてきたことがきっかけで始まった。
【ツッコミ処】
・ウイスキー(p82)
「理性と感情」に関する抜き書きで示したとおり、四つの大きな問題の一つとしてジェーンは「富裕層の生活スタイルの見直し」について言及している。これには全く同意見なのだが……。
しかしながらジェシーは、ウイスキーが大好物で、ときおりウイスキーをたしなみながらインタビューを受けていたようだ。ウイスキーの原料となる麦がもし貧困層の食料に回せるのなら、一つ目の問題の「貧困の軽減」にもつながるはずだが、その点はどう考えているのだろうか。たぶん、ここも私と同じ考えだろうが……。
(2023/2/28)NM
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