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中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史
 [歴史・地理・民俗]

中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史 (講談社選書メチエ)
 
松下憲一/著
出版社名:講談社(講談社選書メチエ 785)
出版年月:2023年5月
ISBNコード:978-4-06-531839-3
税込価格:1,870円
頁数・縦:243p・19cm
 
 中国の歴代王朝は、北方の異民族に支配されたものが半数近くある。そのなかで、のちの中国文明に少なからず影響を及ぼした北魏、鮮卑拓跋部の王朝の歴史を詳しく解説する。
 
【目次】
第1章 拓跋部の故郷―遊牧と伝説
第2章 部族を集めろ―「代国」の時代
第3章 部族を再編せよ―北魏の成立
第4章 中華の半分を手に―胡漢二重体制
第5章 中華の中心へ―孝文帝の「漢化」
第6章 胡漢融合への模索―繁栄と分裂
第7章 誕生!新たな中華―隋唐帝国の拓跋
 
【著者】
松下 憲一 (マツシタ ケンイチ)
 1971年、静岡県生まれ。2001年、北海道大学大学院文学研究科博士後期課程東洋史学専攻修了。博士(文学)。現在、愛知学院大学文学部教授。
 
【抜書】
●異民族王朝(p10)
 中国王朝のなかには、北方遊牧民が支配者となった異民族王朝(征服王朝、遊牧王朝とも)がある。
 五胡十六国、北朝、五代、遼、金、元、清である。
 近年では、隋・唐も遊牧王朝とする見解が強い。
 なお、金と清を建てた女真族は正確には遊牧を行わない狩猟民だが、遊牧民と同様に高度な騎馬技術を生かした軍事力を持っていた。
 つまり、中国王朝の半分は、異民族王朝が支配していた時代といってよい。
 
●子貴母死(p86)
 北魏では、後宮の女性が子供を生み、その子が後継者に選ばれると、生母は死を賜う。
 『魏書』太宗紀において、道武帝が息子の明元帝に次のように説明している。
 「むかし前漢の武帝が母親を殺し、母親がのちに国政に参与し、外戚が政治を乱さないようにした。お前はまさに跡継ぎになるのだから、わしも前漢の武帝と同じことをして、長くつづく計〈はかりごと〉とする。」
 この説明を受けた明元帝は、悲しみのあまり日夜号泣した。それを見た道武帝は、激怒して明元帝を呼びつけた。明元帝が行こうとすると、左右の者が「ここしばらくは平城を離れるべきです」と押しとどめた。
 明元帝が後継者になることを拒否したと思った道武帝は、弟の清河王紹を後継者にするため、紹の生母の賀氏を幽閉した。殺されると知った賀氏は紹に助けを求め、紹は宮中に乗り込んで道武帝を暗殺した。賀氏の出身部族の賀蘭部でも、かつての部族を集めて平城に乗り込もうと烽火を上げて集合した。
 一部の官僚が明元帝を呼び戻し、清河王紹を倒して、皇帝に即位した。
 あれほど子貴母死に反対した明元帝だったが、自分の後継者選びの際には、躊躇なく採用している。
 その理由は……。
 代国時代、母親が政治に口出しすること、後継者の選択に関与することがしばしば起きた。その反省を生かして、後継者に選ばれた時点で母親を排除することになった。
 もう一つの狙いは、後継者をあらかじめ選ぶということ。代国時代の後継者は、能力・年齢・母親の出身などをもとに、部族長たちが選んでいた。拓跋氏の中から選ばれるとはいえ、継承の仕方に定まった順番はなかった。そこで道武帝は、自分の子供、さらに孫と直系子孫に確実に継承されるよう、あらかじめ後継者を決めることにした。その際に母親を殺すという代償を払うことで、後継者選びを神聖化したのである。
 子供が皇帝に即位すると、殺された生母は、皇后の称号をもらって宗廟に祭られる。また、生母の一族に対しては、爵位が与えられて優遇される。ただし、政治的な権限は与えられなかった。
 
●レビレート(p204)
 夫を亡くした女性が夫の兄弟と再婚すること。遊牧社会では、夫の子と再婚する形も含め、広く行われていた。
 中華世界にはない風習。「貞女は二夫〈じふ〉を更〈か〉えず」。
 遊牧社会におけるレビレートの目的の一つは、部族同士の同盟を維持するというもの。君主の妻は他の部族から嫁いでくるため、妻を引き継ぐことで、その部族との同盟も維持される。
 中華世界に持ち込まれたのは、五胡十六国時代になってから。
 
●小麦の粉食(p228)
 小麦の栽培が華北で本格化するのは漢代。魏晋時代には胡餅〈こへい〉が文献に登場するようになる。
 小麦の粉食は、魏晋南北朝から隋唐にかけて爆発的に広がり、種類も豊富になる。
 小麦を挽いて、水と一緒にこねてまとめる。それをしばらく寝かしてから、細く伸ばせば麺になる。拉麺の「拉」は伸ばすという意味。削れば刀削麺。薄く延ばして肉を詰めれば包子〈パオズ〉、餃子。何も入れずに蒸せば饅頭〈マントウ〉。薄く延ばしたものを窯で焼けば芝麻餅〈ジーマーピン〉、鉄板の上で焼けば餤〈タン:クレープ〉、その上に具材をのせて包むと庶民の朝ごはん煎餅〈チェンピン〉。
 
〈この本の詳細〉


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