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生き物の死にざま はかない命の物語
 [自然科学]

生き物の死にざま はかない命の物語
 
稲垣栄洋/著
出版社名:草思社(草思社文庫 い5-3)
出版年月:2022年2月
ISBNコード:978-4-7942-2563-4
税込価格:825円
頁数・縦:258p・16㎝
 
 さまざまな生物の死と生態を集めたエッセー集。
 
【目次】
1 愛か、本能か
 コウテイペンギン―氷の世界で数か月絶食して卵を守り続ける父
 コチドリ―子を守るための「擬傷」と遺伝子の謎
  ほか
2 生き物と人
 セミ―羽化をはばまれた夏
 シラスとイワシ―大回遊の末にたどりついたどんぶり
  ほか
3 摂理と残酷
 カエル―モズに串刺しにされたものたちの声なき声
 クジラ―深海の生態系を育む「母」 ほか
4 生命の神秘
 雑草―なぜ千年の命を捨てて短い命を選択したのか
 樹木―「生と死」をまとって生き続ける
  ほか
 
【著者】
稲垣 栄洋 (イナガキ ヒデヒロ)
 1968年静岡県生まれ。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士。専門は雑草生態学。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省、静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て、現職。
 
【抜書】
●プランクトン(p37)
 鮭の稚魚が孵ったばかりの場所は、川の上流部で栄養分が少なく、餌になるプランクトンが少ない。
 しかし、サケが卵を産んだ場所には、不思議とプランクトンが豊富に湧き上がる。産卵を終えて息絶えたサケたちの死骸は、多くの生き物の餌となる。生き物たちの営みによって分解された有機物が餌となり、プランクトンが発生するのである。
 
●亜成虫(p54)
 カゲロウは、幼虫から羽化して「亜成虫」となる。翅があって空を飛べる。亜成虫の姿で移動し、再び脱皮をして成虫となる。
 カゲロウは、昆虫の進化の過程ではかなり原始的なタイプ。初期の昆虫は翅がなかったと考えられる。翅を発達させて空中を飛んだ最初の昆虫であると推察されている。3億年前。現在と変わらない姿をしていた。
 
●アンテキヌス(p71)
 体長10cm程度、ネズミに似た有袋類。
 寿命は、メスが2年程度、オスが1年未満。生まれて10カ月で成熟し、冬の終わりの2週間程度が繁殖期となる。成熟したオスは、不眠不休でメスを探し続け、見つけては次々と交尾を繰り返す。
 メスは、選り好みせず、どんなオスでも受け入れる。
 
●ベニクラゲ(p103)
 クラゲは、プラヌラ → ポリプ(分裂して増殖) → ストロビラ → エフィラ → 成体(体内で卵をかえし) → プラヌラ ……、という生活史を送る。
 ベニクラゲの場合、成体へと成長し、死んだ後(?)、小さく丸まって新たなポリプとなる。何度も若返ってポリプになり、生涯をやり直すことができる。
 クラゲが地球に出現したのは5億年前。5億年間、ずっと生き続けているベニクラゲがいる?
 
●シロアリ(p136)
 ゴキブリ目に分類されている。
 王である雄1匹と女王のつがいと、雄と雌からなる働きアリや兵隊アリでコロニーを作る。種類にもよるが、コロニーは10万匹から100万匹を超える巨大な集団となる。
 働きアリは数年の寿命だが、女王アリは10年以上も生きる。長いものでは数十年。多くの卵を産むために腹部を発達させている。
 巣にしている腐った木を食べつくすと、他の木に移る。この時、繁殖能力の衰えた女王アリは置き去りにされ、代わりに「副女王アリ」が新居に運ばれていく。
 
●ハダカデバネズミのフェロモンと糞(p162)
 ハダカデバネズミは、20世紀後半、東アフリカの乾燥地帯で発見された。子どもを産むたった一匹の繁殖メスの女王と、少数の繁殖オスの他は、オスもメスも生殖器官が未発達。子孫を残すことのないソルジャーとワーカーとに役割分担されている。
 ハダカデバネズミは、アリやシロアリのようには明確な階級がない。どのメスも女王になり、どのオスも王になる資格がある。
 そのため、女王は群れの秩序を守るために常に巣の中を回りながら、フェロモンを分泌してワーカーたちの繁殖行動を抑えている。
 ワーカーは、女王の糞を食べることで初めて母性を獲得し、女王の産んだ子供を育てるようになる。
 
●スプーン1杯(p173)
〔 ミツバチは、その一生をかけて、働きづめに働いて、やっとスプーン一杯の蜂蜜を集めるのだという。〕
 女王バチは数年生きるが、働きバチの寿命は1カ月余り。最後の2週間、花を回って蜜を集めるという危険な仕事に就く。
 
●蝦蟇(p182)
 ヒキガエルは、昔は「蝦蟇〈がま〉」と呼ばれ、「蛙」と区別されていた。他のカエルのようにピョンピョンと跳ねることがなく、地面の上をのそのそと動いて移動するため。
 
●狂犬病(p236)
 かつてオオカミは、「大神」に由来し、神と崇められていた。人を襲うことはめったになく、畑を荒らすシカやイノシシを退治してくれる役に立つ動物だった。
 オオカミは、明治時代になると人間を襲い、危害を加えるようなった。
 江戸時代中期、西洋から長崎に狂犬病が持ち込まれた。明治期になるとしばしば狂犬病が流行するようになり、野生のオオカミにも蔓延していった。狂暴になったオオカミが人間を襲うようになり、人間に狂犬病を感染させた。
 こうして人々はオオカミを憎むようになり、全国で駆除されていく。
 
(2023/12/7)NM
 
〈この本の詳細〉


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ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた
 [社会・政治・時事]

ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた
 
斎藤幸平/著
出版社名:KADOKAWA
出版年月:2022年11月
ISBNコード:978-4-04-400715-7
税込価格:1,650円
頁数・縦:220p・19cm
 
 「毎日新聞」文化面に、2020年4月から2022年3月まで連載された「斎藤幸平の分岐点ニッポン」に、「特別回 アイヌの今」を加えて書籍化した。哲学者が「現場」に行って様々なことを経験し、いまのニッポンに関する感想を綴る。
 
【目次】
第1章 社会の変化や違和感に向き合う 
 ウーバーイーツで配達してみた―自由と、自己責任と
 どうなのテレワーク―見直せ、大切な「無駄」
 京大タテカン文化考―表現の自由の原体験
  ほか
第2章 気候変動の地球で
 電力を考える―1人の力が大きな波に
 世界を救う?昆虫食―価値観の壁を越えれば
 未来の「切り札」?培養肉―食のかたちをどう変えるか
  ほか
第3章 偏見を見直し公正な社会へ
 差別にあえぐ外国人労働者たち―自分事として
 ミャンマーのためにできること―知ることが第一歩
 釜ケ崎で考える野宿者への差別―内なる偏見に目を
  ほか
 
【著者】
斎藤 幸平 (サイトウ コウヘイ)
 1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。『Karl Marx’s Ecosocialism』(邦訳『大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝』角川ソフィア文庫)によって権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界9ケ国語で翻訳刊行されている。日本国内では、晩期マルクスをめぐる先駆的な研究によって日本学術振興会賞受賞。『人新世の「資本論」』(集英社新書)で新書大賞2021を受賞。
 
【抜書】
●ミナペルホネン(p116)
 1995年にデザイナーの皆川明が設立したファッションブランド。エシカルなファッションを実践している。
 皆川明「結局はリサイクルされないものの方がサステナブル(持続可能)です。」
 「最新のテクノロジーや機械を使わなくても、解決できることがある。それは手間をかけるということだったりする。」
 ミナは、縫製工場で出た余り布をすべて回収し、別のものづくりに生かす。
 ミナは、広告をほとんど打たず、ショーもセールもしない。長く使ってもらえるように修理にも応じる。
〔 アパレル業界は「トレンド」を後追いし、「新作」と「旧作」の見分けもつかないような似た服を毎シーズン大々的に売り出している。生産現場のコストカットを断行する一方、コラボや広告費だけは膨れ上がる。その結果、消費者が要らないものを買わされるなら、誰も幸せにならない。〕
 
【ツッコミ処】
・虚無感(p19)
 ウーバーイーツの配達員。
〔 それに、配達員はアプリの指示を追っている分にはサイクリング気分だと言ったが、裏を返せばただスマホの指示をぼーっと追っているだけで、創造性を発揮する余地は少ない。「誰にでも」「空いた時間」でできる仕事は低賃金だ。それ以上のやりがいがあればいいかもしれない。お金もうけではなく、人との繋がりがシェアリング・エコノミーの醍醐味のはずだから。だが、他者と触れ合う時間は一瞬で、「お疲れ様、ありがとう」もない。何もシェアしていないのだ。ギグワークはAIやロボットにやらせるとコストが高過ぎる作業を人間が埋めているような虚無感が残る。〕
  ↓
 配達員のやりがいとは、他者との触れ合いより、暇な時間を自転車に乗ることで運動ができる、ということかなと思う。はなから創造性なんか求めてないし。
 引退して年金生活になった時の無聊を解消し、身体を動かす機会として、配達員は相応しいのではないか。お小遣い稼ぎにもなるし。
 自転車に乗るのは好きなのだが、どこかに行く目的もなく乗るのは、飽きてしまって続かない。ウーバーイーツでその目的地ができればちょうどいい。
 引退して暇になったら配達員をやってみようかな、とひそかに思っている。
 
(2023/12/4)NM
 
〈この本の詳細〉


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