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苦学と立身と図書館 パブリック・ライブラリーと近代日本
 [ 読書・出版・書店]

苦学と立身と図書館 パブリックライブラリーと近代日本
 
伊東達也/著
出版社名:青弓社
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-7872-0074-7
税込価格:2,860円
頁数・縦:262p・19cm
 
 江戸時代から明治・大正期にかけての公共図書館の歴史と意義、利用のされ方をたどる。
 
【目次】
序章 “public library”と日本の図書館
第1章 日本的図書館観の原型
第2章 パブリック・ライブラリーを日本に
第3章 東京遊学と図書館の発見
第4章 読書装置としての貸本屋と図書館
第5章 苦学と立身と図書館
第6章 勉強空間としての図書館の成立
 
【著者】
伊東 達也 (イトウ タツヤ)
 1965年、福岡県生まれ。九州大学大学院人間環境学府教育システム専攻博士課程単位取得退学。博士(教育学)。山口大学人文学部講師。専攻は図書館学、日本教育史。
 
【抜書】
●文庫、神社(p32)
〔 「文庫」と「貸本屋」それぞれの社会的機能を、近代公共図書館へと展開する可能性をもった読書施設に伝統的に備わるものと捉えたとき、書籍の貸借だけでなく、書庫や閲覧室といった読書空間を備えた建物としての図書館により近いのは「文庫」であり、その内容と機能では近世の文庫は近代の図書館と同質の要素をもっていたといえる。こうした性格と機能の類似性があったからこそ、近代公共図書館が制度上に登場した際に、人々はそのコンセプトを受け入れることができたのであり、現在の日本図書館協会の創設時(一九〇七年)の名称が日本文庫協会だったことにもあらわれているように、読書施設としての図書館は主に「文庫」に対する概念を底流として受容されたと考えることができる。
 基本的に武家のための文庫だった藩校付属の文庫を除き、一般庶民にも公開された文庫には、古来、神社に対する贄の一種として奉納されてきた図書を基礎として成立した神社文庫が多くあった。神社は市井を離れて森林や山中にあるのが普通であるために火災の被害がまれで、冒すことができない神域として万人に崇敬されているため破壊や戦禍を受けることがなく、図書を保存して文庫を設けるのに適していた。神社文庫のなかには、神職である国語学者による古典の収集・保存運動を起源とするものが多いことが指摘されている。〕
 
●櫛田文庫(p34)
 櫛田文庫(桜雲館)は、1818年(文政元年)、福岡藩大目付だった岸田文平によって筑前博多の櫛田神社内に設けられ、一般に公開された。
 利用が盛んになってくると、市中の若者たちが「読書に耽り家業怠り勝ち」になり「風紀面白からず」という状況になったため、藩命で「御取り止め」になった。神職を中心とした神道復興運動の拠点となってしまい、東学問所修猷館、西学問所甘棠館に匹敵するような学問所・桜雲館として発展させることができなかった。
 
●図書館令(p50)
 1899年(明治32年)、図書館令が公布される。
 この頃、都市部に次々と大規模な私立図書館が造られた。設立者が外遊し、当時欧米で盛んだった公共図書館に直接接したことが契機となって、私費を投じて設立された。
 南葵文庫(1899年、東京)、成田図書館(1901年・千葉)、大橋図書館(1902年、東京)、など。
 福岡図書館は、これらと異なり、福岡に存在した国学者のネットワークの中から発生した。
 
●納本制度(p127)
 1875年(明治8年)に始まった制度。
 出版物を公刊する際、出版条例に基づく検閲のために内務省に提出された数冊のうち一部が東京図書館に納本される。法律学校や医学校の講義録、資格試験の問題集なども含まれていた。
 
東京図書館(p131)
 1872年(明治5年)、書籍館として設立された。
 1875年(明治8年)、東京書籍館となる。書籍館が博物館とともに太政官の博覧会事務局に移管された後、文部大輔田中不二麿によって設立された。文部省所管。入館料(閲覧料)無料。77年から3年間、東京府に移管された。
 1880年(明治13年)~、東京図書館として、文部省の所管に戻る。
 1897年(明治30年)より、帝国図書館となる。
 東京図書館では、開館から85年(明治18年)まで、湯島聖堂にあったあいだは入館料(閲覧料)無料だった。上野に移転してから有料になった。
 
●物之本(p146)
 江戸時代、商品としての本は、おおきく「物之本」と「草紙」の2種類に分かれていた。
 物之本……教養書、実用書。販売を目的とした書店で扱われる。「本屋」という語は、「物之本屋」の略語。
 草紙……挿絵が入った読み物や物語。主に貸本屋が扱う。
 
●黙読(p160)
 人々の読書習慣の主流が音読から黙読に移行した時期は、1900年前後(明治30年代)ごろ。
 1909年に出版された『読書力の養成』では、「汽車の中や、電車の中や、停車場の待合室にて、をりをり新聞、雑誌の類を音読する人あるを見受く。調子のよき詩歌や美文ならともかく、普通の読物を音読するにても、其の人の読書力は推して知るべし」と記す。音読することが読書能力の低さの表れと見なされている。
 
(2021/2/27)KG
 
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公共図書館が消滅する日
 [ 読書・出版・書店]

公共図書館が消滅する日  
薬師院仁志/著 薬師院はるみ/著
出版社名:牧野出版
出版年月:2020年5月
ISBNコード:978-4-89500-229-5
税込価格:2,970円
頁数・縦:438p・19cm
 
 中小レポート(日本図書館協会編『中小都市における公共図書館の運営:中小公共図書運営基準委員会報告』日本図書館協会、1963年)や『市民の図書館』(日本図書館協会刊、1970年)が築いてきた、個別の公立図書館による「自助努力」神話に対する批判の書。主に戦後の図書館および図書館政策の歴史を繰りながら、出版文化を礎とした公立図書館の存在意義を問う。
 
【目次】
第1部 戦後期公共図書館史の歪曲と真相
 語られた歴史と不都合な事実
 占領期の民主化政策と出遅れた公立図書館
 ささやかな図書館法と肥大化した後付け解釈
 なけなしの職業資格と図書館発展への抵抗
第2部 粉職された図書館発展と用意された顛末
 神話の中の『中小レポート』と日野市立図書館
 図書館発展の実態と好都合な共同幻想
 図書館界のハリネズミ化と自滅への道
 最後の助け舟と泥舟への固執
 
【著者】
薬師院 仁志 (ヤクシイン ヒトシ)
 京都大学大学院教育学研究科博士後期課程(教育社会学)中退。京都大学教育学部助手、帝塚山学院大学文学部専任講師等を経て、同大学教授(社会学)、大阪市政調査会理事、レンヌ第二大学レンヌ日本文化研究センター副所長。
 
薬師院 はるみ (ヤクシイン ハルミ)
 京都大学大学院教育学研究科博士後期課程(図書館情報学)研究指導認定退学。金城学院大学文学部専任講師等を経て、同大学教授(図書館情報学)。
 
【抜書】
●CIE図書館(p47)
 1946年3月、CIE図書館(日比谷センター)が、「1号館」として開館。「日比谷にあった日東紅茶の喫茶室を接収」して開館。その後、計23館が設置された。「人口20万人以上の17の市にインフォメーション・センターを設置する方針」だったが、「1950年になると日本側の自治体から」の要望がCIEに寄せられるようになり、最終的に23館になった。
 CIE……GHQの民間情報教育局(CIE)だけではなく、各地方に置かれた軍政部の民間情報教育課(CIE)の設置した読書室も各地にあった。神奈川県秦野町の「カマボコ図書館」は、軍政部が提供したQuonset hut(カマボコ兵舎)だった。
 成人教育のための拠点。「アメリカから取り寄せた英文図書や定期刊行物が一般市民に開放され」ただけでなく、「文化活動の場として、映画会、展示会、講演会、シンポジウム、レコード・コンサート、ダンス、英会話教室などが催され」た。
 『格子なき図書館』(1950年12月5日封切)も巡回上映された。図書館員向けの教育映画。1950年4月末、図書館法成立。
 
●1970年代(p168)
 日本の公共図書館は、1960年代後半から70年代にかけて飛躍的な発展を遂げたと言われている。
 しかし、県立図書館の建築ブームとマンモス化とは裏腹に、市区町村立の中小図書館は「暗澹たる状況」にあった。
 
●貸本屋(p185)
 1950年代後半から60年代初めにかけて最盛期。
 文具店・駄菓子店などとの兼業も含め、東京都で3千店、全国で3万店の店舗があったと推計される。
 
●日野市立図書館(p198)
 1965年開館。当時の市長・有山崧(たかし)、館長・前川恒雄(34歳)。
 図書費は、初年度500万円、翌年1千万円。当時としては破格で、これより多かったのは都府県立図書館6館くらい。
 移動図書館からスタートして、いくつかの分館ができ、さらに中央図書館ができる。普通の図書館の発展の道筋とは逆の経路をたどった。
 
●十年一日(p215)
 〔司書は確かに専門職ではあるが、その専門性は十年一日のようにくりかえす仕事によって高められ、社会に認められるようになるのであって、これ以外の道はないのである。〕
 前川恒雄『われらの図書館』(1987年、筑摩書房)p.145。
 
●文化行政(p269)
 1970年代後半から、全国的な図書館の新設が加速する。
 「物質生産主導型思想の見直し」が叫ばれ、文化行政が本格的に開始された時期。「日本経済の高度成長が一段落した」後に、図書館やほかの教育文化施設が整備されることになった。地方の時代、文化の時代。
 
●図書館基本法要綱(p279)
 1981年9月、図書館事業基本法要綱(案)を起草。11月、各党選出の20名による「図書館振興検討委員会」を設ける。
 一方で、基本法要綱が、コンピュータ・システムによって国家の一元的な管理コントロールに置かれるとして、反対する一派も現れる。
 1983年3月8日、図書館事業基本法(図書館事業振興法)は、淡い虹のように消え去ってしまう。(p311)
 
●出版文化(p356)
〔 書物を通じた「教育と文化の発展」は、学術書や教養書や純文学作品などの出版そのものが衰退したのでは望み得ない。その点を問題にしたからこそ、『朝日新聞』の記事は、編集者側の意見を「文化の多様性」と集約し、大活字で載せたのである。なるほど、公立図書館が消滅すれば、出版文化の大きな担い手が失われることになるだろう。しかしながら、自らの発展や生き残りを図るばかりで出版文化を支えようとしない公立図書館は、「国民の教育と文化の発展に寄与」に責任を負う官立機関として根本的に失格なのだ。国民の側に立てば、公立図書館は、あくまでも官公庁の一部局だということを忘れてはならない。〕
 
●本の文化(p385)
 〔作家の主張を拒絶した図書館関係者の態度も、非常に敵対的であった。三田誠広は、「公共図書館は、地方自治体が住民サービスのために開設しているのだから、住民の期待に応えるというのは、当然の責務である」と認めた上で、公貸権(公共貸与権)の導入を提案したのだ。だが、そこに返された言葉は反論ですらなく、「『図書館が侵す作家の権利』とまで言い募って補償金を要求する彼らの人間性にもの悲しさをおぼえる」というものであった。これもまた、図書館学の研究に責任を負う大学教授の言葉なのだ。なぜ――図書館学者も含め――公立図書館の世界で主導的な立場にある者たちは、作家や出版社と協力しながら、共に本の文化を発展させることを提案しないのだろうか。公立図書館に誰が何の御用があるのかは知らないが、「もの悲しさをおぼえる」べきは、どのような者に対してであろうか。〕
 
●公共図書館制度(p395)
〔 もちろん、国家的な制度が一朝一夕で出来上がるはずはない。だからこそ、目先の効用を追ってはならないのだ。むしろ、あえて遠回りを選び、日本の図書館界が迷走を始める以前の段階まで遡ることが不可欠だろう。フィリップ・キーニーによる計画案(キーニープラン)や、有山崧が構想した「公共図書館の全国計画(ナショナルプラン)」の地点に立ち返って議論を始めることが必要なのである。この長い作業は、公立図書館の枠を超え、日本の公共政策の根本を問い直す試みになるに違いない。公立図書館こそ、他に先駆けて、各自治体や個別施設による自助努力論の結末を実証したからである。地方分権という名の地方切り捨てが招く顛末を体現したのも、公立図書館に他ならない。我々は、この手痛い教訓を無駄にしてはならないのである。〕
 
(2021/1/11)KG
 
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プロ司書の検索術 「本当に欲しかった情報」の見つけ方
 [ 読書・出版・書店]

プロ司書の検索術: 「本当に欲しかった情報」の見つけ方 (図書館サポートフォーラムシリーズ)
 
入矢玲子/著
出版社名:日外アソシエーツ(図書館サポートフォーラムシリーズ)
出版年月:2020年10月
ISBNコード:978-4-8169-2851-2
税込価格:2,530円
頁数・縦:241p・19cm
 
 大学図書館で長くレファレンスに携わった「プロ司書」が、その検索のコツや方法論を体系的にまとめた書。
 大学の情報リテラシーの教科書・入門書として使えそうな内容である。それどころか、本書でも言及しているように、「探究学習」が重要度を増している中学・高校時代から知っておきたい内容である。もちろん、社会人も……。
 インターネットを中心に論じているが、紙の本の重要さにも目配りし、「昭和な私」も随所に顔を出す。そのへんは、いち司書としての随想として、教科書とは異質な読みどころである。
 
【目次】
まえがき―探すチカラを基礎から鍛える
第1章 こんな時代に情報のプロがなぜ必要?―検索概説
第2章 基本はあらゆる本を探せること―本の検索
第3章 新聞・雑誌を発想の鍵の束に使う―記事と論文の検索
第4章 不慣れな分野を効率よく調べる―領域別の検索
第5章 信頼できる情報だけを選りすぐる―信頼性の向上
第6章 いいキーワードを次々と発想する―検索の質の向上
第7章 世界の視点で受信と発信を見直す―情報学ガイド
 
【著者】
入矢 玲子 (イリヤ レイコ)
 1978年、大阪外国語大学(現大阪大学)イスパニア語学科卒。同年から中央大学職員として図書館に勤務。同大学図書館事務部レファレンス・情報リテラシー担当副部長を務める。1991年~92年、米国イリノイ大学モーテンソンセンター日本人初フェローとして派遣され、同大学商学部客員研究員、日本関係レファレンスサービスなどを担当。1996年~2004年、日本図書館協会「日本の参考図書」編纂委員。
 
【抜書】
●情報の成熟(p50)
 情報は、一般に次のような時間的ステップを踏んで成熟していく。
 (1)報道……テレビ、ラジオといったメディアが報じる。速報性がある半面、情報量が少なく細切れになりがち。
 (2)記事……新聞、雑誌が報じる。翌日か数日後に新聞が報じ、一週間から数か月後に週刊誌、月刊誌などの一般雑誌が追う。
 (3)論文……学術雑誌が掲載する。信頼性が高い半面、一般の人には目につきにくく、扱いづらい。
 (4)本……書籍になる。著者、編者が何年もかけて情報を知識、知恵に練り上げた成果。情報の全体像を体系的につかめるようになる。
 (5)定説……辞典や事典に載る。さらに長い年月をかけて(1)~(4)が選別され、辞典や事典、教科書に載るような簡潔な記述になる。情報としての成熟を終えた形。
 
●ジャパンサーチ(p65)
 国の分野横断統合ポータル。
 EUのデジタルプラットフォーム「ヨーロピアナ(Europeana)」のいわば日本版。
 2020年8月に公開。
 
●紙とウェブ(p112)
〔 ウェブだけで検索するよりも、「紙の本とウェブを組み合わせたほうが早い」「紙の本で探すほうが網羅的に目を通せる」「図書館に出向くほうがムダがない」場合があることは、くり返し強調したいと思います。〕
 
●Mindsガイドラインライブラリ(p138)
 診療ガイドラインの検索サイト。日本医療機能評価機構が提供。
 
●デジタルネイティブ(p158)
 1980年代以降に生まれた世代。
 
●百科事典(p163)
〔 紙の事典など必要ないと思う方も多いでしょう。でも、百科事典を全巻読み通して勉強した偉人たちの話を聞いて育った昭和な私は、紙の百科事典に心が高鳴る郷愁を感じるのです。〕
 
●ダークアーカイブ(p195)
 電子ジャーナルは、出版社の事情や災害などによってアクセスできなくなる危険がある。
 それを回避するために、大学と出版社は共同でダークアーカイブという、一種のバックアップを作った。
 保存されているコンテンツには通常はアクセスできず、出版社の倒産や災害といったトリガーイベントが起きた場合にのみアクセスできるようになっている。
 CLOCKSS……スタンフォード大学が主導し、世界の主要な図書館、学術出版社が共同運営。
 Portico……米国の非営利団体Ithakaが運営。
 
(2021/1/3)KG
 
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『ひとり出版社』は人生の楽園
 [ 読書・出版・書店]

「ひとり出版社」は人生の楽園
 
山中伊知郎/著
出版社名:飯塚書店
出版年月:2020年6月
ISBNコード:978-4-7522-6031-8
税込価格:1,650円
頁数・縦:206p・19cm
 
 
■セカンドライフにおすすめ
 「ひとり出版社」山中企画を営み、8年間で40冊の書籍を出版してきた著者による、製作した書籍とその筆者にまつわる思い出話と、「ひとり出版」業のノウハウをちょこっと。
 「ひとり出版社」とは、文字通り一人で企画を考え、取材(もしくは執筆依頼)をして原稿を編集し、本を作る出版社のことである。社員は一人もいないし、家族の手伝いもないようだが、出版業とは基本的に外注産業なので、出したものがそこそこ売れれば何とかやっていける。原稿さえ作れば、表紙デザインやレイアウトはデザイナーに、印刷は印刷所に、製本は製本所に頼めば立派に本は出来上がる。書店への配本は、取次の口座を持つ「流通代行責任会社」(山中企画の場合、星雲社)に頼めばいい。あとは、地道に出版記念パーティや講演会などで売るのが山中企画の販売手法である。
 とは言え、何万部も売れるヒット商品が出なければ、経営はなかなか難しい。半ば趣味として、そこそこの生活ができればいい、と割り切れなければ続かない。本づくりに生きがいを見いだしてこその「ひとり出版社」なのである。
 「自分が企画を立ち上げ、自分が汗を流して作った本が形となって出来上がった時の喜びは、格別です。」(p.10)
 1冊作る製作費は、50万円程度(表紙・本文デザイン10万、印刷・製本30万、取材費・交通費10万。p.88)。それほど掛からないから、退職金や厚生年金をたっぷりともらって引退したあなた、セカンドライフの「楽しみ」として、いかがですか!?
 
【目次】
序章 「ひとり出版社」の楽しさ
第1章 「チャンス青木」から始まった!
第2章 「腸」のオーソリティ田中保郎先生との出会い
第3章 マムシさんと河崎監督
第4章 起業家の方々
第5章 演歌とGS
第6章 取材旅行の日々
第7章 女性の著者たち
 
【著者】
山中 伊知郎 (ヤマナカ イチロウ)
昭和29(1954)年東京都文京区出身。早稲田大学法学部卒業。雑誌や単行本のライターとして活動後、2012年より、「ひとり出版社」山中企画をスタートさせ、8年間で約40冊の本を出す。お笑い関連本、健康関連本から、ビジネス本、演歌、GS(グループサウンズ)本など、出したジャンルは多岐にわたる。お笑いライブ「ちょっと昭和なヤングたち」は15年間続けている。
 
(2020/11/22)KG
 
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デジタルで読む脳×紙の本で読む脳 「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる
 [ 読書・出版・書店]

デジタルで読む脳 X 紙の本で読む脳 :「深い読み」ができるバイリテラシー脳を育てる  
メアリアン・ウルフ/著 大田直子/訳
出版社名:インターシフト
出版年月:2020年2月
ISBNコード:978-4-7726-9567-1
税込価格:2,420円
頁数・縦:293p・19cm
 
 文字を読む(読字)能力は天与のものではなく、ヒトが後天的に習得した能力である。だから、訓練しないと身につかない。さらに、「深く読む」能力を獲得するには、認知忍耐力が必要で、その先に、他者への共感を芽生えさせることができる。共感は、多文化共生のためには、必要な認知力である。
 また、この「深い読み」をデジタルツールで育てることは困難である(と著者は考えている)。デジタルでの読みは、紙媒体での読みとは異なる経験である。だから、将来の世代が紙とデジタルの「バイリテラシー」となれるよう、私たちは導いていかなくてはならない。
 とまあ、そんなことが書かれている。要は、デジタルでの「読み」だけではなく、人類がこれまでに発展させてきた従来の「読み」も、人類がこの先も存続していくためには必要だ、ということである。
 電子書籍で読むのと紙の本で読むのとでは、記憶に残る度合が違うと感じていたが、それは実験的に証明されているらしい。ただ、将来的にはどうなのだろう? 私は過渡期の世代なのでどちらも利用しているが(やや紙派)、この先、デジタルで読むのが主流となれば、紙の本と同様に「深い読み」ができるようにならないか?
 
【目次】
第1の手紙 デジタル文化は「読む脳」をどう変える?
第2の手紙 文字を読む脳の驚くべき光景
第3の手紙 「深い読み」は、絶滅寸前?
第4の手紙 これまでの読み手はどうなるか
第5の手紙 デジタル時代の子育て
第6の手紙 紙とデジタルをどう両立させるか
第7の手紙 読み方を教える
第8の手紙 バイリテラシーの脳を育てる
第9の手紙 読み手よ、わが家に帰りましょう
 
【著者】
ウルフ,メアリアン (Wolf, Mayranne)
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教育・情報学大学院の「ディスレクシア・多様な学習者・社会的公正センター」所長。前・タフツ大学の「読字・言語研究センター」所長。専門は認知神経科学、発達心理学、ディスレクシア研究。その優れた業績により、多数の賞を受賞。
 
【抜書】
●読字(p7)
〔 まず、この一〇年にわたる私の読字脳に関する研究の出発点となった、一見単純に思える事実から始めましょう。人類は誕生時から字が読めたわけではない。読み書き能力の獲得は、ホモ・サピエンスの遺伝子を超越した最も重要な功績のひとつです。その能力を獲得した種は、知られいる限りほかにいません。読字を学習する行為は、ヒトの脳のレパートリーにまったく新しい回路を加えました。読字学習の長い発展プロセスは、その回路の接続構造そのものを深く十分に変化させ、そのおかげで脳の配線が変わり、人間の思考の本質が変容しました。〕
 
●ベビーシューズ(p59)
 〔これまで書かれたなかで最も人の心をつかむ「ショートショート」〕。
  For sale: Baby shoes, never worn.(売ります。ベビーシューズ、未使用)
 アーネスト・ヘミングウェイが、仲間たちと賭けをして書いた、6語の物語。仲間たちは、ヘミングウェイが6語で物語を書くことはできない、という賭けをした。
 
●他者視点取得(p62)
 神学者ジョン・S・ダンは、読書における他者との出会いと他者視点取得のプロセスを「移入」の行為と表現。
 人は特定の種類の共感によって、他人の感情、想像、そして思考に入り込む。「移入はけっして完全ではなく、つねに部分的で不完全だ。そして同様に自分自身にもどる逆のプロセスがある」。
 
●認知忍耐力(p67)
 〔本によってつくられた世界と、そこに住む「友だち」の生活や気持ちに入り込む認知忍耐力をだんだん失えば、多くのことが失われます。動画や映画もその一端を担えるのはすばらしいことですが、本の世界でしっかり表現された他者の思考に入り込むことで可能になるものとは、没頭の質にちがいがあります。自分とまったく異なる人の考えや気持ちに出会うことがなく、それを理解するようにならない若い読み手はどうなるのでしょう? 自分の知らない同類でない人々への共感を失いはじめたら、年輩の読み手たちはどうなるのでしょう? ただの無知から不安、そして誤解へという公式こそ、アメリカがもともと多文化市民のために掲げていた目標とは逆の、好戦的なかたちの不寛容につながるおそれがあります。〕
 
●自分自身の知識ベース(p78)
 あまりに早く、あまりに大きく外部知識に依存することになると、読むものと知ることの関係が根本的に変わってしまう。
 新しい情報を推論と批判的分析をもって理解し解釈するには、自分自身の知識ベースを使うことができなくてはならない。
 それができないと、だんだんと影響を受けやすい人間になり、怪しげな情報や誤った情報にますます安易に誘導され、そんな情報を知識と勘違いするか、どちらであっても気にしないようになる。
 背景知識は、深い読みのプロセスにとって必須である。
 
●空間次元(p107)
 ノルウェーの研究者アン・マンゲンは、学生を対象に、『ジェニー、わが愛』という短編小説を、ペーパーバックかキンドルのどちらかで読ませる実験を行った。
 ペーパーバックで読んだ学生のほうが、画面で読んだ学生より、筋を時系列順に正しく再現できた。
 画面で読むことが斜め読み、読み飛ばし、拾い読みを促す傾向がある。また、何がどこにあるかを教えてくれる本の具体的な空間次元が画面には本質的にない。両方が関係して、時系列的な把握を曖昧にすると考えられる。
 
●再読(p139)
 「前者(初めて読むこと)のほうが速く、後者(再読)のほうが深い」。アン・ファディマン『再読』。
 
●回帰(p162)
 書記言語では、「回帰」が可能である。映画やテレビなどでは、もともと「回帰」できないので、画面を見るときには、文字を追っていても無意識に刹那的となる。細部の順序は記憶の中で曖昧になる。
 認知発達の観点からすると、回帰は振り返りを助け、そのおかげで子どもは自分の理解していることを観察でき、作業記憶にある細部を反芻でき、学んだことを長期記憶に統一できるようになる。
 
●多能な脳回路(p228)
〔 人類の最も若いメンバーに、必要な知識と認知的柔軟性を使って考えるための準備ができるような多能な脳回路を構築すること――それは彼らの保護者である私たちが、この地球で過ごす短い時間に対処できる課題のひとつです。次のバージョンがどんなものであれ、読字回路の未来のためには、読み書き能力ベースの回路とデジタルベースの回路両方の限界と可能性を理解することが求められます。これを知るには、さまざまな媒体とマスメディアで重視されるプロセスに特徴的な、たいてい矛盾する強みと弱み、そして場合によっては対立する価値を、検討する必要があります。現在の媒体がもつアフォーダンスの認知的、社会・情緒的、および倫理的影響を研究し、将来の回路のためにその特徴をできるかぎりうまく統合する努力をしなくてはなりません。もし成功すれば、私たちは次世代の生理機能のなかに、愛にまつわるシェイクスピアの偉大な教訓を再現することになります。「私のものであって、私のものでない」〕
  
●コードスイッチング(p230)
 バイリンガルの子供は、一方の言語から別の言語に移るときにどうしても生じる間違いを次第に克服して、最終的に、どちらの言語でも自分の最も深い思考を引き出せるようになる。このプロセスの間に、彼らはコードスイッチング(言語体系の切り替え)のエキスパートになることを覚える。
 
●知恵と知識(p264)
 T・S・エリオット『四つの四重奏』(岩波文庫)。
 「知識に埋もれて知恵が見つからず、情報に埋もれて知識が見当たらない」
 
●フェスティーナ・レンテー(p262)
 ラテン語。「ゆっくり急げ」「ゆっくり早く」といった意味。
 
(2020/4/22)KG
 
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レファレンスと図書館 ある図書館司書の日記
 [ 読書・出版・書店]

レファレンスと図書館 ある図書館司書の日記  
大串夏身/著
出版社名:皓星社
出版年月:2019年11月
ISBNコード:978-4-7744-0718-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:247p・19cm
 
 『ある図書館相談係の日記 都立中央図書館相談係の記録』(1994年、日外アソシエーツ)を増補したもの。「解説対談」として、国立国会図書館の小林昌樹との対談を新たに加えている。
 
【目次】
はじめに―相談係の1日
ある図書館相談係の日記
 はじめに
 1988年(昭和63)9月
  ほか
思い出に残るレファレンス相談質問事例
 東京室での事例から
 社会科学室での事例から
  ほか
解説対談 レファレンスの理論と実践、そしてこれから
 『ある図書館相談係の日記』成立前史
 「でもしか司書」からの脱却
  ほか
参考
 東京都立中央図書館参考課相談質問・回答件数
 東京都立中央図書館資料部参考課回答事務処理基準とマニュアル
  ほか
 
【著者】
大串 夏身 (オオグシ ナツミ)
 東京都出身。早稲田大学文学部卒業後、1973年東京都立中央図書館に司書として勤務。1980年から85年財団法人特別区協議会調査部、その後、1993年東京都企画審議室調査部から昭和女子大学に勤務。現在、昭和女子大学名誉教授。文部省地域電子図書館構想検討協力者会議委員などの委員等を多数つとめる。著作多数。
 
【抜書】
●看護師(p189)
 慶応大学の田村俊作先生から聞いた話し。
 「アメリカで信頼できる専門職について」のアンケートがあった。その結果、1位が看護師、2位が図書館司書だった。
 〔図書館員は広い情報を収集して、一定の公正な判断で、様々な意見を提供している専門職だという理解があるらしい。それがひとつには「知る自由」を保障する、「表現の自由」と「知る自由」は密接に結びついている。〕
 
(2020/1/27)KG
 
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100年かけてやる仕事 中世ラテン語の辞書を編む
 [ 読書・出版・書店]

100年かけてやる仕事 ― 中世ラテン語の辞書を編む
 
小倉孝保/著
出版社名:プレジデント社
出版年月:2019年3月22日 第1刷
ISBNコード:978-4-8334-2315-1
税込価格:1,944円
頁数・縦:301p・20cm
 
 イギリスで100年もの間続けられ、2013年末に完成した『英国古文献における中世ラテン語辞書』プロジェクトに関するルポルタージュ。
 プロジェクトが始動したのは、1913年4月だった。発案者はラテン語学者のロバート・ウィトウェル。英国学士院に本格的なラテン語辞書作成のアイデアを出し、タイムズ紙上で議会に理解を呼び掛けた。
 対象となったのは6世紀中旬から17世紀初旬までの文献。国家や都市の歴史、法律、税務記録、科学や哲学の発表、詩などがテーマとなっている。日記も当然ながら貴重な資料だ。筆者は、明らかになっているだけで2,000名以上にのぼるという(p.104)。
 
【目次】
第1章 羊皮紙のインク
第2章 暗号解読器の部品
第3章 コスト削減圧力との戦い
第4章 ラテン語の重要性
第5章 時代的背景
第6章 学士院の威信をかけて
第7章 偉人、奇人、狂人
第8章 ケルト文献プロジェクト
第9章 日本社会と辞書
第10章 辞書の完成
 
【著者】
小倉 孝保 (オグラ タカヤス)
 1964年滋賀県長浜市生まれ。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長を経て編集編成局次長。14年、日本人として初めて英外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞。
 
【抜書】
●ジョン王(p14)
 1215年、イングランドのジョン王が署名してマグナ・カルタが制定された。
 ジョン王は、大陸の領地を失ったことで、「欠地王」「失地王」と呼ばれ、イングランド史上最悪の王と評されている。
 英国では、ジョンを名乗る王が二度と現れていない。
 
●年月(p20)
 欧州には、時間をたっぷりとかけて辞書を作る伝統がある。
 17世紀のフランス学士院のフランス語辞書は55年。
 『オックスフォード英語辞典(OED)』は完全版発行までに71年。
 グリム兄弟が始めた『ドイツ語辞典』は、1838年の編集開始から完成までに123年。
 
●中世ラテン語辞書の構成(p23)
 第1巻「A-B」から最終巻「Syr-Z」まで17分冊、全4,070頁。
 項目数約5万語、引用は約42万。
 縦30.5cm×横23cm。全17冊の厚さは24cm。重さ11.6kg。
 英国では、古典ラテン語の使用はAD200~600年、それ以後が中世ラテン語の時代となる。
 
●ワードハンター(p25)
 言語採取者。1857年に編纂がスタートしたOEDで採用された仕組み。多くの市民がワードハンターとしてボランティアで言葉集めに協力した。
 ロバート・ウィトウェルも、1879年から5年間、ワードハンターとしてOEDのワードハンターとして約1万七千用例を集めた。その過程で、ウィットウェルはOEDと同じやり方で中世ラテン語辞書の編纂を思い立った。
 
●Daedaleus(p31)
 『中世ラテン語辞書』では、Daedaleus(ダイダロス〈ギリシャ神話の職人〉にふさわしい)が、Daemon(悪魔)の次に来ている。
 手作業のために起きた、並び順の間違い。
 
●PRO(p46)
 英国の公文書保管事務所。
 1838年、政府や裁判所の資料を保護し保管することを目的に、ロンドン中心部のチャンスリーレーンに設立された。高等裁判所や弁護士協会などのある、法曹界の拠点地区。
 英国は成文憲法をもたず、慣習法を憲法としている。その慣習法は政府や王室の過去の関連文書、裁判記録を基礎にしている。
 〔PROは英国憲法の保管場所でもあった。〕
 
●デュ・カンジュ(p92)
 世界的に知られた中世ラテン語辞書は、フランス人シャルル・デュ・フレーヌ(1610-1688)による『中世ラテン語辞典』。68歳で完成させた。
 デュ・フレーヌは、彼の領地名から、「デュ・カンジュ」と呼ばれている。17世紀フランスを代表する学者だった。
 欧州各地の中世ラテン語をラテン語で説明した。三巻本としてパリで出版され、ドイツ人研究者らによって繰り返し増補されている。
 
●サミュエル・ジョンソン(p140)
 辞書の父、サミュエル・ジョンソン(1709-1748)。
 1755年、サミュエル・ジョンソンがひとりで作った『英語辞典』が刊行された。「アカデミー(学士院)会員一人による辞書」。ロンドンの書店主たちから依頼を受け、9年近くかかって完成。
 収録語数約4万三千、引用例文約11万。その後、引用例文を大量に掲載する方法が、英国における辞書作りのモデルとなった。
 また、独特の定義で有名。
 辞書編集者……辞書をつくる者。退屈な仕事をこつこつ続ける人畜無害の存在。言語の起源を求め、その意味を細々と書くことに憂き身をやつす。
 
●アカデミー(学士院)(p142)
 1583年、フィレンツェに「アカデミア・デラ・クルスカ(クルスカ学会)」が設立される。主な役割は、イタリア語の純化と保存。
 1635年、「アカデミー・フランセーズ(フランス学士院)」がパリで発足。フランス語の規則を成文化して言葉のルール作りを進めることになった。
 英国学士院の誕生は1902年。
 
●『オックスフォード英語辞典』(p158)
 OED初版の発行は、第1巻が19世紀末で、最終巻が1928年。
 1959年に第2版の出版が決まり、70~80年代にかけて随時発行された。全20巻、計2万1,730頁、約62万語収録、引用例文約250万。
 2000年にオンライン版がスタート。現在、3か月ごとに新語が追加されている。
 同時期に第3版の編集作業もスタート。発行時期は未定。
 
●ケルトの中世ラテン語辞書(p168)
 『ケルト古文献における中世ラテン語辞書』プロジェクトが、英国から分かれてスタート。
 英国学士院は、全グレートブリテン島の中世ラテン語を対象として語彙を収集していた。しかし、ケルト系であるウェールズ、スコットランド、コーンウォールの三地域の中世ラテン語は、アイルランドのラテン語に近かった。そこで、ケルト系のラテン語については、アイルランド学士院で編集することとなった。
 
●フィンバー(p180)
 ダブリンでは、すべての中世文献をコンピュータに入力している。原文との引き合わせの作業は4回行われる。
 コンピュータは90年に購入、古い大型コンピュータだが、現在も現役。「フィンバー」というソフトを使っているので、新しいコンピュータとリプレースできない。しかし、問題なく使えている。
 「このパソコンのソフトは古いですが、とても使いやすい。わたしたちが最後の利用者であることに誇りを持っていますよ」。アンソニー・ハーベイ編集長談。
 
●日本の辞書(p195)
 「日本に国がつくった辞書は一冊もありません。政府は資金を出すわけでもなく、私費で辞書ができるのを喜んでいる。珍しい国だと思います」。清泉女子大学文学部教授の今野真二談。
 
●平木靖成(p198)
 岩波書店『広辞苑 第七版』(2018年)の編集者。
 1992年に入社、1年間、宣伝部に所属。その後、辞書編集部に異動。『岩波新漢語辞典』『岩波国語辞典』『岩波キリスト教辞典』『岩波世界人名大辞典』の編集に携わる。
 『舟を編む』の主人公のモデルと言われている。
 『岩波キリスト教辞典』を編集した際の感想。「神学、歴史、音楽、洗礼など、キリスト教に関する項目を全部読みます。するとキリスト教の全体像が頭の中に出来上がります。視野が開けた感じがしましたね」。
 
●ジョブスの亡霊(p244)
 アーサー・ビナードが携帯電話を持たない理由。
 「僕は詩人です。言葉をいじくって詩をつくります。たまに言葉が下りてくる。パッと詩が浮かぶことがあります。タイトルだったり最初の一行だったりします。それが下りてくるまではとてつもなく無駄な時間がかかります。それを経て発見があり作品が仕上がります。無駄な時間をはぶき、苦しみを抜きにして、言葉をつくり続けることはありえない。苦しむべき時間、考えるべき時間、悩む時間を奪うのが携帯です。持ってしまうと携帯は夢の中まで追いかけて来ますよ。スティーブ・ジョブズに夢まで奪われてしまうのです。僕はジョブズの亡霊と会話する気はありません」。
 
●精神的訓練(p288)
 第二代編集長デビッド・ハウレットの言葉。
 中世ラテン語辞書プロジェクトの最大の価値について。
 「やり終えたことでしょうね。こうした息の長いプロジェクトは終わらないこともある。計画がスタートした後、社会状況が変化してスタッフが入れ替わる。始めたころの熱は冷めます。明確な目的意識が共有されていなければ続かない。社会にとっての精神的訓練です。ジムに行って運動をしますよね。それと同じように、社会はこうした知的活動を続ける必要があると思います。それを続けることで社会は健全な体を維持できるんじゃないでしょうか」。
 
【赤入れ寸評】
・言語(p37)
〔 英語の場合、面白いのはラテン語から直接、影響を受けた言語と、フランスを経由したものがあり、そのため二つの言葉がよく似た意味で使われるケースがあるということだ。例えば、「たしかな」とか「確実な」という意味の英語に、「sure」と「secure」がある。由来となったのはラテン語の「securus」で、これを直接英語に取り入れたのが「secure」、フランス語を経由したのが「sure」である。〕
 本書の中に、「言語」という語を「単語」もしくは「言葉」に置き換えたほうがいいような例がしばしば登場する。
 「言語」とは、「音声もしくは文字による伝達体系」のことで、その構成要素である「単語」を意味するものではない。
 「言葉」はより広い意味を表すので、文脈によって「言語」の意味でも、「単語」の意味でも使われる。
 
・5世紀のイスラム教徒(p81)
 早稲田大学文学学術院教授の宮城徳也氏へのインタビュー。
 「五世紀にアウグスティヌス(ローマ帝国の古代キリスト教神学者)が亡くなったころ、ギリシャの思想に注目したのはイスラム教徒でした。ササン朝ペルシャ人によってアリストテレスの科学や哲学がペルシャ語に訳され、それをアラブ人がアラビア語に訳す。それによってアリストテレスはイスラム神学に影響を与えます」
 ギリシャ思想がイスラム経由でヨーロッパに入ってきたのは定説となっているが、5世紀にはイスラム教は存在しない。イスラム教の誕生は7世紀初頭。ムハンマドが啓示を受けたのは西暦610年とされる。一方、アウグスティヌスの没年は、430年。
 また、ササン朝ペルシャは、ゾロアスター教のはず。王朝の存続期間は、226~651年となっている。
 
(2019/8/12)KG
 
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図書館巡礼 「限りなき知の館」への招待
 [ 読書・出版・書店]

図書館巡礼:「限りなき知の館」への招待
 
スチュアート・ケルズ/著 小松佳代子/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2019年3月
ISBNコード:978-4-15-209849-8
税込価格:2,700円
頁数・縦:338p・20cm
 
 
 書物の専門家となるために大学に入り直し、文学、心理学、哲学、美術、商業、キュレーター学、歴史学、法学、論理学、数学を学んで、書物の競売に関する修士号、法学の博士号を取得し、書籍販売に関する本を1冊ものして卒業した古書販売者による、図書館をめぐる博覧強記のエッセー集。
 
【目次】
本のない図書館―口誦伝承とソングライン
アレクサンドリア最後の日々―古代の書物とその保管
完璧を追求して―コデックスの台頭
「忌まわしい者たちの掃き溜め」―ルネサンスの再発見
誰もが自由に―大量の書物があふれかえる印刷時代
「蛮族さえしなかったこと」―ヴァチカン図書館
図書館に秘められたものの歴史―図書館設計の妙技と秘宝
本の管理者―史上最高の司書と最悪の司書
放蕩の真髄―ヒーバー、バイロン、バリー
火神ウルカヌスへの憤怒―火事と戦争で破壊された図書館
伯爵―書物の略奪者と本泥棒
「図書館の内装はささやくように」―ピアポント・モルガン図書館
栄光のために―フォルジャー・シェイクスピア図書館
修道士殺し―架空の図書館
ラブレター―未来の図書館
 
【著者】
ケルズ,スチュアート (Kells, Stuart)
 作家/古書売買史家。ペンギンブックスとその創設者について書いた著書、Penguin and the Lane Brothersで2015年アシャースト・ビジネス著作賞を受賞。
 
小松 佳代子 (コマツ カヨコ)
 翻訳家。早稲田大学法学部卒。都市銀行勤務を経て、翻訳家の柴田裕之氏に師事し、ビジネス・出版翻訳に携わる。
 
【抜書】
●ヴェラム(p45)
 〔羊皮紙のなかでも最も上質かつ痛ましい種類と言えるヴェラム――ウシの胎児の皮から作られる――は、滑らかで白く、非常に加工しやすい。〕
 ヴェラムは、耐久性も非常に高い。
 
●法定納本(p54)
 1534年、フランスでは、モンペリエの勅令によって、ブロワ城の王立図書館に1冊納品しない限り、印刷業者や出版者に本の販売を認めないとした。あらゆる新刊本に適用。
 
●写字生(p66)
 古代世界の書写人の多くは奴隷だった。
 中世の修道院の写本室の写字生は、おおむね自由の身であり、自分の仕事に誇りを抱いていた。細密で華麗な絵画のような口絵や飾り文字は、こうした一人一人の創造の精神から生まれた。
 
●リチャード・ヒーバー(p190)
 リチャード・ヒーバー、1774年、裕福な地主で牧師を務める父親の息子として生まれる。母親は、産後すぐに亡くなった。
 「紳士たるもの、同一の書籍を三部は所有せねばならない。一部は展示に、一部は使用に、一部は貸し出しに供する」。
 10万点以上(そのうち3万点は一度に購入)に拡大したヒーバーの蔵書は、8軒の家を埋め尽くした。
 
●ピアポント・モルガン図書館(p251)
 ジョン・ピアポント・モルガン、1837年4月17日、コネチカット州ハートフォードで生まれる。父親の仕事の関係で、17歳でロンドンに移り、大学はゲッティンゲン大学に進む。
 父の盟友アンソニー・ドレクセルが1893年に亡くなった後、自身の企業名をドレクセル・モルガン商会からJ・P・モルガン商会に変更した。世界有数の銀行家であり、投資家となった。
 1906年、マディソン街36丁目に図書館を建設した。
 彼の死後、息子のジャックは、1924年に、ピアポント・モルガン図書館という公共のレファレンス図書館を設立した。
 
●Tik-Tok(p288)
 ティク・トク……アメリカのSF作家ジョン・スラデックが『Tik-Tok』の中で生み出した、悪役のヒューマノイド型ロボット。
 気が付いた時にはリベリア船籍の「アリジゴク」号に乗っていた。大富豪が太陽系を旅行するために設計された巨大宇宙船だったが、経済が低迷し、船は家畜運搬船に転用された。ロボットが船で働くことは組合の規約で禁止されていたので、ティク・トクは時間を持て余し、静まり返ったダンスホール、豪華な浴室、ファーストクラス専用の喫茶室や図書室に入り浸った。
〔 図書室の「類まれな」蔵書をきちんと調査するために、ティク・トクはルールを作った。ある日は、ロビーという名前のロボットが登場する本だけを調べてもいい日と決めた。火星に関する本の日や、もと尼僧の自伝の日、「U」で始まる本の日もあった。「U」で始まるタイトルは、『口に出せない習慣、奇妙な行為(Unspeakable Practices, Unnatural Acts)』『尿の医学(The Urinal of Physick)』『アップ・ザ・ジャンクション(Up the Junction)』『ベローナ・クラブの不愉快な事件(The Unpleasantness at the Bellona Club)』『アンクル・トムの小屋(Uncle Tom's Cabin)』など、「俗悪な意味を隠しているように思われることが多かった」。〕
  
(2019/7/20)KG
 
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江戸の古本屋 近世書肆のしごと
 [ 読書・出版・書店]

江戸の古本屋: 近世書肆のしごと
 
橋口侯之介/著
出版社名:平凡社
出版年月:2018年12月
ISBNコード:978-4-582-46822-9
税込価格:4,104円
頁数・縦:335p・22cm
 
 
 江戸時代の書店事情、出版事情を、神田の古本屋の亭主が論じる学術書。
 
【目次】
序章 江戸時代の本屋というもの
第1章 本屋の日記から―風月庄左衛門の『日暦』
第2章 本屋仲間と古本
第3章 江戸時代の書籍流通
第4章 経師の役割―書物の担い手として
終章 書物の明治二十年問題
 
【著者】
橋口 侯之介 (ハシグチ コウノスケ)
 1947年、東京都生まれ。上智大学文学部史学科卒業。出版社勤務を経て、岳父が昭和初期に開いた和本・書道の専門店である神田・神保町の誠心堂書店に74年入店。84年から店主となる。東京古典会会員。成蹊大学、上智大学で非常勤講師を務めた。
 
【抜書】
●沽却、感得(p16)
 沽却……中世には、個人所有の本を子孫が売って金銭に換える場合、「沽却(こきゃく)」と言った。
 先祖が手に入れた高価な本を売ることは不名誉なことだったので、表には出にくかった。
 感得……そのような本を金銭で入手することを「感得(かんとく)」と言った。「思わず手に入れた」という婉曲な表現を用いたのである。
 
●経師(p18)
 『日葡辞書』「経師屋」の項目に、「経開き、拵へ、綴づる家。印刷所または本屋」とある。
 中世の経師は、職人であると同時に商人的な性格を有していた。
 
●刊記(p18)
 発行者などの情報を印刷物の巻末に記す箇所。後の奥付。
 江戸時代初期の刊記には、寺院や個人名が多かったが、慶長元和年間に、本屋と思われる者の名が出てくる。京都に出版をする本屋が出現した。書林、物本屋、物之本屋(もののほんや)。
 慶長14年刊『古文真宝(しんぽう)後集』(古活字版の漢籍)に、「宝町通近衛町本屋新七刊行」とあるのが、本屋の刊行物で最古のものと思われる。川瀬一馬『増補古活字版の研究』(1967年、ABAJ)。
 
●神田(p24)
〔 現代でも、東京・神田には、百数十店の古書店が存在するが、これも書籍が多品種少量生産物だということからきている。各店は専門や個性で成り立つので、過当競争にならず相互に立地が可能なのである。全体が巨大な「図書館」であり、その個々の分野ごとの棚が一軒の古書店にあたると考えればわかりやすい。そのかわり、知識を要求される店主個々の人的資産に依存するので、オールマイティな大古書店というのは成り立ちにくい。まだ「江戸時代」が残っている場所でもあるのだ。〕
 江戸時代の本屋の基本的な姿は、出版、新刊販売、問屋業務だけでなく、古本も扱う奥行きの深さにある。
 
●本と草(p27)
 物之本……大本(おおぼん、ほぼ現在のB5判)ないしは半紙本(ほぼA5判)。丁数も多く、地味な厚手の紙で表紙を付ける装丁。保存するための本。
 草紙……絵を豊富に入れた浄瑠璃などの演劇や音曲もの、子供向けのお伽話、武者ものなどの娯楽性の高いもの、往来物や実用書などの生活に密着した本など。読者層を大衆や子どもに向けた冊子。物之本の半分のサイズである中本(ちゅうぼん)、小本(こぼん)が多く、1冊の厚さも薄い。表紙はむしろ派手な色刷りにすることが多い。読み捨て。
 「本」と「草」の違いは、平安時代からあった。
 本……仏典や漢籍、国史とった、漢文で書かれたもの。巻子本に仕立てるのが原則だった。
 草……『源氏物語』や『伊勢物語』など、仮名で書かれた物語など。装丁は冊子本。当時、草紙、草子、冊子(さくし、さうし)などとも言った。『枕草子』。
 
●貸本屋(p29)
 貸本は、大手の本屋も業務の一つとして行ったが、これを専業とする者の存在も書籍・草紙を普及させる大きな販売網の一環をなしていた。
 17世紀中ごろから存在していたが、やがて全国に広がっている。
 江戸では、文化5年(1808年)に656軒が組織化された。大半は零細な店。
 
●出版経費(p84)
 京都の風月庄左衛門が、谷川士清(たにがわことすが)の『日本書紀通証』を増刷した時の経費。風月『日暦』明和9年10月1日の記事より。
 売値(建値) 銀65匁
 問屋(売り弘めの本屋)への卸値 58匁
 ---------
 元入れ(刷代、仕立代等諸経費)28匁
 板賃(版木の所有者谷川への印税) 15匁
 奉納(蔵板として名前を借りた五条天神または北野天神?) 3匁
 類板への代価 3匁×2店=6匁
 風月の手数料 3匁
 仕入日払(忌日限定値引き?) 3匁
 
●江戸時代の本屋(p194)
〔 日本、いや世界中の書籍業界でも、きわめて独特で特徴的な仕組みが江戸時代にあった。ひとつは出版物の権利を「株」にすることで板木市を生み、その流動性を促したこと、もうひとつは、本屋間の取引に「本替(ほんがえ)」という特殊な精算方法を採用したことである。これは、本屋が出版から卸、小売り、さらには古本までカバーする広い業務を担ったことを背景にしている。
 そこに中国からの輸入書である唐本、自費出版物である私家版、中世以来続いてきた写本まで取扱い品の中に含めた。唐本は学術書として需要度が高かったし、私家版といえども江戸時代には意義のある本が多かった。写本も出版が盛んになってからも衰えることなく製作され、商品価値が高かったのである。また、本屋とは区別された草紙屋が存在し並立してきた。これらの流通網がやがて地方の本屋へ波及した。〕
 
●近世活字版(p223)
 古活字版……江戸時代初期の活字版印刷物。古典の物語や書下ろしの仮名草子などの漢字平仮名交じり文が印刷された。しかし、板木の良さが見直され、あまり普及しなかった。
 近世活字版……江戸時代後半に盛んになった木活字版印刷。木活字版。大半は、百部程度の小部数の私家版。
 幕府も小部数の活字版を吟味の対象としなかったので、好色本、艶書のような禁制の本を本屋が刷ることもあった。
 塙保己一『群書類従』も私家版だった。公式の学校である湯島の昌平坂学問所で出した本に限って、官板として認められたが、幕府に公式に認められていた保己一の和学講談所の出版物は正式の官板とはみなされなかった。しかし、その内容が既存の本の類板にあたる恐れがあったので、本屋仲間が『群書類従』を私家版として扱い、正規の流通に組み込まなかった。
 
●明治20年(p326)
 明治時代になって、書物や新聞・雑誌が大量生産されるようになり、出版と販売、古本と新本が分業するようになった。
 明治20年頃、江戸時代から続いた本屋は、廃業していった。
 
(2019/7/6)KG
 
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出版の崩壊とアマゾン 出版再販制度〈四〇年〉の攻防
 [ 読書・出版・書店]

出版の崩壊とアマゾン
 
高須次郎/著
出版社名:論創社
出版年月:2018年11月
ISBNコード:978-4-8460-1754-5
税込価格:2,376円
頁数・縦:323p・20cm
 
 
 1980年に新・再販制度(再販売価格維持契約制度)が始まってから、そろそろ40年になる。この間に再販制度をめぐって繰り広げられた出版界と公正取引員会、アマゾンとの攻防を振り返り、出版物にとって再販制度がいかに必要かを論じる。
 
【目次】
序章 アマゾンへの出荷停止
第1章 再販制度廃止をめぐる攻防
第2章 ポイントカード戦争
第3章 公正取引委員会の反撃
第4章 再販制度の存置が確定
第5章 アマゾンと出版崩壊
終章 出版敗戦前夜
 
【著者】
高須 次郎 (タカス ジロウ)
 1947年、東京都生まれ。1971年、早稲田大学第一政経学部卒。中央経済社を経て、仏ディジョン大学に学ぶ。1976年、技術と人間に入社。1982年、緑風出版創業。2004年から16年まで日本出版者協議会(旧出版流通対策協議会)会長。現在相談役。一般社団法人日本出版著作権協会(JPCA)代表理事。
 
【抜書】
●四つの理由(p17)
 出版物に再販制度が許されている理由。元公正取引委員会主席審判官の辻吉彦氏による(『再販売価格維持制度 何が問題なのか』小学館、1990年)。
 (1) 商慣行追認説……書籍の定価販売制は、大正時代の初めに発足。消費者にとってもなじみの深いものになっていて、著作物再販制度が昭和28年の独禁法の改正によって導入された。それを追認した。また、古書店市場もあり、消費者に高値感を与えなかった。
 (2) 弊害希薄説……出版社が多数存在し、しかも中小零細企業が多く、新規参入も活発で、総体として競争的性格の強い市場構造での弊害が少ない。
 (3) 文化的配慮説……著作物は一国の文化の普及ないし文化水準の維持を図っていく上では、なくてはならない存在である。その存在を確保するためには、著作物について発行の自由を名実ともに保障することが必要であり、これと並行して、多種類の著作物が全国的に、広範に普及される体制の維持(取次の機能の円滑化と多数の書店の確保)が必要とされる。このような要請にこたえるためには、再販制度が最も適合している。
 (4) ユニバーサル・サービス説……文化の普及の一環として、文化はそれを欲する者に均等に享受されるべきであり、離島、山間、僻地などを理由に、価格差を設けられるべきではないとの考え方から、同一の著作物に対して、同一の価格を保障する再販制度を是とする。
 高須は、(4)を再販制度維持の根拠として強く主張している。
 
●新再販制度(p27)
 現行の(新)再販制度は、1980年10月からスタートした。
 (1) 「再販売価格維持励行委員会」の名称から励行を削除し、再販の共同実施的性格を払拭し、再販制度は各出版社の自由意思で実施すること(単独実施、任意再販)。
 (2) すべての出版物が自動的に再販商品になることを改め、発売時から非再販で発行することも自由にすること(部分再販)。
 (3) 出版社の意思で一定期間後に定価表示を抹消して値引きで販売できること(時限再販)。
 (4) 出版物に再販商品である旨の表示、つまり「定価」と表示すること。
 (5) 景品付き販売の禁止を改めること。
 時限再販本には、定価表示を抹消し、本の地のノド寄りにⒷ印を朱色で押す。
 非再販本は、「バーゲン・ブック(B・B)」「自由価格本」「特価本」の三種類とする。価格は、「希望小売価格」「頒価」「価格」「価」「¥」などで表記する。
 
●規制緩和小委員会(p46)
 1995年4月19日、行政改革委員会のなかに「規制緩和小委員会(座長・宮内義彦オリックス会長)」が発足。
 米国の規制緩和要求を受け、再販制度の見直しを進める。
 
●是正六項目(p67)
 1998年3月、著作物再販制度の廃止は当面見送り。ただし、公正取引委員会は、次のような条件を付けた。
 (1) 関係業界に対して、消費者保護の観点から、特に次のような点について是正措置を講ずるよう求め、その着実な実現を図っていくこととする。
  〇時限再販・部分再販等再販制度の運用の弾力化
  〇各種の割引制度の導入等価格設定の多様化
  〇再販制度の利用・態様についての発行者の自主性の確保
  〇サービス券の提供等小売業者の消費者に対する販売促進手段の確保
  〇通信販売、直販等流通ルートの多様化及びこれに対応した価格設定の多様化
  〇円滑・合理的な流通を図るための取引関係の明確化・透明化その他取引慣行上の弊害の是正
 (2) 再販制度の運用が不当に消費者利益を害することのないよう、独占禁止法第二十四条の2第一項ただし書に基づき厳正に対処するとともに、硬直的・画一的な再販制度の運用の是正を図る。このため、適宜、再販制度の利用状況について実態把握・監視を続けていくこととする。また、景品規制の見直しにより競争手段の多様化を図ることとするほか、価格設定の多様化を阻害することのないよう、新聞業における特殊指定(昭和三十九年公正取引委員会告示第十四号)の見直しを行うこととする。
 
●再販制度の当面存置(p81)
 2001年3月23日、公正取引委員会は、「著作権再販制度の取扱いについて」を公表。
 〔①競争政策の観点から著作物再販制度は廃止すべきと考えているが、出版等の多様性や国民の知る権利が阻害されるなど、文化・公共面でマイナスの影響があると懸念する声が多く、廃止について国民的合意が得られていないので、法改正による同制度の廃止はせず、当面存置する、②著作物の範囲については六品目に限ることとする、と発表した。〕
 六品目とは、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ、音楽用CD。
 
●日販による書店チェーンの系列化(p219)
 精文館書店(1999年、34店舗)、リブロ(2003年、70店舗)、オリオン書房(2013年、10店舗)、いまじん白揚(2014年、20店舗)、あゆみBOOKS(2015年、9店舗)、啓文社エンタープライズ、文教堂グループホールディングス(2016年、約200店。DNPから持ち株を買い取る)、東武ブックス(2018年、25店舗)
 2017年10月、中間持株会社NICリテールズ株式会社のもとに上記グループ書店を統括。18年3月現在、271店舗、売上635憶円。
 
●トーハンによる書店チェーンの系列化(p220)
 明屋書店・金龍堂・イケヤ文楽館(2012年、91店舗)、ブックファースト(2013年、42店舗)、文真堂書店(2016年、40店舗、←太洋社帳合)、アバンティブックセンター(2015年、←大阪屋帳合)、三洋堂書店(2018年、83店舗)
 
●取次の倒産、経営危機(p248)
 2001年、鈴木書店が破産。
 2010年、日教販が、三菱東京UFJ銀行、日販、旺文社などに第三者割当増資を実施。
 2013年、明文図書が自主廃業。
 大阪屋、2012年にアマゾンが主帳合を日販に変更、2013年、ブックファーストのトーハンへの帳合変更、ジュンク堂書店新宿店閉店などにより、業績悪化。2013年、東京支店を売却、楽天が資本参加。2014年、大阪本社(41億円)を売却、37億円の第三者割当増資(楽天14億35.19%、DNP・KADOKAWA・講談社・集英社・小学館が各4.6億)。
 2015年、栗田出版販売が民事再生手続きを開始。大阪屋と統合、2016年、(株)大阪屋栗田に。
 2016年、太洋社が破産。同年自己破産した芳林堂書店の売掛金8億円が焦げ付く。
 
●アマゾンの仕入れ(p260)
 ①取次ルート……大部分は、主取引取次の日販。他に、大阪屋栗田、日教販、鍬屋書店、など。カスケード(連続した小滝)という方法によって発注される。
 ②出版社直接ルート……売上上位50社のうち30社が何らかの直接取引を開始。KADOKAWAは、全面的に直接取引をしている。
 ③e託取引……小規模出版社、個人。全国4,000の出版社のうち2,000社。
 
●出版社のM&A(p278)
 CCC(カルチュア・コンビニエス・クラブ)は、2015年に美術出版、2017年に徳間書店、ネコ・パブリッシング(徳間書店子会社)、主婦の友社を買収。
 
●第二号出版権(p295)
 2014年4月、「著作権法の一部を改正する法律案」が成立。15年1月1日から施行。
 第一号出版権者……頒布の目的をもって、文書または図画として複製する権利(記録媒体に記録された電磁的記録として複製する権利を含む)。
 第二号出版権者……記録媒体に記録された著作物の複製物を用いてインターネット送信を行う権利。
 出版社は、従来の紙の出版以外に、パッケージ型書籍(第一号出版権)や、オンライン型書籍=インターネット送信を行う権利を得ることが可能となった。しかし、権利ごとに分割して契約を交わすことが可能。
 
●電子書籍(p301)
 アマゾンに対して、電子書籍の価格検定権を持っているのは小学館、講談社、集英社、文藝春秋など5、6社。KADOKAWA、新潮社はもっていない。
 電子書籍の価格決定権がないので、安売りを怖れて電子書籍化を躊躇する出版社は多い。
 フランスでは、2011年5月に、「電子書籍価格法」が成立。パッケージ型も含め、電子書籍の再販売価格を出版社が決定できる。また、フランスではオンライン書店の無料配送を禁止している。アマゾン法。(p279)
 
●5,000憶円(p303)
 〔出版社で最後まで生き残るのは、硬派の出版物を含む書籍版元、人文・社会・法経・理工書などの版元と言える。出版協や梓会の会員出版社が出しているような分野の本である。初版五〇〇部からせいぜい三〇〇〇部位の本で、市場規模でいえば五〇〇〇億円に満たない市場であろう。マスプロ・マスセールスの時代は完全に終わった。〕
 出版協=日本出版者協議会。
 
(2019/3/24)KG
 
〈この本の詳細〉


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