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江戸時代の通訳官 阿蘭陀通詞の語学と実務
 [歴史・地理・民俗]

江戸時代の通訳官: 阿蘭陀通詞の語学と実務  
片桐一男/著
出版社名:吉川弘文館
出版年月:2016年3月
ISBNコード:978-4-642-03472-2
税込価格:3,850円
頁数・縦:391p, 16p・20cm
 
 江戸時代、西洋に対する唯一の窓口であったオランダとの交渉役であり、西洋文化受容の最前線にあった「阿蘭陀通詞」について、その全貌を細かく描く。
 ところで、江戸幕府はオランダに対して上から目線で接していたようだが、オランダにとって、それほどまでに日本との交易が価値あるものだったのだろうか。極東の国日本との交易に、利益はあったのか?
 オランダ側の視点による、17~19世紀の日本貿易について知りたいものである。
 
【目次】
1 阿蘭陀通詞とオランダ語
 実務が育てる語学
 南蛮から紅毛へ、語学条件の大転換
 阿蘭陀通詞の養成
2 長崎の阿蘭陀通詞
 通詞採用の任命と辞令
 職階と役料
 職務と加役
 通詞会所と通詞部屋
 異国船と通詞
3 江戸の阿蘭陀通詞 
 江戸番通詞の参府御用
 参府休年出府通詞の参府御用
 天文台詰通詞の御用と私用
 江戸からの出張通詞
4 多才で多彩な阿蘭陀通詞
 二十三名の通詞たち
 二十三通詞に対する短評
 
【著者】
片桐 一男 (カタギリ カズオ)
 1934年、新潟県に生まれる。1967年、法政大学大学院人文科学研究科日本史学専攻博士課程単位取得。現在、青山学院大学名誉教授、公益財団法人東洋文庫研究員、文学博士。
 
【抜書】
●出島(p21)
 出島は、寛永11年(1634年)、カトリック教会が国内政治に干渉するのを防ぐために、南蛮人排除の方針に転換した幕府が、長崎の有力町人25人に命じて造らせた人工島。ポルトガル人の牢獄島だった。それまで市中に散宿していたポルトガル人を、出島に集住させた。
 島原の乱後の寛永16年(1639年)、ポルトガル人をマカオに追放。
 幕府は、キリスト教の布教に手を貸さないことを見極めたうえで、オランダとの貿易継続を、幕府の管理下に置くことで認める。
 寛永18年、平戸のオランダ商館を長崎の出島に移転させた。
 ポルトガル人は、布教のために日本語を積極的に学んだが、キリスト教の布教と密貿易を防ぐために、出島のオランダ人には、日本語を習得させないようにした。そのため、通弁・通訳は日本側で用意しなければならないことになった。
 
●ザーメン・スプラーカ(p96)
 Samen Spraak。会話。
 阿蘭陀通詞たちは、以下のような順序でオランダ語を学んだ。(p35)
 ① 「アベブック(AB Boek)」「レッテルコンスト(Letterkonst、Letterkunst)」等の書により、ア・べ・セ、オランダ25文字の読法・書法と、文字を続けての綴りよう・読みようを学ぶ。
 ② 次に同じ書物によって「エンケルウヲールド(enkel woord)」すなわち単語数百語を記憶する。
 ③ そのうえで、「サーメンスプラーク」によって、日常会話例を学ぶ。
 ④ 「ヲップステルレン(Opstellen、作文)」といって、文章の作文を習う。
 ⑤ また「セイヘッリンゲ」によって、算術を学ぶ。
 
●阿蘭陀通詞(p143)
 阿蘭陀通詞は、町人身分。
 正規の通詞として籍に入るのは、「口稽古(くちけいこ)」から。
 その上に、「稽古通詞」若干名、「小通詞(こつうじ)」4名、「大通詞(おおつうじ)」4名がいる。
 正規の通詞職の一段下に、「内通詞」と称する数十人程度の集団が存在した。貿易業務の期間、オランダ人に付き添い、売買業務を手伝って口銭を得ていた。
 寛文10年(1670年)、このうちから12人を選んで小頭役につけた。出島乙名と通詞の差図を受けて内通詞仲間を統率する組織体。 
 正規の通詞と内通詞を統率する役として、元禄8年(1695年)、阿蘭陀通詞目付役が設けられた。大通詞役から一人、小通詞役から一人が選ばれた。
 
●蛮書和解御用(p330)
 ヨーロッパにおいて、不利に推移するオランダ情勢の激変を受けて、出島のオランダ商館長および通詞団の虚偽報告が行われるようになると、海外情報を幕府が独自に把握する必要が生じ、文化8年(1811年)5月、天文方に「蛮書和解御用」という翻訳局が設置された。
 大槻玄沢とともに、馬場佐十郎が採用され、責任者の地位についた。
 馬場は、平日事なきときは、江戸幕府最大の翻訳事業ともなったショメールの「百科事典」の翻訳に従事した。『厚生新編』として結実。
 
●代表的な阿蘭陀通詞(p343)
 西吉兵衛父子……初代は、南蛮通詞から阿蘭陀通詞へ。二代目は、南蛮流医師から紅毛流医師へ。
 今村源右衛門・英生……内通詞の家から正規の通詞家に昇格。イタリアの宣教師シドッチの潜入事件で取り調べ通弁役を命じられ、江戸在府中、新井白石にオランダ語を教授。
 吉雄幸左衛門・耕牛……大通詞。ツュンベリーから梅毒の治療に関する秘薬スウィーテン水の伝授を受けて財を成し、蘭医書・治療器具の入手に努める。吉雄流紅毛外科として成秀館塾を営む。『解体新書』に序文を寄せる。
 本木仁太夫・良永……太陽中心説(地動説)紹介の嚆矢。天文・地理学に訳業を残した。
 馬田清吉=石井庄助……『ハルマ和解(江戸ハルマ)』の訳稿・作成。
 志筑忠雄=中野柳圃……18歳で稽古通詞を辞し、物理・天文に沈潜。キールの『暦象新書』を成す。セイウェル文法書によって、オランダ語文法に取り組む。享年47歳。
 馬場佐十郎・貞由……文化5年3月、22歳の若さで江戸に召され、天文台に開設された地誌御用の局に採用され、世界地図の翻訳・刊行に携わる。『万国全図』『日本辺海略図』。パーム文法書によってオランダ語文法を大成。ジェンナーの種痘法を紹介。天文台官舎で三新堂塾開設。語学の天才。文化11年4月、幕臣に取り立てられ、小普請組入り。36歳で没。
 
(2020/8/23)KG
 
〈この本の詳細〉


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