サバイバルする皮膚 思考する臓器の7億年史
[自然科学]
傳田光洋/著
出版社名:河出書房新社(河出新書 030)
出版年月:2021年5月
ISBNコード:978-4-309-63131-8
税込価格:946円
頁数・縦:249, 11p・18cm
■
人間の皮膚は、脳に匹敵する情報処理システムである、という「唯皮膚論」(?)の書。というのは冗談だが、人間の皮膚のすごさに感心しきりである。
【目次】
第1章 出現―生命を創る皮膚
第2章 奇策―解放された皮膚
第3章 蘇生―自律する皮膚
第4章 攻防―病原体と皮膚
第5章 暴走―錯乱する皮膚
第6章 覇者なのか?―皮膚というシステムを見つめ直す
【著者】
傳田 光洋 (デンダ ミツヒロ)
1960年神戸市生まれ。京都大学工学研究科分子工学専攻、京都大学工学博士。カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科学教室研究員、資生堂研究員、科学技術振興機構CREST研究者、広島大学客員教授を経て、明治大学先端数理科学インスティテュート(MIMS)研究員。
【抜書】
●皮膚(p8)
〔 ぼくは30年ほど皮膚の研究を続けてきた。その中で、人間の皮膚が持つ、様々な能力を見つけてきた。そして今、前代未聞の動物が生まれ栄えてきたのは、その皮膚のためではないかと考え始めている。〕
●二つの情報処理(p57)
人間は二つの情報処理システムを持っている。
一つが環境に向き合う皮膚、特に表皮。主として変転する環境に即して緊急に対処するためのシステム。そこで感知された情報のあるものが選ばれて大脳にもたらされる。
もう一つが脳、大脳。皮膚、および他の感覚器官からもたらされた情報を集積し、それを基に未来に対するシミュレーションを行う。
●ケラチノサイト(p58)
皮膚の表層である表皮は、ケラチノサイトという細胞で構築されている。
表皮の深い部分で生まれたケラチノサイトは、次第に形を変えながら皮膚の表面に向かい、やがて死ぬ。死んだケラチノサイトが角層を作る。
ケラチノサイトは、電磁波である光、色、電気、磁気、さらには音(超音波も含む)、温度、大気圧、空気中の酸素濃度、突かれたり触られたりする刺激などの物理学的な現象すべてを感知する能力を持っている。
〔 表皮は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてと、眼や耳で感知できない紫外線、超音波、気圧の変化、磁場などまで感知できる驚くべき感覚器官なのだ。〕
ケラチノサイトの数は1,000億にも達する。
●120万年前(p61)
人類は、120万年前に体毛を失った。
その頃から、脳の容量が大きくなり始めた。
●ウロカニン酸(p62)
表皮には、紫外線を防御するウロカニン酸という物質がある。紫外線を浴びるとウロカニン酸が増える。
増えたウロカニン酸は血中に放出され、脳に達する。そこでウロカニン酸はグルタミン酸になり、海馬(記憶や学習の中枢)で重要な役割を果たしているNMDA受容体を活性化する。その結果、学習能力が高くなった。
以上は、マウスによる実験。
人類も、進化の過程で体毛をなくして紫外線が直接皮膚に届くようになった結果、ウロカニン酸を増やし、学習能力を高めた時期があったのかもしれない。
●角化細胞の層数(p91)
人間の角層は、身体の場所によって層数が違う。
顔の角層が最も薄く、角化細胞の層数は9くらい。
胴体が13、四肢が13~16。手の平が50、足の裏55。最も厚いかかとが86層くらい。
●顔(p93)
類人猿は、平面状の顔に視覚、聴覚、嗅覚、味覚の感覚器すなわちセンサーが集中している。
脳に近い顔にセンサーを集中させることにより、環境の変化をより早く獲得し集約し、脳に判断させることができる。顔の表皮が薄いのも、環境変化に敏感に反応するため。
そもそもサルは樹上生活が長かったので、枝に飛び移るために立体視が発達し、両眼が顔の正面に並んだ。木の上では、草食動物のような広い視野があっても枝葉にさえぎられて意味をなさない。
●ノネナール(p186)
ノネナールという臭い分子は、ケラチノサイトの増殖を抑え、表皮を老化させる。ノネナールをブロックする香料には、表皮の老化を防止する効き目がある。
●衣服(p195)
人類が衣服をまとい始めたのは11~3万年前ごろ。
衣服に棲むコロモジラミがケジラミから分かれたのがこの頃。
●タコ(p196)
タコの神経細胞の数は、視覚領域も含めた脳で約2億。ドブネズミの脳は1億。
さらに、8本の触手などの末梢にには約3億の神経細胞があり、脳と独立した神経系になっている。
(2021/9/20)NM
〈この本の詳細〉
コメント 0