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ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと
 [歴史・地理・民俗]

ランニング王国を生きる 文化人類学者がエチオピアで走りながら考えたこと
 
マイケル・クローリー/著 児島修/訳
出版社名:青土社
出版年月:2021年8月
ISBNコード:978-4-7917-7397-8
税込価格:2,420円
頁数・縦:314, 5p・19cm
 
 英国の長距離ランナー人類学者が、エチオピアのアディスアベバのランニング・チーム「モヨ・スポーツチーム」に参加し、当地のランナーやランニング事情を描写・考察した「参与観察」の記録。
 エチオピアが陸上競技の長距離に強いのは、貧しくて学校まで走って通ったから足腰が鍛えられたため、という神話(?)があるが、実はそれは事実に反する。多くの有力選手たちは、国が支援しているランニング・クラブに所属しており、給料をもらいながら競技生活を送っている。走っていないときには栄養補給と睡眠(休養)を重視し、走ることに専念している。
 マラソン大会に参加して賞金を得られれば家も建てられるし、車も買える。そうした環境が、選手たちのモチベーションを高め、競技能力を高めている。
 しかし、その域に到達するためには、ウエアやシューズを買うだけの経済力が必要だし、頭角を現すまで練習に打ち込む余裕が必要だ。貧しさの賜物ではないのだ。
 経済社会研究会議(ESRC)の博士研究員奨学金プログラムの支援を受けた出版とのことであるが、学術論文というより、エッセーといった趣である。
 
【目次】
第1章 特別な空気(スペシャル・エア)
第2章 民族楽器の演奏家になっていたかもしれない
第3章 互いの足を追いかける
第4章 今のところ順調
第5章 フィールド・オブ・ドリームス
第6章 ジグザグ走りで頂上へ
第7章 クレイジーはいいことだ
第8章 ローマでの勝利は、千の勝利に値する
第9章 なぜ、午前三時に坂を上り下りするのか
第10章 エネルギーはどこから?
第11章 走ることには価値がある
第12章 高地の空気に当たる
第13章 「もちろん、選手たちはつぶし合っている」
第14章 走ることは生きること(ランニング・イズ・ライフ)
 
【著者】
クローリー,マイケル (Michael Crawley)
 フルマラソン2:20:53のタイムを持つ人類学者、作家。ダラム大学人類学準教授。
 
児島 修 ()
 英日翻訳者。
 
【抜書】
●エチオピア人の名前(p22)
 「姓」がない。
 本人の名と、父の名と(さらには祖父の名)を組み合わせて名前が成り立っている。
 ケネニサ・ベケレが「ベケレ」と呼ばれるとき、それは実際には彼の父の名を指していることになる。
 
●ジャン・メダ(p109)
 「ジャンホイ・メダ」の短縮形。「陛下のフィールド」「皇帝のフィールド」といった意味。ハイレ・セラシエの戴冠式で大規模な軍事パレードや花火の打ち上げが行われたことで、こう呼ばれるようになった。
 1896年のアドワの戦いの後、メネリク皇帝はイタリア軍から奪った大砲をここに展示した。
 1990年代初頭には、内戦で国内難民となった数千人もの国民を受け入れた。
 宗教的祭事や戴冠式、閲兵式、選挙戦の開会式などが行われ、エチオピアの近代史において重要な役割を果たしてきた。
 フィールドの長さは2.5km、幅は500m。四方は壁で囲まれているが、中は広々としている。草は雨季には長くなるが、それ以外の季節には短く刈り取られ、黄色く乾燥している。
 陸上競技よりも競馬が盛んに行われており、ゲナ(ホッケーの一種)やググ(荒馬での鬼ごっこ)といったエチオピアの伝統的なスポーツが開催されることもある。
 競技場の一角には大きな馬小屋があり、普段は馬が放し飼いにされている。
 
●ジグザグ走り(p124)
 〔何度も立ち止まり、身を屈めて木々の隙間をすり抜けてから再び加速する。絶えず方向を変え、平らな地面を避けることで、舗装路をまっすぐに走るときのように同じ動作を繰り返して筋肉の特定の箇所に強い負担をかけてしまうのを避けられる。〕
 ツェダ(選手でチームメイト)「これはエチオピア流のドーピングさ! この走り方をすれば、怪我をせずにいい練習ができるんだ」
 メセレット(コーチでスポーツ科学の専門家)「(ジグザグ走は)コーチのアイデアじゃないんだ」。「あれは意図的につくられた練習ではない。誰も、森の中をジグザグに走ろうと思ってそうしているわけじゃない。いつの間にかあんなふうに走っていて、それがクロスカントリーレースで勝つためのアドバンテージになっているんだ」。
 〔あの走り方は、アディスアベバの森という環境がランナーという生物に与える影響、すなわち心理学の専門用語で、「アフォーダンス」と呼ばれるものだと考えることができるかもしれない。〕
 
●集団のエネルギー(p307)
〔 集団のエネルギーが個人のエネルギーの総和よりも大きくなるように、人生をかけて競技に打ち込む夥しい数のランナーがいるからこそ、エチオピアのランニング界は驚異的な力を持つトップ選手を擁することができるのだろう。世界トップレベルのランニングは、計測や規律だけでなく、互いの足を追いかけ、手本を示し、実験しながら学ぶランナーたちの好奇心や冒険心によって支えられているのだ。〕
 
(2021/10/29)NM
 
〈この本の詳細〉

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