SSブログ

人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
 [自然科学]

人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書)
 
篠田謙一/著
出版社名:中央公論新社(中公新書  2683)
出版年月:2022年2月
ISBNコード:978-4-12-102683-5
税込価格:1,056円
頁数・縦:294p・18cm
 
 次世代シークエンサの実用化によって古代人のDNA解析が大いに進展した。その最新の研究成果をもとに数十万年の人類の歴史をたどる。
 
【目次】
第1章 人類の登場―ホモ・サピエンス前史
第2章 私たちの「隠れた祖先」―ネアンデルタール人とデニソワ人
第3章 「人類揺籃の地」アフリカ―初期サピエンス集団の形成と拡散
第4章 ヨーロッパへの進出―「ユーラシア基層集団」の東西分岐
第5章 アジア集団の成立―極東への「グレート・ジャーニー」
第6章 日本列島集団の起源―本土・琉球列島・北海道
第7章 「新大陸」アメリカへ―人類最後の旅
終章 我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか―古代ゲノム研究の意義
 
【著者】
篠田 謙一 (シノダ ケンイチ)
 1955年生まれ。京都大学理学部卒業。博士(医学)。佐賀医科大学助教授を経て、現在、国立科学博物館館長。専門は分子人類学。
 
【抜書】
●初期猿人(p13〕
 サヘラントロプス属、オロリン属、アルディピテクス属。
 現時点では、3つの属の関係はほとんどわかっていない。
 
●パラントロプス(p16)
 「人類に並行するもの」という意味。頑丈型猿人。栄養価の少ないサバンナの植物を食べていたと考えられている。
 南アフリカのものを「ロブストス」、東アフリカのものを「ボイセイ」という別種として区別。
 
●後頭葉(p24)
 ネアンデルタール人の脳で顕著なのは、後頭葉の発達。視覚に関わる領域。
 日照の少ない高緯度地方の生活に適応した結果という可能性あり。
 
●ズーマス(p47)
 ZooMS。生物種のコラーゲンのアミノ酸配列を、質量分析計を用いて同定していく研究。
 動物考古学の分野に革命的な進展をもたらしている。
 コラーゲン・タンパク質は、ペプチドというアミノ酸が何百個も連なった小さな化合物。動物のタイプが違うとペプチドの特徴もわずかに異なる。
 
●パプアニューギニア(p48)
 パプアニューギニアの人々のDNAの3〜6%がデニソワ人起源。2%はネアンデルタール人由来。先にネアンデルタール人との混血が行われた。
 南アジア、東南アジア、アメリカ先住民にも、パプアニューギニア人の二十分の一程度のデニソワ人由来のDNAが共有されている。東アジアを中心とした地域では、パプア人とは別のデニソワ人集団との混血があった。
 チベット高原の現代人も、酸素の吸収に有利に働く遺伝子変異をデニソワ人から受け取ったと考えられる。高地適応。チベット高原では、16万年前のデニソワ人の化石が見つかっている。
 
●Toll様受容体(p64)
 生体に侵入した病原体をいち早く認識し、病原体排除に必要な生体防御機構を引き起こす分子。外部から侵入したメッセンジャーRNAも認識して自然免疫を活性化させる。コロナ・ウィルス・ワクチンを注射したときの副反応を起こす原因にもなる。
 ヒトには11種類のToll様受容体が見つかっている。そのうち二つがネアンデルタール人、一つがデニソワ人から受け継いだのではないかと指摘されている。
 
●30万年前(p80)
 ネアンデルタール人とデニソワ人の共通祖先からホモ・サピエンスが分岐したのが60万年前。
 しかし、最も古いホモ・サピエンスの化石は30万年前のアフリカ。その間の化石が見つかっていない。
 数十万年前にネアンデルタール人との間で交雑しているので、ホモ・サピエンスの最初の祖先はユーラシア大陸にいたという解釈も成り立つ。ユーラシアにいた原人の集団の中から、デニソワ人も含めたホモ属3種が生まれ、30万年前以降にアフリカ大陸に移動したホモ・サピエンスのグループが後に世界に広がることになった。ユーラシアに残ったグループはネアンデルタール人と交雑したあとに絶滅した、というシナリオも考えれらる。
 
●ユーラシア基層集団(p118)
 5万5000~4万5000年前にユーラシア大陸における東西集団の分岐があった。この分岐より前に、他の集団と別れ、西ユーラシア集団の形成に関与することになった未知の集団がある。ユーラシア基層集団。
 現在のヨーロッパ人や中東の人々の持つゲノムのうち、約四分の一が、この集団に由来すると考えられている。
 ネアンデルタール人と混血しなかった。出アフリカのあとの早い時期に他の集団と別れたため。
 出アフリカからの1万年ほどの間に、少なくとも東アジア系統、ヨーロッパ系統、ユーラシア基層集団の系統の三つが成立していた。これらが現代人につながる系統になっている。
 
●シャテルペロン(p124)
 ヨーロッパのホモ・サピエンスの後期旧石器時代は、プロトオーリニャック文化(4万5000年~4万年前) ― オーリニャック文化と続く。
 ネアンデルタール人のものであるムスティエ文化とオーリニャック文化とのあいだの移行期に、フランス中央部では双方の文化要素を持ったシャテルペロン文化が存在した。2016年、この文化の遺物が出土するトナカイ洞窟の人骨の分析の結果、約3万7000年前のネアンデルタール人のものであると判明。
 ネアンデルタール人は、ヨーロッパに進出したホモ・サピエンスの文化を取り入れることで、新たな文化を生み出していた。
 プロトオーリニャック文化とシャテルペロン文化、ムスティエ文化の時期は一部重なっている。ここから、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが共存したのは、2600~5400年間程度と見積もられている。
 
●ポントス・カスピ海草原(p143)
 中央ユーラシア西北部から東ヨーロッパ南部まで続くステップ地帯。
 およそ4900~4500年前、この中のハンガリーからアルタイ山脈の間に広がる地域(現在のウクライナが中心)で、ヤムナヤ文化が生まれた。牧畜を主体とする集団。
 馬や車輪を利用することで瞬く間に広範な地域への拡散を成し遂げた。縄目文土器文化。北東ヨーロッパ、中部ヨーロッパの北部に分布。ヨーロッパの北方ほど影響が大きかった。
 
●ペスト(p152)
 ヨーロッパでのペストの最初の大流行は、542~543年に東ローマ帝国で起こったとされているが、ヤムナヤ文化の流入がペストをもたらした可能性がある。
 古代ゲノム解析により、この時期のヨーロッパの農耕社会はペストの流行で大きく人口を減らしていた可能性が指摘されている。これまで解析されている101名のヤムナヤ集団のゲノムの7%から、ペスト菌のDNA断片が検出されている。
 
●ベーリンジア隔離モデル(p238)
 アメリカ大陸にヒトが進入した最古の考古学的な証拠は1万6000年ほど前。
 DNAから推定される結果は2万4000年前。
 この齟齬を説明するために提唱されたのが「ベーリンジア隔離モデル」。3万年以上前にベーリンジアに到達した集団が、最寒気にシベリア側とアラスカ側に発達した氷床に阻まれて数千年間隔離され、アメリカ先住民特有の遺伝的特徴を獲得し、その後の温暖化にともなってアラスカ側に一気に進出して、現在に続く新先住民集団となった。
 最近の発掘で、シベリア北東部のヤナ川流域に、3万年前から人類が生活してたことが明らかとなった。
 
●ヴァンパイア(p250)
 米国では、18~19世紀にヴァンパイアの存在が信じられていた。
 結核患者がヴァンパイアの正体? 黄疸による淡い黄色の皮膚や腫れた目、血痰によって血の付いた口などが、ヴァンパイアの特徴と一致。家庭内で発症したり、周辺に結核患者が増えたりすると、ヴァンパイアの仕業と思われてしまうので、人目を避けて行動した。その様子が、太陽の光を避けているように見えた。
 ヴァンパイアの復活を恐れて、結核で亡くなった遺体を掘り起こし、心臓を抜いて、頭骨と大腿骨を海賊旗のデザインのように組み合わせて埋めなおした。
 
(2022/6/10)NM
 
〈この本の詳細〉


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。