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お酒はこれからどうなるか 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで
 [経済・ビジネス]

お酒はこれからどうなるか: 新規参入者の挑戦から消費の多様化まで (1009;1009) (平凡社新書 1009)
 
都留康/著
出版社名:平凡社(平凡社新書 1009)
出版年月:2022年8月
ISBNコード:978-4-582-86009-2
税込価格:990円
頁数・縦:230p・18cm
 
 アルコール飲料業界の今と将来の姿を、経済学的な観点から語る。
 
【目次】
第1章 日本酒―続く新規参入者の挑戦
第2章 日本ワイン―「宿命的風土」を乗り越える苦闘
第3章 梅酒―古くて新しいお酒
第4章 日本のジン―クラフトジンの挑戦
第5章 家飲み―晩酌という独自の文化
第6章 居酒屋―世界にもまれな飲食空間
第7章 醸造所・蒸溜所が併設された飲食店―究極の「地産地消」
第8章 ノンアルコール市場の拡大―選択肢の多様化の先にあるもの
おわりに お酒のこれからを考える
 
【著者】
都留 康 (ツル ツヨシ)
 1954年福岡県生まれ。82年一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学(経済学博士)。同年、一橋大学経済研究所講師。85年同助教授、95年同教授を経て、一橋大学名誉教授。新潟大学日本酒学センター非常勤講師。著書に『製品アーキテクチャと人材マネジメント―中国・韓国との比較からみた日本』(岩波書店、第3回進化経済学会賞受賞)など多数。
 
【抜書】
●最古の酒蔵(p18)
 茨城県の須藤本家は、1141年に創業し、現在まで続いている。銘柄は「郷の譽(さとのほまれ)」。
 奈良時代から平安時代にかけて、商売としての酒造りが始まった。
 江戸中期までに創業した蔵元も273社に上る。(喜多常夫「18世紀までに創業した清酒・焼酎蔵元296社の創業年順リストとその分析」『日本醸造協会誌』100巻9号、2015年)
 江戸時代以前の日本酒の味は、今風に言えば味醂のような味だったらしい。
 
●生酛造り(p19)
 自然に存在する乳酸菌の増殖により、酸性環境を作りだす技術。
 酒母を作るにあたり、酵母が増殖するまでの期間に雑菌汚染を防ぐことが重要。自然に存在する乳酸菌を取り込むと、乳酸菌がベールのように雑菌を防いでくれる。
 江戸時代、生酛造りが開発された。
 生酛造りでは、原料を仕込むときに、蒸米、麹、酵母、水を浅い桶に入れて櫂棒で摺りつぶす作業(山卸)が必要になる。これを厳寒期の深夜に行った。この作業は重労働で、しかも発酵の不安定性を伴った。
 明治時代の末期(1900年頃)に「速醸法」が開発され、乳酸菌を直接投入することにより、気温の高低の影響を受けにくく、短時間で仕上げられるようになった。
 
●級別制度廃止(p21)
 1992年、国税局は、日本酒の級別制度を廃止し、製品における品質表示の基準を精米歩合に変更。特定名称酒制度。
 大吟醸酒50%以下、吟醸酒60%以下。純米酒(醸造アルコール無添加)、など。
 
●旭酒造(p22)
 山口県岩国市。売上138億円(2018年)、灘・伏見の大手ナショナルブランド企業の規模。
 大吟醸だけに特化し、磨き2割3分の「獺祭」を開発。空調設備完備の大規模工場で、杜氏の勘とコツに頼らず、数値管理によって醸造。
 
●新政酒造(p23)
 秋田市。造りの原点回帰。
 完全無添加の生酛造り、木桶の使用。醸造工程から、工業的要素を排除。
 
●日本酒の規制緩和(p27)
 2020年、「輸出用清酒酒造免許」を新設。輸出用の日本酒には、最低製造要件(60kl)を適用しない。
 試験製造免許の運用を弾力化。研究機関などにのみ認めていた免許を、小売業などにも広げた。
 
●株式会社ヴィラデストワイナリー(p75)
 2003年、玉村豊男が創設したワイナリー。エッセイストで画家。
 1991年、長野県東御市(とうみし)に移住、農業をしながら創作活動をしていた。自分で飲むためのワイン用のブドウも栽培していた。委託醸造。
 玉村が所長を務めていた宝酒造(株)が運営するTaKaRa酒文化研究所の顧問が、メルシャンを退職したばかりの麻井宇介だった。1998年、宝酒造のワイナリー設立プロジェクトが発足。しかし、2001年に中止。若手社員だった小西超(とおる)と玉村は、玉村の自宅と農園のある場所で製造免許を取得し、ヴィラデストを創業した。
 ワイン部門、レストラン部門、グッズ部門を擁する。
 ワイン造りを希望する者たちへの支援も行っている。「千曲川ワインアカデミー」(醸造教育機関)と、ワイナリー「アルカンヴィーニュ」を擁する日本ワイン農業研究所(株)を2014年に設立。
 東御市のワイナリーは、1軒から12軒に増加(2021年)。
 
●テロワール(p87)
 フランス語。ラテン語の「テラ(大地)」が原語。
 ブドウ畑の総合的な自然環境を表現する言葉。英語や日本語には、これを正確に表す言葉は存在しない。
 
●老舗居酒屋(p162)
 鍵屋……根岸、1856年(安政3年)創業。
 柿島屋……町田、1884年(明治17年)創業。
 みますや……神田、1905年(明治38年)創業。
 
●塩(p199)
 「塩は百肴(ひゃっこう)の将、酒は百薬の長」。『漢書』に出てくる王莽の言葉。
 吉田兼好は、『徒然草』にて、「百薬の長とはいえど、万病は酒よりこそ起これ」と書いた。
 
●ゲコノミクス(p209)
 藤野英人が提唱。飲めない人のためのお酒の経済学か?
 『ゲコノミクス――巨大市場を開拓せよ!』日経BP・日本経済新聞出版本部、2020年。
 
●モクテル(p209)
 mock(似せた)とcocktail(カクテル)の造語。
 カクテル様のノンアルコール飲料か?
 
【ツッコミ処】
・母数(p205)
〔要は、女性のお酒を飲まない割合の変化には、妊娠・出産などの影響があることが推察される。また、近年の非飲酒割合の増加は、飲む人の母数の大きい男性の影響が大である。また40歳未満男女の「酒離れ」が顕著である。〕
  ↓
 「母数」とは、「母集団の母平均と母分散の総称。」(日本国語大辞典)のことで、統計用語ということだが、同辞典には、「分母のこと。」ともある。
 残念ながら、『デジタル大辞泉』『岩波国語辞典』『現代国語例解辞典』には、「分母」の意味での立項はない。
 
(2022/11/27)NM
 
〈この本の詳細〉


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