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ヤバい神 不都合な記事による旧約聖書入門
 [哲学・心理・宗教]

ヤバい神: 不都合な記事による旧約聖書入門
 
トーマス・レーマー/著 白田浩一/訳
出版社名:新教出版社
出版年月:2022年3月
ISBNコード:978-4-400-11908-1
税込価格:2,420円
頁数・縦:252p・19cm
 
 旧約聖書に現れる理不尽な神に対する解釈を論じる。タイトルから連想されるものとは異なり、真面目な宗教論である。
 
【目次】
序論 人間に挑みかかる旧約聖書の神
第1章 神は男性か
第2章 神は残忍か
第3章 神は好戦的な暴君か
第4章 独善的な神の前に人間は罪人に過ぎないのか
第5章 神は暴力と復讐の神なのか
第6章 神は理解可能か
結論 旧約の神と新約の神
 
【著者】
レーマー,トーマス (Römer, Thomas)
 1955年、ドイツ・マンハイム生まれ。1984~1993年、ジュネーヴ大学講師、准教授(ヘブライ語およびヘブライ語聖書担当)。1993~2020年、ローザンヌ大学神学・宗教学部教授。2008年よりコレージュ・ド・フランス教授、「聖書とその文脈」講座担当。現在は学長も務める。著書多数。
 
白田 浩一 (ハクタ コウイチ)
 1977年、茨城県下館市(現・筑西市)生まれ。国際基督教大学教養学部人文科学科卒業、同大学大学院中退。
 
【抜書】
●ヤホ(p27)
 ヤハウェあるいはヤホが、イスラエルの神の名。
 
●エル(p27)
  いと高き方[エル・エリオン]が国々を割り当てた時、
  彼が人類を分配した時、
  彼は神[エルの息子]の数に従って人々の境界線を定めた。
  主の[ヤハウェ]自身の取り分は彼の民、
  彼が引いたヤコブがその取り分。
 『申命記』32章「モーセの歌」の最初の版。エルと呼ばれる主神はその息子の数に従って世界を分割した。そしてヤハウェはイスラエルの民を取り分として受け取った。
 偉大なる神「エル」の保護の下に諸国の神が万神殿(パンテオン)をなしているという考え方を表している。イスラエルの神、モアブ人の神、エドム人の神、そして他の神々は兄弟であると考えられている。それぞれが自らの民の君主、保護者であった。
 
●アシェラ(p62)
 王国時代、ヤハウェは国家神として崇拝されていた。王国内の各所に「高き所=丘の上にある聖所」があり、3メートル以上の高さの石が置かれている。これらの石はマッツェボートと呼ばれ、はっきりと男性器の形をしており、男性神を象徴していた。
 これにはアシェロートと呼ばれる木製の柱が伴っており、女性神を象徴していた。
 アシェラとはアシラのヘブライ語形。アシラはカナン(特にウガリット)の神々の神殿において強い存在感を持つ女神。
 かつてのイスラエルには、女性神も存在した。
 
●イスラエル(p110)
 アブラハムの子イサクの子ヤコブ。
 裕福になって自らの一族を形成し、義理の父ラバンからの独立を果たした。そして家に帰ることに。
 「だが彼は夜中に起きて、二人の妻、二人の召し使いの女、それに十一人の子どもを引き連れ、ヤボクの渡しを渡って行った。ヤコブは彼らを引き連れ、川を渡らせ、自分の持ち物も一緒に運ばせたが、ヤコブは一人、後に残った。すると、ある男が夜明けまで彼と格闘した。ところが、その男は勝てないと見るや、彼の股関節に一撃を与えた。ヤコブの股関節はそのせいで、格闘しているうちに外れてしまった。男は、「放してくれ。夜が明けてしまう」と叫んだが、ヤコブは、「いいえ、祝福してくださるまでは放しません」と言った。男が、「あなたの名前は何と言うのか」と尋ねるので、彼が、「ヤコブです」と答えると、男は言った。「あなたの名はもはやヤコブではなく、これからはイスラエル〔「神は闘う」「神と闘う」の意〕と呼ばれる。あなたは神と闘い、人々と闘って勝ったからだ。」ヤコブが、「どうか、あなたの名前を教えてください」と尋ねると、男は、「どうして、私の名前を尋ねるのか」と言って、その場で彼を祝福した。ヤコブは、「私は顔と顔とを合わせて神を見たが、命は救われた」と言って、その場所をペヌエル〔「神の顔」の意〕と名付けた。
 ヤコブがペヌエルを立ち去るときには、日はすでに彼の上に昇っていたが、彼は腿を痛めて足を引きずっていた。」『創世記』32.23~32
 
●追放(p121)
 ティグラト・ピレセル3世(BC745-727)の時代に、レバントはアッシリア帝国の一部となった。
 BC738年から北イスラエル王国はアッシリアに朝貢。BC722年にサマリア陥落、独立を失ってアッシリアの属州に。
 BC734年、南ユダ王国がアッシリア王の家臣に。「アッシリアの平和(pax assyrica)」に膝を屈した。
 アッシリアの平和は、一種の共通市場を形成していた。経済基盤の整備は、メソポタミアの歴史においてそれまでなかった流動性をもたらした。
 征服した国の兵士たちをアッシリア軍に編入し、征服した国の住民の一部を国外へと追放した。追放された者の大半は、知識人(役人、書記官、主要な軍人、祭司、熟練の職人)だった。追放の目的は、彼らが住民たちを組織して反乱を起こすことがないようにするためだった。
 
●ハピル(p129)
 イスラエルは、エジプトの王に依存するカナンの都市国家の王と対立した周辺の部族から生まれた。
 これらの反逆者集団は、エジプトの資料においてハピルまたはハビルと呼ばれており、この表現はヘブライという言葉と結びつけられてきた。
 
●カウンターヒストリー(p133)
 抑圧された少数派のグループが抑圧する者自身の主張を取り上げ、それを嘲笑したり、抑圧する者に向けて投げ返すこと。ユダヤ教研究に由来する表現。
 〔従ってヨシュア記には、アッシリアとその神々に対するヤハウェの優位性を確認する論争的なメッセージがある。だが、このメッセージを展開するには、ヤハウェをアッシュルと同じように残忍で好戦的な神として描くという代償が伴った。〕
 
●商取引(p162)
 聖書のテクストが書かれた時代、婚姻とは恋愛によるものではなく、二つの家族ないし氏族の間で行われる商取引であった。
 姦淫の禁止は性倫理を第一の目的とした規定ではなく、法的な問題だった。古代の中近東では、妻をめとることは彼女を「所有」することだった。したがって、姦淫とは別の男性の「所有」を侵害する行為である。
 姦淫の被害者となる事に対する恐怖は、血統の重要性からも説明できる。血統は最大の関心事だった。子どもは、女性と夫との間に生まれた者でなければならなかった。そうでなければ家族や氏族の継続性を保証できない。この不安を解消するため、ユダヤ教は後に母系、すなわち母親の祖先をたどる考え方を採用した。
 
(2023/2/9)NM
 
〈この本の詳細〉


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