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会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか
 [言語・語学]

会話の科学 あなたはなぜ「え?」と言ってしまうのか (文春e-book)
 
ニック・エンフィールド/著 夏目大/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2023年3月
ISBNコード:978-4-16-391679-8
税込価格:2,420円
頁数・縦:260p・20cm
 
 言語学において、会話を研究することの重要性を説く。
 
【目次】
第1章 はじめに―そもそも言語とはどういうものか
第2章 会話にはルールがある
第3章 話者交代のタイミング
第4章 その一秒間が重要
第5章 信号を発する言葉
第6章 質問と答えの関連性
第7章 会話の流れを修復する
第8章 修復キーワードは万国共通
第9章 結論―会話の科学が起こす革命
 
【著者】
エンフィールド,ニック (Enfield, Nick J.)
 シドニー大学言語学教授、シドニー社会科学・人文科学高等研究センター長。東南アジア本土、特にラオスでの長期にわたるフィールドワークによって、言語、文化、認知、社会生活を研究している。ラオスの国語で、タイ、カンボジアなどでも話されているラオ語と、ラオスとベトナムの国境付近で300人ほどのコミュニティで使われているクリ語を専門とする。
 
夏目 大 (ナツメ ダイ)
翻訳家。
 
【抜書】
●会話分析(p41)
 ハーヴェイ・サックス、エマニュエル・シェグロフ、ゲイル・ジェファーソンという3人の異端の社会学者が始めた研究手法。人間の自然な対話のミクロ社会学的現象について研究。アメリカ言語学会の機関誌『Language』で1974年に発表された論文「会話における順序交代の秩序に関する簡単な体系学」。
 
●アンティグア島(p67)
 カリブ海のアンティグア島では、人びとの会話は無秩序に感じられる。誰もが相手がまだ話していてもお構いなしに話し始める。
 
●7ミリ秒(p70)
 日本語において、Yes/No質問の終わりから応答の始まりまでに経過した時間は、平均で7.29ミリ秒。調査した中で最短だった。
 著者とタニヤ・スティヴァース、スティーブン・レヴィンソンらの共同研究による。世界各国10の言語での調査。イェレ語(パプアニューギニア)、ツェルタル語(メキシコ高地の言語)、アクホエ・ハイロム語(ナミビアの言語)、ラオ語(ラオスの言語)、韓国語、日本語、イタリア語、デンマーク語、オランダ語、英語。
 10言語の平均は207ミリ秒。英語は236.07ミリ秒、最長はデンマーク語の468.88ミリ秒。
 
●1秒(p79)
 ゲイル・ジェファーソン「1秒は通常、会話における沈黙の最大持続時間である。」
 オランダ語、英語、ドイツ語での電話における調査でも、話者交代のタイミングは200ミリ秒程度が最も多かった。(p44)
 
●収斂進化(p206)
 “Huh?”(なんだって?)に類する語(「弱い修復」を促す語)は、調査した10か国語に共通に存在する。しかも、発音が似ている。
 擬声語は、収斂進化によってどの言語でも似た音になっている。アヒルの鳴き声、鶏の鳴き声、など。
 “Huh?”に類する語も、収斂進化の産物?
〔 “Huh?”に類した言葉が多数の言語に存在しているのは、この種の言葉があらゆる言語に生まれる理由があるからではないか。会話中、相手の言うことが理解できなかった場合には、それを相手に伝える必要がある。本書ですでに見てきた通り、会話中には時間は非常に速く過ぎてしまう。つまり、何か問題が生じても、それを相手に知らせることのできる時間は非常に短いということだ。知らせるには、素早く簡単に発音できる言葉が必要になる。その条件にかなうのが“Huh?”だというわけだ。“Huh?”に類する言葉の母音は、どの言語においても、舌が弛緩した状態から最も発音しやすいものになっている。〕
 
●835ミリ秒(p209)
 英語の調査では、“Huh?”が発音されるまでの遅延時間は平均で835ミリ秒。
 通常の話者交代に要する時間が200ミリ秒、修復を促す「強い」言葉(Who、Whereなど)が発せられるまでの遅延時間は平均728ミリ秒。
 “Huh?”自体の発音は速くできるのに、実際に発音されるまでには時間がかかる。それは、相手の言葉の処理・理解に失敗した後だから。遅延が長くなり過ぎた場合、特に600ミリ秒を超えるほどになった場合には、急いで何らかの対応をしなければならない。“Huh?”は、遅れても何か言わないよりはまし、というときに使われる言葉。
 
●道徳(p210)
 “Huh?”が存在するのは、「話者交代システム」と同様、人間のコミュニケーションに道徳があるから。
 〔相手が常に協力的であるという想定がなければ、この言葉は意味をなさない。直近の言葉が聴き取れなかった、理解できなかったと伝えれば、後戻りして言い直してくれる、会話の流れを元通りにするのに協力してくれると信じているからこそ、発する言葉だ。会話が共同行動であり、参加者はそれを円滑に進める責任を負うという前提があるから成り立つ。〕
 
●人間と動物の違い(p218)
 〔動物の中にも複雑なコミュニケーションをするものはいるが、人間の会話の重要な特徴である、巧妙にタイミングが調整された話者交代や、修復のメカニズム、会話の流れを調整する信号などは人間以外の動物のコミュニケーションには見られない。“Huh?”などの言葉も人間以外の動物は使わない。聴き取りや理解に問題が生じていることを相手に知らせ、注意を喚起するようなシステムは他の動物にはないのだ。また、他の動物は、注意を喚起されたからといって、一度発した言葉を繰り返したり、別の言葉に言い換えたりする義務を感じることもない。〕
 
●会話機械(p228)
 人間は、社会的交流のための装置として、「会話機械」をもっている。この機械は、言語の基本的な特性、人間の社会的認知能力、そして相互交流の文脈などに依存して機能する。
 会話機械に関して特筆すべき三つのこと。
 (1)人間は、他人との社会関係を結ぶことに真剣に取り組む。社会関係を結ぶことに関しては、義務と責任を感じる。この義務感と責任感がなければ会話は成立しない。
 (2)人間の言語には、自分の言葉について語る機能がある。この「再帰的」な機能がなければ、自分の発言への注目を促すこともできず、誰かが会話のルールを破ったときや、会話に修復すべき問題が発生したときに、それを指摘することができない。
 (3)会話中、人は、相手の言動をすべて、直前、直後の出来事に関連するものと解釈する。「関連性の原理」のおかげで、会話中の言動がすべて結びつくことになる。会話中の人は、常に相手の直前の言動とのつながりを意識すべきである。相手の言動に注意を向け、それに応えるような行動をする必要がある。
〔 人間の会話の主要な特徴は、この三つの要素から生じているとも言えるだろう。たとえば、会話中の発言は基本的に一度に一人ずつ、という規則や、話者交代は一秒以内に行われるといった規則は、関連性の原則や、人間の会話に対する義務感、責任感から生まれていると考えられる。また、会話中に何か問題が生じた際に修復を促す場合の規則は、言語の再帰的な機能や、人間の会話への義務感、責任感がなければ生じないものだろう。〕
 
(2023/7/24)NM
 
〈この本の詳細〉


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