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宇宙・0・無限大
 [自然科学]

宇宙・0・無限大 (光文社新書)
 
谷口義明/著
出版社名:光文社(光文社新書 1261)
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-334-04668-2
税込価格:902円
頁数・縦:194p・18cm
 
 宇宙には0(ゼロ)はなく、無限大もない、ということを比較的分かりやすく解説。
 
【目次】
第1章 不可思議なゼロと無限大
 厄介なゼロ
 ややこしい無限
第2章 宇宙に無限はあるか
 これまでの宇宙観
 夜空と無限を巡る謎
 オルバースのパラドックスを解く
 大きな世界と小さな世界
第3章 宇宙にゼロはあるか
 宇宙の誕生
 原のその先へ
 遠隔力しかない宇宙
 自然はゼロを嫌う
第4章 宇宙に永遠はあるか
 有限な宇宙で育まれる命
 
【著者】
谷口 義明 (タニグチ ヨシアキ)
 1954年北海道生まれ。東北大学理学部卒業。同大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。理学博士。東京大学東京天文台助手などを経て、放送大学教授。専門は銀河天文学、観測的宇宙論。すばる望遠鏡を用いた深宇宙探査で128億光年彼方にある銀河を発見、当時の世界記録を樹立。ハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム「宇宙進化サーベイ」では宇宙のダークマター(暗黒物質)の3次元地図を作成し、ダークマターによる銀河形成論を初めて観測的に立証した。
 
【抜書】
●ビッグバン宇宙論(p105)
 宇宙の誕生と進化のシナリオ。
(1)無からの宇宙誕生
 138億年前、「無」からこの宇宙が生まれた。ミクロの世界では、すべての物質が揺らいでいる(正確な値が分からない状態)。位置や速度、時間やエネルギーなども揺らいでいる。「無」そのものも揺らいでおり、粒子やその反対の性質をもつ粒子(反粒子)が生まれたり、消えたりしている。「対生成」と「対消滅」と呼ばれる現象。揺らいだ「無」から、ある有限の確率で、宇宙が誕生することがある。その確率がゼロでないため、宇宙が誕生してもよいと考える。誕生したばかりの宇宙のサイズは10-36メートルだったと考えられている。プランク・スケールと呼ばれる値。
(2)急激な膨張
 誕生した宇宙はエネルギーをもっていたので、急激に膨張し始めた。そのため温度がどんどん下がり、宇宙の状態も大きな変化を経験しながら進化した。「相転移」と呼ばれる。相転移によってインフレーションと呼ばれる指数関数的な宇宙膨張が起こった。宇宙の誕生から10-36後にスタートし、10-34秒に終わってしまう。その間に宇宙の大きさは1043倍に膨れ上がった。
(3)火の玉宇宙
 インフレーションは熱エネルギー(潜熱)を残してあっという間に終わった。その後、この熱エネルギーを使って宇宙はまた膨張しだす。「ビッグバン」。
(4)ビッグバン元素合成
 火の玉宇宙は高温・高圧のため、最初の3分間で元素合成を行うことができた。ビッグバン元素合成。生まれた元素は水素(陽子)とヘリウム(ヘリウム原子核)、9対1。軽元素(リチウム、ベリリウム、ホウ素)もわずかに生成された。それ以外の炭素から鉄までの重い元素は星内部の熱核融合で生成された。鉄より重い元素は超新星爆発や中性子星同士の合体の際に生成されたもの。
(5)ビッグバンの残光
 誕生から38万年後、電離していたプラズマ宇宙は終わり、宇宙は中性化した。その時、電磁波はプラズマによる散乱を受けなくなるので、宇宙を自由に伝播できるようになった。この頃の宇宙の温度は3000K。宇宙はその熱放射(熱によって電磁波を放出する現象)で満たされていた。
 現在の宇宙は、宇宙年齢38万年の頃に比べて約1000倍になっているので、熱放射の波長は1000倍長くなって観測される。波長が1000倍長くなると、電磁波のエネルギーと温度は1000分の1に下がる。したがって、現在、この熱放射を観測すると、3Kの温度の熱放射として、マイクロ波という電波の波長帯で観測される。これが、宇宙マイクロ波背景放射の正体。この熱放射の存在は、ビッグバンが起こった観測的な証拠。TV番組が終わった後の「ザーッ」という雑音の約1割は宇宙マイクロ波背景放射。
(6)銀河の誕生
 宇宙の中では、ダークマター(暗黒物質)の重力に導かれ、普通の元素でできた物質が集められていく。宇宙誕生後1億年から数億年経過したときに(平均して2億年)、宇宙最初の星が生まれ始めた。その前は、一つも星がないので宇宙は真っ暗だった。そのため、宇宙最初の約2億年間は、「宇宙の暗黒時代」と呼ばれている。
(7)銀河の進化
 元素由来の物質を含む暗黒物質の塊(ダークマター・ハロー)は合体を繰り返しながら成長し、銀河を形作っていく。ダークマター・ハローに含まれている普通の元素でできたガス雲の中で星が生まれ、それらが集積されて銀河として育っていく。この考え方は「階層構造的合体モデル」と呼ばれる。
(8)現在
 宇宙の年齢は138歳になった。地球を含む太陽系は現在46億歳。
 ビッグバン……米国の物理学者ジョージ・ガモフ(1904-1968)が提唱した「ファイアーボール・モデル」のこと。「大ウソ」という意味のスラング。ファイアーボール・モデルを認めず、定常宇宙論を提唱したイギリスの天文学者フレッド・ホイル(1915-2001)が、BBCのラジオ番組で語った言葉。ガモフは、皮肉で言われた「ビッグバン」という言葉を気に入り、自分自身でも使い始めた。そのため、そのままビッグバン・モデルとして定着した。
 
●相転移(p140)
 宇宙が誕生した瞬間には力は統一されていて、一つの力しかなかった。
 ところが、相転移が起こるたびに統一されていた力は分化し、現在の自然界にある四つの基本的な力である「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」となった。宇宙誕生から1秒もたたないうちに4回の相転移が起こった。
 10-44秒後に重力相互作用と電磁相互作用に分かれ、10-36秒後に電磁相互作用から強い相互作用が分かれ、10-11秒後に電磁相互作用から弱い相互作用が分かれた。10-4秒後には核子が誕生した。
 現在は電磁気力と弱い力を統一する理論が出来上がっているが、これに強い力が統一されれば大統一理論が完成する。
 さらに重力が統一されれば「すべての力の統一理論(究極の理論)」が完成する。
 
●セルシウス(p156)
 摂氏(℃、セルシウス度)は、1742年にスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス(1701-1744)が定義した。セルシウスは、水の凝固点を100℃、沸点を0℃としていた。
 
●1080(p160)
 宇宙にある原子(陽子)の個数はだいたい1080個。エディントン数と呼ばれている。
 
●宇宙の未来(p172)
 宇宙の未来はどうなるのか、5通りの説がある。
(1)ビッグ・フリーズ
 宇宙は膨張とともに、どんどん冷えていく。最終的には絶対零度(0K=マイナス273.15℃)に近づいてく。
(2)ビッグ・リップ 
 リップ(rip)とは強く引き裂くこと。ダークエネルギーがある物理状態を取ると、宇宙膨張が急速に進行し、数千億年後には宇宙全体の膨張速度が光速を超える。この時、宇宙は原子レベルまで引き裂かれ、壊れて死に至る。
(3)ビッグ・クランチ
 crunchは潰れること。現在、宇宙は膨張しているが、膨張を止めるほど宇宙の中に物質があると、重力の働きで膨張にブレーキがかかる。その場合、膨張はいずれ止まり、収縮へと転ずる。そして、宇宙はまた一つの点のような小さな領域に集まる。
(4)サイクリック宇宙
 ビッグ・クランチの後、またビッグバンのような出来事が起きて、膨張に転じる可能性がある。膨張 → 収縮 → 膨張 → 収縮を繰り返す。
(5)真空崩壊
 現在私たちが住んでいる宇宙は、「真」の真空ではなく、「偽」の真空である場合に起こる。「真」の真空はエネルギーが最低の状態(最終的な安定状態)で、「偽」の真空はそれよりエネルギーが高い状態にある。「偽」の真空は「真」の真空へ遷移する運命にある。この遷移が起こると宇宙は消える。これがいつ起こるかは不明。
 
(2023/7/26)NM
 
〈この本の詳細〉


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