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言語の標準化を考える 日中英独仏「対照言語史」の試み
 [言語・語学]

言語の標準化を考える―日中英独仏「対照言語史」の試み
 
高田博行/編著 田中牧郎/編著 堀田隆一/編著
出版社名:大修館書店
出版年月:2022年6月
ISBNコード:978-4-469-21391-1
税込価格:2,970円
頁数・縦:247p・21cm
 
 言語の標準化という営為を、対照言語史という視点から論じる。
 読書の流れを中断するので注釈が嫌いなのだが、本書のような注釈なら許容できる。本編を読み終わったあとに振り返って注釈を読むことで、他言語との比較対照ができ、理解が深まる。
 著者による注釈は、その箇所の細かい内容を補填するものだが、本書の注釈は、もっと大きな視点で、論文の著者以外の専門家が他言語の特徴を論じるものだからである。
 
【目次】
第1部 「対照言語史」:導入と総論
 第1章 導入:標準語の形成史を対照するということ(高田博行・田中牧郎・堀田隆一)
 第2章 日中英独仏―各言語史の概略(田中牧郎・彭 国躍・堀田隆一・高田博行・西山教行)
第2部 言語史における標準化の事例とその対照
 第3章 ボトムアップの標準化(渋谷勝己:大阪大学大学院人文学研究科教授)
 第4章 スタンダードと東京山の手(野村剛史:東京大学名誉教授)
 第5章 書きことばの変遷と言文一致(田中牧郎)
 第6章 英語史における「標準化サイクル」(堀田隆一)
 第7章 英語標準化の諸相―20世紀以降を中心に(寺澤 盾:東京大学名誉教授、青山学院大学文学部教授)
 第8章 フランス語の標準語とその変容―世界に拡がるフランス語(西山教行:京都大学人間・環境学研究科教授)
 第9章 近世におけるドイツ語文章語―言語の統一性と柔軟さ(高田博行・佐藤 恵:慶應義塾大学文学部助教)
 第10章 中国語標準化の実態と政策の史話―システム最適化の時代要請(彭 国躍:神奈川大学外国語学部教授)
 第11章 漢文とヨーロッパ語のはざまで(田中克彦:一橋大学名誉教授)
 
【著者】
高田 博行 (タカダ ヒロユキ)
 学習院大学文学部教授。ドイツ語史、歴史語用論、言語と政治。
 
田中 牧郎 (タナカ マキロウ)
 明治大学国際日本学部教授。日本語学、日本語史。
 
堀田 隆一 (ホッタ リュウイチ)
 慶應義塾大学文学部教授。英語史、歴史言語学。
 
【抜書】
●変体漢文(p86、田中牧郎)
 和化漢文とも。
 7世紀ごろから。漢文の中に日本語に特有の敬語表現や目的語が動詞の前に来る表現が混じっており、見かけは漢文だが、実は日本語を書いた文章に。『古事記』が変体漢文の代表的なもの。
 
●漢文訓読文(p86、田中牧郎)
 平安時代の9世紀になると、万葉仮名からひらがなが成立。文芸の分野ではひらがな主体の和文が成立。
 学術・仏教の分野では、漢字を主体としてカタカナを交える漢文訓読文が成立。
 
●古英語、中英語(p129、寺澤)
 古英語(Old English) 700~1100年……語形変化が豊か。
 中英語(Middle English) 1100~1500年……屈折語尾が一様化。
 近代英語(Modern English) 1500~1900年……ルネッサンスの波。大量のギリシャ・ローマの古典語を借用。
  初期近代英語(Early Modern English) 1500~1700年
  後期近代英語(Late Modern English) 1700~1900年
 現代英語(Present-day English) 1900年~
 
●語尾の簡略化(p130、寺澤)
 古英語の多様な屈折語尾が一様化(水平化)し、1066年のノルマン征服以降、中英語の時代に入っていく。
 語尾の水平化は、フランス語の影響というより、9世紀半ば以降の北欧のヴァイキングとの言語接触によるところが大きい。同じゲルマン語系である英語と北欧語は多くの語で形態が似ており、おそらく語の中核部分(語幹)だけでもある程度意思疎通ができたため、語尾の部分を簡略化させた可能性がある。
 
●英語の借用語(p132注、寺澤)
 英語の借用語として最も多いのがラテン語。続いてフランス語、ギリシャ語。日本語は第10位。日本語借用語は500を超える。Philip Durkin(2014)による。
 和製英語が英米に逆輸入された例として、「shokku」がある。(石油ショックのような)政治・経済的衝撃、という意味。
 
●統一化、規範化、通用化(p137、寺澤)
 標準化の三つの異なる側面。
 統一化……ある一国内・地域において有力な方言・変種を基準として言語を統一していこうという動き。英語史においては、アルフレッド大王の時代におけるウェストサクソン方言の標準化、1400年以降の大法官庁英語に基づく標準化、など。
 規範化……言語の形式を「正しい」、「あるべき」形に統制していくこと。様々な辞書や文法書が出版された1660年から1798年までの時期。
 通用化……コミュニケーションの手段として多くの人の意思疎通が可能になるように言語を共通化・簡略化すること。20世紀以降の英語標準化の動き。
 
●雅言(p193、彭)
 『論語(・述而)』に「子所雅言。詩、書、執禮、皆雅言也」(孔子は雅言を操っていた。『詩』『書』または礼の作法を教えるときにはいずれも雅言を使っていた)とある。
 「雅」とは、正式、標準という意味。いわゆる標準語。
 
●アカデミー・フランセーズ(p199注、西山)
 アカデミー・フランセーズでは、1694年から現在に至るまで『アカデミー辞書』を刊行。フランス語の標準化に果たす役割が大きい。
 現在は、1986年から第9版が部分的に刊行されており、Rの項目にさしかかっている。
 もともと、アカデミー・フランセーズは文芸を愛する有志の集まり。1692年頃からパリに暮らす文人が友人の家に集い、さまざまな議論に興じていた。それを聞きつけた宰相のリシュリューが国家の庇護のもとに団体を作り、定期的な集まりを行うことを提案し、これがアカデミー・フランセーズへと発展した。
 
(2022/7/6)NM
 
〈この本の詳細〉


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