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40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた
 [自然科学]

40人の神経科学者に脳のいちばん面白いところを聞いてみた  
デイヴィッド・J・リンデン/編著 岩坂彰/訳
出版社名:河出書房新社
出版年月:2019年12月
ISBNコード:978-4-309-25403-6
税込価格:2,310円
頁数・縦:330p・20cm
 
 40人の神経科学者による、37のエッセーにより構成されている。人間の脳に関する研究の現在地がおおまかに理解できる一冊である。
 
【目次】
はじめに
1 発達と可塑性
2 脳のスペック
3 知覚と運動
4 脳の社会性
5 思考と判断
 
【著者】
リンデン,デイヴィッド・J. (Linden, David J.)
 神経科学者。ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授。主に細胞レベルでの記憶のメカニズムの研究に取り組むとともに、脳神経科学の一般向けの解説にも力を入れている。
 
岩坂 彰 (イワサカ アキラ)
 1958年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。編集者を経て翻訳者に。
 
【抜書】
●シナプス500兆個(p11、デヴィッド・J・リンデン)
 ヒトの脳にあるニューロンは約1,000億個。
 一つのニューロンは、平均して5,000か所のシナプスから信号を受け取る。
 つまり、脳のシナプス総数は500兆個。
 
●双生児(p28、ジェレミー・ネイサンズ)
 人類で一卵性双生児が生まれる率は、270分の1程度。
 二卵性双生児が生まれる率は、115分の1程度。
 
●発達性ダイアスキシス(p45、サム・ワン)
 発達性ダイアスキシス……発達段階で必要な情報の供給源を断たれると、その情報を受け取るべき領域は適切な発達ができなくなる。脳の一部で障害が生じたとき、そこから離れた脳領域の活動や血流が突然変化する。
 ダイアスキシス(ディアシーシス)=機能乖離、遠隔障害。
 発達性ダイアスキシスが、小脳の問題から生じている可能性がある。
 小脳に損傷を受けた場合、大人では運動が混乱し、制御できなくなる。出生時や乳幼児の小脳損傷は、自閉症になるリスクが40倍になる。
 〔小脳は感覚入力や運動指令など脳内の多種多様な情報を処理して、行為を導き、精緻化する。小脳からの出力は、視床、つまり視覚の発達を導くのに必要な活動を行っていた組織を経由して新皮質に送られる。小脳は、外界が一瞬の後にどのようになっているかを予測し、それにより計画の立案に役立っていると考えられている。こうして小脳は、運動と思考を調整し、誘導しているものと思われる。〕
 
●25%(p55、リンダ・ウィルブレクト)
 ニューロンは、日々新しい結合ができ、翌日にはその大半が消えていく。
 思春期に入るころの脳は、毎週シナプスの25%以上が育ち、消えていく。
 成人の脳になると、領域にもよるが、回転率は10%に落ちる。
 
●渇望の孵化(p77、ジュリー・カウアー)
 側坐核のシナプスは、1回の薬物使用では何も変化しない。繰り返し使用して初めて変化が始まる。
 その後、使用をやめようとすると、「渇望の孵化」と呼ばれる現象が起こる。
 渇望は薬物をやめてからすぐに始まるが、日がたつにつれ強まっていく。断薬が続いている間も、ドーパミン作動性ニューロンから側坐核へとつながるシナプスがますます強化されていく。シナプスがこのように変化すると弱まることはなく、さらに結合が強まり、その状態で安定する。長期記憶に似ている。
 〔薬物を繰り返し使用した後の脳は、使用前とは完全に違う脳になっている。〕
 依存症患者は、回復しても非常に再発しやすい。薬物を連想させる人や場所、音や匂い、あるいは吸引道具を見ただけでも再発の引き金になる。(p251、テレンス・セイノフスキー)
 
●平均顔(p231、アンジャン・チャタジー)
 コンピュータを使って多様な顔を組み合わせて、平均的な特徴をもった顔にしたもの。
 平均顔は、合成に使われた個々の顔より、概して魅力的と感じられる。
 平均顔は、現実世界では分布の中央にいる人に対応する。遺伝的多様性の高さを示している。つまり、環境の変化に適応して生き延びる柔軟性が高い。
 左右対称の顔の美しさは、免疫系の健康の指標でもある。寄生をされた植物や動物は、多くの場合、形態的に非対称的になる。また、発達異常があると、多くの場合、身体が非対称的になる。
 世界各地の29の文化を調べたところ、感染病の多い地域に暮らす人々のほうが、配偶者の身体的な魅力に価値を見いだしていることが分かった。
 
●コネクトーム(p244、アシフ・A・ガザンファー)
 人間はゲノム(遺伝情報の総体)ではなく、「コネクトーム(神経接続の総体)」である。
 自分がどんな人間であるかは、脳神経系の全ニューロンの接続その他の性質がどのような特性を持ち、どのような全体像を構成するかによってすべて決まる。
 脳は、行動のコントロールセンターのようなものである。
 
●大脳基底核(p251、テレンス・セイノフスキー)
 ドーパミン・ニューロンは、大脳基底核から入力を受ける。
 大脳基底核は、大脳皮質全体からの入力を受けている。皮質の状態を評価するとともに、何かの目的を達成する一連の運動の学習にも関係している。
 
●TD学習(p252、テレンス・セイノフスキー)
 TD学習(時間的差分学習)……ある選択をした際に推定される報酬と実際に得られた報酬を比較して、次の機会により良い判断が下せるよう報酬の推定を変更する。次に、選択の各時点におけるそれぞれの判断に対して報酬の推定値を計算する価値ネットワークを更新する。
 
●脳のデジタル化(p262、ミゲル・A・L・ニコレリス)
〔 人間の脳のデジタル版がいずれ作られるという可能性は否定できると私は確信しているが、そのことよりも、もっと具体的で厄介な未来のシナリオを指摘しておきたい。私たちの脳がデジタルシステムにどっぷりつと浸かった結果、神経の可塑性のプロセスを通じてそうしたデジタルシステムの動きとロジックをまねし始めるというシナリオだ。理由は単純で、この種の機械的行動をまねることで多くの報酬を得られるためだ。この可能性と(少なくとも私にとっては)歓迎できないその未来像について、ニコラス・カーやシェリー・タークルが著書の中で概観している。
 彼らはさまざまな事例を描写する。たとえばSNSなどのデジタルシステムへの過剰な耽溺が重要な脳機能に影響を及ぼすことなどだ。実際、放射線技師は自動画像認識ソフトに依存しすぎて画像診断力を低下させている。大手設計事務所では設計ソフトの使用により建築士の創造力が失われつつある。大半の時間をSNS上でバーチャルな会話をして過ごす若者は不安を増大させている。こうした初期症状はいたるところで見られる。最悪の場合、知的作業や社会的課題をデジタルシステムに任せっぱなしにしていると、人間らしいさまざまな行動が抑えられたり完全に失われたりするかもしれない。私たちの脳は単なる生物デジタルシステムになってしまうのである。〕
 
●知覚(p274、エピローグ。デイヴィッド・J・リンデン)
〔 神経系は、外界の正確な表象を私たちに与えるようにはできていない。神経系が与えてくれるのは、過去に、生存のためや遺伝子を次世代に残すために最も役立った外界の見方だ。純粋な感覚というものは存在しない。脳は感覚的世界の中から特定の側面だけを選択し、強調して、そのうえでその感覚を感情や予想と混ぜ合わせるように作られている。私たちの脳は、環境の変化に注目し、持続する感覚は無視するようにできている。時間の知覚も報酬への期待により歪められる。つまるところ、すべての知覚は客観的な正確さではなく有用な判断と行為のために存在する。〕
 
(2020/4/11)KG
 
〈この本の詳細〉


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