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警察庁長官 知られざる警察トップの仕事と素顔
 [社会・政治・時事]

警察庁長官 知られざる警察トップの仕事と素顔 (朝日新書)  
野地秩嘉/著
出版社名:朝日新聞出版(朝日選書 833)
出版年月:2021年9月
ISBNコード:978-4-02-295141-0
税込価格:891円
頁数・縦:244p:18cm
 
 警察庁の元長官5名、元警視総監1名に行ったインタビューを元に、警察のトップの仕事、警察という組織の有り様について描く。
 本書を読んでいると、日本の警察は素晴らしい組織なのだなあと思う。たとえば「最前線!警察密着24時」(TBSテレビ)なんかを見ていたら、警察官が麻薬所持の容疑者を追っている時、その場にいた通行人が容疑者の行方を即座に教えてくれる。あっちに行った、こっちに行った、というふうに。これは、一般人に警察官が愛され、信頼されている証だろう。市井のお巡りさんたちが、時に命の危険にさらされながらも市民の安全を守るという仕事を忠実に愚直にこなしているからこその反応だと思う。
 そんな警察官30万人の長たる警察庁長官は、能力的にも優秀でありながら人格的にも優れていなければ務まらない仕事だということがよく分かる。
 
【目次】
はじめに―増え続ける警察の仕事
第1章 警察とその組織
第2章 警察の現在動向
第3章 警察の成り立ちと警察庁長官の原型となった3人の長官
第4章 警察庁長官の仕事と資質
第5章 元長官たちの話―長官になるのに必要なキャリアとは何か
第6章 警視総監が見た警察庁長官
おわりに―長官の資質について
 
【著者】
野地 秩嘉 (ノジ ツネヨシ)
 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、ビジネス、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
 
【抜書】
●8%(p7)
 警察白書によると、110番受理件数のうち、刑事関係は8%に満たない。
 大半は、「近所で夫婦喧嘩をしている」「ゴミ屋敷を片付けてくれ」「隣の騒音がうるさい」など、市民生活における苦情。遺失物の問い合わせ、交番での金借りなどは入っていない。
 〔市民生活を助けることを業務として推進している警察は世界にはほぼないと思われる。〕
 
●国家公安委員会(p41)
 警察庁長官を選ぶのは国家公安委員会。警察組織の中から候補者が出てきて、その候補を長官にする。
 国家公安委員会は行政委員会で、政府の一員。全員で6名。委員長は大臣で、残りの委員も含めて、任命するのは総理大臣。実質的には官僚たちが推薦している。
 任免にあたっては、衆議院と参議院の同意が必要。
 国家公安委員会が警察を管理するというシステムは、GHQが戦後に持ち込んだもの。それでも日本に適合し、定着している。
 世界の国では、国家公安委員会のような行政委員会が警察を管理するといったシステムはまずない。
 
●警視庁(p60)
 東京に警視庁が置かれたのは1874年。内務省警保局のスタート(1876年)より早い。
 創設者は、日本の警察を作った川路利良(かわじとしよし)。
 〔今に至るも東京都警察本部とならず、警視庁という名称を死守しているのはプランドネームへの誇りと川路利良への敬意だろう。〕
 
●大阪警視庁(p63)
 1948年から6年間、戦前からの国家警察は解体され、アメリカ式の自治体警察(市町村警察)に再編された。
 人口5,000人以上の都市には独立した自治体警察が設置され(1,605市町村)、5,000人以下の町村については国家地方警察が担当することになり、本部は東京に置かれた(国警本部)。
 大阪は、東京への対抗意識から大阪警視庁と名乗った。釧路署、稚内署も警視庁。いずれもトップは警視総監を名乗る。
 
●警察庁(p65)
 占領下が終わった1954年、警察法が施行され、警察は都道府県警察へと変わり、国警本部は警察庁となる。現在の組織体系。
 
●柏村信雄(p72)
 3代目警察庁長官。1959〜60年、日米安全保障条約に反対する大規模デモが頻発していた。第一次安保闘争。
 岸信介総理から「国会前のデモ隊を排除しろ」と命令されたにもかかわらず、頑として断った。
 「都心と羽田空港を埋めるデモ隊を、警察力で強制排除することは物理的に不可能です。総理、今日の混乱した事態は反安保、反米もございますが、それらはこのくらい(両手を十センチほど開いて)小さい。それに比べますと、この大きなデモのエネルギーは反岸で、このくらい(両手を一メートルほど大きく開いて)大きい。このデモ隊は、機動隊や催涙ガスでの力だけではなんともなりません。もはや残された道は、一つ。総理ご自身が国民の声を無視した姿勢を正すことしかありません。」岸総理は、激怒して「警察は肝心なときに頼りにならない。わしは自衛隊に頼む」と言った(『警視庁長官の戦後史』より)。
 全国の警察本部長から、「総理が長官を罷免する暴挙に出るなら、われわれは一斉に辞任する。警察庁は政府の圧迫に屈服するな」という電報が長官に送られた。
〔 日本の警察組織にとって60年安保における柏村の判断は大きい。日本の警察は総理大臣が厳命しても、国民に対して発砲することはできない。もし、治安出動があるとすれば、おそらく外国の戦闘部隊が日本に侵入してきた時くらいではないだろうか。〕
 
●警察庁長官の責任のとり方(p127)
 警察庁長官だけがする判断、仕事について、米田壯(第24代長官:2013年1月25日〜2015年1月22日)が問われたときの答え。
 「想定外のことが起こったときどう責任を取るか、具体的にはどう辞めるかをつねに考えている。」
 「警察庁長官にしかできない仕事は、今言ったような判断をすることと、正気を保つことだと思います。権力の衣をまとうと人格が変わってしまう人も皆無ではありません。極論すれば、感情に流されることなく、日々平静に淡々としていれば、特に華々しい業績がなく
ても、長官としてまずまずの点数が取れるのではないかと思います。」
 
●正義(p206)
 國松孝次長官(第16代:1994年7月12日〜1997年3月30日)が狙撃されたことに関して。
〔 彼は狙撃犯に対する憎しみは持っていない。誰が自分を殺そうとしたかという個人レベルでの話ではないからだ。犯人として撃った個人を特定し、逮捕し、罪に服させるのが警察官としての仕事であり、個人を敵として憎んでいるわけではない。思うに、警察官が感じる「敵」とは個人ではなく、正義に対する大きな脅威ではないだろうか。〕
 
●地図(p227)
 警察と自衛隊は、所持する地図が異なる。
 自衛隊の地図は、緯度と経度が書いているだけ。
 警察の地図は、何丁目何番地とか、建物の名前が入っている。
 
【ツッコミ処】
・妖精さん(p137)
 働かない中高年。
  ↓
 現場のベテラン刑事でも、上司になったキャリア組が仕事ができず(能力が低く)、気に食わない場合、「妖精さん」になってしまうこともあるらしい。でも、2年も我慢すれば高級官僚たちは異動してしまう。その間だけ「妖精さん」を決め込んで、新しい上司が来ればまたやる気を取り戻したりするのだろう。
 
(2021/12/27)NM
 
〈この本の詳細〉


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