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「うつ」の効用 生まれ直しの哲学
 [医学]

「うつ」の効用 生まれ直しの哲学 (幻冬舎新書) 
泉谷閑示/著
出版社名:幻冬舎(幻冬舎新書 い-28-2)
出版年月:2021年7月
ISBNコード:978-4-344-98626-8
税込価格:990円
頁数・縦:260p・18cm
 
 鬱病、鬱状態は、「心=身体」が「頭」に反逆を起こした状態、という前提に立って、「うつ」の原因と解決法、そして「うつ」の効用・必要性を語る。
 現代人が「うつ」になるのは当然である。まっとうな人間ほど「うつ」に罹りやすい。
 「うつ」になったら「心=身体」の声に耳を傾け、真の自分に戻るよう努力しよう……。いや、「努力」をしてはいけない、自然と「生まれ直し」が起きるようにならなければ。
 
【目次】
第1章 「うつ」の常識が間違っている
第2章 「うつ」を抑え込んではいけない
第3章 現代の「うつ」治療の落とし穴
第4章 「うつ」とどう付き合うか?
第5章 しっかり「うつ」をやるという発想
第6章 「うつ」が治るということ
 
【著者】
泉谷 閑示 (イズミヤ カンジ)
 1962年秋田県生まれ。精神科医、作曲家。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院、神経研究所附属晴和病院等に勤務したのち渡仏、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。帰国後、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法専門の泉谷クリニック(東京・広尾)院長。
 
【抜書】
●精神療法(p9)
 〔そもそも「うつ」がその人に生じたのはなぜだったのかを共に探索し、そして、自然治癒力を妨げているものが何であるのかを明らかにしていくような、緻密で丁寧なアプローチ。〕
 
●頭、心=身体(p22)
 頭……物事の効率化を図るために発達してきた部分。理性の場。情報処理を行う場所。記憶・計算・比較・分析・推理・計画・論理的思考などの作業が行われる。シミュレーション機能を持っており、「過去」の分析や、「未来」の予測を行うのは得意だが、「現在」を把握するのが不得手。must/should(~すべきだ、~しなくてはならない、~に違いない)。
 心……感情・欲求・感覚・直観が生み出される場。「いま・ここ(現在)」に焦点を合わせる。want to/like(~したい、~したくない、好き、嫌い)。「頭」とは比べ物にならないほど高度な知性と洞察力を備えていて、直観的に対象についての本質を見抜き、瞬時に判断を下す。その理由をいちいち明かさないので、情報処理という不器用なプロセスを必要とする「頭」にはほとんど解析不能。「心」と「身体」は一体。「一心同体」。
〔 生き物として人間の中心にある「心=身体」に対し、進化的に新参者として登場してきた「頭」が、徐々にその権力を増加し、現代人はいわば、「頭」による独裁体制が敷かれた国家のような状態にあります。
 これに対して、国民に相当する「心=身体」側が、「頭」の長期的な圧政にたまりかねて全面的なストライキを決行します。もはや、「頭」の強権的指令には一切応じない。これが「うつ」の状態なのです。中には、過酷な奴隷扱いがあまりに長期にわたった結果、「心=身体」がすっかり疲弊してしまい、ストライキというよりも、潰れてしまって動けない状態になっている場合もあります。〕
 
●努力、熱中(p97)
 野球の適性の高い資質を持った少年は、野球の練習をさほど苦痛に思っていない。面白いものに思える。「熱中」している。
 資質の乏しい少年にとって野球の練習は苦行以外の何物でもない。「努力」してもあまり上達しない。
 〔「熱中」したがゆえに成功した人間を見て、周囲の人間がそれを「努力」と誤解したところに、今日の「努力」信仰が作り出されてきた大きな原因がるように私には思えてならないのです。〕
 
●生まれ直し(p110)
 「うつ」からの本当の脱出とは、元の自分に戻ることではない。モデルチェンジしたような、より自然体の自分に新しく生まれ変わること。
 repair(修理)のような治療では、どうしても再発のリスクを残してしまう。
 reborn(生まれ直した)あるいはnewborn(新生)とも言うべき深い次元での変化が、真の「治療」には不可欠。
 
●ハングリー・モチベーション(p207)
 人類は、その始まりから永らく、様々な欠乏や不足を補い、それをすこしでも満たそうという方向に動機づけられて生きてきた。衣食住、平和や安全、安定、快適性、娯楽、情報や利便性。これら諸々の状況が少しでも改善・向上するように、あるいはより多く手に入るようにと、心血を注いできた。
 〔このような行動原理で人類が動いてきた時代を、私は「ハングリー・モチベーションの時代」と名付けました。〕『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』(幻冬舎新書)。
 
●摂食障害(p232)
 拒食症と過食症。
 どちらか一方の状態だけで経過することは珍しい。拒食に始まり、途中から過食が主になるケースが多くみられる。
 摂食障害の人たちに共通してみられる特徴は、自己コントロール力の強さ。大概の人ならば挫折するはずの無理なダイエットでも継続できてしまったりして、それを契機に摂食障害を発症してしまうことも多い。
 ダイエットという「頭」による計算が強制的に介入して食行動にコントロールをかけてくると、ある限度を超えたところで「心=身体」側は、食欲のストライキ(拒食)か暴動(過食)という形で、レジスタンス運動(反逆)を始める。
 
●自己本位(p247)
 夏目漱石が、神経衰弱に罹って休学し、郷里の広島で療養生活を送っている門下生の鈴木三重吉に送った手紙。
 「……しかし現下の如き愚なる間違ったる世の中には正しき人でありさえすれば必ず神経衰弱になる事と存候。これから人に逢う度に君は神経衰弱かときいて然りと答えたら普通の徳義心ある人間と定める事に致そうと思っている。
 今の世に神経衰弱に罹らぬ奴は金持ちの愚鈍ものか、無教育の無良心の徒か、さらずば二十世紀の軽薄に満足するひょうろく玉に候。」
〔 この「神経衰弱」とは、現代で言えば、ほぼ「うつ病」に相当するものであったと考えられますが、漱石自身も英国留学中にこれにかかり、引きこもりがちの生活をしていたことがよく知られています。しかし、漱石はこの神経衰弱の時期を通して、「他人本位」で生きてきた自分の不甲斐なさと向き合い、「自己本位」こそが大切であることをつかんだのでした。そしてそこで得た境地が、その後の小説家・夏目漱石の精神的な出発点にもなったのです。〕
 
(2021/12/23)NM
 
〈この本の詳細〉


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