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犬からみた人類史
 [自然科学]

犬からみた人類史  
大石高典/編 近藤祉秋/編 池田光穂/編
出版社名:勉誠出版
出版年月:2019年5月
ISBNコード:978-4-585-23070-0
税込価格:4,180円
頁数・縦:467, 8p・21cm
 
 本書は、日本文化人類学会第49回研究大会分科会「文化空間において我々が犬と出会うとき――狗類学(こうるいがく)への招待」(代表:池田光穂・奥野克巳)が出発点となっているとのことである(あとがき、p.463)。
 狗類学とは、「犬(類)による、犬のための、犬自身による研究」(池田)であるという。ちょっと気負いすぎかな? 本書の内容はといえば、どうしたって「ヒトによる犬の研究」なのである。
 
【目次】
犬革命宣言―犬から人類史をみる……大石高典・近藤祉秋・池田光穂
 
第1部 犬革命
 イヌはなぜ吠えるか―牧畜とイヌ……薮田慎司(帝京科学大学生命環境学部教授。動物行動学)
 犬を使用する狩猟法(犬猟)の人類史……池谷和信(国立民族学博物館人類文明誌研究部教授。環境人類学、人文地理学)
 動物考古学からみた縄文時代のイヌ……小宮孟(国立大学法人総合研究大学院大学先導科学研究科客員研究員。動物考古学)
 犬の性格を遺伝子からみる……村山美穂(京都大学野生動物研究センター長/教授、国立環境研究所野生動物ゲノム連携研究グループ長。動物遺伝学)
 イヌとヒトをつなぐ眼……今野晃嗣(帝京科学大学生命環境学部講師。動物心理学)
 犬祖神話と動物観……山田仁史(東北大学大学院文学研究科准教授。宗教民族学、神話学)
 
第2部 犬と人の社会史
 カメルーンのバカ・ピグミーにおける犬をめぐる社会関係とトレーニング……大石高典
 猟犬の死をめぐる考察―宮崎県椎葉村における猟師と猟犬の接触領域に着目して……合原織部(京都大学人間・環境学研究科博士後期課程。社会人類学)
 御猟場と見切り猟―猟法と犬利用の歴史的変遷……大道良太(狩猟指導員、京都府狩猟講師・試験委員)
 「聞く犬」の誕生―内陸アラスカにおける人と犬の百年……近藤祉秋
 樺太アイヌのヌソ(犬ぞり)……北原次郎太(北海道大学アイヌ・先住民研究センター准教授。文化人類学)
 忠犬ハチ公と軍犬……溝口元(立正大学大学院社会福祉学研究科教授。生命科学史、生命科学論)
 紀州犬における犬種の「合成」と衰退―日本犬とはなんだったのか……志村真幸(慶應義塾大学非常勤講師。南方熊楠研究)
 狩猟者から見た日本の狩猟犬事情……大道良太
 
第3部 犬と人の未来学
 境界で吠える犬たち―人類学と小説のあいだで……菅原和孝(京都大学名誉教授。人類学)
 葬られた犬―その心意と歴史的変遷……加藤秀雄(成城大学民俗学研究所研究員。日本民俗学)
 犬を「パートナー」とすること―ドイツにおける動物性愛者のセクシュアリティ……濱野千尋(京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期。文化人類学)
 ブータンの街角にたむろするイヌたち……小林舞(総合地球環境学研究所プロジェクト研究員。地球環境学、農村社会学)・湯本貴和(京都大学霊長類研究所所長/教授。生態学)
 イヌとニンゲンの“共存”についての覚え書き……池田光穂
 
【著者】
大石 高典 (オオイシ タカノリ)
 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター講師。専門は生態人類学、アフリカ地域研究。
 
近藤 祉秋 (コンドウ シアキ)
 北海道大学アイヌ・先住民研究センター助教。専門は文化人類学、アラスカ先住民研究。
 
池田 光穂 (イケダ ミツホ)
 大阪大学COデザインセンター教授・副センター長。専門は文化人類学、医療人類学、中米民族誌学、コミュニケーションデザイン。
 
【抜書】
●帯状回(p29)
 大脳の帯状回は情動行動に、脳幹は反射反応に深く関係している。
 ヒト以外の哺乳類は、咽頭、呼吸の神経核への大脳運動野からの投射は、帯状回と脳幹毛様体を経由する。ヒト以外の発声には、情動や反射の支配程度が大きい。呼吸や嚥下といった喉の運動は生命維持にとって重要なので、簡単に意図的制御ができないようになっているためと考えられる。
 ヒトでは、脳運動野から帯状回や脳幹を経ずに直接これら咽頭の神経へ投射する経路がある。ヒトが発声を意図的に制御できるのはこのためだと考えられている。
 イヌは、警戒だけでなく、遊びや分離の文脈でも吠える。「吠えろ」とヒトに命令されて吠えることもできる。つまり、「吠え」の制御が、オオカミに比べて情動から相対的に自由になっている。
 
●ディンゴ(p164)
 ディンゴは、約4,000年前、オーストラリアと交易のあった東アジアの船乗りたちによってオーストラリア大陸に連れてこられたと考えられている。
 自律性が高く、人間が飼育するのは難しい。アボリジニたちは、ディンゴの巣から子犬を取ってきて幼いころからしつけていた。それでもディンゴの自律性は保たれ、アボリジニの生活に完全に依存することはなかった。
 アボリジニのキャンプに暮らすディンゴは、様々な役割を担った。ある時は忍び寄る精霊や危険からアボリジニを守るための見張り役となり、ある時は寒さに凍えるアボリジニを温めるブランケットの代わりになった。ディンゴに深い愛情を注いだアボリジニの中には、亡くなったディンゴの骨や尻尾を装飾品にして身に着ける者もいたという。
 
●渡瀬庄三郎(p304)
 大正4年ごろから、渡瀬庄三郎が、日本の犬の危機と保存を訴えはじめた。
 渡瀬は東京帝国大学理学部の動物学教室教授。三好学、黒板勝美らとともに天然記念物という概念を日本に広め、史蹟名勝天然記念物保存法成立に尽力。大正8年4月、同法が施行されると調査委員に就く。
 大正9年、渡瀬を中心とする内務省の視察団が、秋田犬の調査のために大館を訪れるが、雑種化がはなはだしく、指定が見送られる。
 その後、斎藤弘が昭和3年に日本犬保存会を創立する。絶滅の危機にある日本の在来犬の保護と増殖を目的に活動。イギリスのケネルクラブを参考にした可能性が高い。
 
●日本犬標準(p306)
 昭和9年、斎藤弘、板垣四郎、小松真一、平岩米吉らが作成。日本犬の「正しい姿」を示す。
 1.本質と其の表現 悍威(かんい)に富み良性にして素朴の感あり、感覚鋭敏、動作敏捷にして歩様軽快弾力あり
 4.目 稍(やや)三角形にして外皆上がり、虹彩濃茶褐色を呈す
 など。
 
●奠基(p370)
 奠基(てんき)……古代中国で行われていた、家を建てる時の建築儀礼。犬が犠牲として埋められていた。
 
●御鷹餌犬(p378)
 近世初頭、村落において「村の犬」が飼われていた。
 鷹狩用の鷹の餌として、犬を供出する必要があった。
 会津藩などでは、村高1,000石あたり1匹が徴収され、犬を用意できない場合は代金一分と銀十匁が課せられた。
 17世紀初頭には、御鷹餌犬の上納は、ほぼ全国的なものだった。
 
【赤入れ寸評】
・渡瀬庄三郎の生年?
 〔渡瀬庄三郎(一八六二~一九二九)〕(p280)、〔渡瀬庄三郎(一八六三~一九二九)〕(p281)、どっち??
 調べてみると、辞事典によって異なっていた(JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2019-10-22))。
 1862年……日本大百科全書、世界大百科事典、日本国語大辞典、国史大辞典、日本人名大辞典
 1863年……岩波 生物学辞典 第5版
 『日本人名大辞典』に、文久2年11月11日生まれとある。この日は、西暦だと1862年12月31日にあたる。まさに大晦日。このあたりが、生年の混乱の原因か?
 しかしながら、そもそも、ひとつ前の段落に出てくる人の生没年を繰り返し表記する必要があるのか!?
 
(2019/10/22)KG
 
〈この本の詳細〉

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