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書籍修繕という仕事 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる
 [ 読書・出版・書店]

書籍修繕という仕事: 刻まれた記憶、思い出、物語の守り手として生きる
 
ジェヨン/著 牧野美加/訳
出版社名:原書房
出版年月:2022年12月
ISBNコード:978-4-562-07243-9
税込価格:2,200円
頁数・縦:232p、図版48p・20cm
 
 韓国人書籍修繕家によるエッセー。本に対する愛情、仕事に対する自負にあふれている。2018年2月に工房を開いてから、本書執擱筆までの間に149冊の本や紙類を修繕してきたという。
 
【目次】
生き残る本『’89施行 改正ハングル正書法収録国語大辞典(上下)』
落書きという記憶装置『ガラスのくつ』
「修繕」と「復元」の違い『Great Short Stories of Detection, Mystery and Horror』
代々受け継がれる本、その思いを込めて『韓英聖教全書 改訳ハングル版』
亡きあとに残された本『カット図案集』
テーラーになった気持ちで『Breadfast at Tiffany’s』
時間の痕跡を観察する仕事『FOYERS ET COULISSES - OPÉRA Vol.1-3』
バターと小麦粉の跡が増えていきますように『Recipes from Scotland』
あなたの破れた一センチはどこですか?『Lego Hidden Side Issue 2』
ここはもうすぐサンシュユの花咲く季節です おばあちゃんの日記帳
〔ほか〕
 
【著者】
ジェヨン (ジェヨン)
 傷んだ本を修繕する「ジェヨン書籍修繕」作業室代表。書籍修繕家、ブックアート専門家。韓国の美術大学で純粋美術とグラフィックデザインを学ぶ。2014年、アメリカの大学院に進学しブックアートと製紙を専攻する。指導教授の勧めで、大学図書館付属の「書籍保存研究室」で働きながら書籍修繕のノウハウを一から学ぶ。3年半で1800冊の蔵書の修繕を担当した。帰国後、ソウル市内に「ジェヨン書籍修繕」を2018年2月にオープン。書籍修繕家として本だけでなく紙類(しおり、フォトスタンド、ポスター、LPジャケットなど)全般の修繕に携わっている。
 
牧野 美加 (マキノ ミカ)
 韓国語翻訳家。
 
【抜書】
●かばん(p22)
〔 今あの本を読まないといけないのだけど、読みたいのだけど、どうにも手に取るのがためらわれるほどきれいな新しい本。実際に読みはじめるまで、新しい本と私の関係はいつも少々ぎこちない。いい物を買ったのに、傷をつけていまいそうで使うに使えずただ眺めているばかり、というときの感じに似ている。だから一時は、読みたい本があれば中古で買う、という時期もあった。
 そんなわけで、本を買うと最初の何日かは、読まなくてもかばんに入れて持ち歩くことにしている。かばんの中であっちに転がりこっちに転がりしているうちに表紙が少しずつ汚れ、角が擦れてきたら、そのときこそ、気楽に読める私にとってのベストタイミングだ。こういうプレッシャーは、「読みたい本」ではなく「読まなければならない本」であるほど強くなる。そういうときはいっそう気合を入れて「親しくなろう」と努力する。
 下線をがんがん引き、落書きもたくさんして、菓子の油のついた指でページをめくる。するとある瞬間からそういう落書きや目を通して本と対話するようになり、急ぐときは鍋敷きにもしながら親しみを覚えていく。どうやらわたしは、自分の痕跡をたくさん残すほどその本と親しくなれると考えるタイプらしい。〕
 
●『The Manchester United Opus』(p144)
 1878年に鉄道員の組織からスタートした「マンチェスター・ユナイテッド」128年の歴史を1冊にまとめた豪華本。2006年刊行。
 縦横60cm、厚さ14cm、重さ37㎏。厚さ8mmの木製のケース付き。
 850ページ、6色カラー印刷、人の手による製本、革の表紙、シルクコーティングされた200gの本文用紙。光沢コーティングが個別に施された2000枚以上の写真。
 9,500部限定、5,870ドル。刊行当時の監督アレックス・ファーガソンと、ボビー・チャールトンの直筆サイン入り。9,500冊すべてにサインするのに2、3カ月かかった。
 
●チョコレートクリームパイ(p162)
〔 わたしの大好きな映画「ジュリー&ジュリア」にこういう台詞が登場する。ついてない一日を過ごして帰宅した主人公ジュリーがチョコレートクリームパイを作りながら、いかにひどい一日だったかを夫の愚痴りつつ自分がなぜ料理が好きなのかを語るシーンだ。「何もうまくいかない日ってあるでしょ? 虚しい日が。そんな日でも家に帰って、チョコと砂糖とミルクと卵の黄身を混ぜると、確実にクリームになってホッとするの」という台詞だ。わたしもその気持ちが手に取るようにわかる。
 紙のしわを伸ばしたり、外れたページをくっつけたり、本を解体したりするのはとても慣れた作業なので、わたしにとっては一番手っ取り早く確実に満足感を得られる方法だ。緊張感の高い作業をしていて不安が大きくなると作る、わたしのチョコレートクリームパイだ。これを読んでいるみなさんの中にも、もし仕事中にふと言いようのない不安に襲われてつらいという人がいるなら、自分にとってのチョコレートクリームパイを見つけられますように。一番手っ取り早くて確実な慰めを得られますように。〕
 
(2023/2/12)NM
 
〈この本の詳細〉


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