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図書館逍遙 新版
 [ 読書・出版・書店]

新版 図書館逍遙
 
小田光雄/著
出版社名:論創社
出版年月:2023年6月
ISBNコード:978-4-8460-2286-0
税込価格:2,200円
頁数・縦:228p・19cm
 
 図書館に関する論考を集めたエッセー集。2001年発行の旧版に、単行本未収録の3編を追加した。
 
【目次】
図書館大会の風景
ある国書館長の死
悪魔とよばれた図書館長
コミックのなかの図書館
発禁本図書館
亡命者と図書館
CIE図書館
山中共古と図書館
燃える図書館
円本と図書館
古本屋、限定本、図書館
大橋図書館
江戸時代の文庫
貸本屋と図書館
図書館員と批評家
菊池寛と図書館
私立図書館の時代
永井荷風と南葵文庫
砂漠の図書館
贈与としての図書館
財閥と図書館
ネモ船長と図書室
死者のための図書館
戦争と図書館
地震と図書館
図書館長とアメリカ社会学
SFと図書館
アニメーションのなかの図書館
図書館での暗殺計画
ハードボイルドと図書館
出版社と図書館
現代風俗の場所としての図書館
図書館の出版物1
図書館の出版物2
悪魔学と図書館
黒死館と図書室
探偵小説のなかの図書室
『嘔吐』と図書館
小学校と図書室
写真のなかの文学館
不思議図書館と幻想図書館の司書
図書館で書かれた小説
古書目録と図書館
移民の町の図書館
ホラー小説と図書館
実用書と図書館
図書館員の生涯を賭けた一冊
植民地と図書館
詩人と図書館
盲学校と点字図書館
松本清張と図書館
大きな図書館から小さな図書館へ
対談・昭和二〇年代生まれの回想―『古本屋散策』刊行を記念して
 
【著者】
小田 光雄 (オダ ミツオ)
 1951年、静岡県生まれ。早稲田大学卒業。出版業に携わる。『古本屋散策』(論創社)で第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。
 
【抜書】
●地獄棚(p14)
 澁澤龍彦「『地獄』棚の魅力」(『澁澤龍彦集成』第Ⅶ巻、桃源社)収録のエッセー。
 パリ国立図書館には公開禁止のエロティックな文学の並んでいる棚を「地獄」棚と称している。欧米の図書館には、「地獄」棚に類する書物がかなり所蔵されていて、それぞれ「アルカナ」(秘密の棚)、「デルタ」、「地獄の穴」、「宝物庫」と呼ばれているという。
 
●集古会(p24)
 「組織的研究を目的とする学会では無くして趣味を生命とする好事家の寄合」。明治29年に会誌『集古』を創刊、約50年、189冊が発行された。山中共古の主たる寄稿雑誌であった。
 山中共古……1850年生まれ。旧幕臣でメソジスト教会の牧師であり、牧師を引退してから青山学院の図書館に勤務し、図書館長として晩年を終えた。柳田國男によって日本民俗学の祖と仰がれ、柳田國男の初期の著作『石神問答』は山中共古との共著といってもいい。
 
●大惣(p47)
 尾張名古屋で明和4年創業、約150年間、明治32年廃業。
 全国一の貸本屋。名古屋府下の武士階級はもとより、町人の文庫として一般庶民にまで親しまれた。
 文化文政期の江戸の文人たちも出入りした。滝沢馬琴や十返舎一九もしばしば大惣を訪ねた。
 坪内逍遥も、少年時代に「恰も図書館代わりに」利用し、弁当持ちで通い、その蔵書をすべて読んでしまった。日本近代文学の揺籃の地?
 「ニ三代前から貸本を始め、家の掟として買ふことはあるも、決して売らぬ」ことによって、2万部以上に及んだ蔵書は、廃業後、その大部分は国会図書館、東大、京大図書館に納められた。
 
●上質な図書館員の知識(p49)
〔 図書館員、あるいは図書館司書であった経歴を持つ作家や批評家がいる。管理職としての図書館長ではなく、実際に現場の図書館員であったという体験は、彼らの小説や批評にどのように反映されているのだろうか。
 ひとつ例をあげれば、国会図書館員だった阿刀田高は、新書版のコラムニストとして出発した。その広範な雑学コラムはジャーナリズムにも、アカデミズムにもない上質な図書館員の知識の香りがあった。その後短編作家に転身し、ゲーテ文献収集家で粉川ゲーテ文庫の館長であった粉川忠をモデルにした『夜の旅人』(文春文庫)を書いた。元図書館員が収集家の私立図書館長を描いたことになる。〕
 
●私立図書館1,385館(p57)
 坪内善四郎『大橋図書館四十年史』によると、昭和13年、全国に私立図書館が1,385館あった。昭和17年頃には、官立、公立、私立を合わせて4千館の図書館があった(p41)。
 最大の成田図書館(明治34年創立、千葉市)には、11万冊を超える蔵書。
 南葵文庫は、紀州徳川家の蔵書を麻布飯倉の徳川頼倫の私邸に移して、明治35年に開庫、明治40年に新館を建設して一般への公開を開始。蔵書数は13万冊を超えていた。大正末期に東大図書館に蔵書を移贈し、その活動を閉じた。
 徳川頼倫……明治5年生まれ。紀州徳川家を継ぎ、学習院を卒業後、ケンブリッジ大学に留学、欧米の手図書館をつぶさに視察して帰国。明治41年に日本図書館協会初代総裁に就任、図書館事業に多大の貢献をなす。
 
●カーネギー(p68)
 鉄鋼王カーネギーは、米国全土に2,800余、米国以外の英語圏に300、図書館の建物と図書を寄贈した。特にピッツバーグはカーネギーの事業の発祥の地。
 1875年に、米国に公共図書館は188しかなかった。
 
●レーベンスボルン(p100)
 ドイツ語の「レーベン=生命」と、中世語の「ボルン=泉」の合成語。
 1931年、ナチスは純粋なアーリア系ドイツ人のために、ユダヤ人種族との混血から国民を守るというスローガンのもとに、「種族、植民総局(RuSHA)」を創設した。種族の健康、選別という手段による種族の改良、純血な人間のための結婚コントロール、国家施設内での子供の養育を目的としたレーベンスボルンを設置、を行った。
 レーベンスボルンは、ドイツだけでなく、ヨーロッパ各地に設置された。未婚の母たちが収容され、多くの子供たちが誕生し、育てられた。また、ヨーロッパ各地から何十万人もの子供たちが誘拐され、レーベンスボルンに収容された。
 〔人種改造の名のもとに、国を、親を、過去を失った子供たちは、戦後になってもヨーロッパをさまよっている。〕
 
●東京堂(p149)
 明治初年の出版業界は、江戸時代から続く書林組合によって形成されていた。
 書林組合仲間は、出版、仲間の出版の取次、小売り、古書の取り扱いも行っていた。出版、取次、新刊小売、古書売買の四つを兼ねていた。著者もまた兼業であり、著者、出版社、取次、書店、古本屋は分業化していなかった。
 明治20年代になって、博文館が取次の東京堂を設立。出版社・取次・書店という、近代出版流通システムを誕生させた。
 明治30年代になると、通称上野図書館が帝国図書館として開館、府立図書館として日比谷図書館が設立される。一方、南葵文庫、大橋図書館が開館し、私立図書館の時代を迎える。
 
(2024/1/8)NM
 
〈この本の詳細〉


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