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檻の中の裁判官 なぜ正義を全うできないのか
 [社会・政治・時事]

檻の中の裁判官 なぜ正義を全うできないのか (角川新書)
 
瀬木比呂志/〔著〕
出版社名:KADOKAWA
出版年月:2021年3月
ISBNコード:978-4-04-082377-5
税込価格:1,034円
頁数・縦:316p・18cm
 
 日本の裁判官の実態、司法制度の問題点について、歯に衣着せぬ筆致で迫る。
 
【目次】
プロローグ―日本の裁判官は、なぜ正義を全うできないのか?
第1章 個人としての裁判官とその問題
第2章 官僚・公人としての裁判官
第3章 裁判官の仕事とその問題点
第4章 裁判官の本質と役割―儀礼と幻想の奥にあるもの
第5章 戦後裁判官史、裁判官と表現
第6章 法曹一元制度と裁判官システムの未来
エピローグ―檻の中の裁判官
 
【著者】
瀬木 比呂志 (セギ ヒロシ)
 1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。2年の司法修習を経て79年から裁判官。2012年明治大学教授に転身、専門は民事訴訟法・法社会学。在米研究2回。『ニッポンの裁判』により第2回城山三郎賞受賞。
 
【抜書】
●法曹一元制度(p13)
 相当の期間弁護士等の在野の法律家を務めた者の中から裁判官を選任する制度。米国、英国などの英米法系諸国起源の制度。
 キャリアシステム……司法試験に合格した者が司法修習を経てそのまま裁判官になる官僚裁判官システム。ドイツ、フランス等の大陸系諸国起源の制度。
 
●裁判官の収入(p43)
 年収500万円くらいから始まり、10年たって判事になる頃には1,000万円あまり。
 大地裁の裁判長(24、5年目〜)が約2,000万円、大高裁の裁判長(地家裁判所長の後でなる)が2,000万円台なかば、最高裁判事が約3,000万円。
 弁護士に比べると、かつては生涯年収が2〜3割かそれ以上低かった。しかし、近年の司法制度改革で数が増えて、弁護士の収入は相対的に減少している。
 公証人は、所長経験者が63歳位までに希望し、退官してなるもの。年収は、バブル経済の時代には数千万円になったが、今では、裁判官時代より一回り下がる程度。ただ、公証人独自の一定期間の年金的制度もあり、裁判官の年金に上乗せされる。
〔 本来、裁判官の高給は、裁判官の独立の基盤となるべきもののはずだ。つまり、「いい裁判、正しい裁判をしてくれるからこその高給」のはずである。しかし、日本の場合、国際的にみても高給ではあるものの、その高給は、「統制されている裁判官の不満をなだめ、裁判所当局の方針に従わせるための手段」になっている感が強い。〕
 
●天動説的な自己中心主義(p63)
〔 しかも、仕事の上では、先にもふれたとおり、若い判事補の判断といえども決定的なものであって、法に定められた不服申立て以外に争う手段はない。大学を出て間もない若者がそんな大きな決定権をもつというのは、ほかの世界ではありにくいことだ。
 結果として、元々はそれなりの資質や良識を備えていたような人々であっても、やがては、他者と自己に関する認識を欠き、普通の世界ではありにくい天動説的な自己中心性や全能感をもちやすくなるのである。〕
 
●二重帳簿(p94)
 裁判官の評価は二重帳簿システム。
 開示の対象にもなる評価書面のほかに、事務総局人事局には、絶対極秘の個人別書面があり、そこには、その裁判官に関する生々しい評価、ことに当局の観点からの問題事項が詳細に記されているという。公然の秘密。
 
●再任制度(p98)
 2000年代に行われた司法改革で、「下級裁判所裁判官指名諮問委員会」の制度ができた。新任判事補の任用と、10年ごとに行われる裁判官の再任の審査を行う。
 委員会のメンバーには現職の高位裁判官や検察官が多数含まれている。
 情報収集方法は、裁判官の評価権者である地家裁所長や高裁長官の非公開報告書(再任(判事任命)希望者に関する報告書)が中心であって、諮問委員会みずから調査を行う方法、手段は限られている。
 判断基準は非常に抽象的で、審議の内容も公開されない。
 再任不適と判断された裁判官に対する聴聞の機会も、不服申立ての制度もない。
 到底民主主義国家の裁判官に関する制度とは思えない内容。
 
●檻(p111)
〔 日本の裁判官は、判断も仕事も生活も統制、管理され、採用、異動、昇進、再任の終わりのないシステム(その意味でのラットレース)の中に組み込まれ、また、閉じられていて情報は上から下へ一方通行でしか流れない世界に生きている。
 それは、いわば、「目に見えない檻」のようなものだ。先のようなシステムによって構成される世界(それは、高度に組織、統制された「ムラ社会」でもある)に同調し、安住している限り、その檻はみえない。外側の世界からもこの檻はみえにくい。しかし、個々の裁判官が、いったん裁判官、研究者、あるいは市民としての良心に従い自覚的に行動しようとすれば、たちまちこの檻に引っかかって血を流すことになる。〕
 
●最高裁判事(p117)
 最高裁判事には、選出母体ごとに人数枠がある。内閣に決定権があるものの、基本的には、選出母体の意向が重視される傾向が強い。
 近年の基本は、裁判官枠6、弁護士枠4、検察官枠2、学者枠1、行政官枠2。
 
●木谷明(p182)
 元法政大学法科大学院教授、現在弁護士。
 刑事系裁判官だったときに、約30件の無罪判決を確定させた。
 
●人質司法(p185)
 自白するまで身柄拘束の続くことが多く、弁護士との面会の機会も限られている現在の日本の刑事司法の実態。
 
●死刑廃止(p205)
 死刑を廃止しているのは、ベラルーシ以外のヨーロッパ諸国、カナダ、オーストラリア、米国の22州およびワシントンDC、5自治領。
 国連総会でも、1989年に死刑廃止条約(市民的及び政治的権利に関する国際規約の第2選択議定書)が採択され、1991年に発効し、締約国は88カ国(2019年現在)にのぼる。
 
【ツッコミ処】
・無能な出世主義者(p53)
〔○無能な出世主義者
 最高裁事務総局や法務省の課長等にたまにいるタイプ。司法官僚としての一応の総合的能力が必要なポストによくつけたなというくらい能力的には問題があるのだが、ともかく出世欲が強く、下にいる局付や課付(多くは判事補)を徹底的にこき使い、いじめ、一方上には徹底的にこびる。外部に対しても愛想がよいので、「あの人は課長にしては話がわかる」と評される。こうしたことからもわかるように、裁判官は、偽証を見破る能力は磨いていても、本当に人をみる目には意外に乏しいことがままあるのだ。〕
  ↓
 キビシイ!!
 
(2021/4/21)KG
 
〈この本の詳細〉

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